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異世界転移でうだつのあがらない中年が獣人の奴隷を手に入れるお話。  作者: あらまき
理不尽な魔王

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邪気も悪意もないからこその邪悪

 

 天高く聳え立つ巨大な塔。

 地上からはその高さは把握出来ず、塔の回りには飛行する魔物が塔を守るように周回している。

 邪悪な魔王のダンジョン。

 それがその塔の正体なのだが、何故か首都のすぐ傍に生えて来た。

 非常に交通の便が良く、城下町から徒歩十分でダンジョン着という得なのか損なのかわからない状況と化した。

 どうしてこんな事になったのか、どうしてこんな場所にダンジョンを用意しようとしたのか。

 それを知っている者は誰もいない。


 そんな塔の屋上で転げまわり全身で喜びを表現している何かが存在した。

 それは人と呼べる容姿を逸脱しており、何かとしか表現できない。

 全身ピンク色の地肌で全裸、毛、肌、爪もなどあるべきもは何もなく、一応輪郭と骨格は人型になっている。

 スライムに近い存在であり、どことなく繭のようにも見えなくもない。

 そんな何かはビターンビターンと地面に突撃し転がり身を悶えさせている。


 この気持ちの悪い存在の名前はダンジョンの主である遊戯の魔王。

 その者は今、歓喜に打ち震え神に感謝していた。


 魔王という人類の敵対者の中では例外で、契約の魔王は人間が大好きである。

 愛していると言っても過言ではない。

 特に、限界を超えた存在、まっすぐに生きる者、想像すらつかない奇跡を成し遂げた者。

 そのような本物の英雄のような人間に恋い焦がれていた。


 人間が好きで好きでしょうがない魔王は己のダンジョンという権限を使い、無数の箱庭の世界を作った。

 それは空想や創造ではなく、限りなく本物に近い世界である。

 ただし、その世界は本物ではない。

 どれだけ魔王が気を付け、全力を注いでもその世界は現実に劣る部分が存在した。

 それは人だった。


 人に憧れを持ち、人の事を知りたがっている魔王だが、人の事をさっぱり理解していない。

 むしろ特別視している為、魔王は人という者を生み出す事が出来なかった。

 だから最初は現実にいる人間の情報を写し取り、その人間を箱庭の世界に送り込んでみた。

 その実験は失敗した。

 まるまる情報を移したはずなのに、情報は霧散し人間は生まれなかった。


 次に二人の人間の情報を写し、掛け合わせて箱庭の世界に送ってみた。

 これなら現実の人間の製造と同じだから大丈夫だろうと思った。

 そして同じように失敗した。

 やはりその人間は箱庭の世界で生まれる事すらなかった。


 それでも魔王は諦めず、幾つも幾つも実験を繰り返した。

 その間一人たりとも実際の人間の犠牲者を出していない当たり、魔王が人の事を大切に思っている事が理解出来る。

 そこに善性は欠片も存在しないが。


 那由多の数の実験を繰り返し、そしてついに魔王は人らしき者を生み出す事に成功した。


 一万人の人間の生き様。

 本人の情報ではなく、生きた軌跡を写し取り、それを全て合わせる。

 そうすることで人間の()のような物が生まれた。


 その後、一人分の軌跡の情報を抜き取り、情報を九千九百九十九人分にすることで、そこから()が独りでに情報を集めだし、人間の形を取った。

 箱庭の中で人と同じように生活し、人と同じように営み、そして子供を生み出す事が出来る。

 ただし、それは魔王の望んだ存在とは違っていた。


 人に限りなく近い。

 だがそれは人ではない。

 姿形は人そのもので、営みも人と同じである。

 しかし、何かが違う。

 熱が薄いのだ。

 情熱だけでなく、何もかもが薄味で、魔王はソレを人と認めたくなかった。


 何度か彼らの生活を見ながら間違いを探している時、魔王は己の箱庭で本当の人を見た。

 突然、偽者が本物になったのだ。


 理由はわからないがその男は情熱があり、確かに魔王の知っている人そのものだった。

 どうやら生み出した偽物でも数万に一人くらいは本物に昇華するらしい。

 魔王はこれを魂が宿ったのだと感じた。


 これを数度繰り返し、箱庭として色々な種類の世界を生み出し、ようやく、五十階層に定め今の形となった。


 目的は単純で、色々な世界があると人間に経験してほしいからだ。

 輝かしい世界がある。

 暗く辛い世界がある。

 それでも、どこでも、どれだけ辛くても、人は輝けるのだと魔王は知ってほしかった。




 そして最初に訪れた三世達の冒険を見て、魔王は多幸感で体がバラバラになりそうなほど、喜びに包まれた。

 予想外に続く想定外の連続、無数の奇跡がそこに誕生していた。

 魔王は人類の可能性に限界がない事を確かに見たのだ。


 expcと仮定した存在がいたが、要するに魂が宿ったという意味である。

 npcという紛い物に魂が宿り、元の体がない以外はpcと同じ存在、つまり本当の人間になった者を魔王はそう呼んだ。


 魂が宿るにも種類がある。

 神宮寺太郎丸と三世弥五郎は勝手に魂が宿った例だ。

 これが今まで魔王が見ていた唯一の方法である。

 同じ町に二人というのは稀有ではあるが、確率的に在りえないというほどではない。


 魔王が歓喜に包まれた理由には三つある。


