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本当は抱きしめてあげたかった

 


 このパーティーでの初めてのダンジョンアタック記念に打ち上げをすることになった。

 言い出したのはドロシーだが、何故かマリウスも非常に乗り気となり、ルゥもテンションをあげて止められる流れでは無くなった。

 といっても、三世も止めるつもりは無い。むしろ嬉しい。

 わざわざ三世、ルゥ、シャルトの初冒険記念を師匠夫妻が開いてくれるのだ。嬉しくないわけがない。

 ただ、とても嬉しいのは確かだが、同時に少々こそばゆい気持ちになる。


 しかし、さあすぐにパーティーを始めよう!というわけにはいかない。

 することはまだ終わっていないからだ。

 三世は国に情報を提供しないといけない。

 特に、隠しにかかわる情報がダンジョンの隠し部屋から出たという情報はあっちにとっても非常に価値のある情報だろう。

 マリウスもいらない素材、というか今回の場合は全部だが、素材を早いうちに売らないといけない。

 というわけで、マリウスとドロシーは別行動を取り、お互いのするべきことが終わり次第、直接店で合流することになった。


「それで、店はどこにしますか?店が決まってないならこちらで決めましょうか?」

 城下町の店を多少だが知っている三世は二人にそう提案した。

「んーん。店はもう決めてるし予約取ってるから!終わったら『子供達の黄昏亭』に集合ね!」

 そう言い残し、ドロシーはマリウスを引っ張って去っていった。

 子供達の黄昏亭とは、フィツの店。

 つまり、カエデの村にある店だ。

 行きつけであり、実力も確か。

 値段以上のサービスが当たり前で店主とも友好関係も気づけている。

 チョイスとしては文句のない店と言えるだろう。

 ただし、その店があるのは城下町ではなく、三世達の住むカエデの村だが。

 本来なら十時間ほど、カエデさんでも二時間程度はかかる距離だ。


「……二人はここからカエデの村までどうやって帰るんだろう……」

 行きはカエデさんの馬車に乗って来たのに現地合流になり、ルゥは不思議そうにそう呟いた。

「何とかなるでしょう。というか、何とかならない人達とは思えないです」

「……ですね。空を飛べても私は不思議に思いません」

 無駄な心配だとわかりきっているので、三世は自分の仕事を終える為に王に面会に行った。




 サクサクと報告を終え、宝箱から出てきた紙とマッピングした紙を渡して報酬を貰い、カエデさんに乗ってカエデの村に戻った。

 急いで家に戻り、着替えてフィツの店に三人は向かった。

 そして、当然の様にマリウスとドロシーは待っていた。


「お疲れ。貸し切りにしてるからカエデさん連れてきて良いぞ。残念ながら顔だけになるがな」

 マリウスの言葉に三世は頷き、カエデさんも参加してもらった。

 交通時間を十分の一にしてくれる彼女も、ダンジョン攻略に貢献していると言えるからだ。

 カエデさんは自分専用の顔だし用の窓から顔を出し、嬉しそうにフィツ、というよりはフィツの用意するメープル料理を待っていた。


 最初は入れないからカエデさんは顔だけしか参加出来なかったが、今やブルースという建築の鬼がいるためカエデさんが入れる門くらい十分ちょいちょいで用意出来る。

 実際に入り口を大きく、豪勢にしたからカエデさんも入ることが出来るようになっていた。


 ただし、カエデさんは頑なに入らなかった。

 詳しい理由は三世にはわからない。

 それはカエデさんの矜持の問題だと、三世は目を見たら理解出来た。

