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異世界転移でうだつのあがらない中年が獣人の奴隷を手に入れるお話。  作者: あらまき
理不尽な魔王

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駆け上がり……残り僅か

 

「あー。こういう事をしてきますか……」

 三世はリング上にいる相手を見ながら、感心するかのようにしみじみと呟いた。


 八十階は六十階と同じような広い何もないマップで、中央に石タイルを敷き詰めたリングが用意されていた。

 そしていつも通り階段を上がったすぐ目の前に看板が一つ。

『一対一の勝負。一勝で突破。敗北かギブアップで塔外に排出』


 リングの上でこちらを待ち構えている敵は良く知っている相手――というよりも誰よりも見知った顔をしていた。

 槍を手に持ちレザーアーマーを身に着けた冴えない中年のおっさん。

 リングに立つ番人の見た目は己自身、三世八久そのものだった。


「さて、どうしましょうか?」

 三世の言葉にルゥとシャルトは困惑した表情を浮かべた。

 二人からして戦いにくい事この上ない相手であろう。

 そして三世自身も、自分と戦うのは避けたいと考えていた。

 その理由は単純で勝てない可能性が高いからだ。

 どこまでコピーしているかわからない。

 スキルはコピーされていると考えて問題ないだろう。

 性格や性質など、三世足りえる要素はどの位相手が持っているのかわからない。

 一つだけ確かなのは、性格がコピー()()()()()()場合三世に勝ち目は全くない事だ。

 良く言えば穏やか、悪く言えば臆病なこの性格が戦闘で足を引っ張っている事くらいは三世にも自覚があった。

 つまり目の前にいる偽物は、戦闘能力は本物を凌駕する可能性が高いという事になる。

 また記憶をコピーされているなら、ルゥ、シャルトの行動も読める為非常に厄介な相手と言えるだろう。


 と言ってもそれは三世、ルゥ、シャルトにとっては厄介という話であって、残り二名にとっては幸か不幸か脅威足りえないだろう。

「俺で良いか?」

 マリウスが尋ねると全員が頷き、マリウスはリングに近寄った。

「師匠。今回片手剣装備ですが、大丈夫ですか?」

 マリウスは攻略の度に装備を変えている。

 ちょうど今回は片手剣に盾と言う防御重視の装備になっていた。

 その為、偽三世が使うであろう無刀術の対象範囲に入ってしまう。

 だがマリウスはそんな心配をする三世に、自信ありげに微笑んだ。

「安心しろ。剣は置いていく」

 マリウスはリング前に剣どころか盾も置き、そのままリングに上がっていった。

「あー……。そうかー。それだけ実力差ありますよね」

 三世は納得したように頷き、マリウスの置いていった武具をそっと拾い上げた。


 剣道三倍段という言葉がある。

『素手で剣を相手にするには三倍の実力が必要である』

 というような意味で捉えられているがそれは誤りだ。

 本来は。

『剣で槍や薙刀を相手にする場合は三倍の実力が必要である』

 という意味になる。

 であるならば、素手で槍を相手にする場合はおよそ五倍から六倍の技量が必要になるのだが……そう計算したとしても、マリウスが偽三世に負けるとはとても思えなかった。


 マリウスがリングにあがった瞬間、偽三世は槍で突撃してきた。

 助走をつけての腰を入れた見事な突き。

 相手の出鼻を挫くような会心必殺の一撃である。

 それは三世には技術的にはともかく、性格的に三世には出来る事ではない。

 つまり、性格は引き継いでいないらしい。

 その突きに対しマリウスは避けも受けもせず、槍に対し裏拳を振り下ろし――槍を叩き折った。


 槍という物はそう簡単に折れるものではない。

