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遊戯の魔王の思惑



 

 人間は希望に満ち輝いている。

 それが遊戯の魔王の人間を愛している理由だった。


 魔王は最初ラーライル王国の破壊を目論んでいた。

 五十階の箱庭世界に入った者は全て、魔王に情報が抜かれていた。

 それは身体構造だけでなく、本人が忘れた記憶まで全てである。

 そこから魔王はこの国の王の能力や性格の情報を集め、王か王妃、または軍や騎士団等の管理者等の重要人物に姿を変え、王国をひっくり返す事を考えていた。

 それが魔王の最初の計画だった。


 目的は単純で、輝くような希望を持った人を沢山見てみたいからである。

 国の重役に偽物が現れ、国が乱れ反乱が起き、市民すらも巻き込まれる地獄絵図。

 国の危機という苦難の中で人は輝き、立ち向かい悪者を殺し、誰もが認める大団円を迎える。

 最後に偽物である自分が殺される事まで想定し、魔王はそのような計画を立てていた。

『美しい物が見たい』

 ただその為だけに、魔王は己の肉体を人と同じ物に長い時間をかけて作り直していた。


 だがその計画は未遂に終わった。

 大勢の人が輝き、手を取り合い、自分を殺す素晴らしいエンディング。

 その当初の計画よりも、魔王は美しく輝く存在を見てしまったからだ。


 その人物の名前は竹下(メイ)

 己が作り出した箱庭の住民である。

 そのはずなのに、彼女は人となり、誰よりも輝き、最後まで己の意志を貫き通し姿を消した。

 もし彼女が生きているのなら、彼女の為に命を全て捨てても良い。

 それくらい魔王は命に感動を覚えていた。


 大勢の希望よりも、一人の希望の方が美しい。

 魔王はソレを理解した。

 竹下命という存在は、魔王にとって唯一無二のものとなった。

 だが、残念ながら彼女はもういない。

 魔王は生涯で初めて、失って悲しいという感情を知った。




 で、あるならばどうするか。

 次に気になった人物の為に尽くそう。

 魔王はそう考えた。


 次に気になった人物の名前は三世八久(ミツヨヤツヒサ)

 命の想い人である。


 三世の存在を魔王が気になった点は二つ。

 一つは命が生まれた瞬間から生涯の終わりまで尽くし続けた存在である事から。

 そしてもう一つは、あまりにその存在が弱かったからだ。

 四十階以上に到達した存在全てと比べても、三世八久という存在ほど弱い者はいなかった。

 肉体能力は下位程度なのだが、問題は心の方である。

 精神性は最下位をはるかに下回るほど弱く、その心はまるで()()()()()()()()である。


 だが、弱者であるという事を受け入れ、まっすぐに立ち向かい、頼れる仲間達と共に塔を登る三世の姿は、魔王の望む英雄そのものだった。

 五十階の世界で、どんな状況でも腐らず歯を食いしばり、人に優しくしながらも立ち続ける姿は、魔王の愛する人そのものだった。


 こんなに弱いのにこんなに素晴らしい。

 命がいなければ、三世は魔王の一番のお気に入りとなっていただろう。




 だが……いや、だからこそ魔王には許せない事があった。

 その周囲の存在である。


 三世八久という壊れそうな心を持った男を、二人の獣人は、師匠は、愛馬は、仲間達は、部下達は、みんなみんな庇い続け優しくしているのだ。

 壊れそうな心を皆で守り、慈しみ、支え続けているのだ。


『それでは三世八久は輝けないではないか』

 魔王はその事に、強い悲しみを覚えた。

 人とは苦難を乗り越え、輝き、その先を目指せる生き物である。

 ならば、皆で守っていては意味がない。

 三世八久は守られる存在ではない。

 己の足で立ち上がり、苦難に立ち向かえる希望そのものである!

 

 そう考え、魔王は計画を決定した。


 三世八久の心を一旦砕く。

 その後にきっと彼は立ち直り、今度は今まで以上に輝ける存在となる。

 魔王はそう信じ切っていた。

 そして、そんな彼が美しく立ち上がる為ならば、魔王は命も惜しまなかった。


 最初にした事は五十一階以降の難易度を下げた事だ。

 三世以外に百階に来てもらっては困ると考えた魔王は三世達のみ、塔の難易度を一回りだけ下げた。

 三世の戦闘能力だと八十階以降でもたつく恐れがあったからだ。


 次に魔王は己の肉体とルゥと呼ばれる者と同じにし、彼女の情報を全て覚えて笑い方と声を模倣した。

 三世がこの世界で最初に行った奇跡とも言えるルゥの救出。

 そこが彼にとって大切なポイントであると魔王は知っている為、ルゥの姿を真似ていた。

 あの時の逆を行う為に。


 この世界で獣人と出会い、己の意志で救おうと思ったその瞬間、三世の心は救われた。

 ただし、この瞬間、三世は大きな間違いを同時に犯していた。

 獣人という存在に出会った事により、人とペットの境界線が薄れたのだ。

 その結果、彼は獣医として過ごした苦難の日々はより重たく苦しいものへと変質してしまった。

 三世は心のどこかで、己の事を人殺しだと思うようになってしまっていた。


 最後に魔王がした準備は、百階の整備である。

 血を連想させる赤を中心にしたコロッセウムを用意し、その場所に罪悪感を増幅させる魔法を仕掛ける。

 そこで仕込みは全て終わり。

 後すべきことはたった一つ。

 無抵抗で殺されるだけである。


 それだけで彼の弱い心は耐える事が出来ないだろう。

『人を理解出来ない自分でも、ここまでやればきっと三世八久を壊せるはずだ』

 魔王に悪意は一切ない。

 壊れた後、必ず立ち直り、より素晴らしい存在になると信じているからこそ己の命をかけたのだ。


 どうして三世の回りの人間はこれほどまでに三世を気にして守っていたのか。

 それは彼らは『壊れた心は二度と戻らない』という事を知っているからこそだ。


 己の死んだ後、三世八久は必ず復活する。

 無意味で根拠のない自信だけで、魔王は己の命を代償に三世の心を完全に破壊した。


ありがとうございました。


これにて九部は終わりとなり、最後の十部に入ります。

ここまで付き合ってくださり、本当にありがとうございます。


そして、もしよろしければこのまま完結まで見届けて下さるととても嬉しいです。


何もかも初めてだらけでしたが、読んでくださる方に、感想で色々と教えて下さる方。

ツイッターでいつも読んでると教えて下さる方に、自分のサイトに乗せて応援して下さった方。

色々な方に救っていただき、ここまで書く事が出来ました。

この場でですが、本当に嬉しかった事を伝えさせていただきます。

再度、ありがとうございました。


もう少々、お付き合いください。


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