超低次元サッカー
キックオフと同時に、意気揚々と突っ込んでくるルゥとシャルト。
ゴールはベルグ一人に任せる作戦だろう。
「いくよシャルちゃん」
楽しそうな声をあげながら、ルゥは赤のパペットを操作する。
赤のパペットはルゥの指示通りに動き、ボールを蹴りながらこちらのゴールめがけて来た。
そして、そのまま転倒した――。
「あり?」
呆然とするルゥに、更に喜劇が起こる。
ボールにぶつかり自壊する赤のパペット。その衝撃で、紫のパペットの足元に、ボールが転がってきた。
観客は一瞬だけ静まり返り、次の瞬間爆笑に包まれた。
ゲラゲラ楽しそうに笑う観客し、少し恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべるルゥ。
『これがパペットです。操作ミスではありません。よくあることなのです。お客様、これで笑っていたら、お腹が保ちませんよ?』
アナウンスの様な声が、拡声器を通じてステージ全体に響いた。
客のテンションと期待が斜め上に高まっていくのを、三世は感じた。
「あの、ボール……どうしよう……」
突然ころがってきたボールに戸惑い、おろおろとしながら、ソフィが尋ねてきた。
三世は、白のパペットを前に移動させながら、言った。
「パス下さい。ゆっくりで構いません」
ソフィは頷き、紫のパペットに、丁寧にボールを蹴らせ、三世にパスを回した。
「お、良いね」
グラフィはそれを見て呟いた。
ただボールを蹴るだけでも、パペットの操作は難しいからだ。
今回、三世、グラフィ、ベルグの三人には大きなアドバンテージがある。
それはパペットの熟練度の差だ。
低装甲、低火力、低速度の人形で、格闘のテストを幾分も重ねてきた三人は、相当な経験を蓄積していた。
白のパペットは歩きながらでも、器用にドリブルをして前に進んだ。
走るといざという時制御出来ないから、いざという時以外は歩いた方がパペットは安全に操作出来るからだ。
「ソフィさん。横についてください。パスを回します」
連携をとろうとする三世にソフィは頷き紫のパペットを前に移動させる。
それを、黒のパペットが割り込み妨害に来た。
前に進めず、止まる白のパペット。
カバーに困り、おろおろする紫のパペット。
一歩も動かせ無い様に立ち向かう黒のパペット。
そして白と黒の二人は結ばれ、灰色の残骸に変わった。
当たり前なように衝突し、二体ともその場で自壊した。
その綺麗に崩れる様は、トランプタワーの様で、客も楽しそうに声をあげた。
これこそが、パペットの魅力だった。
思い通りにならない、突然崩れる。
操作性自体は悪くなく、乾いた木の音を響かせながら、思い通りに動く人形はとても楽しい。
その上、本体が恐ろしいほどに弱く、角の無い丸みを帯びた人形の為子供にも優しい。
更に、動くさまから自壊するところまで、その動作は一種のコントの様で、遊んでいない人でも、見てて笑える。
玩具としてのスペックは非常に高いだろう。
――一体くらいティールにお土産で持って帰れないだろうか。
三世はそんなことを考えた。
白と黒がぶつかりあった衝撃で、ボールはころがり、黄緑のパペット、相手陣地奥にいるベルグの元に転がっていった。
「二人共、構えろ」
ベルグはそう呟き、ボールを高く蹴り上げた。
絶妙なコントロールで、こちら陣営に入り込んでいた赤いパペットの傍に、ボールはぴったし落ちた。
赤いパペットは足でうまくボールをトラップし、そのままこちらのゴールに歩を進めた。
三世は白のパペットを操り、赤のパペットの前進をとめる為に歩を進めようとするが、黒のパペットが白のパペットの前に立ちはだかった。
シャルトはルゥの動き方をみて、サポートの為に三世一人をマークしていた。
動けない白のパペットを横目に、赤のパペットはゴール前に進み、グラフィ操る青のパペットと対峙する――。
そのまま赤のパペットは、青のパペットの横を抜ける様に、ボールを蹴り飛ばした。
青のパペットは、無理やりボールを足で弾いた。
青のパペットにボールが当たる。
木製のパペットは非常によく弾み、バインと跳ね返りボールはルゥに戻った。
