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ホームパーティー

【猪の月】の最後の夜、ベルグとレベッカ連名で、三世達三人に呼び出しがあった。

 猪の月から【虎の月】に変わる日。

 つまり、新年の始まりだ。


 ガニアル王国では大晦日や正月に特別な行事があるわけでは無い。

 猪の夜から明け方まで、友人や商売仲間、家族など、縁を大切にしたい人とホームパーティーを開く。

 どちらかと言うと元の世界でのクリスマスパーティーに近いだろう。


 明け方まではしゃぎ、そして一日の昼まで寝て、一日の残りの時間は好きに生きる。

 働いても良いし、遊んでも良い。そのまま寝ても構わない。

 新年の始まりの日は楽に生き、今年一年もがんばろうという英気を養う為だ。


 ということで、この呼び出しは、ただのホームパーティーのお誘いだ。

 参加者は、国王ベルグ、王妃レベッカ、王女ソフィ、三世、ルゥ、シャルト。

 ガニア王家の家族パーティーwith三世ファミリーの六人のホームパーティー。

 これは本当にただのホームパーティーと呼んで良いモノなのか、三世は思い悩んだ。

 三世達が呼ばれた理由は二つだ。


 一つは、レベッカがそう望んだから。

 妊娠中の状態で呼べる人は限られているし、何より貴族や他の王族との堅苦しいパーティーしか、したことなかった。

 なので、気軽なホームパーティをする為に、三世、というよりはルゥとシャルトが呼ばれた。


 二つ目の理由は、これはお別れ会の意味も兼ねているから。

 すぐにと言うわけでは無いが、新年に入り、本来の予定時間を経過した為、三世は近いうちに帰国を考えている。

 そういう理由があり、これがガニアル王国の最後の集いとなるだろう。

 特に、新年ということで王宮も徐々に忙しくなり、会いに行くと迷惑になる恐れがある為、場合によってはこれが本当のお別れとなる。




「とー言う事でー。パーティーでーす!」

 テンションをガンガン上げて、レベッカが嬉しそうにわいやわいやとそう叫び、騒ぎ出した。

 それに合わせて、ルゥもきゃっきゃとはしゃいぐ。

「いえーい」

 とレベッカが手を出すと、

「いえーい」

 とルゥがそれにハイタッチする。

 心の底から楽しそうな光景だった。

 ソフィが若干恥ずかしそうにしているが、本人も楽しくないわけでは無さそうだから気にしないことにした。


 料理のフライドチキンやポテト、ピザなどパーティーで食べられそうな物をふんだんに用意した。

 ルゥが。


 毎年料理人ギルドが用意することになっているのだが、それならギルド長に、ということでルゥに話しが行き、ルゥは二つ返事で了承した。

 料理人ギルドとメニューを決める際、せっかくなら稀人、つまり三世の世界の料理を再現してみようということになり、こういうメニューに決まった。

 飲み物はノンアルコールのスパークリングワイン。

 最初はアルコール入りのスパークリングワインと子供用のジュースを用意していたのだが、レベッカの変化により、ベルグが慌ててノンアルコールのスパークリングワインを取り寄せた。


