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番外編-想いを込められぬ悲しき者達

 

 ソレは特別な日である。

 年に一度、善良な者でも邪悪に染まり、他者を憎み、妬み、そして呪う。

 そして――同胞達が集う日である。


 異世界転移の初期拠点はもう二割程度の学生しか残っていない。

 自力で暮らしていけるようになった場合、立地の悪い初期拠点から離れた方が生活が楽だからだ。

 だがそれでも、この日だけは多くの同士が初期拠点に集った。

 拠点から離れ生活基盤の揃った者はもちろん、四組と六組というクラスの垣根を越えて、同じ目的の為に彼らは集まった。

 代表者である二人の元に集まった、二十一人という大勢の同士達。

 そこに集う条件はたった一つ――独り身で苦しんでいることだけである。


 そう――今日はバレンタインである。

 彼らにとっては、血の涙を流し、悶え苦しむ地獄の日である。

 そんな、呪われた日が始まってしまったのだ。


 普段は使わない大部屋から離れた別の部屋に、その集団は集まっていた。

 大部屋だと他の人に迷惑がかかるからである。

 大部屋ほど広くは無いが五十人程度は入る教室のような部屋。

 そこに今、二十三名の人達が集まっている。

 ただし――全員黒いマントを被ってだが。

 ハロウィンの幽霊のコスプレを黒に反転させたような、気持ち悪い黒マントの集団。

 正体を隠すという目的もあるとは言え、その異様な光景はサバトをしている邪教集団にしか見えない。

 だが、あながち間違いとは言い切れなかった。


 その黒マントの集団の中でも、他の人と少々違った黒マントが二人いた。

 マントの端、足元に位置する隅の部分が赤で縁取られている。

 まるでモテない男達の血の涙のような、そんな裏地を着た二人こそ、この集会の代表者である。

 代表者二名の名前は村井高志と大類岳人。

 隅っこ三人組と言われるうちの二人である。


 しかし、彼らを名前で呼ぶ者はいない。

 この集会には正体と名前は秘匿する義務があるからだ。

 村井は『ツヴァイ』大類は『ドライ』とここでは呼ばれていた。

 ただし、残念というか当然というか。

 残り二十一名全員が二人の正体を知っていた。

 だが、ここでは誰であろうとその正体を言及することは禁止されている。

 プライバシーの絶対厳守。

 それがこの組織の掟の一つだからだ。

 ただし――何事も例外がある。

 裏切者とスパイにはそのルールは適応されない。


「えー。これよりBV団の集会を行う。最も重要なBVデーに参加してくれたことを誇りに思う。が、その前に裏切者を発表しよう」

 ツヴァイの言葉を聞き、一同胸に手を置き敬礼を構えを取って微動だにしなくなる。

 それはこの世界のどの軍よりも統率の取れた行動だった。


 裏切者が誰なのか知らない者はいない。

 何故ならば、最も重要な地位の者が、この場に現れていないからだ。

 そう……『ツヴァイ』と『ドライ』はいるのに『アイン』がいないのだ。

 BV(ブラックバレンタイン)団創始者にして総帥『アイン』こと、小和田修は、この集会に参加する権利を失っていた。


「我らが総帥だった男、小和田修は女の子とフラグを結んだ背信者なので、我ら二人の権限で追放処分とした。謹んで二人の幸せを祈りつつも、妬ましいのでもげてはぜるよう祈りを捧げよう」

 ドライの言葉に、一同が小さな拍手をしながら、ぶつぶつと呟きだした。

 ねたましい……もげろ……爆発しろ……幸せにしろ……羨ましい……おめでとう……こんぐらっちゅなんたらかんたら……。

 恨み言七割祝福三割を一同は念に込め、小和田に送り付ける。

 次は自分の番だと誰も想像しないあたり、この集団の悲しさと情けなさが引き立っていた。


 BV団のモットーはシンプルである。

【バレンタインで幸せな奴らが妬ましい。だからといって不幸になって欲しくはない。後味悪いし……。でも妬ましい。だから幸せな人の邪魔をしないようにこそこそと騒ごか?】