 棒の部分は木製とは言え十分強固で、更に言えば動いている時の槍は狙う事は非常に難しい。

 その上、今回は突きの最中である。

 本来ならば折るどころか止めることすら不可能である。

 が、そんな約束事は何の意味もなさない。

 三倍段だろうと、槍という特性だろうと、そんな物が機能する実力差などとうに超えきっている。


 マリウスは平然と槍を叩き折り、直後に棒の部分を掴んで偽三世を手前に引っ張り、体勢を崩してよろめきながら寄ってくる偽三世に対しマリウスはグーで顔面を殴りつけた。

 棒となってしまった槍を手放しきりもみ回転をしながら飛んでいく偽三世にマリウスは追撃をかける。

 回転しながら地面に落下するソレに対しマリウスは急いで落下地点まで移動して待ち構え、偽三世が落ちて来るのに合わせて蹴りを叩きこんだ。

 そのまま場外にふっ飛び、偽者は姿を消した。

 それは場外に出たから消えたのか、それとも蹴り後の叩きつけで死んだのかはわからない。

 恐ろしいほどにあっさりと勝負がついてしまった現状に三世は苦笑いを浮かべる。

 自分の偽物だからだろうか、三世は何ともやるせない思いを胸に抱いた。


「師匠。お疲れ様です」

 三世は持っていた武具をマリウスに渡しながらリングから下りて来るマリウスに言葉をかける。

「ああ。あいつ。たぶんお前の方が強いな。臆病な部分がない奴は格上に対し無力だからな」

 そんな慰めか本気かわからない言葉をマリウスは三世に投げかけた。


 三世、ルゥ、シャルトは非常に険しい顔をしていた。

 それは近い未来に起こるであろう恐ろしい想像をしてしまったからだ。

 だが、その想像は言葉にするつもりはなかった。

 口に出せば、本当にソレが現実になるような気がしていたからだ。


 だがそんな三人の想像をドロシーは平然と口にした。

「これって偽物が現れるって事なら、あなたが現れたら攻略する方法ないんじゃない?」

 ドロシーの言葉にマリウスは苦笑した。

「どうだろうな。技術は写せても所詮偽物だ。もし完全なコピーだとしても俺が行けば五分五分だ。何とかなる」

 非常に頼もしい言葉なのだが、それでも三世達三人は嫌な予感が拭いきれなかった。




 五十階以降の道中はほとんど変化がない。

 罠は無いわマップは狭いわ敵は二、三匹しか出ないし弱いわで道中の階層はほとんどマラソンのようなものである。

 しかも狭いからか宝箱を含む報酬も全く姿を見せず、敵素材も大して落ちないから尚の事早く次に行こうという気持ちになってくる。

 そして九十階に到達した時、三世達は嫌な予感が半分ほど当たった事に気が付いた。


 ニコニコとした非常に良い笑顔のドロシー。

 ただし、その目は全く笑っていなかった。

「ねえ。私ってあんなイメージある? ねえ?」

 不機嫌さを隠そうともしないドロシーの威圧的な声に、全員は勢いよく首を横に振り続けた。


 九十階はコンサートホールのような形状をしていた。

 ただ客席に椅子はなくとてつもなく広い空間になっており、敵と思われる複数人の番人は全員舞台の上にいた。

 そこに見えるのはまず二十人ばかりの人の影。

 ソレはどう読んだら良いのか判断が付かない。

 シルエットは人型だが、全身黒一色で目も服も確認できない。

 身長と骨格からおそらく男だろうという事くらいしかわからない。

 その全員が四つん這いになって跪いており、更にその奥には椅子に座ったドロシーの偽物がいた。

 ただし、妙に扇情的な衣装に加えて高飛車な態度で――。


 レザー装備はレザー装備なのだが、ボンテージ風の黒のレザードレス。

 長いレザーブーツやらレザーの手袋やらで体の露出こそほとんどないが、女王様風の見た目に加えてボディラインが丸わかりになっており、非常に扇情的である。

 右手には馬の調教用に似ているバラムチを持ち、侮蔑的かつ蠱惑的な瞳で黒い男達を見下していた。

 パシン!