「それで、そろそろ帰国するみたいだけど、皆楽しめたかな?」

 レベッカの言葉に、三世、ルゥ、シャルトは頷いた。


「もちろんです。避寒地としては格別ですね。むしろちょっと暑いくらいでした。娯楽も多く、活気が凄く、色々と楽しませていただきました」

 三世の言葉に、レベッカはうんうんと嬉しそうに頷いた。

「……次に来た時は、闘技場を見に行くと良い。娯楽としてもだが、獣人が多くいるから、何か出会いがあるかもしれぬ」

 ベルグが三世にそう呟いた。

 観光ガイドにも、闘技場があったが、娘をつれて血なまぐさい場所に行くのはどうかと悩み、今回は行くのを止めておいた。

「わかりました。王の推薦なら面白そうですので、次に来た時は行ってみます」

 三世の言葉に、ベルグは頷いて応えた。


「ただ、やはり惜しかった。もう少し長く居るのなら、ヤツヒサには祭りに参加してもらおうと思ったのだが――」

 ベルグの言葉に、レベッカとソフィは同時に顔をしかめた。

「いや、あの祭りにヤツヒサさんを参加させるのは……」

 レベッカは嗜める様に、ベルグにそう言った。

 ソフィはベルグを冷たい瞳で見つめていた。


「お祭りあるの?どんなお祭り?」

 ルゥの質問に、ベルグは一言で答えた。

「漢祭り」

 その言葉を聞いた瞬間、ルゥとシャルトは興味を失った。

「すいません。帰国前ですので参加出来ませんね」

 そう言って、三世はお茶を濁した。



 料理も食べ進め、夜も深くなってきた頃に、レベッカは珍妙な道具を取り出した。

 両手で持てるくらいの大きさ、上部に穴が開いている。

 おそらく箱だろうと三世は考えた。

「さて、ガニアの風習にはこんな物があるわ。所謂、厄除けの一種ね」

 レベッカはそう言いながら、テーブルにその箱の様な物を置いた。

「ガニアの考え方にね、厄を今年に置いていくことで、新年にはその分厄が少なくなるって考え方があるの。これはその為の道具」

 レベッカの言葉に、三世は質問してみた。

「ふむ。それをどう使うのですか?」

「この中に入っている紙を一枚だけ取り出して、そこに書いてある内容を全員が暴露するの。今年に出来た秘密や、嫌な事とかね」

 掻いた恥や嫌な事を今年の終わりに告げることでここに置いていき、全てを忘れて新年に向かうという考えらしい。

 つまり、全員強制参加の罰ゲームだ。

 ベルグとソフィの顔が少し嫌そうに見えるのは、たぶん気のせいでは無いだろう。


「はーい。それなら私がそれ使ってみたい。良い?」

 ルゥは手を挙げ、きょろきょろと周囲を見ながら尋ねて来た。

 全員が頷き、レベッカが使い方を説明する。

「腕を入れて、奥に入っている硬い石を引っ張って。そうしたら紙がついてくるから」

 ルゥは頷き、言われるままに手を突っ込み、紙を取り出した。


『今年起きたことで恥ずかしかったこと』

 そう、紙に書かれていた。


「これに書いてあることを言えば良いの?」

 ルゥの質問に、レベッカは頷いた。

「ええそうよ。ルゥちゃんが紙を引いたんだし、ルゥちゃんから、右回りで暴露していきましょう」

 嬉しそうに言うレベッカに、ルゥは頷いた。

「んーとね。実は料理人ギルド行くと、いつも注目されるから、まだちょっと恥ずかしいかな」

 そう照れた顔で、ルゥは答えた。

 羞恥の概念が薄いとは言え、やはりあれだけ注目されたら恥ずかしいだろう。

 万単位の組織全員で、注目されつつ小動物の様に愛されているのだから。


 次は三世の番だった。

 三世が最初に思い浮かんだのは、ルゥの手術を行った次の日の朝だ。

 目が覚め、全裸の女性が現れ、自分に甘えてくる。

 これ以上に恥ずかしかったことは、今まで一度も無かった。

 未だに思い返すだけで火が出そうになる。

 しかし、この事をは誰にも話すつもりは無かった。

 自分だけの中に、そっとしまっておく。

 ルゥにも失礼な気がするし、シャルトに聞かせると、目を輝かせて悪巧みを行ってきそうだからだ。


「そうですね。前にこちらに来た時は、ルゥとシャルトにお金を借りないと生きていけなかったですよね。アレは本当に恥ずかしくもあり、申し訳なくもありました」

 そんな三世の言葉に、ルゥとシャルトは「気にしないで良いのに」と同時に呟いた。

 それを見て、レベッカはくすくすと微笑んだ。


「次は私の番ですね、私のは簡単です。この前レベッカさんに、からかわれた時ですね!」

 そう言いながら、シャルトはレベッカの方をジト目で見ていた。

「まぁ!今のシャルちゃん、ソフィに良く似てるわ。ちょっと並んで見て」

 レベッカは嬉しそうに、ソフィをシャルトと隣接させた。

 その二人を三世も正面から見た。

「――確かに、姉妹に見える位似てますね」

 髪型も色も違うのに、妙に雰囲気がそっくりだった。

 背丈が同じくらいで、ジト目をすると本当に良く似ていた。

 どちらも猫っぽいのもその理由の一つだろう。

 むしろ顔だけを見ると、ソフィの方が猫らしいくらいだ。

 ジト目でこちらを見つめる二人は、まるで構ってもらえず拗ねてる二匹の子猫のようだった。

 そんなことをしながら楽しそうにするレベッカを見て、シャルトは溜息を吐いた。


「じゃ、次は私ね……。私のはむしろ反省だけど……。お父さんとお母さんをもっと信用していたら良かった。そうしたら、誘拐事件なんて大ごとにならなかったのに……」

 ソフィは両親を見ながら、そう呟いた。

 以前起きた誘拐事件と言われたあの件は、むしろ家出の方が近い。

 身を守る為とは言え、両親に黙って外に出て、一人で解決しようとしたソフィ。

 その為、話が大きくなったという点も、確かにあった。

 心配して苦しんだ人がいた以上、この事については三世達部外者には、何も口に出せなかった。


「いや、あの時のソフィの判断は間違いでは無い。誰一人犠牲者を出さずに、事件の片が付いた。それに、お前はレベッカより俺に似ている。己の手を最初に使おうとするのは、血の所為だろう」

