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それはまるでゲームのような塔だった

 

 翌日、三世はルゥとシャルトを連れて王城に向かった。

 コルネに連れられ、いつものように城の中を歩いていく。

 ただし、今日行く場所はいつもの政務室では無かった。

「いつもの場所と違うのですか?」

 王個人用の政務室をいつもの場所と呼ぶ時点でとんでもないことだが、三世はそれに違和感を覚えない程には、ここに来慣れてしまっていた。

「うん。定例会議に臨時として参加してもらうことになってるから」

 コルネは微笑みながらそう言った。

「ああ。偉い人がたくさんいるんですね」

「はい。えらい人がたくさんいるんです」

 三世はコルネに合わせて笑顔になっている。

 ただし、内心は逃げたい気持ちでいっぱいだった。

 分不相応だし単純に怖い。

 だけど、コルネはそんな三世の心情を理解しているらしく、にっこりとした表情で逃げ道をふさいでいた。


 会議室のような場所に来た三世は、人の多さとその雰囲気に飲まれ、カチコチに緊張していた。

 入室前だがガラス越しで中の様子が見えた。

 まず人が多い、三十人以上はいるだろう。

 次に着ている物の質が明らかに良い。

 服装は貴族服と呼べるような豪勢なものを着ていて、鎧姿の人でも普段見かけるような鎧は違い装飾が美しい。

 無知な三世でも一目で違いがわかるほどだ。


「あの、私庶民でこのような空間にいるのがふさわしくないですが……」

 そんな三世に、コルネはぽんと肩をたたいた。

「がんば」

 音符マークがつきような良い声でそう言われ、三世は顔をしかめた。


「とりあえず、中にいる人で話の中心になる偉い人紹介するね」

 こそこそ声で、中から見えないような位置でコルネがそう言った。

 三世は頷き、同じく隠れるようにして耳をコルネに傾けた。

「まず、王様、それとグラフィ」

「はい。英雄グラフィがいますね」

「うん。大英雄グラフィ様がいます。大物ですよ」

 たとえ逃げ出したい状況だとしても、三世はグラフィの格を上げるのに余念がなかった。


「それに、冒険者ギルド長、魔法士副ギルド長、ここまでは良い?」

 コルネの言葉に三世は頷いた。

 冒険者ギルド長のルーザー。三世にとっても友人であり、世話になった人。

 魔法士服ギルド長のハルカ・ラーライルは背の低い女性で、三世も魔法を教わったことがある。


「ん。んで次がラーライル王国王立騎士団第一大隊隊長のガリアン・クレイヌ。騎士団で二番目に偉い人よ」

 コルネの指を指した方向には、三世と同い年くらいの男性がいた。

 短い黒髪に鋭い目つき。細かな装飾のされた美しい銀色の鎧を着ているが、その鎧に負けないほど立派な風格をしている。

 貴族であり騎士である、そんな物語の主役のような見た目をしていた。


「んでんで、次がラーライル王国王立騎士団総司令イン・ラシード。騎士団で一番偉い人」

 そう言ってコルネが指さした方向には真っ白な髪の老人がいた。

 細い体に曲がった背中。椅子に座っていても衰えがわかるほどだった。

「大丈夫ですか。かなりのご高齢に見えますが」

 三世の言葉に、コルネはすごく不満そうな顔をした。

「歳だからはやく引退したいって本人も言ってるけど、引退出来ないのよね。強すぎて後続がいないから。ぶっちゃけ私の倍以上強いわ。ああ見えて本物の化け物よ」

 コルネがそういうことを言うのは珍しかった。

 だけど、三世はその理由をすぐに理解出来た。


「あの、ラシード総司令と目が合ってるのですが……」

 イン・ラシードと呼ばれた人物は姿を隠している三世の方を見ながら微笑んでいた。

 気のせいでは無く、確かに目があっていると三世は確信出来た。

「でしょうね。この城の中全てくらいは、耳と目が行き届いているって思って良いでしょう」

 その言葉に、本来聞こえてないはずのラシードは頷き、ついでに三世に手を振っていた。

「……騎士団って魔境だったのですね」

 その言葉に、コルネは苦笑しながら頷いた。


「んでんでんで、最後がラーライル王国軍総司令のジャミル・イグリーラス様。軍の人だから良く知らない。あとは付き添いとか秘書とかだから、話の中心はこの七人に、私とヤツヒサさん入れて九人で話し合いをするわ」

