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幕間-はじめてのおつかい、はじめてのかんびょう

2018/12/21

リメイク


「魔法による治療でも、万能ではないようですね」

 三世はそう、愚痴るように呟いた。

 意識が朦朧とし、体はほとんど動かない。

 息は熱く眩暈がして、体の節々が痛みによる不快感を訴える。

 と言っても、ある意味想定の範疇ではあった。

 あれだけの大怪我をしたのだ。

 熱くらいは出るだろう。

 むしろ重たい病気ではなく、ただの風邪なのだから運が良い方だろう。





「どうしよう。どうしよう」

 ただし、ルゥにとっては未曾有の緊急事態である。

 自分の身内が体調不良になった初めての経験な上、風邪という物を良くわかっていないからだ。


「大丈夫だよ。ルゥ。だから落ち着きなさい」

 三世はたしなめるように言うのだが、一向に落ち着く気配が無い。

「だってだって。るー。どうしよう」

 おろおろと目に見えて挙動不審になるルゥ。

 そこに、救世主が現れた。


「こんにちはー! 元気ですかー!」

 とうとうノックすらしなくなったコルネはドアを開け放ち大きな声であいさつをした。

「すいません。熱でてしんどいのでちょっと静かにお願いします。あとルゥの事お願いします」

 ベッドの中でそれだけ言い、三世はそのまま意識を手放した。




「ふむふむ。怪我からの高熱ってわけね。本人が大丈夫って言ってるからたぶん大丈夫だろうけど、解熱剤なんかあったら楽になるかもねぇ」

 コルネは軽い診察をし、そう呟いた。

 医療行為が出来るというわけではないが、経験則と隊長という立場から怪我絡みの体調不良はコルネにとって見慣れたものだった。

 騎士団で怪我というのは友人以上に近い存在だからである。


「るー! そか! ちょっと買ってくるからヤツヒサ見てて!」

 ルゥはそう言い放ち、一人で飛び出していった。

 引き留める間もなく家を出ていくルゥに対しあっけにとられるコルネ。

 しかし、病人である三世から離れるわけにもいかず、不安な気持ちのまま三世の介護を始めた。




「るー。まずは果物!」

 三世は風邪引いたときには果物とかがいいって言ってた気がしたである。


 ルゥが果物屋で物色をしていると、妙に恰幅の良い女性の店員が話しかけてきた。

「あれ。ヤツヒサさんとこの嬢ちゃんじゃないか。今日は一人なのかい?」

「るー。ヤツヒサ熱が出て寝てるの。だから何かいい果物ない?」

 ルゥはしょんぼりしながらそう言った。

「そうねぇ。オークルなんてどうかしら? 風邪予防に加えて体力回復の効果もあるわよ」

 女性は柑橘系の果物を取り、ルゥに見せた。

 黄土色に近い黄色でグレープフルーツのような見た目をしている。

「るー! じゃあそれ四つ頂戴」

「あいよ! せっかくだから一個おまけしてあげるから早く治しなって伝えといてよ」

「うん! ありがとおばちゃん」

 ルゥは代金を払い、ぺこりと頭を下げ果物屋を去っていった。



 次にルゥが向かったのは雑貨屋である。

 普段行く店でない為、ルゥは少々緊張していた。

 唾を飲み、意を決してドアを開けるルゥ。

 ドアに連動し、チリンチリンと綺麗な音が鳴り響いた。


「こんにちはーいませんかー?」

「はいはい。何かご入用ですか?」

 カウンターの奥に二十代後半くらいの男性が立っていた。

「るー。解熱剤ある?」

 ルゥは見慣れぬ人にちょっとだけ警戒しながら尋ねた。

 少しずつマシになってきているが、ルゥは割と人見知りをする。

 特に若い男性だとそれが多かった。


「あるよ。解熱剤とついでに栄養剤も買っていかない?」

「るー。じゃあください」

「はいはい。それじゃオマケで氷いれとくから早めに帰ってね。お大事に」

 青年は氷の塊を複数袋に入れて薬と別で手渡した。

「るー! ありがとう。溶けるのちょっともったいないけどきっとヤツヒサ喜ぶ」

 そう答え、ルゥは笑顔で店を飛び出し走った。

 早く帰らないと溶けるといわれたからである……そんなにすぐ溶けないが。




 最後にルゥはフィツ食事亭に向かった。

