番外編-成り上がり?なにそれ美味しいの?
遅くなってしまい本当に申し訳ありませんでした。
「ちゃーちゃっちゃちゃちゃちゃちゃちゃーちゃーちゃっちゃちゃちゃちゃちゃ」
小和田修は軽快な音楽をご機嫌な様子で口ずさんだ。
ただし、その顔は真っ青を通り越して白くなっており、恐怖と絶望の狭間にあるような表情を浮かべていた。
「やーらかしたーやらかしたー」
合わせて歌う村井高志の顔も同じような悲痛としか言えないような表情である。
そして当然、この二人がいるという事はもう一人の男もそこいた。
ある意味、今回の暴走の主原因とも言えるべき存在、大類岳人。
「俺達が止まらない限り、道は――」
「言わせねぇよ」
大類のふざけた言動を小和田と村井は声を揃えて静止させた。
異世界に転移し、好き放題にチートで暮らす事を夢見ている仲良し三人組。
通称すみっこ三人組。
ビビリチキンの村井。
唯一の彼女持ち小和田。
意外と戦闘力が高い大類。
三人は三世が転移した拠点に残った学生であり、他の学生、先生達にとっては恩人とも呼べるほどの活躍をしていた。
狩猟の効率化から冷暖房配備、その他生活水準を引き上げるほどの技術とノウハウを、全員に無償で提供し続けているからだ。
しかも三人は魔獣くらいならソロで軽々と倒せ、大類に至っては魔族の単独撃破記録を持っているほどの戦闘能力もあり、拠点内にいる者なら誰もが一目置くほどの人物となっていた。
ただし、彼ら三人はその事に気が付いていない。
転移前のヒエラルキーは最下層に近く、自己肯定感が皆無に等しい彼らは、他人から羨望や尊敬の眼差しを理解出来ないからだ。
そんな彼らは今、真っ青になりながらとある物体を眺めていた。
今回に限っては、頼れるマネージャー兼小和田の彼女である風鳴茉白にも頼むことは出来ないだろう。
というよりも、誰か個人で何とか出来る範囲はとうに過ぎていた。
そう、三人が見つめている物体。
地面から膝ほどの高さがあり、車輪と土台が付いた金属製の筒状のナニカ。
そう、彼らは自分達が作ってしまった小砲を見つめていた。
事の始まりはいつも通りただの思いつきである。
魔物を倒し、その素材で武器を作ると強い武器となる事を三人は『めちゃつよ槍大先生』という大類の愛槍により知っていた。
なので魔物を倒し、武器を作り、余った物を拠点にいる他の人に譲り渡した。
これは恩義というよりも、嫉妬にかられたら怖いという三人のビビりマインドからの行動である。
そしてここで、当然のようなトラブルが発生した。
彼らの用意した魔物素材を使った武器を、店に売る学生が現れ始めたからだ。
その丁寧な仕事に加え、優秀な素材の為取引に金貨が使われる事も珍しくなかった。
その事実を後に知った善良な者達は、三人組に謝罪しつつどう対処すれば良いのか相談に向かったのだが――。
「え、ああ。うん。お好きに」
というとてつもなく懐の広い発言が繰り出されそれを聞いた学生は口をあんぐりと開き茫然としていた。
そんなわけで誰一人何も対処をしなかった。
実際の話で言えば、大した値段が付かないと思っている為興味がなかったのと、ただのコミュ障でうまく話せなかっただけなのだが、それを知っているのはマネージャーだけである。
ちなみに、武器を売る者はすぐにいなくなった。
たとえ彼らが何をしなくても、彼らに対し不義理を働いた者はこの拠点の中で生活することは出来ない。
それくらい、三人は拠点の中で重要な存在であると皆が認識していた。
そんなわけで武具を山ほど作成し続けている三人だが、ここで新たな欲が出て来た。
それは好奇心や知識欲という類である。
『次は金属を使って何か作ろうず』
三人のうち、誰が言ったかすらもう覚えてすらいない。
ただ、その声を否定する者はおらず、三人はその足で城下町に向かった。
大類は一人で書物庫に向かい金属知識について調べ、小和田と村井は店を回り、値段や品質を見比べた。
そして一旦合流し何の金属を買い何を作るか相談しただのが……ここで好奇心が暴走を起こした。
ある意味三人の日常ではある。
今回のきっかけは小和田である。
「なあ。銅製品の鍋とか高価で、しかも美味い物が作れるだよな確か」
そんな現代の適当でうろ覚えな知識を披露する小和田の発言に、村井が答えた。
「それだ」
何がそれだなのか誰もわからない。
ちなみに大類はしきりに頷いている。