 まず、三番目に驚いた事は同位体に魂が宿った事だ。

 pcの同位体はただのifを形にした存在で、魔王はそれを人間とは認めていなかった。

 その人物の情報を写し、模倣行動を取るようにしただけならただの人形。

 だが、その人形全員に魂が宿ったのだ。

 しっかりと別人格の魂がだ。

 これにより魔王は一つの答えを見出した。


 人が人足りえる証は魂である。


 その結果を証明したのが、二番目に魔王を驚かせた存在、ビリー・マディルトだ。

 神宮寺太郎丸と三世弥五郎は己の手で魂を得た。

 それとは違い、pcの同位体やビリー・マディルトはpcの影響を受けて魂を得ていた。

 ゆえに魔王はexpcという名称を設定した。


 箱庭外からの人間、pcとかかわりを持つとnpcに魂が宿る可能性が高まる。

 そしてexpcは魂を宿しているが、いくらexpcがnpcと接点を持っても魂は宿らない。

 pcとexpcの唯一の違いはそこだけだ。

 これが魔王の出した結論である。

 そして、その結論はあっさりと破棄された。


 八百万商会の人員は百パーセントがexpcである。


 五割は三世の影響でexpcとなったが残り五割はビリーの影響である。

 expcであるはずのビリーの行動は、多くのnpcに魂を宿していったのだ。

 (まさ)しく例外。

 (ただ)しく奇跡。

 理屈も理由もわからない為、他に言い表せない。




 だが、そんな奇跡が霞むほどの例外が同時に存在した。

 それは竹下命である。

 その存在は魔王にとって理不尽と呼ぶ以外なかった。


 竹下愛乃。

 三世家長男の許嫁であり、戦いが嫌いで弱く、他の女中からもいじめられ許嫁の長男からもあまり好まれていない。

 三世家は家柄目当て。竹下家は金目当ての取引だった為竹下愛乃の意志はそこになく、三世家を憎んでいる。


 これが本来の竹下命の人生である。

 なぜか完全に別人と化していた。

 箱庭内限定で未来視を持つ魔王は驚きを通り越し首を傾げる事しか出来なかった。


 まず名前が違うのだ。

 決められた名前を変えたという事は、生まれた時から特別だったという意味となる。

 当然そんな存在は今までいなかった。

 自分の苦難を運命で乗り越えた者はいるが、自分の定められた名前という運命を変えた者などいるわけがなかった。

 己の意志で三世家に入った為許嫁という立場も消滅し、戦いが弱いという運命は実力でねじ伏せた。

 もはや意味がわからない。

 運命で弱いと定められていた竹下愛乃と違い、竹下命は女性ではありえないほどの戦闘能力を持っていた。

 具体的に言えば。最大跳躍は二階建ての屋根くらい跳べ、握力は二百キロを超える。

 泥堕が竹下命をゴリラと例えたのはあながち的外れというわけでもなかった。


 自分が生み出したはずなのに完全に自分の手から離れた竹下命。

 方法や原因はさっぱりわからないが、三世達がその世界に訪れてその理由だけは理解した。


 竹下命の目的は三世八久に愛を捧げ、尽くしきる事である。

 三世八久が訪れるなど知るわけもない立場なのに、竹下命は生まれる前から三世八久を待っていたのだ。


 この事実に気が付いた時、魔王は歓喜に震えた。

 人間の限界を超えた理不尽。

 愛という最高の奇跡がそこにあったからだ。


 あまりに嬉しくて魔王は『竹下命を現実に呼び出そう』と考えた。

 npcという魂のこもってない存在を呼び出す事は出来ないが、expcならば呼び出す事は出来ない事ではない。

 相当体力と魔力を使う上に実体を用意するので大変なのだが、その位の苦労はしてあげたいと思うくらいには、魔王は感動していた。

 本人は拒絶していたが、アレは遠慮か何かだろう。

 そう考えていた。

 魔王は人に対し、希望を持ちすぎていた。




 さっそく魔王は実行に移す為竹下命を箱庭の世界から探し、そして魔王はある事実に気づいて爆笑し塔の上で再度転がりまわった。

『箱庭の世界から竹下命』の存在が消えているのだ。

 ただ姿を消しているわけではなく、過去未来現在、どの時間軸でも、竹下命はいない事になっていた。

 残されているのは現在の時間軸にある一枚の紙だけ。

『あなたの思い通りにはなりません』

 魔王に対して送られた遺書である。


 箱庭の世界にとって魔王とは創造主である。

 箱庭の世界と限定すれば、完璧というわけではないが全知全能に限りなく近い。

 だからこそ、魔王に見つからず存在を消すなどという事は絶対に不可能だ。


 そう――不可能なはずなのに、実際はそうなっていた。

 箱庭の世界からこの世界に訪れたとしてもその痕跡は必ず残る。

 ゆえにこの世界にいるわけでもない。

 かといって他の世界にいる可能性は限りなく零に近い。

 異世界に人を送り込む事など神ですら、裏技を使わない限り出来ないからだ。

 そうなると可能性は一つに絞られる。

 誰にも見つからずに竹下命は存在ごと消滅したのだ。

 それは理不尽極まりなく、あまりに意味不明である。



 だからこそ魔王はその事を、限界なんてない人間の素晴らしさに感激して喜び、塔の上で笑い転げていた。

 丸一日以上転げまわっても、その興奮は抑え切れえていなかった。



ありがとうございました。


すいません、ちょっと体調崩したので更新滞るかもしれません(´・ω・`)



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