 これだけである。

 老若男女問わず、バレンタインで相手がおらず悲しい気持ちになった者なら、誰でも入団することが出来るのだ。

 ただし、異世界に転移した為活動の主体は学生のみとなってしまっていた。

 それでも理念は変わらない。

 正しく理解した上での参加なら、先生でも現地人でも受け入れる準備は出来ていた。

 ただし、バレンタインが全く普及していない為いまのところ増えるビジョンは見えていないが。


 一同で元総帥の裏切り者を祝ってやった後、ツヴァイは指をパチンと鳴らす。

 その瞬間に、黒マントの団員の一人が周囲に取り押さえられ、マントを剥がれて縄で縛られた。

「さて、次の議題は我らが集会に紛れ込んだスパイについてだ」

 ツヴァイは鋭い目線を、縛られた男に向けた。

 スパイというのは恋人がいるのにこの集会に参加した者のことを指す。


 BV団が異端者を裁く時に行う行事は決まっている。

 そう――宗教裁判である。

【モテない】という唯一の信仰を忘れた異教徒に対する、呪われた裁判だ。


 団体なのか秘密結社なのか宗教団体なのかよくわからないが、その辺りはオワタこと元総帥が適当にノリで付けたので誰も深く考えていない。

 大切なのは、こっそりしようとしている自分達に面白半分でかかわってくる者への対処だけだ。

「さて、裁判が始まるのだが、本来裁判長であるアインこと小和田が追放されたので空席となった。そして、彼女持ちであるあいつの後釜に就くのは何か嫌なので空席とする。異議のある者はいるか?」

