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再会とご飯と恋心と

 

 アイスを食べ終わり、ホットココアを火傷しないようにゆっくりと口に運ぶルナ。

 ほぅと落ち着いた小さなため息を吐きながら、小さな幸せは噛みしめていた。

 よほど寒かったのであろう。先が赤くなり凍傷になりかかった指を温めるように、カップに両手で抱えて暖を取っていた。

「ホットココア、ありがとうございます。それと遅くなりましたがこんにちは」

 ルナは三世に微笑みかけた。

「はいこんにちは。こちらには観光にですか?」

「はい。こちらがメープルの産地で質が良いって聞きまして。これならお土産にもしやすいですし。むしろヤツヒサさんはどうしてここに? 観光ですか?」

 ルナの言葉に、三世は何と言えばいいかわからず悩んだ。

 どう考えても自慢にしかならないが、ここで嘘を言うのもおかしいと思った為、正直に言うことにした。

「あー。私ここのオーナーなんですよ」

 言いにくそう言ったその言葉に、ルナは口をあんぐりと開けて茫然とした。


 牧場主ということは知っていた。

『ヤツヒサ』という男の情報は集落でも最重要として集めているからだ。

 それでも、まさかココがそうだとはルナは思いもしなかった。

 ついでに言うならば、ルナはここが国のどの辺りの位置なのかも知らない。

 美味しい物があるという言葉だけでルナは馬車に乗ってここまで来たからだ。


 これが三世の牧場という事実は、集落の幹部であるルナにとって良いことでもあり悪いことでもあった。

 良い事なのは、これで三世の住む村を知ることが出来たということだ。

 三世の村の傍に獣人の村を立てるというのが、集落の第一目標だからだ。

 人を受け付けない我々でも、三世が傍にいるなら暮らしていけるいう信頼があった。


 悪い事は、この牧場のすさまじい規模だ。

 これで、三世を取り込む難易度が更に上がったということになる。

 なお、三世に惚れた一人の女としては、取り込みなどどうでも良くて住所が知れたラッキー程度の考えしか持っていなかった。


「やっぱりヤツヒサさんて凄いんですね」

 感心したように呟くルナに、三世は首を横に振る。

「いえ。私が凄いのではなく、手伝ってくれた方々に恵まれましてね。特に一組、とんでもない人がいまして……」

 色々な場所に言って凄い人を沢山見てきたが、やはりブルース一味よりも凄い人材を三世は見たことがなかった。

 ぶたさんやベルグ王など極端な例と比べても、ブルース一味は見劣りするどころかむしろ勝っているとすら感じる。

「そういった人徳も含めて、ヤツヒサさんの凄いところですよ」

 そう、ルナは微笑んだ。


「ルナさん。何か食べたいものあります? ちょっと今手が離せないので時間つぶしに何かどうでしょう?」

「それは良いのですが……何をしているのですか?」

 高速で指を動かし、何かを縫っている三世の様子を見て、ルナは首を傾げた。

「すぐにわかりますよ。ちょっと集中するのでその間好きに食べていてください」

 そう言って三世は手元に視線を戻した。

 邪魔するのも悪いと思い、ルナは言われた通り、本当に好きに注文をした。



 三十分ほど後、手を動かすのを止めた三世は立ち上がり、ルナの後ろに回ってルナに上着を着せた。

 パスタをもぐもぐと食べているルナは、そこでようやく三世が何をしていたのか理解した。

 理解はしたが、なぜそんなことが出来るのかは理解できなかった。

 約三十分で、三世は防寒具を作っていた。

 そのレザージャケットはとても暖かく、その上肌触りがとても良い。

 首元に当たり前のように付いている上質な毛皮のもふもふ具合も含め、ルナは何に驚いて良いのかわからないくらい驚いた。


 防寒具を着るという発想は、獣人の集落にはなかった。

 人に虐げられて生きていた彼らに、そういう高価な衣服を揃える余裕などなかったからだ。

 だからこそ、ルナはその温かさに驚き、その優しい感触に包まれた瞬間――わけもわからず泣き出した。

