心に余裕が生まれない限り人を助けることは出来ない
2018/11/25
リメイク
この拠点に転移してから、一週間が経過した。
その間状況は全く改善されていない。
出来た事と言えば、周囲三百メートルほどの探索くらいである。
しかも結果は芳しいとはとても言えないものだった。
食料となりそうな物は何一つ見当たらず、小動物はもちろん虫や鳥すら確認出来なかった。
その分探索自体は快適ではあったのだが、全く生き物が見当たらないというのは非常に不気味だった。
大小の差はあれど、皆この事実に怯えるほどには――。
だがそんな中途半端な恐怖よりも、もっと怖いことが差し迫っていた。
それは食料の枯渇である。
食料はこの人数で節制して暮らせば、最大であと三週間ほどは保つ。
逆に言えば、最大でも三週間しか保たないのだ。
周囲に食料が見つからない以上、早いうちに何か対策を取らなければ考えたくない展開になる事も十分にありえる。
衣服に関しては修学旅行の帰りだった生徒と先生は複数の着替えを持っており洗濯機もある為問題なかった。
ただし、三世と操縦士二人は別である。予備の服など持っているわけがなかった。
特に、三世はスーツという現状でとても快適とは言えない恰好をしていた為、スーツを仕舞い用意されていたこの世界の服に着替えた。
王道のファンタジーらしい布の服は、思っていたよりもしっかりとした作りになっており、露出も少く着心地も悪くない。
最悪の場合、服の隙間からパンツが見えるくらいは覚悟していたがそんな事はなかった。
ただ、布地の通気性が良すぎるのか少々肌寒くはあったが。
今のところ、食料問題を除けば問題なく暮らせていた。
この世界でも、しっかりと対策を取り協力していければ十分生きていける。
そんな気さえしていた。
ただし、それはあくまで協力出来たらの話である。
現在、この拠点では非常に面倒な問題に直面していた。
それは異世界である事とは全く関係なく、どの世界でも起こることがありえる、本当によくある問題だった。
「うっわ」
突然、女生徒の一人がうんざりしたような声を出し慌てた様子で逃げ去った。
その先には操縦士の一人がいる。
二人組のうち、体格の良い方だ。
確かに体格は良いが悲鳴を上げられるほど狂暴な見た目というわけではなく、本来なら逃げ出されるような外見をしていない。
多少はゴツい見た目だが、子供番組に出て来る運動のお兄さんのような爽やかさが溢れて出ているくらいだ。
最初の頃は、複数の女生徒が知らない男達は何だか怖いという程度の話だった。
だが、それが日ごとに悪化していき、気づいたら三世と操縦士二人は露骨に避けられるようになり、遂には先程のように嫌がられ逃げ出される程になってしまった。
全女生徒から、ここまで露骨に逃げられている訳では無い。
大体半数ほどが我慢しているらしく少し嫌そうな顔をするだけにとどめ、もう半分はさっきのように顔をしかめながら逃げ出す。
斉藤先生の受けもつ四組の生徒は基本前者である。
自分の担当する生徒が意味もない露骨な男性差別するのを見るや男女平等全力ビンタをかまし、その後の泣きながらの説教コンボでそれが悪いことであると必死に説得する斎藤を見て、四組の生徒は我慢をするようになった。
それでも、気持ちの改善にまでは至らず、四組の生徒でも本質的には男性が怖いらしい。
四組内ですら、三世達を排除したいという雰囲気が漂うようになっていた。
後者側、露骨に毛嫌いし悲鳴を上げ逃げ出す六組。
彼、彼女達は全く我慢をしない。
こちらは担任が男性ということもあり生徒達に強く出れず、しかも斉藤ほどクラスをまとめる力が無い為生徒達はどんどんと増長し続けていく。
このままでは担任すら男だからという理由で追い出されそうな程、六組内では三世ら男性三人への嫌悪感が膨れ上がっていた。
「どうしたもんですかね」
女生徒に逃げられた三世が慰めるように操縦士の男に話しかけた。
「なんで俺ら――いえ私ら夜の睡眠時間を人より多く削って、その上子供だからと気を使い続けて。そこまでしてるのに嫌がらせを受けないといけないのでしょうかね」
操縦士はイライラしながらそう愚痴った。
確かに怒りも見えるが、それ以上に切ない……とても悲しそうな表情を浮かべていた。
