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塔攻略、始めました

【兎の月】つまり二月に入った。

 マリウスとの修行が始まってから二週間と少し経ち、修行という名前のシゴキと装備製作を交互に繰り返し、ダンジョン攻略の準備を始めた。


 鎧を革主体から金属主体に変更するのも考えたが、室内中心と考えると重く場所を取る金属鎧はあまり向いていないと考えられる。

 今までと同じく、胸など部分的に金属の使われたレザー中心の鎧の方が良いだろう。

 マリウスも、塔に入るときはレザー主体の防具にするつもりだった。

 そうなると、他所から買うよりは三世が作るか、マリウスが作る方が効率が良い。

 ただし、エンチャントは三世は微妙だしマリウスは自己流であまり得意では無い。

 二人で試行錯誤しながら、ダンジョン向けの装備を研究し、製作していった。


 防具に関しては、ほぼ一新出来た。

 製作したのは主に三世ではあるが、空いた時間にルカが皮をなめし、マリウスも製作に協力してくれ、革以外の素材も色々と融通を利かせて集めてくれた。

 マリウスは高価な素材を、コネを使って三世に提供した。

 銀級冒険者以上でないと立ち入ることが許されない場所の上級の魔獣の皮や魔物の皮に、竜火草という異常なほど高価な素材。

 それらを惜しげもなく三世に提供した。

 もちろん三世は代金を払おうとするが、マリウスは頑なに受け取らなかった。

「弟子の修行に必要なものを、師匠が準備するのは当たり前だ」

 そう言われたら、三世は何も言うことが出来なかった。


 三世が防具製作の際、重視したのは耐久性能では無く生存性能だった。

 エンチャントの技術と、防具製作のノウハウを生かし、現代の考え方を利用して作られた新しい発想。

『たとえ防具が壊れても、着用者の命を優先する』

 というダメージを防具に逃がす仕組みを作り上げた。

 エンチャント技術だけで無く、製作技術も必要だが、三世のオリジナルの技術だった。

 マリウスはそれを見てすぐにマネをした為、オンリーワンというわけではないが。

 それらの技術を覚えて新しい装備を一式用意した。

 が、三世とルゥの革の籠手だけは、超える装備を作ることは出来なかった。


【ユニーク化】

 装備を作る時、きわめて稀な確率で同じ物なのに高性能なものが生まれる現象らしい。

 物によれば、金貨一千万とかいう天文学的な金額のものになることあるそうだ。

 作り手の技量や素材だけで無く、時の運まで影響する為狙って作ることは出来ない。

 適当な練習で出てくることもあれば、貴重な一品物を作っている時にぽんと生まれることもある。

 ユニーク化している三世とルゥの籠手は替えることは出来ないし、出来たら二人もこれは使い続けたかった。

 冒険でずっと守ってくれている。思い出の品でもあるからだ。


 そして偶然ではあるが、三世はもう一つユニーク化した物を製作していた。

 日本村にいた時に、ついでとばかりに作っていた革のブーツ。

 それが偶然ユニーク化していた。

 効果はとても暖かくて、雨でも中に水が入らず、そしてとても履き心地が良い。

 ユニーク化しても、元がただのブーツな為戦闘に使えそうには無かった。


 そんなこんなで装備を一通り改め、シャルトも一つだけ実践向けの魔術を覚えた二月頭、お試しに一旦塔に上ってみることとなった。


 三世は所有者の命最優先で作った金属混じりの革鎧一式に長槍。ただし金属部を魔道金属化させた為耐久力が向上している。

 ルゥも同じく魔道金属混じりの革鎧一式だが、三世よりも金属の部位が多い。前衛になることが多い為と、単純に体力と筋力が高いから重量に耐えられるからだ。

 武器は無いが盾は金属のラウンドシールドを持たせた。

 機動力を確保しつつ、いざという時に他者を守れ攻撃にも使える小さな盾の方がルゥに向いていると思ったからだ。

 シャルトは金属無しの革鎧に弓を装備していた。

 シャルトの装備は基本は三世が作ったが、エンチャントなどは全てドロシーに任せた為内容は良くわかっていない。


 マリウスは三世と同じ革鎧一式に、盾は大きな金属盾と武器はメイス。持ち手の下の部分に大きく丸い紅玉のようなものがついていた。