 ムチの音が鳴り響くと同時に跪いていた黒子の一人が転げまわり悶絶していた。

 微妙に嬉しそうなのは気のせいだと思いたい。

 ――アレと戦わないといけないのか……。

 三世は溜息を吐きたくなる気持ちを抑え、マリウスの方を見た。

「どうやら人数制限のない普通? の番人戦みたいだな。お前ら、気合いれろよ」

 マリウスはドロシーの方を見ないようにしながら三世達にそう言葉を残した。

「アレは私がヤるから」

 目が笑っていないニコニコ笑顔のままドロシーがいつもより低い声で囁いた。




「十……二十……三十……三十三人……人? 体? いや匹だな。三十三匹」

 マリウスは襲ってくる黒い人影を指で数えそう答えた。

「一応人型ですが匹ですか?」

 苦笑しながら三世がそう返すとマリウスは当たり前のように答えた。

「こいつら豚になりたいみたいだからな」

 自分の嫁が女王様になるという光景に多少なりとも怒りを覚えたらしく、マリウスは吐き捨てるようにそう言った。

「豚に失礼だと思います。私の知っているぶたさんは、人よりも賢く器用でしたよ」

 シャルトの言葉にマリウスは「確かにそうだな」と納得したような口ぶりで小さく呟いた。


 とは言えども、三十三匹が一度に襲ってくるというのはなかなかに厳しい状況と言えるだろう。

 マリウス、ルゥ、シャルトの三人で前衛を務めつつ三世が後ろで槍を突き刺し囲まれないように立ち回る。

 

 この人影、見た目は某探偵漫画に出て来る犯人のような見た目をしていながら意外なほどに強かった。

 腕をしならせムチのように振り回す攻撃と腕を針の様に使い突き刺す攻撃の二種類を持ち、耐久力は槍で刺してもほとんどダメージなく、剣で斬ってもきっちりパーツを分断しない限り元の形状に戻る。