確かに気持ちはわかる。
三世にもそれとなくだが被害が出はじめているから。
ただ操縦士の二人ほど酷い被害は受けていない。
三世の前にいる男の眼の下には、隠しきれないほど深い隈が出来ていた。
夜の見回りがある為、操縦士二人は朝寝るような生活をしていた。
だが、朝になると起き始めた生徒の一部が、わざわざ二人の部屋の前に移動し睡眠妨害を行っていた。
大人の癖に生徒を働かせて休んでいるから。
という理屈らしい。
率先して嫌がらせをするような行動力ある子はそんなに多くない。
その為今回の睡眠妨害もごく一部の生徒による独断である。
これが全生徒の総意であるならば、三世達男性組は詰んでいると言って良いだろう。
だが、少人数だとしてもとても面倒な問題があった。
睡眠妨害を率先して行っているのは六組のクラスの中心的な人物で、クラス内で非常に発言力が強いということだ。
更に六組は先に述べた様に担任も頼りなく、生徒は暴走気味で色んな意味で暴発寸前だった。
三世自身はそこまで疲弊していない。
操縦士は良くも悪くも見た目が若々しい。
エリートな職である事に加え、三世と比べても若い年齢。
どうしても男らしさというものが強調されて見えていた。
三世は男性という性別ではあるのだが、体躯も普通で比較的細方で中途半端な年齢。
話し方も常に下からの敬語な事もあり、男らしさなど微塵もなく、妙に老けているような印象を持たれていた。
だからだろうか、三世は空気のように扱われる事が多かった。
そしてもう一つ、三世が疲弊していない理由があった。
それは飛行機の中で三世に気を使い話しかけてくれた子。
名前は羽嶋ゆまと言うらしい。
四組のクラスの副委員らしい彼女は、三世と仲良く話そうとしたり、怖くないということを飛行機の中でしたのと同じように同級生達にアピールしてくれた。
それでも、よく知らない成人男性への恐怖感の払拭というのは難しいらしい。
昨日、羽嶋は人のいない場所でこっそりと三世の傍により――。
「ごめんなおっさん。私らも何とか頑張っているんだけど……」
と呟き、悔しそうに唇を噛んだ。
「これでも食って元気出してくれ。まだ私もがんばるから!」
羽嶋はそう言って、三世の手に包装紙に包まれたキャラメルを渡した。
不味いとはっきり言える保存食を食べているこんな時に、もう手に入らない地球の菓子。
それは彼女にとってどれだけ貴重なものなのか分からない。
羽嶋の様子は決して媚を売っているようなものではない。
純粋に三世を心配してくれ、その上で自分がしている訳でもないのに謝罪の気持ちだけでここまで動いてくれている。
「ありがとうございます。私は別に気にしてないので問題無いですよ。でもおっさん呼びはちょっと悲しいですね」
冗談交じりに笑いながら三世はキャラメルのお礼を返した。
「ごめんなさい。どうしても口が悪いのは性分で。悪気は無いんだ。おっさんもおっさんの割りには若いと思うし」
しどろもどろになりながら言葉を選び、その上でうなりながら頭に両手を当てて悩むような仕草をする羽嶋。
本当に良い子だなと三世は素直に感心した。
その後すぐに羽嶋は他の学生達の所に戻った。
男女二人っきりで一緒にいたら、それはそれで三世が疑われるという羽嶋の配慮からだ。
羽嶋は本当にがんばってくれている。
操縦士の二人にも謝りたいようで何とか接触しようと狙っていたが、嫌がらせと監視を受け、ピリピリしている操縦士二人に単独で接触するのは難しいらしい。
他にもこの状況を何とかしようとがんばっている子も少数だがいるらしい。
しかし、そろそろ限界が近い。
最近は食料を男性の三人が多く食べているから減るのが早いと言う意見も出てきた。
今まで仲裁していた教師陣にも疲れが見え始め、あまりこちらに意識が向いていない。
操縦士の二人か生徒か。
どっちが爆発するかという誰も得しないチキンレースが繰り広げられていた。
男性陣三人は別室で待機していた。
最近は操縦士と三世の三人は別室で食事を取るようになった。
食事中一緒にいたくないという生徒の声を先生も抑えきれなくなってしまったからだ。
マズい保存食を食べ終わった後三人は重苦しい空気の中、黙り込んだ。
操縦士二人も最近は特に口数が少なく、無言でいる時間が日に日に増してきた。
