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番外編-ある日の獣人奴隷の一日

2018/12/13

リメイク


嘘が思いつかないから番外編でごまかすです。

「そろそろ朝ですよ」

 そう優しく呟きながら髪と耳を撫でられる。

 愛おしいと伝わってくるような優しい手つき――。

『ヤツヒサ』の声と手で『私』は目覚めた。

 普段は私の方が早く起きるのに……。

 でも、誰かにそっと優しく起こされるのも悪くない。

 今度寝たふりしようか、私はそんな悪い事を考えていた。




 私の名前はルゥ。

 ヤツヒサの奴隷。

 どちらかと言うと()()()らしいが、私には良くわからない。

 一つだけわかる事は、この人が私のご主人様で、私の命の恩人で……そして、とても優しい人だということ。

 ヤツヒサは獣人とか動物が好きらしい。

 だから良く私を撫でる。

 とても心地よいので私は嬉しい。

 何故かわからないけど、たまに少しだけ……恥ずかしくなるけど。


「ん。おはようヤツヒサ」

 眠気の残る眼をこすりながらヒタヒタと足音を立てて洗面所に向かい、顔を洗って歯磨きを済ませる。

 素足で歩くの私は好きだ。

 でも外だと迷惑かけちゃうから普段は靴下と靴をちゃんと履くようにしている。


 そうして目がぱっちりと覚めたら、さっと服を着替える。

 必ずヤツヒサがいないときに、一人で着替えろとヤツヒサは強く私に言った。

 良くわからないけど……最近なんとなくその理由もわかった。

 人前で着替えることって恥ずかしいことなんだろう……たぶん。


 そしてその後『ルカ』とヤツヒサのししょーの『マリウス』の家に行く。

 私はこの家がとても好きだ。

 ご飯もおいしいし、暖かいし、何より、誰も嘘を言わないからだ。

 ここは私にもだけど、ヤツヒサに優しいから、私はこの場所と、この二人が大好きだ。


「るー。おはよー」

「ルゥちゃんおはよう」

 ルカと手を取りながら微笑み合う。

 ルカはよく私と遊んでくれる。

 それがとても嬉しい。


 ヤツヒサとマリウスが何やら話し始めた。

 この二人は仕事の話をしだすといつも止まらなくなる。

 ――だから私が、しょうがないからヤツヒサを止めてあげるの。

「やーつーひーさー。まだご飯食べてないよ!」

「ああ。ごめんルゥ。ルカさんも」

 三世の言葉に合わせマリウスもぺこっと軽く頭を下げ、ルカは二人を止めた私を褒めてくれた。


 そしてルカはさっと調理を終え、みんなで揃ってご飯を食べる。

「いただきます」

 手をしっかり合わせる。

 そうしないと食べたら駄目な気がするから。

 今日はハム入りスクランブルエッグに柔らかいロールパン。

 それとサラダ。

 ドレッシングは苦手だから私のにはルカは入れないでくれる。

 代わりに私が好きなトマトを多めに入れてくれたりもする。

 そんな優しさが伝わるから、ご飯の時は何時も楽しい。




 朝ごはんを食べた後は、ルカに連れられ女の人が沢山いる仕事場に向かった。

 今日はヤツヒサが服とか作る日だから邪魔しないようにルカについて行ってお手伝いする日。

 お手伝いの時私は、必ず大きな声で挨拶をするようにしている。

「おはようございまーす!」

「あらルゥちゃん。今日は来てくれたのね」

 優しいおばさん達がいつも歓迎してくれる。

 微笑み、挨拶を返してくれる。

 それだけで、今日もがんばろうって気になるからおばさん達は本当に凄い。


 今日の最初の仕事は、牛乳を『フィツ』に持っていく事だ。

 大きな金属の缶に入れられるのでとても重たい。

 だから私が来たらこれが私の仕事になる。


 フィツは料理が美味しいとっても優しい人。

 でも優しい声じゃなくていつも厳しい声だから私は少し苦手。

 ご飯はおいしいのに、いつもとても厳しい声をしている。

 フィツは何時も、自分に厳しい。

 自分に厳しいって辛くないのかな。

 私にはわからない。


 私は他の人と違い、とても力がある。