 ツヴァイの強い言葉に否定出来る者はおらず、裁判長は空席、代わりに団員による拍手による投票で最終判断を決定することとなった。

 ちなみに、まだ彼女が出来たわけではない。

 ただし、時間の問題なので何の問題もなかった。


 ツヴァイこと村井は本来ならこんな強気な会話が出来る人間ではない。

 すみっこ三人組の中で最も大人しい人種であり、身内以外の会話が苦手である。

 ドモリやすく、緊張に弱い。

 だが、この集会においての彼は別である。

 顔を隠した時のツヴァイは素晴らしく口が回り、会話だけで人を従えられるほどだ。

 一種のカリスマ性すらそこにはあった――モテない男達の間では。

 本来なら総帥の後釜となる男なのだが、女の子とイチャイチャしている奴の後釜に就くのは、心が折れそうなので嫌だった。


 ちなみに散々裏切者扱いされている小和田だが、今マネージャーと二人っきりでイチャイチャしている。

 セッティングしたのは村井と大類だ。

 セッティングはした。

 幸せも願う。

 それでも、心は嫉妬と悲しみに溢れていた。


「さて、それでは裁判を始める。代弁者は我ことツヴァイが勤めよう」

 代弁者とは検察のようなもので、相手に罪を突き付けるのが仕事だ。

 モテない男たちの代表としてそこに立ち、その人物がいかにモテない男達を傷付けたかを説明する役である。


「弁護人のドライだ」

 弁護人はそのまま、相手の立場になって被告人を守る仕事だ。

 いかにその男が過去にモテない人生を送っていたか、どの位我らと同類なのかを説明し減刑を求める役である。

 ちなみに被告人が過去現在共に幸せなリア充の場合は、弁護人はそのまま処刑人と化す。


「では、裁判を始めよう」

 ツヴァイの一言と同時に、被告人であるスパイの男が縛られたまま地面に転がされ部屋の中央に投げられた。

「代弁者として結論を言うなら、この男は最高刑こそがふさわしい」

 ツヴァイの言葉に、周囲に動揺が走る。

 教室の中でイチャイチャしあーんをしあっても最高刑にはならない。

 それが、いきなりの最高刑の求刑である。

 それは相当(モテない男達にとって)悪質だという証左でもあった。


「では説明しよう。被告は同級生に彼女がいて、このあとバレンタインデートがあるにもかかわらず、面白半分でこの集会に参加した。同情の余地なしとみて問題ないだろう」

 ツヴァイの言葉にざわざわと騒がしくなり、同時に中央の被告人に憎しみの視線が向けられる。

 馬鹿にされたことではなく、ふざけて参加したことでもなく、ただ彼女がいる男が妬ましいからだ。


「弁護人として意見する。この男は去年まで全くモテなかった。その上高校生デビューにも失敗している。つまり、つい調子に乗ってしまったのだ。なので、減刑を求める」

 ドライの言葉にツヴァイは頷き、そしてあっさりと減刑を受け入れた。

「では、最高刑である【全裸に加え乳首に洗濯バサミを装着後、油性マジックの刑】を取りやめ【激辛担々麺の刑】を代弁者として求刑する」

「弁護人としてその求刑に賛成する。意見があるものは挙手を、無ければ拍手を」

 ドライの言葉に合わせ、団員一同から拍手が鳴り響いた。

 裁判長が不在の為、今後はこの集団投票制度となるだろう。


 スパイと呼ばれた被告人は、大したことの無い刑が決まり安堵のため息を漏らした。

「安堵の声を上げるか異教徒が。先に言ってやろう。この刑は重罪に位置する。我らがBV団の作り出した激辛激熱担々麺は唇にダイレクトダメージを叩きこむ。丸一日は素晴らしきたらこ唇となるだろう。この意味がわかるか?」

 ドライは冷たく言い放った。

 その言葉の意味が最初はわからない男だったが、その真意を理解し、徐々に顔色が蒼くなっていく。

「理解したな。そうだ。貴様は今日のバレンタインデートをたらこ唇で過ごすのだ。なあに安心しろ。わざわざ特注で作った担々麺だ。味は保証してやろう。そう、デートの食事よりもな」

