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姦しくないけど三人娘1

 

「なんといえば良いかわかりませんが……元気、出して下さい……」

 シャルトはそう言いながら、捨てられた子犬の様な顔をしている狐の獣人、ルナの背中をぽんぽんと叩いて慰めた。

「いえ……良いんです。私のアピール不足が悪いんです……」

 慰められながら、めそめそとして、ルナはそう答えた。

 というよりも、そう答えることしか出来なかった。

「んー?ルナは何で悲しんでいるの?」

 そう尋ねるルゥに、シャルトは答えた。

「――ご主人様と、遊びたかったからですよ……」

 その言葉を聞いて、ぽんと手を鳴らしてルゥは納得した。


 ある日突然、ルナが三世達の住む宿泊施設に遊びに来た。

 無理に時間を作り、何とか接点を、そしてあわよくば的な発想でルナは三世を狙いに来た。

 そして、その日は偶然三世が二人の娘とは別行動する日だった。

 シャルトを奴隷で無く、英雄ルゥの従者として認める特別許可証が発行された。

 日本村の時は、一番偉い人に預けたし、村内のみだったから問題は無かったが、ガニア内では三世とシャルトは離れることが出来なかった。

 ただし、この特別許可証により、三世かルゥ、どちらかと一緒ならシャルトはガニア内で歩きまわれる様になった。

 偶には女性だけで遊ぶべきだと三世は考え、今日は別行動の日とした。


 そして三世は、自分についてくるよりも、同じ獣人で、女性であるルゥとシャルトと一緒の方がルナが喜ぶと考え、ルナにルゥとシャルトを預けて出て行った。

「ルナ、二人のことをお願いしますね?」

 そう思い人に言われ、ルナは笑って頷くことしか出来ず、三世がカエデさんと出かけてから、こっそりと泣いた。


「わかってるんです……私もそれなりに大切な人だって認識してもらっているって……。それは愛では無いですが……」

 そう言いながら、ルナは渡された物を確認した。

 ルナの両手には、片手で持ちきれないほどの金貨が、その重さを自己主張していた。

 数にして十一枚。これを超えない様に、三人で遊んで下さいと言われ、渡されたものだ。

 三世はルゥとシャルトを娘として、そして子供として見ている。

 それに比べ、ルナは他人でかつ、若干二人より大人びて見える為、二人の保護者代わりとして、信頼して金貨を預けた。


「ルゥ様、シャルト様。これ、一日で使い切るくらい、お二人は贅沢に過ごしているのでしょうか?」

 ルナの問いかけに、二人は同時に揃えて、首を横に振った。

「んーん。ヤツヒサが高い買い物をした時以外は、三人で金貨一枚も減らないよね?」

 ルゥの言葉に、シャルトは頷いて同意した。

「はい。この前の贅沢や、この宿以外には、そんなにお金は使いませんね。本がちょっと高価で、三ヶ月で私とルゥ姉の買ったの合わせたら金貨一枚いくかもしれません」

 シャルトの言葉に、ルナは頷きつつ、気になる部分に尋ねてみた。

「この前の贅沢って、何を買ったのでしょうか?」

 それを聞いて、ルゥとシャルトは嬉しそうに、カバンを開けて中を見せた。

「着物を買ってもらったの!」

 嬉しそうなルゥの声に、中の妙に質の良い布を見て、ルナは呟いた。

「良いなぁ……。あの人に服買ってもらえるの……」

 ルナはもの欲しそうな眼差しをしながら、ちょっとだけまた、しゅーんとした。

「……がんばりましょう」

 シャルトの言葉に、ルナはこくんと頷いた。



「というわけで!今日は三人であそぼー!」

 ルゥは宿の外にでて、拳を上げながら元気良くそう言うと、二人も「おー」と応え、同じような仕草を取った。

「んで、今日は何するの?」

 わくわくした様子でルゥがそう尋ねると、シャルトはチラシの様な紙をルゥに見せた。

「ご主人様がいませんし、普段は行かない場所に行きましょう。というわけで、偶然演劇のチラシを見たけたのですが、どうでしょうか?」

「良いね!行ってみよ!」

 ルゥは二つ返事で同意した。

 ルゥは二人の前を歩き、シャルトとルナは、その後ろに付いて歩いた。

