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異世界転移でうだつのあがらない中年が獣人の奴隷を手に入れるお話。  作者: あらまき
理不尽な魔王

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にゃづにゃ神社

 

 餅は餅屋、という言葉がある。

 要するに、素人の半端な知識で何かを考えたところでたかが知れているから、ちゃんとした専門家に任せるべきという意味である。

 最近の妖騒動の増加に泡沫で発生した黄泉の穴。そして今後の帝都の騒動も高確率で妖と関わる為、三世は専門家に相談することに決めた。


 妖騒動の専門家と言えばやはり神社ですよね。ええ他意はありませんよはい。そう、専門家にしっかり時間を取って相談しないと。

 そういう建前で、三世は猫神社に向かうことに決めた。

 本当の目的は当然――猫だ。


 正直に言えば疲れたのだ。

 長期の戦闘に加え、ストレスがたまる緊張の日々。

 怯えながら化け物と相対する現状に疲れ果て、癒しを求めて猫神社に向かう。

 ソレを責めるような人はここにはいない。

 命も『今日くらいは主様も休むべきです』という建前で猫とのふれあいを楽しみしていた。

 例外は月華くらいだろう。

 月華は猫に魅力を感じない。そもそも自分と同種族で、全員が配下のような関係である。

 猫又というさががある以上、猫の愛らしさというものは月華にはわからない。

 なので月華には神社の帰りに神宮寺に寄る、ということで手を打った。

 ぶっちゃけて言えば、疲れを建前に猫成分を補給に行くだけである。



「みゃ? こんにちはだにゃ。元気だったかにゃ?」

 神社の裏手の縁側で座布団の上で丸くなっている猫のみゃーが三世達を見かけ、嬉しそうに近寄り話しかけてきた。

 三世はランプを点け、命にも見えるようにした後軽く頭を下げる。

「はいこんにちは。数日ぶりですね。美弥子さんは……」

 三世の言葉にみゃーは肉球で縁側の端を指差した。

 そこには木の上に直接正座し、首に『私は魔が差して悪さをしました』と書かれた看板をぶら下げてた美弥子がいた。

「……何をしたのですか?」

「神主の夢に猫耳つけて登場し、我が神であるあがめよーと言ったあげく、神は団子を所望するとほざいたにゃ」

「――団子が食べたかったんですね……」

 三世はそれしか言うことが出来なかった。


「まあ、ちょうど良いと言えば丁度良いですね」

 三世はそう言って命に視線を送り、命は頷きみゃーにそこそこの大きさの木箱を渡した

「にゃ? これは?」

 尋ねながらもみゃーは少し嬉しそうにしている。おそらく香りで甘い物だとわかったのだろう。

「白玉団子です。お二人にと思いまして」

「……もしかしてみゃー子が夢に出て頼んだのかにゃ?」

「いえ。ただの偶然ですよ」

 その言葉を聞いてみゃーはほっとした表情を浮かべる。

「それなら良かったにゃ。みゃー子! 反省は良いからお客様の相手を頼むにゃ! みゃーは今からお茶を入れるからちょっと失礼するにゃ」

 よっこいしょと立ち上がり、にゃーはとととと軽やかな足音を立て奥に消えていった。

 尻尾が嬉しそうにピコピコと動いているあたり、みゃーも団子が楽しみな様子らしく三人はほんわかとした気持ちになり微笑を浮かべた。


「はいはーい。あー痛た……。足が痛い……おっ。三世さん達じゃない! こんにちは!」

 美弥子は元気よく三世に挨拶し抱き付こうとするのを月華が間に入り阻止した。

「間に合ってます」

「……お変わりないようで何よりです」

 美弥子は少ししょんぼりした様子でそう呟いた。


「それで、どうです? 神社の生活は?」

 三世の質問に美弥子は困ったような表情を浮かべた。

「うーん。恋っぽいことをする相手がいなくて困ってるね。ちなみに今の第一候補は三世さんだからよろしく!」

「間に合ってます」

「しゅーん。ということで彼氏でも旦那でも夫でも募集中のまま修行中、そんで私はついて行けずに困惑中。なんつって」

 軽い冗談だが、それに対し反応する人がいなくて美弥子は恥ずかしくなり赤面しつつ照れ笑いを浮かべ誤魔化す。


「やはり神になるのって大変ですか?」

「おおう。冗談を流して真面目な質問。ポイント高いけど少し寂しいそんな心境。正直に言うけど大変ではあるけど辛くはないよ。みゃーさんってめちゃくちゃ丁寧に教えてくれるから」