 慰めというよりは、本心でベルグはそう語った。

「……ありがとうお父さん。だけど、お父さんみたいにはなりたくないなぁ……」

 似ていると言われ、少し嫌そうに言うソフィの言葉にベルグはしゅーんとなっていた。

 そんなベルグを、レベッカは頭を撫でて慰めた。


「次は俺か」

 ベルグはそう言いながら、振り返る様に考え込む仕草を取った。

「うむ。やはりあの時だな。ヤツヒサの勲章授与の時、人前で、しかも式典中にレベッカが抱きしめてきたのは、死ぬほど恥ずかしかった」

 そうベルグが言うと、レベッカは嬉しそうに笑った。

「あら。じゃあ次が無い様に、普段からもっと構って下さいね?」

 レベッカの言葉に、ベルグは「善処する」とだけ答えた。


「良いなぁ」

 そんな二人を見ていて、シャルトは気付いたら、口からそんな言葉が洩れていた。



「最後は私の番なんだけど、ちょっと言えませんねぇ。子供達の前ではとても……話せない内容ですので」

 レベッカが両手を頬にあてて「どうしましょう」とニコニコしながら呟いた。

 ルゥは首を傾げ、シャルトとソフィは困った様な恥ずかしい様な、複雑な表情を浮かべた。

 三世は耳を塞ぐ準備をした。

「知っているのは、あなただけで良いわね?」

 そうレベッカが囁くと、ベルグはタコの様に顔を真っ赤にした。

「俺の恥ずかしい話が二つになった様なもんじゃないかこれ」

 そうベルグは呟くが、皆、無視をした。

 藪をつついて蛇を出す趣味は、誰にも無かった。

 ルゥだけが、最後まで良くわからないといった表情を浮かべていた。



 ボーンボーンと時計が音を鳴らせ、それに合わせて音楽が鳴り響いた。

 どうやら傍に楽団でも置いているらしい。

 壮大で、迫力のある音楽が流れる。

 正月らしくないと三世は思うが、力の国であるガニアにとってはこの力強いメロディこそがガニアの象徴なのだろう。


 数分の演奏が終わると同時に、三世はガニア王家に頭を下げた。

「明けまして、おめでとうございます」

 王家三人は若干驚いた表情を浮かべた後、同じ様に頭を下げて、同じ言葉を繰り返した。

 その後で、二人の娘も三世の真似をした。


「さて、最後にケーキでも食べましょうか」

 レベッカがそう言うと、隠してあったチョコレートケーキを取り出した。

 最初から最後まで楽しそうなレベッカ。

 それだけで、今日来て良かったと三世も思えた。


 そして、ふとケーキを見ると三世はある事に気付いた。

「これ、中に何か入ってませんか?」

 ケーキに指を差しながらの三世の質問に、レベッカは頷いた。

「あら?わかっちゃう?」

 レベッカは、そう楽しそうに呟いた。


 チョコレートケーキのワンホールなのだが、ケーキが薄く、六等分の切り込みが最初から入っている。

 その上、ケーキ上部の飾りがほとんど無い。

 ガレット・デ・ロワの様なゲームでもするつもりなのだろう。

 この中に一つだけ、何か当たりがあるのだろうと三世は考えた。

「この中に一枚だけ、小さな金貨を模倣したビスケットが入っています。それを引いた人は、今日一日この中にいる他の人に、命令をすることが出来まーす!ずっとしてみたかったんだけどね、王家とか貴族のしがらみで今まで一度も出来なかったのよね。ふふ。ちょっとドキドキするわ」

 レベッカは嬉しそうにそう言いながら切り分け、皿に載せてみんなに配った。


 全員、食べる前にフォークでケーキを切り開いた。

「俺は外れだ」

 ベルグがそう言うと、レベッカも頷いた。

「るー。残念。私も」

 そうルゥが言うと、シャルトも頷いた。

 そして、三世のケーキにも入っていない。


 三世がソフィの方を見ると、それに合わせて全員がソフィの方を見た。

「……当たり……でした……」

 ソフィはビスケットを両手で持って、恥ずかしそうに全員に見せた。


 ベルグはそっと、今回の為にこっそり作った王冠をソフィの頭に乗せ、跪いた。

 それにレベッカ以外の全員が同じ姿勢を取る。

 レベッカはお腹を圧迫させない為、椅子に座ったままだ。

 全員が傅く様なその様子に、ソフィはおろおろとしだした。


「王よ。ご命令を」

 三世が楽しそうにそう言うと、ソフィは恥ずかしそうに答えた。

「だったら、ヤツヒサさん。明日、いや、今日、パーティが終わって眠り、目が覚めたら、私とデートしてください」


ありがとうございました。

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