 三世は泣いている理由がわからず、泣き止むまでおろおろとし続けた。


「本当に失礼しました……いえ、今でも何で泣いたのかわかりません。なんででしょう」

 ルナはそう言いながら、恥ずかしさから下を向きながら、涙目でぷるぷる震えていた。

「いえ。嫌じゃなかったなら良いんです。何か不快な思いをさせたわけでないなら……」

 その言葉に、ルナは声を荒げた。

「そんなことありません! 私なんかの為にこんな高価な服まで作って頂いて!」

 急に真剣な表情になって、つかみかかりそうになるルナの変化に驚きつつも、喜んでくれたのがわかり三世は微笑んだ。

「いえ。気に入っていただけたら良いんです。体が冷えたら大変ですので」

 その言葉に、ルナは嬉しくて顔がにやけていた。

 自分の為に、作ってくれた服が嫌なんてこと、あるわけがなかった。

 そんな情けない自分の顔を誤魔化す為、顔をそらしながら三世に尋ねた。

「ところで、三十分程度で服って作れるのですか?」

「そうですね。師匠は十五分くらいで作れると思うで私は遅い方だと思います」

 三世の言葉にルナは適当に相槌を打った。


 後日、本来かかる時間を知りルナは驚愕し、続いてその服の値段が金貨二十枚はくだらないことを知り更に驚愕した。



「そう言えばヤツヒサさんがこの村の人ってことは、美味しい店とか知りません?この村想像以上に広くて……」

 十枚程空になった大皿の横でそう尋ねるルナに、三世は驚いた。

 が――それを顔に出さず、微笑みながら答える。

「ええ。食事でしたら文句なしのお店を知っています。今食べたばかりですので、どの位後で行きますか?」

「いつでも良いですよ?」

 そう余裕で言うルナに、三世は再度驚いた。

 ――それだけ食べてすぐ食べるつもりだったのですか……。

 今度は表情を隠すことを忘れ、三世はつい驚きが顔に出てしまった

 それに気づいたルナは自分の行動を振り返り、赤面して震えながら『きゅいぃ』と鳴いた。



「すいません。もう少し馬の世話があるので美味しいお店の説明は口頭で良いですか?」

 十三皿とココアの食事代を払い、店を出てから三世はルナにそう尋ねた。

 ここで頷くと、もう三世と会う理由がなくなる。

 今日の失態を挽回する為に、そして一歩踏み込む為にも、ルナは勇気を振り絞って言葉を出した。

「あの! 馬のお世話手伝いますので、食事一緒にしていただけませんか?」

 それは『もっとあなたと一緒にいたい』という誘い文句だ。

 しかし、三世には伝わらない。

『一人で食べるのは寂しいので一緒に食べません?』という意味に三世は受け取った。

 あながち間違いでは無い為、三世はそれ以上ルナの気持ちを考えはしなかった。

「ええ。良いですよ。それに……丁度魔法を使う人の視点から見てほしいことありましたので、よろしければお願いします」

 ルナは、ぱーっと満面の笑みを浮かべ、大きく縦に頷いた。

「はい! 任せてください。ヤツヒサさんの為なら何でもしますよ!」

 元気いっぱいのルナ、三世は微笑みながら、傍に待機させた二頭の馬の元に案内した。


 二頭の事情を説明すると、ルナの表情は一気に曇った。

 口の中で小さく呪文を唱えながらバロンに触り、そしてルナは首を横に振った。

「ごめんなさい。私にはどうしようも出来ないわ。そもそも、死にかけていた私すら治したヤツヒサさんの治療が無理なら私にはどうしようも出来ません」

 バロンを優しく撫でながらのルナの言葉に、首を横に振り気にするなとジェスチャーを出した。

「そうですか。無理を言ってすいません」

「役に立てずにごめんなさい。一応、エイアール君の方なら問題を何とかする方法はあるけど、ヤツヒサさんの希望の正反対の方法になるわ」

 ルナは暗い表情でそう言った。

「一応教えていただけますか?」

「ええ。魔法でもう一つの人格を作るんです。目的の時専門の。必要な時だけ、その人格に任せればパニックになることはないです。ただし、一つの体に二つの人格になるから、悪い影響を受ける可能性が高い。特に心が弱っているなら――」

