表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移でうだつのあがらない中年が獣人の奴隷を手に入れるお話。  作者: あらまき
日常への逃避行

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

175/293

帰り道

 

 一日の後、数日ほど、ぐだぐだと休み、準備を終えてから、帰国の為三世はカエデさんに乗り、ルゥ、シャルトは馬車に入った。


 レベッカは外に出られず、ベルグは忙しいので、軍人を引き連れたソフィが、町の外まで見送りをしてくれた。

「それではお元気で。また来てね?」

 スカートを軽く持ち上げ、優しく微笑むソフィを見て、ルゥとシャルトは何か大きな違和感を覚えた。

 だけど、それが何なのかは、わからなかった。

「はい。また来ます。今度の冬にでも」

 そう三世が言うと、ソフィは微笑んだ。

「そう、なら私は夏にでも、避暑地としてそちらに行こうかしら」

 ソフィの言葉に、三世は頷いた。

「是非。いつでもどうぞ」

 そのまま三世はカエデさんを走らせ、振り返ることなく、町を去っていった。


 ソフィは笑顔のまま、見えなくなるまで手を振っていた。

 その笑顔に、陰りは無く、憑き物が落ちた様な顔をしていた。



「楽しかったねー!今度は他の国にも行って見たいなー」

 そうルゥが呟くと、三世は困った顔をした。

「うーん。連れて行きたいのですが……治安が不安でして……」

 ラーライル王国とガニアル王国は同盟国に近いほど、仲が良い。

 隣国にもかかわらずこれだけ仲が良い国はそうないだろう。

 そして、ラーライルとガニアは治安という面でも、経済という面でも非常にうまくいっている方の国だ。

 それ以外の国は、悪い意味で軍に偏っていたり、宗教に偏っていたり、また治安が悪くと、観光に行くのを躊躇う情報が多かった。


 その為、今回の逃避行の旅行先もガニアとなった。

「それなら、次は国内旅行にしましょう。ラーライルって広いですから、きっと楽しい物もありますよ」

 シャルトの言葉に、三世もルゥも頷いた。

「そうですね。次の旅行は国内で変わった物を探すのも良いですね。もちろん四人で」

 そう三世が言うと、カエデさんが大きく声を上げて鳴いた。

 カエデさんも、そういった旅行は楽しみらしい。


「ですが、しばらくはカエデの村内でするべきことをしますよ。休んだ分も取り戻さないといけませんし、強くなる為にも賢くなる為にも、勉強をしましょう」

 魔法は最高の先生がいる。革関係も最高の先生がいる。料理も最高の先生がいる。

 だけど、他の先生は中々見つからない。

 それ以外の技術を身につける為には、自分達で色々と調べ、学ばないといけない。

 他にも知らないといけないことはまだまだ沢山ある。

 ――しっかり休暇を取ったから、気持ちを入れ替えてがんばらないと。

 王族として決意したソフィを見て、三世はそう心に誓った。


「まあ、しばらくはまったりしながらいつもの日々を送ろうねー」

 突然、だらけながら、ルゥがそう呟いた。

 遊び疲れが今になって来たらしい。

「はは。そうですね。日常をしっかり送ることも大切です。しばらくはお部屋でゆっくりしましょう」

 そう三世は言うと、ルゥは嬉しそうに、「るー」と気だるげに鳴いた。

 それを見て、シャルトは微笑みながら、ルゥの頭を撫でた。

 ルゥはぴょんと移動し、シャルトの隣に行って、シャルトの膝を枕にして、横になった。

 シャルトはそのままルゥの頭を撫で、微笑みながらルゥを見ていた。


 そんな幸せな日常を謳歌し、楽しんでいる三世達は知らなかった。

 今、ラーライルで大事件が発生し、国だけで無く、冒険者も含め、上から下までてんやわんやになっていると、彼らは知らなかった――






















 馬車の中でガニアからラーライルに向かう馬車を、一人の女性が崖の上から見下ろしていた。

 女性はフードを目元まで被って顔を隠しているので、誰だがわからないし、正体も、名前も知られていない。