 ドライの発言により、二重の罠である担々麺の恐怖を理解し男は蒼白の顔のまま叫びだした。

「嫌だ! バレンタイン初デートなんだ。頼む。見逃してくれ!」

 だが、その男はBV団の団員二人に連れられ、奥に消えていった。

 そして、男がここに戻ってくることは二度となかった。


「さて、異教徒の弾圧も終わったことだし次に明るいニュースに入ろうか。次は新入団員の紹介だ。自己紹介を頼む」

 その言葉と同時に、二人の黒マントが前に出て団員達の方を向いた。

 ちなみに、自己紹介とは名前を言うことではない。

 ここでは二人の指導者を覗けば、皆【団員】であり【黒マント】である。

 自己紹介で紹介するのは、なぜここに来たのか。

 どれほど自分が悲しい運命を背負っているのかを紹介することだ。

 自己紹介というよりは、事故紹介の方が近いだろう。


 一人目である黒マントが背筋を伸ばし、声高らかに自分の悲しさを謳い上げた。

「元BV団員でしたが彼女が出来、追放されてました! しかし、彼女に『何か飽きた』と言われた後フラれ、恥ずかしながら戻ってまいりました!」

 その言葉の瞬間に、全員が盛大な拍手喝采で彼を迎え入れた。

 それは悲しい事故紹介であった。


「二人目よ。言いたくないなら言わなくても良いぞ。その場合は意気込みを頼む」

 ツヴァイは二人目の新入りの団員にそう言った。

 二人目が新入団員は女性だったからだ。

 BV団は男性割合が圧倒的に多い。

 そんな男性の集団に入ってくるほど、悲しみを背負った人生だったということだ。

「いえ。大丈夫です」

 美しい声でそう言うと、その黒マントは一人目と同じように、己の自己紹介を謳い上げた。

「長年片思いをしていた相手に恋人が出来ました! 相手は私の兄です! はい。ゲイでした。時間返せ!」

 一人目以上の拍手が鳴り響き、ついでにドライがベルをスキルで生み出しチリンチリンと鳴らした。

 過去類を見ない悲しい事故紹介だった。






 そんな夜よりも暗く、闇よりも深い気持ちのBV団であるが、その活動は非常にシンプルで、漢字三文字で表現できる。

【残念会】

 一言で言えばそれだけだった。


 リア充に迷惑をかけたいのではない。

 悲しい傷のなめ合いによる残念会でバレンタインという地獄の日をいかに乗り切るかというのが命題である。

 ちなみに去年は七夕風パーティーだった。

『妬ましい』『モテたい』『愛されたい』『寂しい』『悔しい』という妬ましさあふれる短冊を竹に吊るし、竹の周囲でマシュマロパーティーを行う。

 周囲の冷たい視線と疑惑の眼差しの中で食べるマシュマロは意外と美味かった。


 だが、今年はそこまで大々的に出来ない。

 なぜなら、ここが公共の場所だからだ。

 人数が大分減ったとは言え、ここにいるのは心の弱い人が多い。

 そんな中で怪しいサバトなど開いたものなら、パニックになる人が出るだろう。

 まじめな先生達も飛んでくるだろう。


 更に、心が弱っているからだろうか、カップルの成立割合が意外と高い。

 出来る気配のないこの集団には関係ないが、そこかしこでカップルが誕生している。

 カップルは憎いが嫌がらせを好んでしたいわけではない。

 見えない場所で幸せになってほしいのであって、見える場所で不幸を望んではいなかった。


「ということで、今年はバーベキューにしますた」

 ドライの言葉に、団員は歓声で応える。

 この世界で思う存分美味い肉を食える日が来るとは、誰も思っていなかった。


 拠点の外に行き、裏側の目立たない位置でバーベキューキットと炭を用意した。

 ちなみにバーベキューキットと炭は隅っこ三人組の手作りである。

 残り一人の小和田は今頃手作り七輪でマネージャーの彼女とよろしくやっているだろう。

 そう思うと、アインとツヴァイは切ない気持ちになってきた。

 この陰鬱な感情を込め、妬みと怨嗟の声を上げながら焼く肉は格別な味となるだろう。


 ちなみに、集会のメインが食事である可能性が高い為、この黒マントは食事がしやすいよう改良されている。

 口元が開き食べやすく、その上で開いても正体が見えない。

 しかも中も外も油汚れに強く、しかも洗濯可能である。

 その上作るのも難しくなく、この世界だけで製作が可能だ。

 持ち込んだオリジナルはツヴァイとドライのもののみで、後はこちらで製作したものだった。


 炭で焼く肉の味は格別であり、牛豚だけでなく、この世界のメインである兎やイノシシもあわせ、ガンガン焼いていく。

 とにかく香りが良く、肉の焼ける匂いだけで空腹が刺激される。

 残念なのは米がないことくらいだ。

 隣の国にはあるらしいが、この国では生産すらしていないらしい。

 今度裏切者と相談して米を何とかできないか考えてみようと、隅っこのモテない方の二人は思った。


 今回の集会は、BV団の集会の中でも食事のレベルが最高のものとなった。

 新鮮な肉はもちろん、魔法、魔石道具、そして何より現代ほどおいしい物を食べ慣れていない中での肉だからだ。

 もしこっちの世界で現代より良い物を食ってるやつがいたら、そいつはよほど運が良い奴なのだろう。

 そしてそれゆえに、一つ大きな誤算が生まれた。

 そう――焼肉香りテロにより、一般の生徒達が紛れ込んできたのだ。


 ふらふらと吸い寄せられるように黒マントをつけていない普通の存在が現れ、こちらを恨めしそうな目で見ている。

 BV団は恨めしそうな目をするのはいつものことだが、されることにはなれておらず困惑し、二人の代表に視線を注ぐ。

「……肉の補充は十分にある。ただし、我の質問に答えた者だけ分け与えよう」