「ああ。それは無理ですね。治療とは正反対の方法です」

 三世の言葉にルナは頷いた。

「はい。だから私は役に立てないです。ごめんなさい」

「いえ。十分参考になりました。それに、一筋縄ではいかないのはわかってましたので」

 三世は微笑みながらルナにそう言った。

「情報収集の時についでに治療についても情報集めてみます。でも、ヤツヒサさん以上の治療能力者ってたぶんそういないので……」

「ええ。難しいのはわかってるので、もし何か情報があれば教えてください」

「了解です。それで、他にすることってありますか?」

 ルナの言葉に三世は頷いた。

「はい。二人のリハビリも兼ねての散歩ですので。一、二時間ほどお付き合い願いますか?」

「よろこんで」

 ルナは耳をぴこぴこさせながら嬉しそうに微笑んだ。

「ええ。途中でお腹が空いても食べる物はあるので安心してくださいね?」

「はい!」

 元気良く返事をした後、三世が含み笑いをしているような仕草をしていたことにルナが気づき、三世に一つ尋ねてみた。

「……もしかして、からかったりしてません?」

 三世は笑顔を浮かべながら、無言でルナを見ていた。

「……もう」

 ルナは頬を膨らませ拗ねたような表情でぷいっとそっぽを向いた。


 エイアールに乗った三世の左手側にバロンはいつも歩いている。

 そして、バロンは必ずルナを自分の右側、エイアールと挟むような位置に調整していた。

 三世の事をどう思っているかとてもわかりやすいルナと、三世が横並びになるようにする男爵的配慮だった。


「集落の様子はどんな感じですか?」

 三世は以前に行ったルナの集落が今どうなっているのか、心配し尋ねてみた。

「え、ええ。おかげ様で平穏な日々を送っています。国王様の支援により誰も飢えることも寒さで死ぬこともありませんでした」

 防寒具を着るという当たり前なことすら知らない獣人の集落全員を、凍死させないというのは並大抵の苦労ではなかった。


 わざわざ王を交えた協議し、決まった結論は特別予算を用意して『熱を発する毛布』を人数分用意するというものだった。

 こんな変な答えが出たのは、単純に互いの理解度が低いことが原因だった。

 人間に迫害されていた獣人の集落は、防寒具を着るという発想がなかっただけだ。

 それを見た王国の支援者は、凍死するほど寒いのに防寒具を着ないのは種族的理由と勘違いした。

 その上、お互いの関係はまだギクシャクしたままだ。

 獣人と共に生きている三世だけが、集落にとって信用に値する唯一の例外だった。

 その為、集落と国とで、未だにまともな会話が出来ていなかった。

 そうしたすれ違いにより、防寒具を配るという当たり前な答えが出てこなかった。


 それでも、ラーライル王国は集落の者を一人たりとも凍死させなかった。

 国王フィロスのと、支援を行っている王国関係者の異常なまでの尽力のおかげだった。

 ちなみに、ルナが防寒具を着て帰った為今から数日後に誤解はあっさり解けることとなる。


「皆壮健なら何よりです。それで、今後集落をどうしていくか、尋ねても良いですか?」

 三世の質問にルナは微笑んで頷く。

「もちろんです。今私達は沢山の人に助けられていますが、それでも我々集落の人間は皆、ヤツヒサさんに一番の感謝を捧げています。何でも聞いて良いですし、どこに住めとかアレをしろとか、どんな命令も喜んで受けます!」