 だから代わりに、専用の顔だし窓とカエデさん専用のテーブルが用意されることとなった。


「それじゃあ、ダンジョンアタックが無事終わったことと、十階突破記念を祝しまして、かんぱーい!」

 ドロシーが手に持っていたノンアルコールのスパークリングワインを頭上に上げ、全員がそれに倣った。

「ちょっとおんぶにだっこで恥ずかしくはありますが、ありがとうございます」

 スパークリングワインのグラスを傾け、三世はドロシーにそう言った。

 ドロシーはにっこりと微笑み、その礼を受け取る。


 当然のように、ルゥとシャルトもノンアルコールのスパークリングワインである。

 ただし、三世とマリウスのだけは違い、アルコール入り、それもかなり高価な物だ。

 度数は低いとは言え、普段からお酒は飲まない二人にしては、祝いの席と考えても珍しいことだった。

 マリウスは無言でスパークリングワインを取り出し、三世は師匠の勧める酒ということで受け取った。


「師匠。これまでありがとうございます。そして、これからもよろしくお願いします」

 三世の言葉にマリウスは頷き、スパークリングワインのグラスを傾ける。小さな気泡が浮きでている少量の液体を、マリウスは一口で流し込んだ。

「あまり酒は強くないが、それでもこれが美味いということはわかる」

 マリウスの言葉に三世は頷いた。

「そうですね。貴重な物をご相伴に預かっています」

 そう三世が言うと、マリウスはふっと笑い、ドロシーはニコニコとこちらを見ていた。

「酒が美味いのは、弟子と飲んでるからでしょうに」

 そうドロシーが呟くと、マリウスは小さい声で「まあな」と言った。


「ドロシーは飲まないのか?」

 酒が好きだと知ってるマリウスはそうドロシーに尋ね、ドロシーは首を横に振った。

「んーん。もうお酒は飲まないでおこうと思ってね」

「……体調でも悪いのか?」

 マリウスが心配そうにそう尋ねると、ドロシーは再度首を横に振った。

「いいえ。残念ながら健康そのものよ。早く体調が悪くなりたいわ」

 そう呟くドロシーの瞳は、蛇のようにねちっこくマリウスを見ていた。

 マリウスと、ついでにルゥは首を傾げていたがシャルトはにっこりと微笑んでいた。

 三世は危険な予感がした上に飛び火を恐れ、その話題に触れることを避けた。


 運ばれてきた夕食兼用の食事はいつものように美味しそうで、胃袋が悲鳴をあげそうになる。

 トマトベースのパスタを中心に揚げ物と小麦物に生野菜のサラダをフィツがテーブルに並べていく。

 それらを皆、笑顔で楽しんだ



「ヤツヒサ。言いにくいことや辛いことなら言わなくても良い。お前の父と母は、どんな人だ?」

 マリウスは難しい顔をしながらそう尋ね、その言葉に三世は少しだけ驚きを現した。

「別に大したことがあったわけでは無いので話せますが、急にどうしました?」

 三世がそう尋ねると、マリウスはグラスを一気に傾け、喉に高価な液体を流し込んだ。

 三世はそれに合わせ、マリウスのグラスにスパークリングワインを注いだ。

「……大切な弟子で、そして俺は息子のように思っている。ならば、師父というまがい物の親として、本当の両親というもののことを聞いておきたくてな」

 そうマリウスが三世を見て、難しい顔をしながら呟いた。

 普段のマリウスでは考えなられないほど、饒舌な口をしていた。

「ごめんなさいね。この人。見た目と同じで不器用な人だから――ってあら?」

 ドロシーが何かに気づいて口を止め、驚いた表情を浮かべた。


 そう言われた三世は顔を下に向け、真っ赤になっていた。

 三世は確かに赤面すること自体は多少はあった。だ

 が、ここまで赤くなることはなかった。