「あぶねっ。自壊しなかったのは運が良かったな」
グラフィはそう呟き、再度のシュートに構えた。
赤のパペットは、もう一度シュートを撃とうと構え、青のパペットも受け止める構えを見せる。
そして赤のパペットは、ボールをゴールでは無い方向に軽く蹴った。
そこには黒のパペットが待ち構えていた。
白のパペットをマークしていた黒のパペットは、赤のパペットの行動にあわせ、マークを中断してゴール後ろを取っていた。
それにあわせてルゥはその方向にフェイントをかけてパスした。
そして、黒のパペットはがら空きのゴールにシュートを放った。
が、外枠に当たりボールは外野に出た。
三世、グラフィ、ソフィは小さく安堵の溜息を吐いた。
「予想外に、サッカーっぽくなってますね……」
三世はそう困った様な顔で呟いた。
思ったよりもしっかり動けているし動きも良い。
ルゥとシャルトの連携に、三世は嬉しくも微妙な気持ちになった。
「外野に出たらどうするんだ?」
グラフィの質問に、三世は答えた。
「落ちた場所から、最後に触れたチームじゃない方が投げます」
そう言いながら、三世は白のパペットを操作して外野に歩かせボールを持ち上げた。
物凄く大雑把なルールだが、三世の知識だと、これ以上の答えは無かった。
仕切りなおしで、白のパペットは紫のパペットにボールを投げ、紫のパペットは受け取りそのまま相手のゴールを目指した。
白のパペットは紫のパペットをカバーする様に行動し、お互いパスを出し合いながら前に進み、相手陣地に切り込む。
赤と黒のパペットも、こちらに合わせるように後退し、黄緑のパペットと共に守備を厚くした。
白のパペットは、うまくパスを使い、赤と黒のパペットの後ろにボールを飛ばし、紫のパペットはそれを受け取った。
慌ててシャルトは、黒のパペットを操作して止めようとするが、白のパペットが黒のパペットをさきほどとは反対にマークし通行を止めた。
黒のパペットは止まれず、白のパペットと共に自壊し、ゴール前は紫と黄緑の一騎打ち、ベルグとソフィの親子対決になった。
じりじりとゴールに近づく紫に、両手を広げ待ち構える黄緑のパペット。
王と王女の正面衝突に、観客は固唾を飲んで見守った。
なかなかシュートを撃たない紫。
撃たない、というよりは撃てなかった。
どうやってもゴールを抜けられる気がしない。
「ソフィさん。とりあえずやってみましょう!」
三世の応援に、ソフィは頷き、紫のパペットは隙間めがけてシュートを叩き込んだ。
読んでいたのか、それとも見て間に合ったのか。
黄緑のパペットは紫のシュートを手で弾いて止めた。
弾かれたボールは宙に浮き、それを白のパペットは胸でトラップして受けとめた。
「ぬっ!?」
慌てるベルグに、三世はにやっとした表情を浮かべる。
ソフィの期待の眼差しとベルグの焦りを三世は感じた。
黄緑のパペットは白のパペットの前に突っ込み、白のパペットは崩れかけた体勢を整えるため、一歩前に出る。
そしてそのまま、二体のパペットは正面衝突した。
「あ」
三世とベルグは同時に呟いた。
その様子を、観客は何か高度な試合展開があったと感じ拍手を送った。
「あちゃー」
ソフィは小さくそう呟いた。
ボールはころころと外野の方に転がっていった。
外野に出る前に、黒のパペットはボールを止め、そのままこちらのゴール前に蹴り飛ばした。
そこには赤のパペットが待機していた。
「まずっ。援護援護!」
グラフィがそう叫ぶが、白はまだ自壊の復帰中で、紫も相手ゴール前。
今度は逆に、赤と青の一騎打ちになった。
紫は何とか戻るために走るが、赤のパペットとの距離は遠い。
赤のパペットはゴール前に走り、シュートを決める為に足を構えた。
赤のパペットは、走りながら、そのまま足を上げた。
それはパペットに耐えられる姿勢制御の域を超えた行動だった。
慌てて、動作を一つずつこなせなかったのだろう。
赤のパペットは、そのままずるっとすべり、ボールを巻き込み、自壊した。
前にベクトルが加わった状態での自壊の為、崩れながら前に転がってくる赤のパペット。