「いえ、外部の人間なんで命令なんてしませんが……住居を移す良い場所は見つかりました?」

 三世の質問に、ルナは大きく笑って頷く。

「はい。候補地がまだ複数あるのでそこから厳選し、もう少し暖かくなったらそっちに移動しようと思っています」

 第一候補地はカエデの村の隣であるということは、ルナは黙っておいた。

「それは良かったです。何か困ったことがあれば言ってくださいね。手伝えることは手伝いますので」

 三世は微笑みながらルナの方を見た。

「では獣人と人の未来の為にこど……あとと……いえ何でもありあせん」

 オタオタと挙動不審になりながら、何か言っているのかわからない言葉を呟くルナに、三世は首を傾げた。


 ――出来たら……そういうことなしでこの人と一緒にいたいから。ごめんね集落の皆。

 集落の未来や立場、未来のことを話したら三世はかなり高い確率で乗ってくれるだろう。

 三世が善意に対する耐性を持っていないことはルナから見てもわかる。

 そして、ルナは計算高くズル賢いと自負している。

 目的の為なら手段を択ばない。

 なのでここの正解は『集落と獣人の未来の為に、あなたと集落の獣人との子供が必要です』と言えば良い。

 多少は困るだろうが、実際に集落の未来がかかっていることを説明したら受け入れてくれることはわかっている。


 集落にとっての正解ではあるのだが、それは今のルナにとって正解ではなかった。

 ルナは集落の未来よりも大切に思えるものを知ってしまったからだ。

 ――私って惚れっぽい性格だったのね。

 ふふと軽く笑いながらルナは愛しい者を見る目で三世を見た。

 ただし、その思いは三世には伝わらず、三世は更に首を傾げる。

 体調でも悪いのかなと心配する目を向けて来る三世に、ルナはこれから仲良くなるまで大変だなと考え、微笑んだ。


「集落を移動させ、村になったらまた連絡を送ります。その時はヤツヒサさんに手伝いと称して会いに来ていただけるよう依頼を出すと思います。本当に皆、ヤツヒサさんとルゥ様、シャルト様に会いたいと思ってますので」