 シャルトはこっそりルナにアイコンタクトを送り、ルナはそっと頷いた。


 そう、【偶然チラシを見かけた】などと言うのはシャルトの真っ赤な嘘だ。

 ずっと前からこの機会を狙っていて、そして今日それを実行しただけに過ぎない。

 そして、アイコンタクトとチラシの内容から、ルナもそれを理解し頷いた。

 今回のシャルトの狙いは、ルゥの情操教育だ。

 つまり、【姉の恋愛感情を目覚めさせる】

 それこそがシャルトの狙いであり、そしてルナにも都合の良い展開だった。


「つまり、ルゥ様を最初の妻として扱い、次にシャルト様、そして私が愛人ポジにつけば良いのですね?」

 小さい声でルナはそう呟いた。

 本当に小さく、獣人のルゥにも聞こえないほどの声だった。

 シャルトはこくんと頷いた。

 獣人のハーレムは女性優位であり、そこに序列は付かない。

 強いて言えば、男性が下。それだけである。

 愛人ポジと言うのは、ただのルナの趣味だ。特別な枠だと、より可愛がってもらえるかもしれないという、打算もある。

「ただ、今はこの三人ですが、参戦したら必ず、正妻であり、最初の妻を持っていくであろう人がいます。そこだけはお覚悟を」

 シャルトは、確実に強敵でかつ、絶対に叶わない一の存在をルナに告げた。

 シャルトは信じていた。彼女なら、絶対に、ここに参戦し全てを攫っていくと。

「お二人よりも強い絆で結ばれた人など信じられませんが、いるのですね?」

 ルナの質問に、シャルトははっきりと頷いた。



「二人とも!早くいこーよ。足を止めてどうしたの?」

 少し先に居るルゥが手を振ってそう叫んだ。

 それに気付いた二人は、慌ててルゥを追いかけ、ルゥはもうはぐれない様にと二人の手を握った。

 その手は思った以上に暖かく、そして優しくて、ルナはシャルトがルゥを姉と呼ぶ理由を、少しだけ理解した。


 そして数十分ほど歩くと、目的の場所についた。

 他と同じく、白い建造物ではあるが、周囲に踊り子の様な人達がチラシを配っているので、すぐに見つけることが出来た。

 三人は手を繋いだまま中に入り、奥に進んだ。

 建物の中は人に溢れていた。

 その中には当然、男の人も多く混じっている。

 ただ、不思議なことに、シャルトもルナも全然怖くなかった。

 怖いと感じるより先に、ルゥが手をぎゅっと硬く握った。

『大丈夫だよ!任せて!』

 その握った温かい手から、ルゥがそう言っている様に二人は感じ、心が乱されることは無かった。


「すいません。獣人三人ですが、よろしいでしょうか?」

 シャルトは、チケットを持っている女性にそっと尋ねた。

「あー。うん。大丈夫なんだけど……」

 そう言いながら、チケットを持っている女性は、シャルトにちょいちょいと顔を寄せる様、指示した。

 シャルトは言われるままに、女性に顔を寄せた。

「悪いんだけど、後ろの席に行ってくれないかな?獣人って目と耳良いから多少遠くても見えるよね?後ろの席が全然売れなくて」

 そう、女性は困った顔でシャルトに頼んできた。

 シャルトは後ろの二人に相談する様、振り向いた。

「私は大丈夫。耳は言いし目はこれあるし」

 ルゥはそう言いながら、めがねを指差した。

「私も大丈夫です。耳は元から良いですが、目は魔法使えば視力強化できますし」

 ルナもそう言った為、シャルトは頷いた。

「わかりました。では、出来るだけ近くに人がいない席をお願い出来ますか?最後方でも構いませんよ?」

 そう言うシャルトの言葉に、チケットを渡しながら、女性は嬉しそうに泣いていた。

 よほど、後ろの席は売れてないらしい。


 劇場自体は地下にあり、階段を下りてその場所に行くと、三人はその広さと大きさに驚いた。

 その劇場の広さは予想以上で、上の建造物の五倍以上の大きさを誇っていた。

 真っ暗になっていて、隣の客の顔すら見えず、光っているのは舞台の上のみ。

 一番後ろの席だと、人の目からなら、役者は豆粒程度にしか人は見えず、来ても何も楽しめないだろう。

 もっとも、獣人にとっては特に問題無い距離だったが。

 そのおかげで、最後方の席には周囲に誰もおらず、がらんとしていた。

 ルナもシャルトも、人を気にせず安心して座ることが出来た。