非常に重い空気の中での沈黙はただただ辛く、三世は緊張からか口が渇くような錯覚を覚えた。
爆発寸前という言葉が似合うような態度の操縦士二人。
疲労とやるせなさ、そして怒りがピークに近づきつつあった。
『こーんにーちはー』
そんな緊迫した空気を打ち壊すような、気の抜けた声がどこからか聞こえてきた。
『きーこえーますかー』
少しずつ、声が近づいてくる。
『あー。ここですね。見たこと無い建物あるし間違いないでしょう。せーの!』
その声の主は女性だった。
女性はしっかり溜めを作るように息を吸い、そして声として全力で吐き出した。
『こーんにーちはー!』
耳を塞ぎたくなるほどの大きな声が、門の方向から聞こえ空気を振るわせる。
三人は顔を合わせ、頷いた後正門の方に走っていった。
正門の外に出ると斉藤と校長先生の二人が既に外で待機していた。
「他の先生方は?」
三世がそう尋ねると困ったような表情を浮かべる斉藤先生。
「生徒を抑えるので手が離せなくて」
斉藤先生がそう疲れた顔で言った。
操縦士二人も爆発寸前だが、生徒側も精神状況が追い詰められ、同じような状況なのだろう。
横で校長先生も困ったような表情を浮かべていた。
更に、六組の担任が来ていない。
また六組の生徒達が何かをやらかしそうなんだろうと、三世は理解した。
「今はそれよりアレを」
斉藤先生が外に指を差した。
その方向に二人の男を引き連れ、馬に乗った騎士風の衣装に身を包んだ若い女性が見えた。
馬の後ろには馬車がついていて、二人の男は従者のように真ん中の女性を左右から挟み 庇うようにしている。
輝く銀色で光沢ある鎧を三人共着ており、その姿はまるで、物語の騎士のようだった。
だがそれ以上に、鎧よりも、馬に乗った年若い少女よりも、馬や馬車よりも男二人の事が気になった。
【歓迎】【ようこそ】
そう書かれた手振り用の小さな旗を男二人が持っていたからだ。
「すいません。魔法で声届くようにしましたけどちょっと大きかったですよね?」
女性はてへへと笑いながらこちらを向き、そう言葉にした。
馬から降りて女性だけが近寄って来た瞬間、先生と操縦士、そして三世は自然と身構えた。
「始めまして。ラーライル王国騎士団のものです。神託によってここに来ました」
そんなこちらの様子など気にもせず、女性はにこにこと嬉しそうにこちら全員に聞こえるよう大きめの声でそう言った。
「神託の内容を説明しますね。その前に神託ってわかります?」
女性は人差し指を唇において首を傾げながらこちらに尋ねてきた。
教師達や操縦士と顔を合わせるが全員困った顔で固まっていて動きがない。
なので代わりに三世が代表して首を横に振った。
「説明お願い出来ますか?」
校長の言葉に女性は大きく笑顔で頷いた。
「はい。私達の世界には神様がいて、その神様が時々こちらにお願いをしてきたり、逆にこちらの困ったことを助けてくれたりします。それが神託です。そして神託がお願いだった場合、その通りに行動したら何か良いことが国にあるので神託はとても大切なのです。つまり神様からの報酬付きの依頼みたいなものですね」
えへんと何故かいばり気味に女性は話した。
「そしてそして!今回の神託はーででででで」
ドラムロールっぽい音を口で言いながら懐から丸めた紙を取り出す女性。ついでに変な歌も口ずさみだした。
「えー。『迷い子が私の住処に現れました。その迷い子はあなた達と同じくわが子同然です。遠い場所から何も知らずに来られました。ぐすん。何卒仲良くしてあげて下さい』というものでした!」
泣きまねも含めて身振り手振り大げさに物真似する女性は読んでいた紙を丸めて仕舞った後、また満面の笑みでこちらに話しかけてきた。
「ということで何か困ったことありませんか?」
女性に邪気はない様だ。
いや、邪気があったとしても、もうその疑う心を持つような余裕が、先生や操縦士、そして三世にはなかった。
疑いの気持ちよりも、息苦しい現状を打破してくれそうな救いの声に ほっと一息つくような気持ちになった。
教師も、操縦士も、皆久しぶりに微笑むような安らかな表情を浮かべていた。
「すいません。まずなによりも最初に、私達男性三人が住む場所を何とか出来ませんか?」