そして、正面には青のパペットがいた。
「は?」
そのまま青のパペットに自壊した赤のパペットがぶつかり、青も自壊する。
巻き込まれたボールはころころと転がり、ゴールに吸い込まれる様に入っていった。
「は?」
グラフィの小さな呟きは、観客の声にかき消された。
「一点取られたね……」
点数が動いて盛り上がる観客の中で、ソフィは小さく呟いた。
「申し訳ねぇ」
悔しそうにグラフィは呟くが、正直アレはどうしようも無い。
「つーかさ。妙に歓声大きくないか?ルゥちゃんが英雄だからか?」
未だに鳴り止まない歓声とルゥコールに、グラフィは呟き、三世は首を横に振った。
「いや、あの方向の客、全部料理人ギルドの人達ですから……」
三世は観客席で、妙に白い集団の方に手を向けた。
白い集団は、全員料理服とコック帽を被り、旗を振ってルゥを応援していた。
「おおう。応援団持ちとは豪勢なもんだ」
苦笑するグラフィ。
「ちなみに、あっちの兵士はベルグ王の応援団。反対側の兵士はソフィさんの応援団です」
三世はちょいちょいと手を向けてそう言った。
「……釈然とはしないが、俺達が目立たないのはすげー嬉しいな」
グラフィの言葉に、三世は大きく頷いた。
試合に戻ると、赤と黒のパペットは前の試合より後ろに戻り、守備を固めていた。
紫と白で、何とか突破しようと狙うが、ガードを固めきった状態で隙を狙うのは難しく、攻めあぐねたまま、四十五分が経過し前半が終了し休憩に入った。
「結局一点も取れず【0-1】のままか」
ジュースを飲みながら、グラフィはそう呟いた。
「守備に固めたのはお父さんの作戦。だからお父さんはずるい……」
ソフィはやさぐれた様にそう呟いた。
「んでヤツヒサ。お前は何してるんだ?」
三世が紙にメモを取っていることに反応し、グラフィはそう尋ねた。
「ああ。今後の参考にルール変更の問題点をまとめています」
プレイ中にいくつか問題を感じ、次の改善点を纏めて、終わったらベルグに提出しようと三世は考えていた。
例えば、ボールはもう少し柔らかく弾まない方が良い。
木の体のトラップは難しく、跳ねてどこかに転がりやすい。
次に、外野に出た場合パペットを操作して投げるのでは無く、人の手で転がすなどにした方が試合時間の短縮が出来るだろう。
「ああ、それなら俺も一個意見があるぞ」
グラフィがそう言い、
「それなら私も……」
とソフィが乗る。
「わかります。きっと同じ気持ちでしょうから……」
三世がそう言い、その後三人は同時に同じ言葉を口にした。
「次は試合時間を減らそう」
パペットの操作は思ったよりも体力を使う。
予選は一セット十五分の二セット。
決勝で一セット三十分の二セットで十分だろう。
三人は汗を掻いた体で、そう思った。
あっちの陣地を見ると、シャルトだけが疲れていて、ルゥとベルグは平気そうだった。
「それで、どうする?作戦とかあるか?」
三世とソフィはその提案に、首を横に振って答えた。
「んー。多少ダーティにいくか?」
グラフィの提案に、三世は首を横に振る。
「いえ、ソフィさんがいます。王女として出てますから、あまり印象悪いことは――」
「平気……」
三世は言い終わる前に、ソフィは首を横に振ってそう言った。
「良いのか?最悪試合関係無く評判悪くなるぞ?」
グラフィの質問に、ソフィはこくんと頷いた。
「良い。勝ちを目指すのがガニアの王家のあり方。それに……たぶん、そっちの方が得意」
そう良いながら、ソフィは邪悪な笑みで微笑んだ。
三世はソフィの成長を、確かに感じた。
ただし、その成長の方向が正しいのかどうかはわからなかった……。
グラフィは笑いながら、作戦を紙に書いた。
この程度の距離なら、小声でも獣人には聞こえると考えたからだ。
そして、書かれた作戦に三世とソフィは頷き、同意した。
「作戦名は……こうだな」
グラフィは、紙の上部に、作戦名を大きく書いた。
『一点取るまで人形爆弾』
ソフィはそれを見て、小さく笑った。
前半とは反対に、三世陣営のボールで後半が始まった。
さっきとは違い、白と青のパペットが前に出ていた。