 ルゥもシャルトも珍しいものを見たような表情を浮かべていた。


「……その……光栄です……」

 三世は照れて顔をあげられず、下を向いたままでそう答えた。

 年齢の為、子ども扱いされることが少ない三世はこういった父親というものに弱かった。

 特に――三世にとって尊敬し師父とも言えるマリウスが本心からそう言ってくれていると理解でき、わかっていても恥ずかしい気持ちを抑えることは出来なかった。


 三世の両親は善人で、立派な人だった。

 虐待や何かがあったわけでは無い。

 一つだけ問題があるとしたら、逝くのが少々早すぎたことだ。


 三世は自分の両親のことを、ぽつぽつと話し出した。

 もう振り返ることも少なくなったが、それでも嬉しい話ではない。

 三世は豪華なスパークリングワインで口の滑りを良くした。


 三世の父親は由緒正しき神社の生まれだった。

 ただし、三男で別に神道に道が固定されているわけでも無かった。

 緩い感じの雰囲気、時代の移り変わりによって三世の父親は自由を得た。

 彼は興味が薄かった為神道を離れ、ごく一般的な企業のデスクワーク、つまりサラリーマンを自分の道とした。

 神社が実家だった彼には、普通の生活というものに憧れがあったからだ。

 そして、その会社で母と会い、結婚し、そして三世八久が生まれた。


 特別が一つもない、ごく一般的な家庭だった。

 三世が高校三年、大学の獣医学部に合格が決まった時、父親が倒れた。

 ごく一般的な良くある病気で、死ぬか生きるかという瀬戸際となった。

 そして賽の目は悪い方に転がった。


『やりたいことがあるなら、それを続けろ。俺を理由に後悔だけはしないでくれ』

 父は病院の中で、三世に繰り返しそう言った。


 幸いにして、父は高額な保険に入っていた為生活に困るということに無かった。

 三世は獣医となる為の勉強を、己のしたいことを続けた。


 そして、三世の実力からは考えにくいほどレベルの高い大学に、三世は合格した。

『大学の間帰ってくるな。一生帰ってこなくても良い。お父さんの気持ちを汲んで一生懸命がんばりな!でも、つらくなったら帰っておいて。何があっても、ここがあんたの家だよ』

 母の言葉に従い、三世は大学の間帰ってこなかった。

 現実を知り、動物を救う為に手を汚すことを覚えても、物覚えが悪く学校で苦労しても、三世は父の言葉に倣い、従い、足掻くように努力を続けた。


 大学を卒業し、かなり良い条件の就職も決まった三世は、母にお礼を言おうと一旦家に帰ることにした。

 電話にも出てくれなかった母だが、きっと就職が決まったということなら喜んでくれるだろうと思った。


 だが、その家には誰もいなかった。

 一本のビデオレターと遺影で、母が亡くなったことを三世は知った。

 父が逝った時には既に末期の癌で手遅れの状態だったらしい。


 三世は置いてあったビデオレターを再生した。

 そこには、痩せた母の姿があった。

 時刻を見ると、三世が大学一年の時だった。


「やっちゃんがこれを見ているということは、私がもういないということですね。まず、謝らせてね。ごめんなさい。寂しい思いをさせますね。それでも、生活のことだけは何とかなるから心配しないでね」

『やっちゃん』という呼び名は三世が小学生の頃の呼ばれ方だった。

 中学に入った時、恥ずかしいから止めてくれと頼んだ日から母は『八久』と呼ぶようになっていた。

「言いたいこと、伝えたいことはたくさんあるけど、一番はやっぱり、生まれてくれてありがとう。あなたに会えて良かったわ。あの人がいないこの生が惜しいと思えるほどには幸せよ」