大類は再度書物庫に向かい銅加工を中心に知識を集め、二人で手分けして加工に必要そうな道具と素材を買い漁った。
彼らの目的は完全に脱線した。
『金属製の武器を作るノウハウを得る』という最初の目的から数度の脱線を繰り返し、新しい目的は『銅製のタコ焼き機を創る』に更新されてしまっていた。
小和田は魔法に優れ、魔法陣や研究など知識的な面が詳しかった。
村井は工作に優れ、小さな家くらいなら数週間ほどで製作することが可能である。
そんな彼らがタコ焼き機を三人がかりで作るのだから凄まじい物が出来そうだったのだが……意外な事に失敗を繰り返し、悪戦苦闘する日々を過ごしていた。
これが鉄なら反復を繰り返せば作れたかもしれない。
だが、銅は思った以上に繊細で柔らかく、そして脆かった。
魔道金属化した銅なら多少はいけるかもしれないが、そんな物作る知識は三人になく、また大量に入手できない為実験に使う事も出来ない。
何度も繰り返し銅加工を試みるのだが、うまくいかないわすぐ壊れるわで数日の間足踏みする結果となってしまった。
普通の人ならこれで諦めるだろう。
銅に拘る理由はなく、またタコ焼き機に拘る理由も何一つないからだ。
だが、この三人は違った。
数々の製作を繰り返してきたこの三人には、途中で諦めるという事はない。
というか、方向転換はしょっちゅうする癖に止まるという発想が三人の脳内には存在していなかった。
「よし、銅を買った鍛冶屋の店主にご教授してもらおう」
村井の言葉に二人は頷き、三人は自分達の小遣いを手に再び城下町に向かった。
彼らが師事を頼んだのは、城下町にいるただの武具屋で、鍛冶屋である。
ただ親から受け継いだだけの、凄い技術や特別な能力があるわけでもなく、それどこかスキルすら一つも持っていないただの三流鍛冶屋。
そんな彼に、三人は自分達の全財産である金貨十一枚を差し出し、深々と頭を下げた。
「是非とも俺達にご指導お願いします!」
コミュ障に緊張が加わり声を上ずせながら三人はそう叫んだ。
それを聞いた瞬間、褒められ慣れていない鍛冶屋の親父は瞬時に天狗と化した。
「……俺の指導は厳しいぞ」
自分は不出来で父親にいつも殴られていたのに、妙に偉そうにする鍛冶屋の親父三十七歳独身。
そんな彼に、三人は笑顔を向け再度頭を下げた。
「先生! よろしくお願いします!」
「うむ。仕方がないな。――熱意を認めて今日、今から指導をしてやろう」
ちなみに、今日も昨日も仕事がなく、蓄えも尽きかけた状態の言葉である。
それでも知識を持っている事に変わりはなく、鍛冶屋の親父は熱心かつ熱意を込め、三人に金属についての技術を伝授していった。
自分の見得の為に――。
ここで一つ、奇跡が起きた――ただし鍛冶屋の親父にだが。
不真面目でかつなまけ癖を持った、酒好きのダメ人間である鍛冶屋の親父は、熱心な弟子を持ちその情熱を指導に傾け、三人に丁寧かつ真面目に指導した。
親父の指導方法はシンプル。
『皆が同じ事を出来るようにする』である。
自分自身が無能の烙印を押されたからこそ、彼は平等に、三人の実力を揃えるような指導を行った。
今回で言えば、工作の得意な村井ではなく、戦闘方面に成長している為物覚えが三人で一番悪い大類を優先的に指導し、三人を平等に成長されていった。
その結果、ぽんと親父にスキルが生まれた。
『金属知識指導』
五人まで一度に指導出来、全員の成長速度及び知識吸収量を一律にする。
知っている人が見たら驚愕し、場合によっては国に囲われるほどのスキルである。
全員が全く同じ知識と技術を習得出来るという事は、『共通規格』の下地が出来るという事に繋がるのだが、それに気づいた者は誰もいなかった。
一週間に三度ほど鍛冶屋に通い、三人は銅についての知識を高めた。
どうして銅なのか鍛冶屋の親父は疑問に思ったが、あれだけの熱意と学び続ける情熱があるのだからきっと深い意味があるとのだろうと推測し、あえて何も言わなかった。
まさかタコ焼き機を作りたいからだなんて夢にも思わない。
そんな風に厳しくも丁寧な指導を受け続けて三か月を過ごし、晴れて三人は卒業となった。
『次からは金はいらん。学びたい事があったらいつでも来い。俺はお前らの先生なんだろ?』
そう鍛冶屋の親父に言われ、三人は感極まって涙目となり、親父と抱擁しあった。
彼らのクラスはヒエラルキーが分かりやすく、アウトドアは高くインドアは低い。