パスとドリブルを器用にまぜ前に進む二大英雄。
その協力プレイに、観客は期待の眼差しを向ける。
ただし、内容は英雄どころか悪役プレイになるが。
相手側のコートに入り、動きを止めに来た赤と黒のパペット。
赤は青に、白は黒にマークする。基本的な動きをしてきた。
そのまま青のパペットは、白にパスをして赤に衝突しに行った。
いかにも、パスをミスってこけましたー風に、青のパペットは赤のパペットを自壊に巻き込んだ。
白のパペットはその隙に黒のパペットをドリブルで抜く。
そのまま前進し、白のパペットは後方から走って来る紫のパペットにパスを出した。
それを見て、自壊から復活した青のパペットはゴールを守る為に自陣ゴールに走った。
紫のパペットはそのまま前に進み、ゴール付近に構えた。
黄緑のパペットは紫の方を向いて待ち構え、黒のパペットは紫のパペットからボールを取る為に、近づき迫った。
紫のパペットは囲まれたことにより、シュートが撃てず、立ち止まることしか出来なくなった。
じりじりと迫って来る黄緑と黒のパペット。
更に、赤のパペットもカバーの為、紫のパペットに徐々に近寄ってきていた。
それを見て、ソフィはにやりと笑い、そのままボールをパスして、黒と黄緑のパペットに体当たりをしかけた。
黒のパペットは、それに気付かず体当たりに巻き込まれた。
黄緑のパペットは、最初から読んでいたのか、バックステップで回避し、白のパペットの方を向く。
その場で崩れ落ちる紫と黒のパペット。
そして、白と黄緑の一騎打ちとなった。
卑怯な手段とは何か。
それは単純に自爆を利用した作戦だ。
だが、それは別に特攻だけの話では無い。
特攻だけなら、一対一の交換しか出来ず、効率という意味ではむしろ悪い。
しかし、この作戦は真意は別にある。
【自爆を利用する】
相手にぶつかりに行くのが作戦だと思わせ、真意を見抜かれないのも作戦の一つだった。
赤のパペットが向かって来る前に、白のパペットはゴール反対側付近に、ループシュートを打ち込んだ。
それは綺麗に弧を描いた、理想的なループシュートだった。
ただし、そのシュートは遅く、黄緑の、王の操るパペットにとって止めるのは造作も無いことだろう。
黄緑のパペットは歩いてボールの方向に向かった。
白のパペットから見て、ゴールの反対側、つまり、さっきまで紫と黒のパペットのいた位置になる。
ゆっくりとボールを追い、黄緑のパペットはそのまま、自壊したパペットの残骸に足をとられ、転倒し自壊した。
そしてそのまま、ループシュートはゴールに吸い込まれた。
観客は呆然とした後、小さく拍手をした。
半数はよくわからないで呆然とし、もう半分程度は、卑怯な手段に呆然とした。
ソフィは、ベルグの方を見てにやりと笑った。
「作戦はここまでな。対策取られるだろうし、見ていてつまらない。次は普通に行こう」
グラフィの言葉に、三世とソフィは頷いた。
ただし、ソフィは邪悪な笑みを浮かべたままだ。
「なんというか、似合う様になってきましたね」
三世の呟きに、ソフィは首をかしげた。
――悪そうな笑顔がです。
とは三世は言えず、笑って誤魔化した。
相手も作戦を戻し、赤黒の二人はこちらの陣地にはいって攻撃的に攻めてくる。
こっちは縦三列の基本形で待ち構えた。
どっちもあと一点が欲しく、前のめりに攻めるのだが、どちらも決定打には欠けていた。
膠着状態に近く、お互いシュートがほとんど撃てない状況が長く続いていた。
子供は自壊が減って少しつまらなそうにしていたが、まるで本当のサッカーの様な攻防戦に、大人は楽しんで見ていた。
熱い攻防戦が続くが点は動かず、残り時間が十分を切った時、あの男が動いた。
黄緑のパペットは、赤と黒のパペットを自陣に戻し、単独で、ボールを持ったままこちらに突っ込んできた。
ドリブルをしながら走る黄緑のパペット。
その動きは早く、自壊してでも止めないと――。
そう確信し、紫のパペットは正面に立ちふさがり、当たりに行った。
そして、気付いた時には黄緑のパペットは紫のパペットの後ろにいた。
「え?」
ソフィは小さく呟いた。