 そう伝え、母は三世との思いでを話し出した。


 ビデオレターにいた母は、嬉しそうに三世との思い出を振り返って語っていた。

 生まれて嬉しかったこと。

 父が抱きしめると嫌がって母に助けを求めたこと。

 内向的で、小学校にあがっても友人が出来ずに心配していたこと。

 誕生日に猫を飼いたいと言い出したこと。

 その猫を通じて友達を作ったこと。

 中学に入って猫が亡くなったこと。

 その時、まったく泣きもせずに猫を埋める息子に母は少し怯えたこと。


 そして高校から自分の道を決めたこと。

 この時、もう自分の息子は大丈夫だと、父と母は安心してしまったらしい。


『これだけ私と、あとお父さんもやっちゃんを愛してるわ。だから、幸せになってね』

 母は泣きそうな顔で笑いながら、そう三世に言葉を残し、そこでテープは終わっていた。


 虚無感に体が支配され、何もしたくない無気力になる。

 大切なものが零れ落ちる感覚。

 ペットの猫が亡くなった時の何倍も大きな、穴が空いたような感覚。


 そんな日でも、三世は勉強と練習は止めなかった。

 自分は立派な父と母を持って幸せだ。

 だから、立派じゃない自分は出来ることはしないといけない。

 それは脅迫観念にすら近かった。


「その後家を管理しきれず、母方の親戚に家を譲って、獣医として失敗した上で惰性で生きて、この世界に転移したのが今の私です」

 三世はグラスを傾けながら話をし、全部話し終わってから自分が酔っていることに気づいた。

 ――ああ。そういえば、遺言なのに、あちらでは私は幸せになれませんでしたね。親不孝でしたねぇ私も。

 自重しながら、三世はマリウスに注いでもらったグラスを更に傾け液体を胃に流し込む。


 マリウスは、三世が時々妙に子供っぽい理由を今知った。

 三世に酔いが回っている上に、高校やビデオレターなど、半分以上何を言っているのか理解出来なかった。

 だが、一つわかったのは親の愛が足りすぎて、それが自己否定に繋がっているということだ。

 その上で、三世は勉強に力を入れすぎた。

 父親の言葉が悪いわけでは無い。

 勉強の合間に遊ぶという、当たり前なことすら出来なかった方がおかしい。

 それほど、三世には父親が偉大に見えたのだろう。


 ドロシーは三世がマリウスの言葉に妙に恥ずかしがった理由を理解した。

 両親の愛に飢えているからだ。

 尊敬する両親との予期せぬ別れは、三世の心を『寂しい』という感情で埋めた。

 だけど、三世はそれを恥ずべきことと思い、放置して勉強と仕事に己の全てをつぎ込んだ。

 結果、三世は常に『寂しい』という気持ちを抱えた存在となっていた。


「私やマリウスが抱きしめてあげても良いけど、もっと適任がいるわね」

 マリウスが三世を抱きしめる絵面はそれはそれで面白そうだが、ドロシーは黙っておいた。


 三世が首を傾げた次の瞬間――シャルトが三世を抱きしめた。

「ご主人様。どうしたら幸せになれますか?どうしたらお父様とお母様に幸せだと誇れますか?」

 シャルトは涙を流しながら、三世を強く抱きしめた。

「……もう、十分に幸せで誇れていますよ」

 ぽんぽんと背中を優しく叩きながら三世はシャルトにそう言った。

 この世界に来てから、確かに三世は、自分が幸せだと思え、そして両親に誇れた。


 シャルトが抱きしめるのを止めると、次はルゥは三世を抱きしめた。

 優しく微笑みながら、そっと三世を抱きしめルゥは三世に囁く。

「あなたは私に幸せをくれたよ。今度は私が幸せをあげる。だから、してほしいことは何でも言ってね」

 優しく母のように抱きしめながら、ルゥは三世の背をぽんぽんと叩いた。

 その後でシャルトもまた三世を抱きしめ、三世は二人に体を預けた。

 ほろ酔いと温かさで幸せな気持ちのまま、三世の意識は途切れた。


 三世は二人に運ばれ、家に戻った。

 ドロシーとマリウスが椅子に座ったまま、難しい顔をしていた。

 その目には涙が溜まっている。

 三世の前で泣くのは堪えた。

 それを望んていないと知っているからだ。

「それでも、やっぱり心にクるよね」

 ドロシーは小さくそう呟いた。


 良くあることだった。

 奴隷となった人もいれば両親に売られた人もいる。