 また、腕や足を切り落としても即座に再生する。

 どうも液体のような特性も併せ持っているらしい。

 なので真っ二つにしても半分の大きさになるだけで戦闘を続行してくる。

 流石に一体から二体に分裂することはないが、それでも再生力も攻撃力も高い厄介な相手だった。


 三人が壁になりつつ後退し、後ろで三世がチクチクと足を突いて転ばせ嫌がらせしながら人影達の相手をしていく。

「ルゥ。シャルト。積極的に倒す必要はありません。足止めを中心にお願いします」

 三世は後方からそう指示を出し、二人はそれに頷き転倒など行動阻害を意識して立ち回る。

 倒す事自体は出来る。

 何度も切断していけばそのうち動かなくなるから切断を意識すれば良い。

 だが、今回は倒すことではなくこいつら人影達を妨害することこそが主目的である。

 本命の勝負に水を差さないようにするために、四人で人影を誘導しつつ距離を取り続けた。


 もう一つの理由として、怪獣大決戦に巻き込まれないように逃げているという理由も十二分にあった。

 正直マリウスは、今ドロシーの方を向く事が何よりも怖かった。




 ドロシーの腸は煮えくり返っていた。

 考えても見て欲しい。

 四十にもなろうという年齢で、旦那も子供もいる自分と……顔が同じでボンテージ姿をしている女性が目の前にいるという現実を――。

 かと言っても歳相応の恰好をされてもソレはソレで腹が立つが。

 自画自賛ではないが、歳の割には若い見た目をしていると信じているドロシーはそんな風に考えていた。

 だが、それにしてもボンテージ姿はない。

 白い髪と対照的な黒のボンテージドレスは扇情的でかつ非常に卑猥である。

 足どころか肩すら露出していないのにその厭らしさは自分の姿ながらなかなかにそそるものがあるのも確かだ。

 だが、ソレはソレで何か嫌だ。

 そして何よりも嫌なのが、その姿でマリウスの前に出られた事だ。

 マリウスを魅了して良いのは自分だけである。

 例えどんな姿だろうと、自分にそっくりだろうと、その権利だけは誰にも譲らない。

 ドロシーの怒りが頂点に達している理由は非常にわかりやすく、単純なものである。

 それは嫉妬と呼ばれる感情である。


 ドロシーが椅子に座っている偽者に対し椅子ごと足払いをかけた。

 無様に転げ地べたに這いつくばれという気持ちを込めつつ、椅子の四本の足を全て蹴り折った。

 偽者は足を上げてそれを回避しつつ、背もたれに手をかけて反動を利用し跳ぶように回避した。

 偽者はねちっこい視線をドロシーに向けながらムチを撫でた。

 そのしぐさは背中にゾクっとくる何かがある。

 だからこそ、ドロシーに腹立たしい気持ちが湧き上がってくる。

「その顔で、そういう事しないでよ! あの人が変な性癖に目覚めたらどうするつもり!?」

 別にそれはそれで良いかもとか考えながらドロシーは魔術で鉄のガントレットを生成し、偽物をぶん殴った。

 近接武器なら大体作り出せるドロシーだが、今回はあえて素手に拘った。

 この手で殴り飛ばさないと気に食わないからだ。

 ドロシーはその顔めがけて全力で殴り掛かり――そして顔面直前で拳は静止した。顔との距離は一ミリもないだろう。

 透明な障壁を全身に張り巡らせているらしい――今のドロシーと同じように。

「ちっ」

 ドロシーは舌打ちしつつ何度も顔面を殴りつける。

 が、透明な壁に阻まれて音も衝撃も消され、攻撃は全く届かない。


 偽者は見下すような笑顔の後に、手を振り上げムチでドロシーを思いっきり叩いた。

 パシン!と小気味良い音が響き、ドロシーは激痛で顔を歪ませる。

 距離を取り、叩かれた右腕を見てみる……が、どこにも怪我は見えないし障壁も破られたような跡もない。

 どうやらあのムチは、障壁など貫通する代わりに傷を作らない、痛みだけを与える武器らしい。

 相手を傷付けずにいたぶれる為、その手の道具としては破格の能力なのだろう。

「なんと面倒な」

 ヒリヒリする痛みから若干気持ちが萎えかかったドロシーは、相手の顔を見て憎しみを高め戦意を維持させた。

 ――あの黒い人影。これに叩かれて喜ぶってどうなってるんだろう。

 ドロシーはムチを見つつそんなどうでも良い事を考えていた。




 障壁を中和するよう手にオドを集めて殴りつつ、ムチを避ける。

 それがドロシーの基本的な動き方だが、それでも相手も自分と同じ技量持ちである。

 そうそううまく行かず、中和は手数が足りずに思ったように進まず、ムチは避けきれずに痛みばかり体に溜まっていく。

 傷はないはずなのに、既に右腕は痛みで痙攣を起こしていた。


 距離を取り、その見慣れた憎い顔を見つつドロシーは思考を張り巡らせた。

 どうやら動きや能力はほぼコピー出来ているのようだが、それにしては少々動きがおかしい。

 行動パターンが少なく、ほとんどが反射で動いているようだ。