 ツヴァイがそう言うと、学生達はツヴァイの前で即座に列を作った。

 それと同時に、団員達で協力し、使い捨ての皿と箸に肉と野菜を盛り付けていった。


「これが欲しいなら質問に答えてほしい。では質問だ。恋人、夫婦となった相手がいるか?ちなみに嘘だった場合、この集団全員が敵となり嫌がらせを行う」

 最悪な脅し文句である。

 その言葉を聞き、列の先頭の男は首を横に振った。

「いや。俺彼女とかいたことないよ。趣味は部活だったし」

 ソレはソレでリア充オーラが出ていて何となく悔しいが、教義的に問題なしと判断し、ツヴァイは肉をその男に渡した。

 同じ質問をツヴァイは繰り返し、同じように皆答えていった。


 そして八人目、遂に異教徒が現れた。

「はい。隣にいるのが彼女です」

 嬉しそうに彼女を紹介し、彼女もまんざらではない表情で照れている。

 ツヴァイは低い声を放つ。

「敵、発見。刑を執行する」

 その言葉を皮切りに、BV団全員でカップル二人を囲む。

『アベックーアベックー』

 と全員で小さく囁きながら、男に『モテオ』と書かれた死ぬほどダサい首飾りを首にぶら下げ、女に『モテガール☆彡』と書かれた腕章をつけた。

 最後に一つの皿に大盛の肉と野菜、箸を二膳渡し、そっと追い返す。


 一瞬の静寂の後、BV団は平然と元に戻り、肉と野菜を更に分けていく。

 その異様な光景に列になっていた生徒達がざわざわと騒ぎ出した。

 囲んだことも異様だったが、追い返した後即座に元に戻ったことが一番異様で異質だった。

 端的に言えば、不気味である。


 一部の生徒は元の世界で代々続く『集団黒マント』という七不思議の事を思い出した。

 明らかに怪しく、変な人達である。

 しかし、この肉の焼ける匂いには逆らえず、いけないとわかっていても、その列から離れることは出来なかった。


 食事も配布も終わり、肉焼き機を片付け中の集団の元に、一人の黒マントが現れツヴァイに何かを耳打ちした。

 そしてツヴァイは手をパンパンと叩き、注目を集める。

「珍しいことだが、背信者が現れた為本日二度目の裁判である。可及的速やかに片付けを終え、裁判の準備に取り掛かれ」

 ツヴァイとドライは片付けを中断し裁判の準備に入り、団員達は冷たい雰囲気を醸し出しながら鉄板等使った道具を急いで洗っていった。



 裁判の準備が出来、被告人である二人は中央に立たされる。

 二人は黒マントであり、片方は今日入ったばかりの新入りの女性だった。

 裁判開始直前に二人の黒マントが剥がれる。

 申し訳なさそうにする二人は、ごく一般的なカップルで、BV団の精神にダイクレトダメージを叩きこんだ。


「では裁判を始める。まさかの現役BV団のアベック誕生という事実に、我々の心は悲しみと妬みで溢れそうだ。よって、詳しい事情の説明を求める」

 ツヴァイの言葉と同時に、ドライが紙の束を取り出し、二人の個人情報を晒していった。

 背信者に対してはプライバシーなど存在していなかった。

 ただし、この情報が表に出ることはない。

 血よりも濃い絆で結ばれたBV団の鉄の掟【アベックは勝手に幸せになれ】を忘れたものはいないからだ。


 男の名前は高木東矢。BV団には中学から入っていたBV団のエリートである。

 初恋の女性にずっと好きな人がいて、告白したが玉砕。

 そのままBV団に加入に今に至った。

 女の名前は佐々木洋子。初恋相手がゲイだった新入りで、そして高木の初恋の相手である。


「男の方である高木は佐々木が好きだったが片思いとして振られた経緯を持つ。しかも四年間、中学時代からだ。そこからずっと一途に忘れられず女性の事を想い続けた彼の事を考えると――少女漫画みたいで妬ましさに溢れます」

 まさかの弁護人であるドライまでが攻撃に参加し、最終決定権を持つ団員も全員、うんうんと頷いた。


「では、代弁者として彼ら二人を永久追放の刑と処す。二人は未来永劫我々に妬まれ、羨ましがられ、涙を流させながら幸せになるがいいさ」

 その言葉の後に、拍手の音が響き、黒マントが道を開け、外までの道が開いた。

「でてけー」

「幸せになれよー」

「ずっと一緒にいろよー」

「もどってくるなよー」

「いわってやるー」

 そんな声で団員から茶化されながら、元黒マントの二人は恥ずかしそうに去っていった。




 残されたのは静寂だけだった。

 置き去られたのはモテない男と女のみ。

 彼らのようになれるという思いの者は、この場にはいない。

 ここはモテない者の為の場所だからだ。

 ――ああ。悲しい。

 彼ら全員の気持ちは一致していた。


 そんな時、一人の黒マントがすっと部屋に入ってくる。

 そのまま弁護人席にいたツヴァイの傍に駆け寄り、耳打ちした。

「ツヴァイ様に情報が……」

 そう言って、その黒マントは耳にごにょごにょと呟き、それを聞いたツヴァイは声を荒らげ驚いた。

「この団員により素晴らしい情報が入った。とある牧場で義理チョコが販売されているそうだ。しかも製作者は同世代や年下の未婚の人達で、しかも手渡しだ。今から行っても間に合わないが、量的に無くなる心配は少なく、翌日でも入手できる可能性は高い」

 ツヴァイの声により、男の気持ちと、何故か一名の女も含め、気持ちが一致した。

 ――行かなきゃ!


 そして黒マントの集団は、馬車を二つ用意し、夜も休まずその村に向かい、次の日に未婚の女性達が作ったチョコレートを嬉しなきしながら手にした。


ありがとうございました。

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