 ドロシーは、完全に普段着で武器は持っていない。だが、誰一人ドロシーの心配はしていなかった。




 カエデさん馬車に全員乗り、ラーライル城下町に寄ってカエデさんを預け、食料を軽く買ってから、五人は塔に向かった。

「それじゃあ、行きましょうか」

 先頭の三世の声に、全員は頷いた。

 町から出て一分ほど歩いた場所に塔は建っていた。

 そして、塔の入り口には恐ろしいほどの行列が出来ていた。


 番人と呼ばれる魔物は倒してもうまみは無いが、それ以外の魔物、魔獣はそのまま死体として残る。

 弱い魔物は素材としての価値は薄いが、魔獣は弱くても十分食用肉として価値があり、また魔物魔獣どちらからも低確率で魔石も出てくる為、下手な冒険より効率が良く儲かる。

 その上、宝箱が何故かダンジョン内に落ちているらしい。

 中から金貨が数十枚出てきたという話もあり、多くの冒険者は依頼を受けずに塔の攻略に精を出した。

 上に行くほど稼ぎも増えるし、低階層でも食って飲むに困らない程度には稼げるので、ちょっとしたゴールドラッシュが発生していた。


 数百人以上の長打の列が出来ているが、待ち時間はほとんど無い。

 受付など無く中に入れるから、最後尾に並んで数分後には、三世達が塔に入る番になっていた。

 ただし、三世達の後ろには既に数百人の行列が並んでいた。

 下手しなくても、軽く万単位の人が中にいることが予想出来る。


 人が二人ほど入れそうな門の形をした入り口に、薄い膜のようなものが貼ってあり、真っ黒になっていて奥は何も見えなかった。

 固唾を飲み、意を決して三世は中に入った。


 中は小さなスペースの部屋があり、右手に『受付』と書かれたカウンター。

 その奥に『武具修理屋』と『治療品販売所』と書かれたカウンターが設置されていた。

 そのスペースに一人ずつ人の姿が見える。

 ただしそこにいるのは、全身真っ黒一色で顔の部分は空洞になっている『人の形をした何か』ではあるが。

 そのうちの一人、受付にいる黒い人は三世達に一枚の紙とペンを渡してきた。

 それがダンジョンの受付票らしい。

 何回目か、何人か、リーダーは誰か。

 そんなことを記入するようになっていた。

 名前の部分はペンネームやハンドルネームでも可と書いてある。

 どうやら、異世界の知識や技術について塔の主は知っているらしい。


 三世は全員分の名前を記入し、受付に渡した。

 受付はそれを受け取り、一礼して右手を部屋の奥に向ける。

 その瞬間、部屋の奥の壁はゴゴゴと音を立てて動き、門が現れた。

 これが本当のダンジョンの入り口らしい。


「なんだか、凄い雰囲気あるね。ダンジョンってこんなんなのかしら……」

 ドロシーは緊張気味にそう呟く。

 三世以外全員は、この雰囲気に飲まれ緊張していた。

 ただし、三世だけ別のことを考えていた。

 ――あー。あまりしたことありませんが、何だかゲームみたいですね。

 そんなどうでもいいことを考えていた。


「それじゃあ、隊列を組んで入りましょうか」

 三世の言葉に全員が頷き、戦闘用の隊列に変えて入り口に入った。




 中に入るとさっき通った門は消滅し、五人はダンジョンの中に放り出される形になった。

 後ろを見ても道となっていて、出口は見えない。

 中は石造りのレンガのような壁になっていて、人が横に五人くらい通れそうな道がまっすぐ続いていた。

 明かりは無く、先は見えないが、何故か五人の姿とその周囲十メートルほどははっきりと見ることが出来る。

 三世はたいまつに火をつけるが、明かりの範囲は変わらず、何の意味もないことを確認した為たいまつの火を消した。


「それじゃあ、進めば良いか?」

 先頭にいるマリウスがこちらを向かずに訪ねてきた。

「はい。お願いします」

 三世の返事に頷き、マリウスと隣のルゥはゆっくりと前進を始めた。


 今回の隊列は前衛、中衛、後衛で分けた。

 前衛はマリウスとルゥ。一番硬い人員だ。

 中衛は三世。一番弱いのと、槍持ちという理由からだ。

 代わりに三世は紙を取り出して地図の作成をした。

 毎回変わるから持ち帰っても意味は無いが、それでも迷子になるのを防げるので必要だと考えたからだ。

 今回の為に方眼紙を用意していた。