黄緑のパペットは、雷の様にジグザグと動きながらドリブルをし、紫の時と同様に白のパペットも抜いた。
それは、本日始めてのまともな意味でのファインプレーだった。
「おいおいそりゃねぇだろ……」
グラフィはそう呟き、青のパペットはゴール前でシュートを防ぐ構えを取った。
そのまま黄緑のパペットは足を上げ、青のパペットはそれに反応し、深く構えた。
そして黄緑のパペットはちょんとボールを横に軽く蹴った。
「げっ!フェイントかよ!?」
黄緑のパペットは一歩横に移動し、隙間の開いたゴールめがけて全力で足を振りかぶった。
そしてそのまま、地面に足を滑らせ転んで自壊した。
バラバラになる黄緑のパペット。
転がるボール。
沈黙する観客。
「……しまった。緊張してつい力んでしまった」
その小さな呟きが、何故か観客全員に聞こえ、観客は静まり返る。
そして、偉大なる我らが王のポカミスに、観客は全員で一斉に爆笑で返した。
自分に笑いの視線が向かい、ベルグは困った表情で頭を掻いた。
それは、王と民の距離が縮まった、決定的な瞬間だった。
しかし、それはそれとして、ソフィはその隙に紫のパペットを操作してボールを白のパペットにパスし、白と紫のパペットは相手ゴール目指した。
「あ、ちょっと待て、ちょ――」
慌てるベルグに、グラフィはにやにやとしながら、自壊した黄緑のパペットを見ていた。
そして、黄緑のパペットが復帰したら、青のパペットで延々と進路妨害をしゴール前に動けなくした。
「ヤツヒサ、王女様!後頼むぞ」
にやにやしながらそういうグラフィに、二人は頷いた。
「くっ。英雄の癖に行動がみみっちい……」
ベルグの呟きに、三世は言葉を返した。
「ご存知無かったのですか?英雄グラフィは元々、何をしても生存するタイプの人間で、ゲリラ戦など泥臭いことの達人ですよ?」
「ぐぬぬ……是非ともうちの軍に欲しい人材だ……」
せっかく落とした評判が、また上がったグラフィは、もう苦笑するしか無かった。
パスとドリブルを繰り返し、ゴール前に移動した白のパペット。
紫はサポートに徹して、白はそのままシュートの体勢に入った。
しかし黒のパペットが白にうまく圧力をかけたせいで、不安定な姿勢のシュートになってしまった。
うまく決まらず、赤のパペットはぽんと手でボールを弾いた。
――シャルトは毎回、こちらの嫌がることを的確に狙ってきますね。
そう三世は内心で考えた。
なんとなく、シャルトの得意分野が、三世にもわかってきた。
赤のパペットに弾かれたボールは、コートのほぼ真ん中付近に転がり、それを紫のパペットが拾った。
その紫のパペットに、赤と黒、白のパペットが向かった。
赤と黒は止めてボールを奪う為に、白はサポートをする為に。
そして、紫のパペットはドリブルしながら走り出し、ジグザグのドリブルで赤と黒のパペット二人を一気に抜いた。
「見様見真似でも、何とかなるもんだね……」
ソフィは、さっきのベルグと同じ動きをしながらそう呟き、がら空きのゴールにボールを蹴り込んだ。
ボールはゴールの奥に突き刺さり、これで【2-1】となった。
「ごめん。良いとこだけとっちゃったね」
ソフィは三世にそう言った。
三世とグラフィは微笑み、ソフィを見た。
「良いんですよ。ないっしゅー」
三世の言葉に、二人は首をかしげた。
「なんだその言葉」
「ああ。良いシュートでしたって意味らしいです。よくわかりませんが」
あまりスポーツを見ない三世は、テレビで聞いた知識を適当に披露した。
正直な話、言ってみたかっただけである。
「なるほど。ないっしゅー」
真似してグラフィはそう言った。
ソフィは少し恥ずかしそうにしていた。
「ないっしゅー」
三世とグラフィの二人は声を揃えてそう言った。
こうして、謎の言葉がここガニアの地で誕生した。
三世陣営は、残り時間は守りを固めた。
ニヤニヤしながら相手をおちょくるソフィとグラフィ。
それに翻弄される相手陣営。
最後は王も攻めに回ったが、うまく攻めきれず時間切れとなり、そのままゲームセットを迎えた。
三世陣営、というよりは、ソフィ陣営の勝利となった。
ありがとうございました。