「ルゥ様。見えますか?しんどいなら魔法を使いましょうか?」

 ルナの言葉に、ルゥは首を横に振った。

「ううん。大丈夫、見えるよ。心配してくれてありがとね?」

 ルゥはそう言いながら微笑み、ルナはそれに微笑み返した。


「それで、今日はどんな劇なの?」

 ルゥの質問に、シャルトは首を横に振った。

「わかりません。子供も参加が大丈夫なので、残酷なのでは無いはずです」

 ルゥは「そっかー」と応え、わくわくと舞台が始まるのを待った。

 もちろん、嘘である。


 シャルトは事前に、そして完璧に調査してある。

 今日の演劇の内容は恋愛の話だ。



 森に迷って泣いている小さな子供が、エルフの集落に偶然迷い込んだ。

 植物に半ば同化していても、エルフは亜人で、人の仲間だ。

 エルフ達は、皆で迷子になった同胞の人である、子供の面倒を見た。

 それと同時に、周囲を調べ、どこから来たのかを探り、子供の帰る場所を見つけた。

 一週間後に、エルフは少年に地図と食料を持たせ、元の場所の近くまで案内して、少年を村に返した。

 一週間という時間は、少年が恋に落ちるには十分な時だった。


 少年が恋をしたのは、エルフの王の娘だった。

 少年とは、身分も、種族も年齢も違う。

 エルフの王女は、美しい人の多いエルフの中でも、特に美人だった。

 少年は、その後何度もエルフの王女に会いに行こうとした。

 だが、会えなかった。

 何故か森に入っても、エルフの集落に巡りあえなかった。


 それから十年後、森に危機が訪れた。

 エルフを攫おうとする盗賊の集団が現れたのだ。

 植物を操り、森の中では強力な力を発揮するエルフでも、人の数に押され、集落に攻め込まれようとしたその直前、別の人間が現れた。

 その青年が弓を持ち、盗賊達を打ち倒していった。

 青年だけでは無く、兵士の格好をした人達が沢山来て、盗賊を全員追い払った。


 その青年は、十年前の少年だった。

 青年は変わった。王女とつりあうために、大人になり、強くなり、そして貴族となった。

 王女はこの日まで、何も変わらなかった。十年というのは、エルフにとっては短い時間だった。

 あっという間に大きくなり、自分に追いついた青年に、王女は恋をした。


 王女と青年は一緒になった。

 もう、王女が孤独を感じることは無かった。



 そんな内容である。

 異種間の恋愛によるハッピーエンドの内容は、ルゥの情操教育にはぴったりだ。

 そう、シャルトは考えた。


 そんなことを考えていると、時間が経ち舞台は始まった。

 舞台の内容は、事前にシャルトが調べた内容と大体一緒だった。

 違うのは、役者の人がオペラ調の歌をいくつか挟んだくらいだ。



 そして終わると、観客席は明るくなり、嬉しそうに体を伸ばすルゥと、頬を赤らめ、ぽーっとするルナが、シャルトの目に映った。

 ――あなたがひっかかりましたか。

 シャルトはそう、心の中で突っ込んだ。


「楽しかったね!」

 ルゥはにっこりと笑いながら、二人にそう言った。

「そうですね。良い舞台でした。ルゥ姉はどの辺りが良かったですか?」

 シャルトの質問に、ルゥは笑顔のまま、応えた。

「最後に皆が笑顔になったのが良かったね!やっぱり最後は皆笑わないと!」

 そう、ルゥは力説した。


「ルナはどこが楽しかった?」

 ルゥは、ぽーとしているルナに、そう尋ねた。

「えっとですね……。最後にエルフの王女が恋に落ちて、青年と両思いになったと思ったら、こう、胸がきゅーっとして……」

 エルフの王女とルナの外見は、多少似ていた。

 長い金髪に、大人びた外見のエルフの王女に、ルナは感情移入していた。

 ぽーっとなりながら、手を胸の前に組んでいるルナに、ルゥはうんうんと良くわかって無さそうに頷いた。

 そんなルナに、シャルトは溜息を吐いた。

 自分も感情移入して、胸がときめいたことを棚に上げて。


ありがとうございました。


砂糖を吐く人が出ると、とても嬉しいです。

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