 教本を用意し、それ以外にも資料を山ほど用意し、実際にやり方を見せ、失敗しても怒らず、繰り返し失敗しても付き合い続け成功したら笑顔で褒める。

 美弥子の話を聞く限り、みゃーは神様だけでなく、指導の方も一流らしい。

「すごいですねみゃーさん」

「うん。本当に凄いと思う。私あんまり頭良くないけどそれでも出来ることが増えているって実感できるもん。……それで悪さして怒られたけど」

 軽く舌を出して笑う美弥子に三世は小さく微笑んだ。

 何時でもどこでも変わらずに明るい美弥子は、神様に向いているのだと三世は気が付いた。

 こんな神様がいて欲しい。

 そんな想像をそのまま取り出したようでさえあった。


「みゃーから言えば、人間はすぐに叱りすぎだと思うにゃ。失敗したくらいで叱っていたら小さくなってにゃにも出来なくなるにゃ」

 そう言いながらみゃーは全員の前にお茶を置いた。

「これはご丁寧にどうも」

「気にしなくても良いにゃ」

「……そう言えばお茶を入れたり出来るんですね。こっそり住んでると思ってましたから道具を使ってることが知られたら住んでいる人とかびっくりしませんか?」

 三世の言葉にみゃーが小さく溜息を吐いた。

「はぁ。みゃー子がやらかしたにゃ」

「はい。みゃーこさんやっちゃいました! 神社の神主巫女さん全員に『この神社には猫神様が住んでいて猫神様はお茶とか茶菓子とか置いておいて欲しいって言ってます』と伝えちゃいました!」

 何故か元気いっぱいで嬉しそうに手を上げながら美弥子がそう言い、みゃーが美弥子の頭をぷにっと肉球で叩いた。

「自慢するにゃ。ということで、むしろこまめに利用しにゃいといなくなったんじゃにゃいかと皆不安になるようになってしまったにゃ」

 困ったような口調で言っているが、みゃーの口元は嬉しそうだった。

「ふふ。うまくやっているそうで安心しました」

 三世は小さく微笑み、みゃーと美弥子は微笑みながら頷いた。


 その後、神宮寺特製白玉団子を食べ、二人は目が点になり美味しさのあまり号泣した。




 全員が団子を食べ終わった後、美弥子が呟いた。

「わたひ、ほっぺたが痛くなって落ちそうになるなんて初めて経験したわ」

 美弥子の心底嬉しそうな余韻に浸りながらの言葉にみゃーがぶんぶんと何度も頷く。

「せっかくのお供えですからね。喜んでもらえて良かったです」

 命の言葉にみゃーが尻尾をぶんぶんと振りながら興奮気味に答えた。

「文句なしにゃ。味は当然、心が凄まじくこもってるにゃ。団子の一粒一粒に気迫と心がこもっている。ちょっとした幽霊ならこれだけで近寄らなくなるし成仏するくらいはすさまじいにゃ」