 最後にコルネが指を差した方向にいたのは、三世より年齢が一回り以上は上と思われる壮年の男性だった。

 明るい茶色の髪に彫りの深い顔。ただ、ひどく草臥れた顔をしているように見えた。

 またその顔が妙に似合うことから、普段からそんな顔をしていることが予想された。

「なんか、この中に入るのは場違いな気がするのですが……」

 三世の言葉に、コルネはぽんぽんと肩をたたく。

「今日の主役は君だ。がんば」

 語尾にハートマークがつきそうなほどいい声でコルネはそう言った。






「これより塔対策の定例会を始める。が、その前に冒険者ギルド長から報告がある。では、冒険者ギルド長」

 王の言葉に、ルーザーは頷き立ち上がった。

 会議が始まり、大きな円になっているテーブルの一席に三世は座り、その後方、別の場所にルゥとシャルトは座った。

 二人に発言権が無い、ということだろう。

 この円になっているテーブルに座っているのは、自分を含めてさっきの九人だけだ。

 その様子はまるで円卓の会議のようだった。

 それ以外の人達は外側の椅子に座って、中にあるテーブルの様子を見ていた。


 そのうちのテーブルにいる一人、ルーザーは周囲に一礼をした後、話を始めた。

「事前に説明を聞いている人もいると思いますが、知らない人もいると思いますので最初から説明いたします。一月ほど前に、急にスキル、能力を見ることが出来なくなりました」