 尊敬が行き過ぎて、石像でも建てようかという話になる程度は、集落で三人は伝説になっていた。


「はい! 喜んで遊びに行かせていただきます。私も皆さんのことが好きなので」

「……それは動物っぽいからですね」

 ルナが微笑みながらそう言うと、三世は「はは」と誤魔化すように笑いながら頭を掻いた。

 その困ったような表情は何よりも分かりやすい肯定だった。


 それをルナは見た後、何かに悩むような難しい顔をし、ちらっと三世の方を見て、少し頬を赤く染め、三世の方に頭を向けた。

「はい」

 そう言いながら、ルナは耳をぴこぴこさせる。

 その姿は、ルゥが良くやる『撫でて』のサインそっくりだった。


「あの……どうしました?」

 三世が少し慌てながら尋ねるが、ルナは変わらず、頭を向けて耳をぴこぴこと動かしている。

「えっと、撫でて良いってことですか?」

 ルナはこくんと頭を動かした。

 三世はそれを見て、非常に悩んだ。


 ルゥは見た目こそ大人だが精神年齢はまだ低く見える。

 シャルトは精神は大人だろうが、見た目が幼い。

 それに加えて二人とも娘という側面がある。

 だから撫でるという行為を当たり前なことと思っていた。


 だが、ルナは見た目も中身も大人である。

 その上で、身内ではない。

 三世の目から見てルナは知り合いか、良く見て友人である。

 其の為、頭を撫でるのはとても抵抗があった。

 とても抵抗はあった。

 あったのだが、もふもふの魅力に弱い三世は、既定路線であるかのように、ふらふらと手を伸ばした。



 最初は優しく手を伸ばし、頭頂部、耳近くをぽふぽふとする感じにやさしく撫でる。

 その手触りはざらっとした硬さがあり、ルゥやシャルトよりもかなりごわごわしていた。

 だからといって不快というわけでは無い。

 人の髪として考えたらよろしくないが、動物として考えたら二重丸を付けたい気持ちの良い毛並みだった。

 この若干の反発具合が、毛を撫でる時の素晴らしい感触となる。


 手が触れた瞬間ルナはびくっとしたが、それ以降は優しい手つきとその温かさから幸せそうな顔をしていた。

 続いて耳周辺を軽くくすぐるように撫で、その後ブラッシングするような手つきで腰近くまである髪を撫でつける。

 異常なまでのテクニックは幸せと感じるには十二分なほどで、ルナはもちろん、普段撫で慣れていないルゥともシャルトとも違うその感触から、三世も時間を忘れていた。


 されるがままのルナと調子に乗る三世をたしなめたのは、バロンだった。

 トントンと蹄で地面を叩き、往来のど真ん中だということをバロンは教えた。

 三世は我に返り手を放すが、ルナは呆けたままだった。

 ――私このうちの子になる……。

 ルナは恋や愛などの感情をどこかに忘れ、すっかり童心に帰っていた。


 ルナが我に返ったのはバロンとエイアールのリハビリ兼散歩が終わる直前だった。

 我に返って最初に気づいたのは三世と手をつないでいたこと。

 次に、相当見苦しい呆けた表情を浮かべていたという事実だった。

「……ご迷惑をおかけしました。が、その撫でる技術は反則だと思います」

 ルナが少し拗ねた顔でそう言うと、三世は苦笑して謝罪した。

「すいません。ルゥとシャルトと同じように扱ってしまいました」

 その三世の一言に、ルナは若干の妬ましさと羨ましさを感じた。

 ――頬を抓ってやりたい。

 ぷくーと嫉妬で膨れているルナだが、これで怒りをぶつけるのは理不尽な行動だとわかってはいる。

 だけど、やっぱり悔しいからルナは頬を膨らましたまま、三世の頬を指で軽く突いた。

「……最初はもっとクールな人だと思っていましたが、思ったよりも面白い人なんですね」

 そんな感想を、つい三世は漏らした。

 その感想は間違っていない。

 計算高く、集落の為ならどんな手段も厭わない。

 それが集落でのルナの評価で、ルナもわかっている自分の在り方だった。

 だけど、そんな在り方は態度は特定の人だけには適応されない。

「こんな変な女は嫌いですか?」

 ルナは微笑みながらそう尋ねた。


「まさか。ですが、今日は色々失礼を致しました。この後の食事は奢らせていただきますので、どうかそれでご容赦を」

 若干芝居がかった三世の様子に、ルナはくすくすと笑う。

「はい。では、エスコートお願いします。旦那様?」

 ルナがそっと手を伸ばすと、三世はそれを受け取り跪く――

 その直後、二人は我慢出来ずに吹き出し、腹の底から笑った。


 暗くなる直前、夕飯には丁度良い時間になった時、三世はフィツの店を紹介し、一緒に入った。

 フィツは三世をにやにやと見つめた後「また別の獣人か」とぼそっと呟くが、三世は無視した。

 ルナは楽しそうに三世の頬をつんつんと突いた。

 食事の内容はいつもの通りで、食事の様子もいつもの通りのルナだった。

 調理中のフィツの表情から余裕が消えたのを、三世は久しぶりに見た。


「ごちそうさまでした。本当に美味しかったです! 人って凄いんですね」

「はいごちそうさまでした。人が凄いというよりは、フィツさんが凄いんです。私はあの人よりも料理の得意な人をそんなに知りません」

「ですが、ルゥ様も同じくらい美味しいですよ?」

「ええ。ルゥの師匠がフィツさんです」

「なんと」

 ルナは芝居がかった動きだが、口をあげて驚いた。

 そんな話をしていると、ルゥとシャルト、ドロシーとルカが馬車に乗って村に戻ってきた。

 シロとカエデさんを連れて、どこか遠くに出かけていたらしい。


 そして向こう一同は三世とルナに気づいた。

 ツカツカと急ぎ歩きで三世の傍に真剣な表情のシャルトが迫ってきて、そのままルナの手を掴み、大きな声をあげた。

「確保!」

 そのまま、シャルトはルナを引っ張っていった。

 三世もルナもその様子についていけず、茫然とした。

 シャルトの表情は怒ってるという感じではなく、とても真剣な様子だ。

 例えるなら、戦場に行く兵士のような雰囲気だった。

 最近女性で集まって何かをしているのは三世も知っていた。

 だが、何をしているのかまではわからない。

 そしてこれは推測だが、そのメンバーにルナも入れたいらしい。


 三世は微笑みながら、大きな声で、ルゥとシャルトに言った。

「夕飯は済ませたので泊ってきても良いですよー!」

「はーい。じゃあ泊ってくるねー」

 ルゥはシャルトと二人がかりでルナを引きずりながら三世に返事をした。

「あああああー! ヤツヒサさん。また会いましょー」

 ドナドナを彷彿とさせるような声を上げながら、ルナは涙目のまま引きずられて行った。

 ――やっぱり面白いなあの人。

 三世はそんな感想を持ちながら、自宅に戻った。

 少しだけ、自宅が広く感じた。


ありがとうございました。











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現代恋愛物の短編です。

お暇でしたら目を通していただけると嬉しいです。

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