 ただの団子に破魔の力が含まれる程気持ちがこもっているらしい。

 流石としか言いようがない。


「幽霊と言えば、最近幽霊とか妖とかの騒動が多いのですが、何か心当たりありませんか?」

 ようやく本題の話せた三世はみゃーにそう尋ね、みゃーは器用に腕を組んで首を傾げた。

「にゃー。思い当たる節がにゃい事はにゃいにゃ。ただ……あんまり言いたくないにゃ」

 予想外の言葉に三世は少しだけ驚いた。

「……理由を尋ねても良いでしょうか?」

「だって、話したらどうせ首を突っ込むにゃ。恩人に危ない事はしてほしくないにゃ」

 つまり、みゃーはある程度事情を知っているらしい。

 そしてそれは今までの小さな怪異の事件と違い本当に危ない事のようだ。

「心配してくれてありがとうございます。ただ、きっとかかわることになると思いますので何か情報を教えていただけたら」

「みゃー。嫌だにゃ。大人しくしておいてほしいにゃ」

 みゃーは腕を組んだまま、ぷいっとそっぽを向いた。

「そうそう。私みたいにまったりしていようよ。あ、ここに暮らすってのも手だよ。幽霊とか怖いのはいないし。私が言っても説得力ないけどね」

 みゃーと美弥子の二人は三世に気を使い、引き留めるように話した。

 その様子が本当に温かくて、三世は今日ここに来て良かったと心の底から思えた。


「ありがとうございます。ですが、かかわることになるのは決まったことなんですよ」

「そんなことないにゃ。みゃーが口を閉じたらそっちは何も知らにゃいままにゃ」

 その言葉に、三世は短く一言だけで返す。

「――帝都東京」

 それを聞き、みゃーは酷く悲しそうな顔を三世に向けた。


「――どうしてにゃ」

「まあ、そういう運命なんですよ」

 そうとしか三世は答えることが出来なかった。

「――泡沫の町も三世達が何とかしたのかにゃ?」

 三世はみゃーの質問に頷いた。

 それに観念し、みゃーは三世に知っている事情を話した。



 西部十三那綱神社は結界の一つとして設立された。

 結界の目的は境界線を作る事。

 黄泉の国との繋がりを防ぎ、死者が現世に戻ってこないようにするためだ。

 その結界は複数に分散され、一つが潰れても大した事にならないようになっている。

 結界には三種類あり、弱い代わりに数の多い小結界。

 拠点を守りつつ周囲に影響を与える中結界。

 そして、日本全土に影響を与える大結界である。

 那綱神社は中結界に相当する。

 そして二つある大結界のうちの片方が帝都の神社であり、その結界の反応が最近消滅した。


 すぐにどうこうなるわけではないし、結界の張り直しはそれほど難しい事ではない。

 ただ、大結界が一つになっただけでなく、黒幕がいるらしく結界への被害は想像よりも大きい。

 その為、あの世とこの世の境目が非常に不安定となっており、黄泉の国にいる弱い妖達がこまめに訪れるようになった。


「みゃーの知っている情報はこんなもんにゃ。何か聞きたいことはあるかにゃ?」

「では、もう一つの大結界は大丈夫なのでしょうか?」

「たぶん大丈夫にゃ。というか無理だった場合はみゃー達ではどうしよもないにゃ」

「どうしてですか?」

「もう一つの大結界の楔は陸軍省の真下にあるにゃ」

「ああ……それはどうしようもないですね」

 帝国陸軍本部のある場所をどうにか出来るとは思えず、どうにかされた場合は三世達では手が出せない相手だから今回は考える必要がないだろう。

「では、この周囲で中結界と小結界って他にありますか?」

「どっちもあるにゃ」


 そう言いながらみゃーが住所を口頭で告げ、三世はそれを聞いて愕然とする。

 小結界は八百万商会の真下、中結界は三世家だった。

 ただ、考えてみたら何となく理解は出来る。

 軍との繋がりがあり、正義の名のもとに生きる三世家はおそらく自主的に結界の守り人を引き受けたのだろう。

 だからこそ、あれだけ力を求めていたのだと三世は納得した。

 そして八百万商会だが、建物含め地盤も妙に頑丈だった事を思い出した。

 まるで地中に何かがしっかり埋められ、必要以上に固められているような感じになっていた為、商会設立前に不発弾を想定し調査を行った。

 ただ、金属反応が出なかった為その事自体を三世は忘れていた。


「このくらいですかね。色々ありがとうございました」

「頼むから、無理はしないで欲しいにゃ。無事なのが一番だにゃ」

 みゃーが心から心配していることがわかり、三世はそれに微笑み頷いた。

「ええ。無事に過ごす為に今日ここに寄ったのですから。さて、そろそろ本題に入りましょうか」

 三世が神妙な面持ちになり、すっと立ち上がる。

 その様子ををみゃーは見て、ごくりと喉を鳴らした。

「ほ、本題かにゃ?」

「ええ。今日の本当の目的はこれからと言っても過言ではありません……」

「それは……にゃにかにゃ?」

 みゃーが緊張からかうまく回らない口でそう呟くと、すっと月華が立ちあがった。


「おいで……」

 月華が一言、小さく呟いた瞬間、数十匹の猫がわらわらと月華の足元に寄ってきた。

「私のご主人様と遊んであげてくれない? 大丈夫。誰よりも猫に詳しいから」

 その言葉を聴き、猫達は一斉ににゃーと答え三世の足元に寄ってきた。

「ここでは狭すぎますね。広い場所に行きましょう」

 きりっとした表情で三世はランプをみゃーの傍に置き、猫達に囲まれながら去っていった。

 顔は真面目なままだが、みゃーは理解した。

 今三世の脳内は孫を甘やかすおじいちゃんのようになっていると――。

「あの……目的って」

 美弥子の言葉に命は苦笑しながら答えた。

「慰安です。主様も私も」

 そう呟く命の太ももの上にも、一匹の猫が寝ころび甘えていた。

「……私も猫耳生やしたら三世さんに可愛がってもらえるかな?」

 美弥子の言葉に月華が微笑み、猫耳を見せ答えた。

「間に合ってます」

「しゅーん」

 月華はいつもように答え、美弥子は少しだけ落ち込んだ様子を見せた。


ありがとうございました。

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