 だけど、牛乳を運ぶのは実は苦手だった。

 ふらふらして零しそうになるからだ。

 よろよろと、そしてそーっと牛乳を運び、フィツの店に声をかける。

「フィツー。牛乳もってきたよー」

 フィツは寝るのがいつも遅いからか、朝はとても辛そうだった。


「んー。ルゥちゃんか。いつもありがとな。飲み物かお菓子どっちが欲しい?」

 声は厳しいのに私にはいつも優しい。

 もっと自分に優しくしたらいいのに……。


「お菓子!」

 でもそれはそれ!これはこれ!美味しいものが食べれるのはとっても嬉しい。

「んじゃヤツヒサ印のキャラメル一個だけ上げよう。他の人には内緒だよ」

「わーい。ありがとうフィツ!」

 柔らかいキャラメルを口の中でころころ転がしながら、仕事場に戻った。

 長く味わいたいのに、いつも仕事場に着く前に飲み込んでしまう。

 それが少しだけ寂しい。


「次の仕事はなんですかー?」

 そんな私の声に、女の人は微笑む。

「次は掃除だけど大丈夫?」

「重い物とか持つよ!」

 ハタキとかモップを見るとちょっとワクワクするからあまり持ちたくない。

 誰かがはたはたしてると飛びつきたくなるけど邪魔したら怒られるから我慢する。

 その代わり帰ったらヤツヒサに遊ぶの付き合ってもらおう。

 私はそう決めた。


「本当に力もちねぇ。ありがとねルゥちゃん」

 掃除が終わった後、私はエヘンと胸を張った。

 タンスでもコンロでも中身入りの寸胴鍋でも私なら持てるからね!


 でも掃除は思ったより時間かかった。

 太陽の位置的に、昼までに出来る仕事はあと一つくらいだろう。 

「次の仕事はなんですかー?」

「今ちょっと短い仕事ないから先にルカちゃんとご飯食べてて!」

「はーい!」


 女の人の声に反応し、ルカと合流して二人でお弁当を食べる。

 今日のお弁当はサンドイッチ。

 私のだけにトマトが入ってるのは優しさなのかルカはトマト嫌いなのか。

 わからないけど、私はトマトが好きだからとても嬉しい。


 さっとお弁当を食べてルカと別れ、仕事を探す。

 ルカは私よりもたくさん色々な事をしてる為仕事中はあんまり一緒にいない。

 ルカはお手伝いだけじゃなくて、お店の仕事も仕事の勉強も、そして自分の為の勉強もしている。

 とても凄いと素直に思う。

 空いた時間はいつも難しい本を読んでるし、大人の人や村長がルカに頼るところを見た事もあった。


 私は楽しい本じゃないと嫌だ。

 ヤツヒサと一緒に楽しい本を読むのがとても楽しかった。




 お昼になったけど、もう私の仕事はなさそうだった。

 仕事はいつもあるわけじゃない。

 朝だけは必ず何かあるけど、お昼はないことのほうが多い。

 そういう時はこっそり家に帰って料理の練習をしてたりする。

 普段はルカが作ってくれてるけど、ルカが忙しい時とかいないときはフィツのとこに行くかヤツヒサが自分で作ってる。

 皆楽しそうに作るから私もがんばってるけど……なかなかうまくいかない。

 でもヤツヒサが楽しそうに作る理由はちょっとわかった。

 食べて美味しいっていってもらえるのはとても嬉しい。

 だから内緒で料理の練習を私はがんばってる。


 たまに食器を洗い忘れても勝手に誰か洗ってくれてる。

 だからヤツヒサにはまだバレてない。

 もうちょっとで一個くらい作れそうだから引き続きがんばる!




 昼がちょっと落ちてきて、何となくまったりした雰囲気になった。

 つまり、おやつの時間である。

 私はワクワクしながら冷蔵庫を開ける。

 中にプリンが入っていた。

 ヤツヒサ曰く。

『カラメルの代わりにちょっと甘みを抑えたメープルにしましたがまだ甘いですね。もう少し甘さを抑えてみましょう』

 らしい。私は凄く美味しいと思うけどな。


 プリンを食べた後食器を片付け、ついでに料理の練習した跡を消す。

 食器を洗っておけばきっと私が料理の練習してるなんてわからないはずだ。

「るー。いってきます」

 もちろん、食器を忘れずに伏せている。

 これでバレない!