 この世界と比べ、三世の世界は相当幸せだ。

 その中でも、亡くなったとはいえ両親が揃っていてお金にも困らない三世は不幸と言ってはいけない位置にいる。

 それでも、今の三世を見た後その話を聞くと、相当心にクるものがあった。


 厨房からフィツが現れ、熱いミルクティーを二つ、テーブルに置いた。

「落ち込んだ時は甘いミルクティーでもどうですかい?」

 そう言いながら裏からひょいと笑いながらフィツは現れた。

「……誤魔化すつもりなら、目元ちゃんと拭いてこい」

 マリウスの言葉に、フィツは目元に残った涙を拭き取り、自分のミルクティーをテーブルに置き、二人の正面に座った。

「正直な、元の奴隷の俺から言ったら十分幸せで羨ましい話なんだ。嫉妬すらある。だけど、あんな性格になったことを考えるととても羨ましいなんて言えないわ」

 フィツの言葉に、二人は頷く。


 それなりに付き合いの長い二人に、付き合いは短くても色々鋭いフィツ。

 三人は一つ気づいたことがあった。

 三世の心が歪み切ってボロボロだということだ。

 自己が希薄なのに、時々我が強い。

 他人に関心が薄いのに、他人に奉仕をするのは当たり前だと思っている。

 そして、身内にはとことん甘い。



「……もし、ルゥとシャルトがいなかったゾッとすることになっていただろうな」

 マリウスは、そう呟いた。


 結論を一言で言うと、この世界に来た時の三世の精神は崩壊寸前だった。

 知らない世界に飛ばされ、一度も故郷に帰りたいと願わない程度には故郷に関心が無い。

 普通に考えてもそれはおかしいことだった。

 たとえ、元の世界が嫌なことだらけだったとしても、普通の人はそこまで無関心になれない。


 そして、今日その理由も理解出来た。

 単純で、そして悲しい理由。

 三世の心が弱いという、どうしようもない理由だった。


「だからこそ、ルゥちゃんとシャルちゃんが娘という立場にいて良かったわ」

 ドロシーの言葉は的を射ていた。

 大人としての責任が発生する娘であり、自分の好きな動物でもある二人がいるおかげで、三世の壊れかけた精神は安定し始めた。

「……マリウスっていう立派な師匠がいたこともでかいと思うぞ」

 フィツの言葉にマリウスはむっとした顔を浮かべる。

「からかうな。俺なんて大したことが出来ていない。いつも助けられてばかりだ」

「ふふ。もしそうなら父親面した師匠に対し、弟子はあんなに照れないわよ」

 そう言いながらドロシーはマリウスの指に指を絡めた。

「やれやれ。悲しくなるから独り身の前では止めてくれ」

 フィツが苦笑しながらそう言うと、ドロシーはにっこりとした顔でフィツを見るだけでやめようとはしなかった。



「まあ、さっきの流れを見たらだれが最初に妻になるのか予想出来たわ」

 獣人のハーレムに正妻はいない。

 ただし、最初の一人というのは色々な意味で特別で、対外的には正妻ポジと言っても良い存在となる。

 ドロシーの言葉に、男二人は身を乗り出した。

「やはりルゥだな。料理上手はでかいぞ」

 マリウスがそういうと、フィツは否定した。

「いや。シャルトも良いぞ。一歩引いて旦那を支えるいい女房になる。なにより、いざという時の凄みがある」

 そうフィツが言って、マリウスがいやいやと否定し、お互いはルゥとシャルトを誉め続けた。

「ちなみに、妻候補という意味ならもう一人、獣人を追加させる予定だそうです」

 ドロシーはルナのことを考えながらそう言い、男二人は更に興味深そうにそれを聞いた。

「なるほど。やっぱり耳が好きなのか。ヤツヒサ……そうか……」

 マリウスが至極まじめな雰囲気でそう呟き頷いていた。

「マリウス。あんた、けっこう飲んだな」

 酔っても顔に出ないタイプらしいマリウスを見て、フィツは無言で水を用意した。

「そんで、ドロシー先生にとっては誰が正妻だとお考えで?」

 フィツが冗談めかしてそう尋ねると、ドロシーは曖昧な笑みを浮かべるだけで何も言葉にしなかった。


 ドロシーはちらっと、外にいるはずのもう一人の参加者を見た。

 既にその人物の姿は無く、自分の寝床に戻っていた。



ありがとうございました。

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