 地球にいた時、昔の友人が『ダンジョンのマッピングには方眼紙が便利』というような内容を話していたからだ。

 だからわざわざ方眼紙を手作りで用意した。

 後衛はドロシーとシャルト。

 バックアタックでも二人なら問題無い。

 というよりか、ドロシーはマリウスよりも強いらしいから後ろは何の心配もいらないだろう。


 まっすぐ道なりに進むと、道が二手に分かれた。

 当然のように先は暗闇になっていて見えない。

「ヤツヒサ。どうする?」

 マリウスの言葉に三世は悩み、そして左を示した。

「意見が無いようでしたらとりあえず左に行きましょう」

 三世は周囲をぐるっと見回す。

 回りの皆は三世の顔を見て頷き、全員で左の道に入った。

 そしてさきほどと同じように一直線の道が続き、まっすぐと歩き続けた。


 カラン……カラン……。

 道の先から不思議な音する。

 その音に反応し全員で武器を構えた。


 カラン、カラン。


 乾いた音を鳴らしながら、何かが正面から近づいてくる。

 音は大きくなってきて、すぐ傍まで来ているというのがわかる。

 生唾を飲み込み、三世は正面を見据えた。

 すぐ傍に音が聞こえ、同時に音の正体が明らかになった。


 乾いた音と同時に現れたのは、歩く人骨だった。

「……アンデ……ッド?」

 歯に何かがはさかったような表情を浮かべ、ドロシーが疑問形でそう呟いた。


 スケルトン。または歩く骸骨。

 そういう魔物なんだろう。

 ただ、これがアンデッドである可能性は限りなくゼロに違い。

 理由は単純で、作りが恐ろしいほど雑だったからだ。

「何ですこれ?」

 冷たい目線のまま、シャルトはその骸骨に指を向けた。


 確かに一目で骸骨とわかる。

 わかるのだが……なんと言えば良いのかわからない。


 強いて言葉にするならば、子供の書いたラクガキのような人骨だった。

 骨の数も違うし、骨の色もおかしい。漂白したのではないかと思うくらい真っ白だった。

 特に頭蓋骨の出来がひどく、デフォルメしたようなその見た目は、敵と対面した怖さを忘れるくらいにはやる気をぶち壊していた。


「んー。これ、砂糖で出来てるっぽい?」

 ルゥは鼻を動かしながら、そう呟いた。

「……どうする?」

 マリウスがやる気の無い声で三世にそう尋ねた。

「とりあえず、ルゥ、一回盾で殴ってみてくてください。適当で良いですよ」

 三世の命令にルゥは頷き、「えいっ」とかわいらしい声で砂糖の骸骨を叩いた。

 カン!と高い音を響かせ、骸骨はバラバラになり、そのまま動かなくなった。


「……砂糖らしいけど、これ持っていく?」

 ドロシーの言葉に、全員がそろって首を横に振った。

「何とも言えない初戦闘になってしまいましたね……」

 三世のつぶやきに、誰も反応しなかった。



 必要無いとは思うが、一応、念のため、マップの端に『砂糖さん(仮名)』と書いて骸骨の特徴を書き記した。


 緊張感が無くなりつつある中で周囲を散策したが、何事も無く歩くだけで行き止まりになった。

 こっちの方向はただの行き止まりだったらしい。

 そのまま元の道に戻り、二手にわかれる道の右側を進んだ。


 するとまた、適当な作りの骸骨が現れる。

 同じようにルゥがコンと小突くと地面にバラバラと崩れた。

「……同じやつか」

 マリウスの言葉に、ルゥは首を横に振った。

「……違うよ。今度はこれ、塩みたい……」

 三世はため息を吐いて、マップの端に『塩さん(仮名)』と書いた。


 そのまま、まっすぐ進むとまた行き止まりになった。

 どうも隣の道とまったく同じようになっているらしい。

「あれ?コレ道無い?分かれ道なかったよね?」

 ルゥが慌てながらそう言葉にした。


 三世はため息を吐いて、ルゥの質問に答えた。

「たぶんですが、後ろに道があります」

 三世の言葉の通り、元来た道を戻ると、そこに階段があった。


 それは三世達が入った入り口のすぐ裏だった。

 それはまるで、まっすぐに道を探した三世達をあざ笑うような配置だった。

「このダンジョン作った人、絶対に性格悪いです」

 そんな三世の言葉に、無表情のまま全員で頷いた。



ありがとうございました。

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