 私はいってきますを必ず言うようにしている。

 癖をつけておいたほうが良いってヤツヒサが言ってたから。

 でも誰もいないのに言うのはちょっと寂しい……。


「こんにちはー」

「お。今日はまた来たのか。いつものかい?」

 フィツの店に私はちょくちょく行っている。

 理由はお手伝いしながら料理の練習が出来るからだ。

「邪魔じゃないならお願いします!」

 ちゃんと自分から頼むときはお願いしますを言う。

 だって失礼だから。

「おう。今日は芋の皮剥きをしてそれをこのくらいに切っておいて、最後に水にさらしておいてくれ」

 ちゃんとお店の料理の服を着て髪を外に出さないようにする。

 そして本当は嫌だけど帽子をしっかり被る。

 毛が入ったら料理を食べる人が可哀想だから。


 そして言われたとおりの作業を私は行う。

 ――この芋はたぶん、マッシュポテトにするのかな。それと今日の曜日なら……。フィツの今日の自信作は揚げた魚だね。

 なんとなく日付と手元の作業で今日のフィツの得意料理を私は予想する。

 大体それが夜のご飯のメインになるから。


 普段は我慢するけどたまにフィツは凄い自信満々に何かを作るときがある。

 そういう時、それがお肉料理だったりしたら私はルカに言って外食にしてもらう。

 みんなでここで食べるのも私は好き。

 だってとっても美味しいから。

 私はお金を持ってるからいつも払おうとするけど……ルカはいつも受け取ってくれない。

『いいのよ。私はヤツヒサの師匠の娘。みんなのお母さんみたいなものだから』


 一度だけお母さんはいないの?ってルカに聞いたことある。

 そしたらたまに会ってるんだって。お母さん体弱いからなかなか会えないらしいの。


 私はお母さんもお父さんもいなかった。

 いたかもしれないけど育ちが遅いって理由で捨てられたらしい。

 でも、悲しい気持ちになったこともない。

 だって愛されてなかったって今ならわかるから。

 代わりにヤツヒサがお母さんみたいに愛してくれる。

 だからヤツヒサを守る事が私のするべき事だって、私はわかってる。




 そんな私にしては難しい考え事をしながら芋の皮剥きを終えて切る。

 私は包丁が苦手だ。

 握ったときたまに自分の手を爪でひっかきそうになるから。

 それでも最近は慣れてきた。

 何でも繰り返して覚えればいいってヤツヒサがよく言っているから私もそんな感じでがんばる。


 そして芋を水の入った鍋にぽーいぽちゃんぽちゃん!

 終わった!

「フィツ!終わった!次は?」

「んー。すっごい大変だけどこれ混ぜるか?」

「やる!」

 私は元気に返事をして、フィツがしてた作業を引き継いだ。


 ずっと、延々と鍋の白いのをぐるぐる混ぜる。

 それだけの作業。

 実は私、これ好き。

 混ぜるのそんなに疲れないし、これが出来たらキャラメルになって……フィツはいつも少しだけくれるから。


「ぐーるぐーるぐるぐるるるー」

 鼻歌を歌いながら混ぜるるー。

 たっぷり混ぜたら色変わる。

 茶色っぽくなったらフィツを呼ぶ。

「色かわったよ!」

「おう。ルゥちゃんありがとよ」


 そしてフィツが完成させてバットに移して冷蔵庫にin!