いじめというわけではなかったが、三人が楽しかったと思うような学校生活はほとんどなく、また一番つらかったのは先生とのかかわり方だった。
同情や憐憫の目を向け、気にしてはくれるのだ。
だがそれだけで、何もしてくれない。
三人はそれがとてもつらかった。自分が惨めであると否が応でも自覚させられるからだ。
だからこそ、まっすぐ、自分達を見つめて指導してくれた先生など彼らは知らなかった。
こうして彼らは銅を加工する技術と、銅を加工する道具を製作する技術を手に入れた。
成形から鋳造まで、銅であるならフライパンから鍋、今なら何でも作れる自信があった。
だからだろう。
彼らは、脱輪した道を、更にもう一度脱線し良くわからない道に突き進み始めた。
それは大類の言葉である。
「なあオワタにライよ。砲金って知ってるか?」
「あん? 知らね」
そう小和田は答えた。
「江戸時代の銭か何かだっけ?」
そう村井が尋ねると大類は首を横に振った。
「いんにゃ。それは『方金』だな。『砲金』ってのは大砲の砲に金と書き、なんでも銅に混ぜ物をしたら大砲とかに使う金属になるんだって。俺も良く知らんが」
根拠も何もないぺらっぺらな知識を語る大類に対しに二人は「ふーん」と適当な相槌を打った。
だが、この時既に三人の心は一つになった。
理屈を知っていて、どうなるのか知っているのなら、試して作る。
それが三人のやり方である。
ちなみに、三人と一年ほどの付き合いがあるマネージャーの風鳴は、彼ら三人をこう評している。
『手段の為なら目的を選ばない人達。彼らは作る事が目的であり、製作物自体に関心は薄い』
クレーンゲームで取ったぬいぐるみの扱いに困るタイプ。それがこの三人だった。
村井と小和田は協力して金属炉を作り上げた。
と言っても、火力も低く、うまく空気も絡まない為鋼が作れない原始的な炉である。
それでも、銅を溶かすくらいなら余裕であり、そもそも一年前までただの高校生だったのに炉を作ってる時点で彼らの行動力は少々おかしい。
そして鋳造に関しては、大類は秘策があった。
『夢幻の開拓者』
いまいち使い道が分かりにくく、何が出来るのかよくわからないスキル。
大類は色々と試した結果、本来の使い道とは違うだろうが、この世界に物理演算を含んだ3Dモデルを作る事が可能であると考え着いた
ただ、用途は非常に狭い。
耐久は脆く、武器としては使う事が不可能で、着色も出来ず青白いフレーム枠と透明な面しか生成できない。
本来なら使い道がインテリアくらいしか思いつかないのだが、鋳造となると話は別である。
設計図通りの形を創れ、壊すも消すもコピーペーストも自由自在なその能力は、鋳造技術として見たら破格の性能を持っていた。
そして、せっかくだからかかわりの強い物も作ってみようという話になり、黒色火薬の代替品も作れないかと色々と試していった結果、極悪でかつ最悪の兵器の開発に三人は成功してしまった。
それが今足場に転がっている小さな砲である。
この世界は魔法があり、また個人の戦闘能力が非常に高い為、砲自体そこまでメリットがあるわけではない。
ただし、この砲は二つほど強烈な長所を持っていた。
一つは安い事。
大砲と数発の岩製の玉と火薬。
これで大体銀貨三枚、日本円にして三千円である。
もう一つは、特に難しい技法もなければ特別な材料も使わない事である。
つまり、コロンブスの卵よろしく知ればだれでも真似が出来、そして戦いは数だよ作戦が取れるという最終戦争まったなしのローコスト兵器である。
はっきり言えば、最悪という言葉を遥かに超えていた。
何がどう危険なのか、ミリタリー知識に乏しい三人にはわからない。
だが、これを広めてはいけない事くらいは理解出来た。
「やべぇな」
大類の言葉に二人は頷く。
「ああ。まじやばだ」
小和田が呟くと、それに村井が反論した。
「いやまだだ。まだテストしていない。そもそも火薬とか代替で適当に作った謎粉だし、威力が糞雑魚ナメクジの可能性もまだある」
「たしカニ」
大類と小和田は両手でブイサインを作りながら同時にそう声を出し、淡い可能性に希望を見出した。
「というわけで、はーい実験の時間よー。のりこめー」
「わぁい」
小和田の奇妙な掛け声に二人は答え、砲の使用感と危険度調査を調べに人の少ない場所に移動することにした。
三人は遠方で人のいない山岳地帯に移動した。
