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異世界転移でうだつのあがらない中年が獣人の奴隷を手に入れるお話。  作者: あらまき
折れた心は

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最後の仕事1

 

 城下町を飛び越えて王城の前に着地した三世は、堂々と正門から城の中に入り歩き進んだ。

 三世を引き止める者は誰もいない。

 そして、話しかけたり挨拶をする者も誰もいなかった。

 今までのような明るい雰囲気は一切なく、不審と疑心、怯えと様々な目を三世は受けていた。

 半数以上はわけがわからないでいる事は何となく察することができた。

 怯えている目の多くは騎士から送られてきていた。

 抜いてはいないが剣を手にかけている辺り、彼らは三世の立ち位置を良く理解していた。


 そのまま三世はゆっくりと歩き、玉座の間に到着し、大きく豪華な扉を開き中に入る。

 玉座の間には王が一人で座り、こちらを待ち構えていた。

 王妃や王女、王子は連れず、ただ一人で玉座に腰をかけ、その周囲に十数人の武装した護衛を付けて――。


 玉座の位置から数段低い場所に、玉座よりもグレードが下がった豪勢な椅子が置かれている。

 認めはするが図にのるなという牽制の意味があるのだろう。

「獣人の王として、ラーライルに停戦の要求に訪れた」

 三世は堂々と言い放ち、その椅子に偉そうに腰をかけ、最後の震え止めの錠剤を飲み込んだ。




 事前に、作戦の着地地点を三つほど設定していた。

 一つ目は獣人達と人の前面戦争を嫌がらせと持久戦で乗り切り、戦う意味がないと思わせての停戦。

 二つ目は、土地を捨てて三世のコネを使い、ガニアに亡命。

 そして三つ目、今行っている作戦の最終段階は、和平。

 聞こえは良いが、やっている事ははっきり言えばただの脅迫である。


 秘薬を最高のタイミングで使えて、かつその効果が想定通りかそれ以上だった場合は力による脅迫で獣人の安全を奪い取るという方法。

 騎士団や軍の総数には勝てない三世でも、城に入ってしまえば実質の勝ち。

 王の命が人質に取られているラーライルは詰みの状態となっていた。

 ただし、三世はあらゆる意味で国王の命を奪う事が出来ない。

 そしてそれは国王フィロスも理解している為作戦の完了とはいかなかった。


「和平を受け入れる事は出来ない。振りほどかれた手は二度と繋ぐ事はないだろう」

 フィロスの言葉に三世は顔をしかめ、悩んだ後にそう言い返した。

「現在獣人の国の民は全て私の制御下にあります。今なら手綱を握れますし、私の命令には絶対に逆らえません」

 三世の言葉にフィロスは冷たい目のまま無反応である。

 しかし、多少交流があったからか今自分の感覚が敏感だからか、表情の割には慌てている様子が三世には理解できた。

 事前に言うべき言葉としてドロシーに教えられたのはここまでである。

 命令に逆らえない。つまり、軍勢化して襲えるぞという遠まわしな脅迫など三世には思いつかない。




 フィロスと三世の関係は今までと違い、国を代表する王同士、しかも戦争中の国家関のである。

 その一言、その行動全てに民の代表という大いなる責任が付きまとっていた。

 しかも、こちらの状況は最悪としか呼べない。

 和睦の使者を切り捨てた獣人が脅迫を用いて和平に来る。

 ラーライルから見ればメンツが丸つぶれ以外の何ものでもない。

 それでも、獣人を救う方法は他に思いつかなかった。

 何とかラーライルのメンツを優先して獣人の自由を勝ち取る。三世の頭はその考えのみとなった。


 そんな関係の会合だからか、呼吸するのが辛いほど空気が重く、一言発する度に緊張と悩みすぎにより息切れをおこす。

 とにかく一言を慎重に重ね合い、否定しあい、そして脅迫も混ぜ、一時間でようやく両者の要求が一通り出そろった。ただの要求を言うだけで一時間という時間を要してしまうような話合い、三世は二度としたくないと考えた。


 ラーライル王国の要求としては。

 獣人の国の民の殲滅、または全奴隷化。

 そこから妥協し、獣人の腕を切り落とした上で監視下に置き閉じ込める。

 その上で土地の大半をラーライルに献上すること。そして獣人の王の資格剥奪である。


 三世の要求として、全ての民の自由。ただし外部地方への移動禁止。

 土地は十万ほどの民が過ごせるものを残し、残りをラーライルに献上。


 これだけお互いの妥協が進んでも、肝心な部分は妥協点が見いだせず、話は平行線のままとなった。

 その根本となる部分は、獣人の戦闘能力が原因となる。

 ラーライル王国の王として、フィロスは脅威となりえる獣人を自由にすることだけは許可出来なかった。

 面白半分に反乱を起こされて国が亡んだらたまったものではないというフィロスの考えは、三世も理解出来た。が、妥協できる部分ではなく、また解決方法は見当たらない。

 話し合いは泥沼と化し、更に一時間、時間は無為に過ぎていく。

 既に日は落ち暗くなり、照明に照らされながら話合いが続けられた……。




 パリーン。

 突然、遠くからガラスの割れるような音が鳴り響いた。

 三世とフィロス、そしてフィロスの護衛は驚き注意を音の鳴った方に向けた。


 ドン。ガシャーン。パリーン。ビリビリ。アノソノ……。

 良くわからない何かが壊れる音が鳴り響き、小さな声で何かを静止させようとする誰かの声が聞こえる。

 そして、その壊れる音は少しずつこちらに近づいきていた。

 その音の主が、なにやら恐ろしい雰囲気を醸し出している事を三世は本能で察し、背筋に冷たい物を感じ、震え上がった。

 今までいくつもの恐怖を感じて来た三世だが、このような異質な恐怖は一度たりとも感じた事がない。

 ズンズンとゆっくりした速度で近づいてくるその悍ましい気配。

 そしてその気配が玉座の間の傍まで来た瞬間、ドゴン!と轟音が鳴り響き豪華な扉が壊され――破壊魔の姿が現れた。

 化け物と化した自分が恐れるほどの恐怖を持って存在は、ドロシーだった。

 その圧倒的な存在感のせい、扉を破壊して王の元に現れたというのに誰もが反応出来なかった。


 満面の笑みを浮かべているが、悍ましい雰囲気に変化はなく、三世は恐怖に襲われ、薬はまだ効いているはずなのに手足が震えてくる。

 その怒っているという言葉すら生ぬるいマジギレ状態のドロシーの背後に、三世は般若の顔を見えたような気がした。


 ドロシーの存在に圧倒され誰もつっこまないが、ドロシーの手には貴族らしき男の首根っこが掴まれていた。



ありがとうございました。


一分間に合わなかったー!

すいません。短いですが少々忙しくなりこれだけ投下しておきます。

急いだので誤字増えてたらもうしわけありません。

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