 こちらが距離を取り、攻撃しないと淫靡な笑みを浮かべ、時々体を自慢するように胸や足が強調されるポーズを取る。

 ――どうしよう。ナルシストになった気分がしてすごく嫌だ。

 しょんぼりした気持ちになりつつ、ドロシーは思考を続けた。

 そしてこちらが近づくとまずムチで攻撃してくる。

 他に有効な手段があったとしても、とりあえずムチで叩く事が大切らしい。

 それ以外の行動は基本カウンターとなり、こちらの攻撃に合わせ適切な攻撃を行おうとする。

 また全身に張った魔術障壁だけは消さずに常時だしっぱなしにしている為他の魔術は使わない。

 ……いや、使えないのかもしれない。

 障壁を張りながらでも簡単な魔術は使えるはずだが、目の前の偽物は障壁以外の魔術を使ったところをまだ見ていない。


 そうすると……とりあえず相手が使えなさそうな魔術を使用して試してみることにした。

 ドロシーは自分の障壁を解除してオドを体内に高め、事前に覚えさせてもらったルゥの生体データを脳内で展開し、自分に混ぜ合わせる。

 そして次の瞬間、ドロシーの頭頂部に狼の耳が生えた。

 切り札(ウルフハウル)こそ使えないものの、運動神経は知り合いの中で最も優れた獣人のコピーである。


 ドロシーはサイドステップを数度繰り返して偽物の背後に回り込み、素手のまま全力で拳を叩きこんだ。

 障壁に阻まれたが確かな手ごたえがあった。

 これなら中和などしなくても数度殴れば障壁を外せそうである。

 驚いた表情のまま偽物は後ろを向いてドロシーの方を向こうとするが、既にドロシーはそこにおらず、頭上から落下しながら、かかとで頭頂部を蹴りつけた。

 障壁が薄くなったのを感じたドロシーは地面に着地した瞬間に飛んでくるムチをしゃがんで躱し――クロスカウンター気味に横っ面をぶん殴った。


 偽物は気持ち良くふっ飛んでいき倒れ、すぐに立ち上がりこちらを向いた。

 どうやらそれなりには痛かったらしく、頬を触りながらドロシーを睨んでくる。

 その表情からドロシーは、ようやく溜飲が下がったように感じた。

 そして冷静になり()()()に気が付いた。

 ――あれ? 相手は作り物なのに痛みを感じるという事は……。

 そしてドロシーはにやりと邪悪な笑みを浮かべ、横ステップを繰り返して偽物に近寄った。

 横ステップと言ってもルゥの身体能力のステップである。

 十歩以上の距離をぴょんぴょんと跳ねて移動されたら姿を追うのだけでも一苦労だろう。


 繰り返す高速反復横跳びのような不思議な動きに偽物は目がついて行けず、ドロシーはその間隙を縫って偽物からムチを奪い取り、そのまま勢いに任せてムチを相手目掛けて振りぬいた。

「えーい!」

 凄く嬉しそうに声を出しながらムチを振り、気持ちの良い音を立てると同時に相手の表情が苦痛に歪む。

 更に顔を歪ませて見せてはいけないような悪役の顔をしながら、ドロシーはムチを連打する。

 このムチが相当痛い事をドロシーは肌で感じている。

 獣人化する前は右腕が動かなくなっていたくらいだ。

 だからこそドロシーは仕返しも兼ね、獣人の身体能力で容赦なくムチを振るい続けた。

 パシン!パシン!パシン!

 リズミカルに、そして出来る限り痛くなるように叩き続けるドロシーに対し、偽物の表情が変化する。

 痛みだけでなく、どこか若干嬉しそうになっていた。

 つまりは、表裏一体という事なのだろうか……。

 深く考えずドロシーはムチを叩き続け、そして遂に頬を赤らめた偽物はパキパキと音を立て消えていった。

「んー。コピーしてもルゥちゃんほどの身体能力は出ないかぁ……」

 ドロシーは耳をピコピコ動かしながら今の身体能力を確認する。

 まるまるコピーし再現しても、本物のルゥと比べても大体六割くらいの能力しか出せていなかった。

 おそらくだが、それが三世のスキルの影響分だろう。

 逆に言えば、身体能力がほぼ二倍になるほどの影響を三世のスキルが与えている事になる。

 そう考えると、とてつもなく有用で、そして恐ろしいスキルだと理解出来る。

 獣人限定とは言え、自分の配下を強化しつつ自身も強化出来るのだから。


 そんな事を考えながら、ドロシーは残った四人と合流しようとその方向に目を向け足を動かし、ある事に気が付いた。

 それは自分の手にまだ()()()が残っている事だ。

 どうやらこれには実体があったらしく、消えていなかった。

 ドロシーは()()を握りしめ、遠くからこちらに歩いてきているマリウスを見ながら小さく囁いた。

()()も……悪くないかもしれないわね……」

 敵はいなくなったはずなのに、一瞬だけマリウスは背に冷たい何かを感じ身震いをした。


ありがとうございました。

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