操縦士の片方、細い方が挙手をしながら目の前の女性に尋ねた。
操縦士は女性に事情を説明した。
この中に若い十六歳くらいの子が四十人いること。
その子達が男性不信に近い不安定な状況であること。
それが拗れてしまいこっちの男性三人と酷い仲違いが起きていること。
そして、お互い爆発が近いということを――。
「ほむほむ。どっちも悪くなくてもそういう問題は起きますよねー」
どっちも悪くないという女性の言葉に、操縦士の一人が反発しようとして……止めた。
ここでいらぬ反感を買う真似だけは避けたかったようだ。
「じゃあ……そこの!」
そう言って女性は連れてきていた男性の片割れに指を差した。
「ジョニー!」
「違います」
「ジャック!」
「違います」
「ベルモント!」
「違います。クリフです」
男性は根負けしたのか自分の名前を素直に女性に教えた。
「じゃあクリフたん。三人を城下町の方まで運んであげて。んで宿屋に泊まらせといて。後で詳しい説明に行くから」
女性がそう言うと男性は頷いて旗を仕舞った。
「了解しました。では御三方。馬車にお乗り下さい」
そう言うとクリフたんと呼ばれた男性は三世と操縦士の二人を馬車に招いた。
ふと、後ろを振り向くと斉藤先生が酷く悲しそうな顔をしてこちらを見ていた。
その顔から感じられるのは罪悪感である。
「ごめんなさい。苦労だけかけて結局追い出すようなことをしてしまって……」
斉藤先生は本当に申し訳なさそうに三世達にそう言葉を綴った。
「気にしないで下さい。どうしようも無かったことです」
斎藤が謝る必要がないと三世は思っている。
少なくとも、斉藤先生本人には何もされていないし、がんばっているのは三世だけでなく操縦士の二人もずっと見ていた。
「斉藤先生にはお世話になりました。それと、クラスの羽嶋ゆまという子に後でこっそりとでも『ありがとう』と私が言っていたと伝えて頂けますか?」
三世の言葉に斎藤は大きく何度も頷いた。
そして三世は、既に操縦士二人が乗っている馬車に足をかけた。
馬車が走り出した後、操縦士の片割れが突然倒れこみ気絶した。
「すまん。許してやってくれ。元々それほど丈夫じゃないんだ。体も心も――」
もう片方の操縦士が三世にそう話した。
寝込んでいる方の操縦士は確かに体つきも細く、繊細そうなイメージがある。
また今の顔色は土気色と呼べるほどに酷く、非常に良くないように見える。
確か、名前は田中正次と自己紹介では言っていた。
もう一人の操縦士は田所修一。
こっちは逆に非常に恵まれた体躯をしている。
180はありそうな身長に太い横幅。
がっしりとした見た目と安定感はプロレスラーや柔道家を彷彿とさせる。
それなのに、同時にすごく優しそうな雰囲気を醸し出している。
体操のお兄さん。または、小学校の運動好きな教師のような雰囲気である。
田所の体躯は非常に恵まれている。
そして、その恵まれた体躯は今三世を苦しめて続けていた。
寝込んでいる田中は横になって席を一列占拠している。
つまり、席はもう片方しか空いてないということになる。
そして、そんな状況で田所と横になって座る――狭い馬車で。
体躯の大きい田所と一緒に座る三世はぎゅうぎゅうに押しつぶされていた。
もし自分が饅頭ならとうに餡子がはみ出ていただろう。
「すんません。狭くしてしまって」
田所も流石に申し訳ないと思ったのか三世に謝罪をする。
「いえ、いいんでふ」
肩が圧迫されて微妙に話しにくく、いいんですの一言がうまく言えなかった。
なんとか田所も体を外側に向けて空けようと努力しているが、割とみっちり詰まっている為、その行動は無駄な足掻きに過ぎなかった。
三世は天突きに押されるところてんの気持ちが少しだけ理解出来た。
「わかってるんだ。子供達に罪は無いって。まったく。我慢出来なかった自分が嫌になる――」
田所は悔やむようにそう呟いた。
「仕方が無かったと思いますよ」
三世はそう言って慰めようとするが、田所はそれに納得しない。
「せめて俺達が三世さん位大人しくして言い返さずに受け流していれば、もっと状況は変わったのかもしれない。そう思うと三世さんにも迷惑かけてしまって、本当にすいませんでした」
そう思いつめたように言う田所。
だが三世はそれに対して首を横に振った。