 ルーザーの発言を纏めるとこうなった。


 突然ルーザーが持っていた他人のスキルや能力を読み取るスキルが消失した。

 原因は不明。塔との因果関係は不明だが、おそらく無関係。

 調べてみると、ルーザーだけでなく、別の国でも同じようなスキルが消失したのを確認。

 つまり、他人のスキルと能力を調べる方法がこの世界から失われたということだ。


 今回のことで問題になるのは二つ。

 どちらも稀人、異世界転移者にかかわることだ。


 異世界転移者はスキルを付けられ何の説明も無いままこちらに飛ばれた人が多い。

 本来のように、鍛えた、極めた結果スキルが付与されたならともかく、そうでない異世界転移者は多くの者が使い方や調べ方がわからない。

 それに加え、能力を判断し異世界転移者を適切な職場に振り分けることという王国の転移者優遇制度が行いにくくなった。


 そしてもう一つの問題は、異世界転移者に危険な能力を持つ者がいるか、調べる手段を失ってしまったことだ。

 今まではその結果で封印や処分を行っていたが、これからは最悪野放しになる。


 ただ、問題提起は出来ても、この問題の対処方法が思いつかない為、この場の話はこれで終わり、ルーザーは座って聞く姿勢を取った。



「さて、次が本題の塔についてだ。今回は定例会に初参加の者がいるから、塔について最初から説明させてもらう」

 王、フィロスがそう言うと、視線が三世に集中した。

 その瞬間、三世は自分の胃がきゅっと固くなり、若干の痛みを感じた。

「最初に、あの塔は二週間ほど前に突然地面から生えた。それの意味も分からないし、理由もわからない。それと同時に、こんな手紙が城に届いた」

 フィロスの言葉に合わせて、メイドの一人が三世の前に手紙を置いた。



 一、ラーライルに住む者しか入れない。一度のパーティーは五人まで。塔の入り口でリーダーを決める。一度決めたらリーダーを辞めることは出来ない。

 二、塔は順番も通路も変わる。不規則に常に変化を続ける。塔の頂上は百階。

 三、塔から脱出したい時は壁にあるボタンを押せばいい。脱出した地点から塔の攻略を再開出来る。攻略記録はリーダーごとに記録される。

 四、決まった階層ごとに番人が出る。番人は肉の体を持たぬ存在。

 五、頂上にいる敵を倒したら、塔は消滅する。

 六、上に上がる為の条件がある。その条件は公開していない。ただしヒントはどこかに隠してある。


 素晴らしい人が現れ、この塔を攻略してくれることを切に願う。

 あり得ないと思うが、もし塔を放置したら、無限に生まれる魔物が城下町を襲うだろう。

 君たち人間ならきっと塔を攻略できると信じているよ。

 魔王より愛を込めて。



 そんな文章が書かれていた。


「続いて、この二週間、騎士団や軍、冒険者達が塔に入り、集まった情報だ。これを読めば何故冒険者ヤツヒサがここに呼ばれたか理解出来るだろう」

 フィロスの言葉と同時に、一枚の書類が三世に渡された。



 塔は瘴気によるダンジョンと認定。

 敵の数はおそらく無限。ダンジョンの中でもこの塔はかなり強力なものと思われる。

 ただし敵の強さはダンジョンと比例せず、たいして強くない。

 一階よりも十階の方が敵が強かった為、少しずつ強化されていると想像される。

 中で他の部隊と合流できたものはいない。

 低階層の為か、死亡した人は誰もいない。

 馬など動物は入れなかった。


 塔内部は明らかに塔と大きさの合わない部屋で構築されている。

 一つだけの大部屋の時もあれば、迷路になっていたり、室内の様だったりと普通の空間では考えられないような世界になっていた。

 そしてどのような場所だとしても、階段を昇れば次の階層に行ける。

 二十階程度なら騎士団、軍混合パーティーで突破出来た。が、その先にはいけなかった。

 次の階層に行く為の階段が何故か通れなかった。おそらく条件六の階層に上がる条件を満たせていないからだろう。

 また、条件にひっかかり十一階に上がれない冒険者もいた為、十階にも何か条件があると予想される。


 問題は条件六の上の階層に上がる条件。

 詳しい条件は不明だが、獣人を混ぜたパーティーが二十一階を超えたという記録がある為、二十階の条件は獣人と予想出来る。

 十階の条件は不明だが、ひっかかった多くの者が低階級の冒険者な為、実力か階級によるものと予想出来る。

 条件四の番人は、十階と二十階で現れた。

 ただ、そのどちらもあまり強くは無かった。

 相手の種類も部隊ごとに変わっている。これに法則性は無いと思われる。

 ただし、番人は皆倒した瞬間にガラスのように砕け、死体も何も残らなかった。




「えと、つまりどういうことでしょうか?」

 ゲームのRPGのような説明についていけず、三世が周囲にそう言うと、コルネが短くまとめた。

「塔を上がる条件を判断する為に、色々な人に上ってほしいってこと。その中でもヤツヒサさんは複数の職業を兼用し、稀人という珍しい要素もあり、異性の獣人と一緒にいる。これ以上無いほど多くの条件を満たしていると予想されるわ」

 実力の高い人はいくらでもいるし、獣人と連携を組むパーティーもある。

 だけど、非戦闘職を複数兼用し、獣人の女性とパーティーを組んでいて、金持ち。

 この条件に見合う存在は二人はいないだろう。

 しかも、王が認めるほど研究や論文の出来が良い人間だ。

 調査攻略を頼むなら三世以上に期待の出来る人はいない。


 騎士団も軍も、二十階の条件が獣人と理解してそこより先は進めたが、二十五階でまた条件にかかり足踏みしている状態になっている。

 だからこそ、軍と騎士団のトップの会合に、三世が呼ばれるほどには期待が高まっていた。


「無理に登れとは言わない。いまだ死者が一人もでていないとは言え、ダンジョンと化した建物だ。危険が無いとは言えない。ただ、出来たら手を貸してほしい」

 フィロスの言葉を聞いて、三世は後ろの娘二人を見た。

『どっちでも良いよ』

 二人の瞳はそう告げていた。


 三世は悩んだ結果、その仕事を引き受けた。

 最上階に向かうのは難しくても、途中までの攻略なら今の実力でもなんとかなるのでは無いかと思ったからだ。



ありがとうございました。

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