「フィツ! 何か冷たくて気持ち良いものない!?」

 ルゥは店に入るなり、フィツにそう尋ねた。

「もう少し説明しろ」

 昼前という時間帯だが、フィツは眠そうである。

「ヤツヒサ熱出して、何かおいしいものたべてほしいけど食べれないからせめて何か冷たいものとか」

「まあ落ち着け。……そうだな。どのくらい悪いかわからないが今丁度いいものあるぞ」

 フィツは透明な液体のビンを取り出した。

 見た目水に極めて近いが、ルゥは嗅覚からそれが何なのか理解していた。

「るー? なにそのメープルシロップ」

「あー……わかるのか。これはメープルウォーター。最近作る数増やしたみたいでちょっとだけもらえたんだ。すっきりしてうまいぞ」

「るー。じゃあそれくださいな! いくら?」

「ああ。売り物じゃないからやるよ。いつも手伝ってくれるし」

「わーい! ありがとうございます。ヤツヒサ治ったらまた手伝いにくるね!」

 ルゥは深々と頭を下げ、ソレを受け取り店を飛び出していった。




 ルゥは三世の家の前――自宅の前に着くとそっとドアを開けた。

 そして三世のほうにしのび足で近寄る。

 三世を微笑ましく見ているコルネはルゥを見てにこっと笑い、人差し指を口元にもってきてた。

「しー」

 その一言に、ルゥは頷いた。


 ルゥは果物とメープルウォーター、氷を少しだけとって残りを冷蔵庫にいれる。

 残念ながら冷凍庫はまだ無く、少しでも溶けないように冷蔵庫にいれるのが精一杯である。


 そして少量の氷を別の袋に入れ直し、三世の頭に乗せた。

「これ薬。栄養剤と解熱剤。どっちも飲み薬」

 ルゥは小声でコルネにそう伝え、薬を渡した。




 その後、三世は一旦目を覚まし、薬と栄養剤を飲んだら体が限界なのかまたすぐ眠りについた。

 そしてその後は起きる事なく夜を迎え、コルネは帰っていった。

『お大事に』

 朝から夜まで面倒を見たコルネはそれだけしかルゥに伝えなかった。

 恩返しが必要だ。

 そうルゥが断言する程度には、コルネにお世話になっていた

 ルゥはお礼を言った。お礼を言うしかできなかった。


 ルゥは三世の様子を見た。

 解熱剤が効いていないのか、汗を掻いて寝苦しそうにしていた。

 ルゥは顔の汗を優しくふき取り、溶けた氷を捨て新しい氷を用意する。

 それを何度か繰り返し、真夜中を過ぎた頃には氷は全て溶け切ってしまった。

 今度は水をタオルに浸し、延々と頭に当て続けた。

 まだまだ熱が引く様子はなく、ルゥは胸に何かせつない物を感じながら、必死に三世の様子を見続けた。

 結局熱が引いたのは日が昇ってきた頃だった。




 体中がべたつく不快感と日の眩しさから、三世は目を冷ました。

 まだ体の節々は痛い。

 だが、眩暈もなく寒気も感じない。

 どうやら熱は引いたようだ。


 大量の発汗からか、三世は急激な喉の渇きを感じ冷蔵庫を開ける。

 そこには見たこともないビンに入った水が置かれていた。

 いつもなら一言尋ねて飲むのだが、喉の渇きに我慢できなかった三世はそのビンを取り、蓋を開けて一気に喉を通した。


 すっきりとした味わいにほのかな甘さ、それに優しい香りがした。

 美味しく感じるのは喉が渇いていただけではないだろう。

 三世はそこでルゥの事を思い出し、ルゥの姿を探した。

 ルゥはさっきまで自分が寝ていたベッドにしがみついて、安らかな寝息を立てている。


「早く……よくなって……」

 むちゃむちゃと言いながらルゥはそんな寝言を呟いた。

 どうやら、夢の中でまで三世の介護をしているらしい。


 三世はもう一口、ルゥを見ながらその水を飲んだ。

 それは今まで飲んだどんな飲み物よりも美味しかった。


ありがとうございました。

時々ブックマーク減るのを見ると本当に申し訳なくなる。

仕組みはわからないけど私の作品に不快感を感じたのだとしたら申し訳ないです。

出来る限り努力はしますが所詮素人。

足りないものだらけです。

それでも足掻いていこうと思うのは沢山の人が見てくれるからですね。

これからもよろしくお願いします。

再度ありがとうございました。


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