 しかし、彼女を知ってる人は、意外なほど多かった。

『契約の魔王』

 彼女は人間から、そう呼ばれ恐れられていた。


 彼女は、馬に乗っている一人の個体をじっと見つめていた。

 強い縁を感じ、それに釣られてラーライルに向かった。

 しかし、どこかに移動して居なかった為、彼を探し、そして今、その男、三世八久を見つけた。


 魔王は捜し求めていた三世を発見し、彼を見つめた。


 そして、魔王は彼に、何も感じなかった。


 強い縁を感じ探したはずなのに、不思議な程、何も感じない。

 力も弱く、有象無象にしか思えなかった。

 愛や恋に近い感情を覚えたはず。なのに、それが見つからない。

 まるで、別世界の自分があの男に恋をしたような、そんな錯覚を覚える。


 そして一つわかったことがある。

 今回は時間の無駄だったということだ。

 あの男の事を、自分は何とも思っていない。

 それだけははっきりとした。


「……別にあの馬車を襲うつもりは無い。だから見逃せ。無駄な犠牲を作りたくない」

 魔王は、背後にいる殺気を向けた気配に、そう告げた。

 その言葉を受け、背後の男――ベルグは姿を現した。

 ただし、大剣を構えたままで――。


「私から戦うことは無い。むしろ、飽きたから早く帰りたいんだ」

 魔王の言葉に、肯定も否定もせず、睨みつけるだけのベルグ。

 人類が浴びたら、それだけで気絶するような殺気を、魔王は受け、平然としていた。

「……わかった。逆方向に移動し、人の住む場所に近寄らない。それで良いか?」

 魔王の言葉に、ベルグは頷き、道を明けた。

「わかった。だが、何故お前は人を襲わない?魔王では無いのか」

 ベルグの言葉に、魔王は頷く。

「ああ。魔王だとも。だが、私の目的は人がいないと叶わない。だから人を殺したく無いんだ。出来るだけな」

 ――特にガニアはな。

 と魔王は思ったが、口に出さなかった。

「目的は話せるか?」

 ベルグの言葉に、魔王は少しだけ嬉しそうな雰囲気を出した。

「ああ。私の目的は、私の契約に耐えられる人間が現れるのを待つことだ。強く、心の優れた者なら、きっと耐えられると、私は信じている」

 そんな魔王の言葉に、ベルグは尋ねた。

「俺でも届かない位なのか?自慢じゃないが、人類の五本指には入ると思うぞ」

 その時、ベルグは一瞬だけ、魔王の顔が見えた。綺麗な女性の顔で、酷く悲しそうな顔をしていた。

「……きっと君なら契約に値するだろうね。だけども、ああだけども!君はもう別の誰かと契約している。だから私とは契約出来ない。それは本当に残念だよ」

 魔王は泣きそうな声でそう言い残し、約束通り三世達と逆方向に逃げていった。


 魔王が去った瞬間、ベルグは一気に汗を噴出し、その場にへたり込んだ。

「駄目だなアレは。俺一人じゃ勝てない」

 控えめに見ても、勝率は三割も無いだろう。

 そして恐らく、何か隠し玉もある。

 ベルグは汗を拭いながら、生き延びたことに感謝した。



 疲れ果て、心と体を癒す為に、王宮に帰ったベルグが最初に目にしたのは、親離れが完全に終わった我が娘だった。

 おどおどすることなく立派に立ち振る舞い、堂々と人に命令を下していた。

 その上で、己の権力と能力の範囲で、出来る仕事のみを、出来る分だけ行っている。

 背伸びをせずに、あるがまま、ソフィは王女としてそこにあった――。



 そして当然、父親である自分に意味も無く甘えることが無くなっていた。

 完全な独り立ちで、そしてその姿は正しく未来の王の風格だった。


 そのことベルグは嬉しく思いつつ、心の底から残念で、寂しかった。

 ――立派で嬉しいけど、親離れはもっと遅くに起きて欲しかった。

 ベルグは心からそう思い、意味も無く悔やんだ。


ありがとうございました。

短いですが、前回の文に混ぜられなかったので別で出します。


これで第八部本編は終わり、番外編を行った後、次に続きます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