「いえ。遅かれ早かれ誰かが爆発していたと思いますので気にしないで下さい。ただ……しばらく集団生活はしたくないですね。正直に言えばもうコリゴリです」
疲れた顔で苦笑する三世。
そんな洋館ではあまり見せなかった三世の様子を見て、田所は微笑んだ。
「そうですね。しばらくはもういいですよね」
それだけ言って田所は瞳を閉じた。三世も同じように目を閉じて眠ろうとする。
男の筋肉と木の板に挟まれて眠るという、人生でワーストワンに輝く睡眠時間であった。
「到着しました」
馬車が止まった後、クリフと呼ばれた男の声が聞こえ三世は目を開けた。
あまり眠れなかった為、馬車の中での時間は非常に長く感じた。
体が痛い。腰も尻も痛い。そして何より体を動かしたい。
やっと降りられる。
三世の心はそれだけで喜びに満ちた。
横にいる田所に挟まれるのにもそろそろ飽きてきたところだった。
気づいたら倒れていた田中が起きていた。
だが、顔色は真っ青で体調は酷そうに見える。
「あの……大丈夫ですか?」
三世は田中に心配そうに尋ねた。
声を掛けただけで倒れるのではないか。
そう思う位には酷い顔色だった。
「大丈夫です……酷く酔ったのとお尻が痛いだけなので」
確かに揺れで尻が痛い。その気持ちは文字通り痛いほどわかった。
「んー。着いたか」
目を閉じていた田所は、そう一言だけ言ってさっと馬車を降りた。
三世は、田所一人だけが快調そうに見える事に少しだけイラっとした。
続いて三世も降り、田所と一緒に田中を降ろす手伝いをした。
三世は馬車から降りて周囲の街並みを見回した。
凄まじい数の露店と人込み。
城下町というだけあって活気に溢れている。
奥の方に小さく見えるのが城だろう。
あそこが端だとしたらこの町は相当広い。
少なくとも迷ったら絶対に帰れない程度には街が広く感じられた。
「では三人共、こちらにどうぞ」
クリフはそう言って三人をすぐ傍の建物に招き入れた。木製の看板にベッドの絵が書かれぶら下げられている。普通に考えたら宿屋ということだろう。
「すいません。稀人三人お願いできますか」
クリフは宿屋の奥に居る恰幅の良い女性に話しかけた。
「あら珍しい。稀人様を泊めるなんて何年ぶりかしらね」
女性は楽しそうにそう言った。別世界から来た者を稀人と呼ぶとして、さっきの会話の流れから数年に一度は異世界から人が来るということだろうか。
「じゃあ一番奥の部屋にしますね。お食事は……夕方にお魚料理を持っていきますねー。朝は甘いのとしょっぱいの、どっちが良いです?」
「甘いので」
男性陣三人の声が綺麗にハモった。
「あらあら」
と宿屋の女性は微笑み頷いた後、三世達を部屋まで案内してくれた。
「とりあえず今日はゆっくり休んでください。後で隊長が今後の事を説明しに来ます。なので、隊長が来るまでは出来るだけ部屋から出ないで下さいね」
「危険なのですか?」
三世が治安が悪いのを心配し、そう尋ねた。
「いえ。この町は安全です。ただ、あなた方の常識と私達の常識の差異で誰かに被害があるといけないので」
その事から、異世界人の扱いに相当慣れているという事が伝わった。
というか、そう言えるような何かが過去にあったのだろう。
「なるほど納得しました」
三世の言葉に頷き、クリフは無言のまま頭を下げ、どこかに去っていった。
その直後、愛想と恰幅の良い女性から部屋の鍵を受け取り、三人はその部屋の中に入る。
部屋の中にはベッドが4つ置いてあり、そこそこの広さがあった。
ベッド以外には大きなテーブルが一つに4つの椅子。
そして謎の技術で出来たトイレともう一部屋。
「これ……シャワー室だな」
田所はその部屋を開けてそう言った。
「トイレといい風呂といいシャワーといい、これ過去のご同輩のおかげかねぇ。文明の発達程度に対して、これらだけ明らかに技術が飛びぬけているわ」
「そうですね。強いて言えば、シャワーの様子が部屋から丸見えなのがちょっと嫌ですが」
「覗かないでよね」
裏声で田所がくねっくねっと動きながら叫んだ。
田中が不快そうに渋い顔をした。
また、三世も同じような表情を浮かべているという事に気が付いた。
二人は、そのまま顔を見合わせ、田所に冷たい視線を叩きつけた。
ありがとうございました。