開拓が全く進んでなく、魔物の出現が多い為青銅級冒険者以上でないと立ち入り出来ない禁止区域である。
今日この場所に依頼を受けに来た者はおらず、また危険区域の為依頼被りは起きないようギルドが配慮している。
その為他に冒険者はおらず、一般人は当然入れないので、機密性のある実験には最適な場所と言えるだろう。
「はいてんこ!」
小和田の言葉に二人は手を上げた。
「アイン!」
大類がそう返すと、村井に釣られて「ツヴァイ!」と答え、二人は小和田の方をじーっと見つめた。
「……どぅらーい」
必死にボケようと考え小和田がそう答えると、二人は顔を見合わせた後わざとらしく溜息を吐いた。
「まあ人が来ないとは思うけど、念には念を入れよう。もう少し奥に行ってから実験を開始しよう。魔物がいたら一番良いのだが……魔族が出たらがっくん頼むで」
魔族単独撃破経験というとんでもない経験のある大類に小和田がそう答えると、大類は慌てながら手と首を横にぶんぶん動かした。
「無理無理かたつむり! 偶然倒せたけどあんなん続いたらまじであかん」
「がっくんでそう言うならそうなんだろうな。それなら、魔族と鉢合わせになったら撤退という事で良いのかな?」
村井は大きな風呂敷と煙玉を見せながら尋ねると二人は頷いた。
草木のない岩山を登り、車輪のついた砲を引っ張りながら三人は奥に進んでいく。
この場所を選んだ理由はもう一つあり、視界が遮られず木々といった可燃物が周囲にない事だ。
三人の中で最も射程が長い攻撃が小和田の火矢である為、全力を出せる場所は非常に限られていた。
襲い掛かるジャッカルやキツネのような野生動物を火矢で燃やしながら、三人は目的の場所に進んでいった。
――この辺りで良いかな。
そう三人が考えている中、突如甲高く短い悲鳴が聞こえた。
それは明らかに人の声で、そして女性だとわかるものだった。
三人は登って来た岩山を駆け降り、声の聞こえた方向に走った。
数百メートルほど先に、黒い魔物に襲われる一組の男女の姿を三人は目にした。
男性の方はかなりの美形で女性を庇うようにレイピアを掲げ魔物と対峙しており、女性の方はごく普通の可愛らしい茶髪の女性。おそらくだが、三人と同世代くらいだろう。
ただし、女性は足から出血をしたまま腰を落としており、座った姿勢のまま必死に後ずさっていた。
腰を抜かしたのか怪我をして立てないのか。
どっちにしても、非常に宜しくない状況に見えた。
「俺。いく」
三人の中でも一番臆病な村井がそう言葉にして二人は頷いた。
「足止め。ミー」
大類が自分を親指で指しながらそう言った。
「一発でかいの。後は流れで」
そう言いながら、小和田は自分の指先に小さな火を灯した。
――もうダメかも……。
軽い傷なのに足が動かない。
このままだと自分だけでなく相方もやられてしまう。
女性はそう思った。
例え自分が怪我をしていなくても、自分達二人で魔物相手には勝率は五割もないだろう。
魔物の体格は二メートルを越え、羽こそないものの非常に足が速く、武器は持ってないが腕は丸太ほど太く、拳は岩を軽々と砕いた。
相方はうまく受け流して時間を稼いでくれている。
だが、自分の相方だからこそわかってしまう。
限界が近いと――。
「ねえ。私を放っておいて逃げて。何とか足止めしてみるからさ」
しがみつけば多少は止まるだろう。
それが無理でも、自分の肉を食べさせたらたぶんその間くらいは――。
そう女性は考えるが、相方はそれを拒絶する。
「君をそんな目に合わせて自分だけ助かるくらいなら私が先に死のう。だから、最後まで諦めないでくれ」
額に汗を流しながらでも、相方は微笑みながらそう言葉にした。
いちいち男らしくて困ってしまう。
「一緒に逝くのも悪くないかもね」
女性の言葉に男性は苦笑いを浮かべた。
「そうかもしれないね。でも、出来る事はしてみよう」
そう話している二人は、突然暗闇に襲われた。
「しー」
村井は二人と自分をでっかい風呂敷に包みながら顎をガクガクさせ震えつつ人差し指を自分の口元に持っていった。
村井という男は根っからの臆病者である。
最初の頃の戦闘では数回ほど、小の方を漏らし、慣れた今でも兎に震えるほどである。
だからこそ、彼は逃げるという意味なら誰よりも優れていた。
スキルと性格、性質と技能全てが臆病で構成された彼の切り札がこの風呂敷である。