 フィツは別のキャラメルのバットから出して切って三つくらいを皿に乗せてくれる。


「ほいご褒美。今日は下準備終わったからもういいぞ。いつもありがとうな」

 私はその三つをテーブルで座ってゆっくり味わってから皿を返す。

 もちろんいただきますとご馳走様を忘れない。




 その後にルカを探す。

 ルカの匂いは……露店の野菜屋さん辺りからだった。

 今は野菜を買っているようだ。

 そのまま飛び出しルカに会いに行き、一緒に家に帰って夕ご飯の準備を手伝う。

 そして、ヤツヒサとマリウスを呼び、全員でご飯を食べる。


 またヤツヒサがフラフラしてる。

 きっとまたお昼食べてないな。

 マリウスも食べてなかったらしい。

 二人はお夕飯を一生懸命、まるで飢えた動物みたいに食べていた。

 ちなみにルカはお昼の弁当は二日は持つ弁当にいつもしている。

 だってこの二人……今日みたいに食べない日が多いからだ。


 お夕飯は魚の蒸し煮とよくわからない中に何もはいってないもっちもちするパン。

 トマトスープにデザートのクッキー。

 よくわからないパンはヤツヒサがマントウみたいって言ってた。

 マントウもわからないけど。




 そして家に帰ったらシャワー浴びて歯磨いて遊ぶ。

 シャワーは朝か夜か決めてない。

 両方入るときもある。

 お風呂に入りたいってよくヤツヒサが言ってる。

 いつか買ってあげれるかな?

 そもそもお風呂って何だろうか、私はまだわからない事が沢山あった。


 私の遊びの内容は、ヤツヒサにハタキとかをふりふり振ってもらって私がそれをたしっと取ったり延々と頭を撫でてもらったり。

 最近のお気に入りは絵本を読んでもらうこと!でもすぐ眠くなるからちょっと悔しい。





「そうして愛する女性の元に勇者が帰ってきました。彼はもう勇者ではありません。一人の女性を愛しているただの青年だったのです」

 ヤツヒサが絵本を読み終わると、私はぱちぱちと手を叩いた。

 今日は最後まで眠たくならなかった。

「るー。よくわからないけどみんな幸せでよかったね!」

「そうですね」

「ヤツヒサ。愛とかわからないと駄目?」

 色んな話や色んなことを聞いた。

 それ以外でも、女の人が色々なお話をしていた。

 やれ愛だったりふられただったりと、そういう事がこの町でもちょくちょくあるみたい。

 でも私にはよくわかなかった。


「いつかわかるときが来たら考えたらいいですよ。今は好きなことをしてください」

「るー。じゃあ絵本まだよんで!」

「今日はここまでですよ。また明日」

「るー…………」

 私はちょっとしょんぼりする。

 でも仕方ないし理由もわかっている。

 だって私が眠いから。

 ヤツヒサは触るだけで私が眠いかそうじゃないかわかるから、私が眠いときは絵本を読んでくれない。

「るー。じゃあ寝る。おやすみヤツヒサ」

 私は先に大きなベッドに入って寝る。

 小さなベッドに私がもう入らなくなったから。

 今度もう少し良いベッド買ってヤツヒサにあげないと。


 私は一緒に寝てもいいけどヤツヒサが駄目っていうから仕方ない。


 愛とか恋とかよくわからない。

 私はそんな物よりも、ヤツヒサとずっと一緒にいられたら良いな。

 そんなことを考えながら私は眠る。


 たまに夢を見る。

 綺麗な銀色の髪をした女の人が、私にずるいずるいって言うの。

 ずるいって言って、その後でがんばれって言うの。

 凄いかっこいい女の人なの。私よりおっぱい小さいけど。

 私がそう言うと、その人は「私もある方です」って言うの。


 その人はなんていうかくーる?みたいな感じ。

 でも会ったことないけど会ったことあるような気がする。

 耳がないから獣人じゃないと思うけどよくわからない。

 今度聞いてみよう。


 ルゥはいつもそう思いつつ。夢の内容を毎回忘れる。


ありがとうございました。

設定をきっちり作ると主役を変えたときに見方が変わるのが面白いですね。

最初の番外編でした。

エイプリルフール企画をしようか悩みましたがちょっと本編製作の時間にもっていかれるため思いつきませんでした。

というかエイプリルフールだと気づいたのは4/1に入ってからでした。

なんで昨日はまだ3月のつもりだったんだろう。


では再度ありがとうございました。

読者の楽しいひと時が提供出来たらそれが一番嬉しいです。

読みにくかったらいわかりにくかったら遠慮せずどこでもいいので連絡下さい。

出来るだけ直すように心がけさせていただきます(直すとはいってない)

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