この風呂敷に包まれた者は、即座に透明と化し、匂いも誤魔化せる。
ただ、声と足音だけはどうしようもない。
その為、今村井はしないといけない事はこの場に留まったまま、二人を出来るだけ静かに、おとなしくさせる事だった。
黙ってさえいれば、親友の二人が全部片を付けてくれると村井は知っていた。
大類は己の相棒である槍を構え、投げ放った。
魔族の棘を使った槍だが、この槍は他の物とは少々以上におかしな槍である。
誰が見てもわかるほど禍々しいオーラを放っており、大類以外誰も使いたがらない。
他の魔族の武器は当然こんな事がない為、理由は今でも不明である。
ただし、その分能力は優秀だった。
大類が望んだようにその槍はまっすぐ魔物に直進し、突然フォークボールの如く落下して魔物の足と地面に縫い付けた。
「――――!」
魔物は声にならない声を上げ、暴れて移動しようとするが、縫い付けられた足は一向に動く気配を見せない。
その間に、小和田は己の指先にある種火を、大砲の導火線に当てた。
ジッジジジ。
導火線が虫の鳴き声のような音を発しながら短くなっていく。
「さーん。にー。……いち……ファイエル!」
小和田の掛け声と共に、小さな爆発音が鳴った。
ポピュンと少々間抜けな、ポン菓子を作る時のような音のあと、べちゃっと不思議な音が聞こえた。
どうしたのかなと小和田と大類はその方向――魔物の方向を見て絶句した。
二メートルあった魔物は一メートルほど、つまり下半身しか残っておらず、上半身は何があったのか完全に液体化して周囲に飛び散っていた。
姿を隠す透明風呂敷にべったりと黒い液体はついており、どこに隠れたか二人がわかるほどである。
「ライさんやライさんや。パターンA。しばらくマント維持してその場を離脱してけれ。ちょっと人に見せられないよ! になってるわ」
「あいよー。五十メートルくらい離れとくなー」
大類の言葉を聞き、村井は返事をしてふろしきを二人にかけたままじりじりと移動を開始した。
パターンAとは、パターンAUTOというわざとスペルミスして作った暗号の一つ。
使う事はないだろうと用意した暗号で、その意味は自分達では対処できないほどの危険という意味だ。
「小砲の名称を『スリーピングD』とし、現時刻を持って廃棄とする――」
小和田の言葉に大類は軍隊式の敬礼をして返し、二人で原形をとどめないほどに破壊した。
三千円相当で魔物を即死させられる兵器など、この世界にあってはならない。
大類と小和田、そして村井は今日の出来事を記憶の奥底に封印することを選択した。
『俺達、二人を助けたよね? ね? だからさ……ちょっとお願い聞いてくれるかな? な?』
村井は不審者丸出しの態度でさきほどの出来事を忘れてもらうように二人に懇願した。
コミュ障な村井に女連れのイケメンに話しかけるというのはとてつもなくハードルの高い行為であり、こんな気持ち悪い事になってしまった。
願いはただ一つ、さきほど起きた出来事を忘れて欲しい。
もっと言えばぽひゅっとかぐちゃっとかそう言った音を忘れて欲しいと――。
二人は首を傾げながらその事に頷いた。
少々変ではあるが、命の恩人の心からの願いならと深く考えず同意することにしたからだ。
そして、足を怪我した女性を相方が抱えながら下山し、三人はそれを護衛した。
そのまま冒険者ギルドに向かい、二人はギルドと三人に事情を説明しだした。
昨日のうちにギルドの依頼を受けたが迷ってしまい、キャンプをして夜を明かした。
そして、疲れの溜まった状態の中魔物と遭遇したのがあの時らしい。
ギルド側は危険性のある立地であり青銅級の冒険者だった為、一晩帰ってこなかった事を死亡と断定してしまったらしい。
三人組に是非ともお礼をしたいと二人から言われたが、イケメンかっぽーという世界の違う存在と話す事など何もなく、更に三人ともイケメンオーラからコミュ障を発症してしまった為、三人は適当に返事をしてそそくさと去っていった。
後日、二人の女性が拠点に訪れ、三人組にお礼を言いに来た。
一人は足の怪我をした十七歳の女性。
もう一人は十六歳の中世的な美人の女性。
一身上の都合で普段は男装をしないといけなかったそうだ。
そんな二人は少々恥ずかしそうにお礼を言いに来て、それを見た小和田と風鳴はニヤリとした表情を浮かべ大類と村井を二人に差し出して姿を消した。
ありがとうございました。




