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異世界転移でうだつのあがらない中年が獣人の奴隷を手に入れるお話。  作者: あらまき
日常への逃避行

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ゲーム開始直前

短いですが、キリつけたらこうなってしまったのでさくっと投下しておきます。

 大まかな、ゲームの方向性は決まった。

 ルールはサッカーをベースに三対三の対戦形式。


 反則をほとんど無くし、ゴール付近に一度に入って良い人数は一人。

 ゴールに入ったら誰でもキーパー判定として手の使用が許される。

 後は、パペット本体の移動速度を考慮し、コートの大きさを半分程度に変更した。


 残り、決めるべきなのは、当日までの参加者だ。

 三対三なので、三世、グラフィチームは一人、ベルグは二人探す必要があった。

 ベルグはさっさと移動していった。相手の当てがあるのだろう。


「さて、あと一人どうするよ?」

 グラフィの質問に、三世は思い悩む。

「二人枠があれば、娘達を呼ぶのですが……」

「それなら俺が退場して、英雄ヤツヒサと娘二人の家族チームで良いじゃないか」

「ははは。御戯れを。英雄グラフィ様を差し置いてなどとてもとても……」

 にっこりと笑いながら言い合うが、そうならないことは二人が一番わかっている。

 もう既に、ベルグが二大英雄チームと銘打って宣伝しているからだ。


 ――ああ。まだぶたさんがいたら話は早いのに。

 あの曲芸の腕ならパペット操作でも生かすことが出来るだろう。

 まあいない人……ぶたさんのことを考えても仕方が無い。


「あー。王女様ってのは、どうだ?」

 グラフィは考えながら、そう三世に尋ねた。

「ふむ。どうしてでしょうか?」

「前そっちのチームにいたし、お前あの子助けて英雄になった――」

「ルゥが英雄になりました」

 三世はグラフィの言葉に割り込み訂正した。

 グラフィはにっこりと笑い、三世もそれに合わせて微笑む。

「あの子助けて英雄に――」

「はい。ルゥが英雄になりました」

「お前がえい――」

「ルゥが英雄に――」

「いやいや」

「いやいや」

 お互い笑顔の無駄な攻防。

 譲れない戦いがそこにあった。


「話が進まん。とりあえず、あの子助けたんだから仲が良いだろ?」

 実際は助けたわけでは無いが、仲が良いのは確かだ。

「そうですね。本人にその気があれば、参加してもらいましょう。ただ、相手を考えたら難しいですけどね」

 三世は苦笑しながらそう言った。

 ゲームでも、あまり遊べない親相手に戦うのは好まないだろう。

 むしろベルグのチームに入るほうが真っ当だ。

 それでも、とりあえず尋ねてみようと、三世は思った。


 ソフィに尋ねて見ると、やはり難しいというか、困った顔をしていた。

「ベルグ王と一緒に遊びたいなら遠慮しないで言って下さいね」

 そう三世が言うと、ソフィは首を横に振った。

「ん。それはどっちでも良いの……けど……。ううん、なんでもない。ヤツヒサさんのチームに参加するよ」

「嫌なら無理しないで良いんですよ?楽しめないなら誰も得しませんので」

 三世の言葉に、横でグラフィがうんうんと頷いた。

「ん。大丈夫。むしろ、父さんを倒すことを考えると、少し楽しくなってくる」

 そう良いながら、ソフィは軽く笑みを浮かべた。

 その笑みは、ほどよく邪悪な笑みで、三世はソフィの成長を感じた。

 良い成長なのか悪い成長なのかはわからないが。


 そのわずか数日後に、城の裏手にサッカーコートが生まれた。

 観客席もしっかりと作られていて、少しだけ実際のサッカーの会場に似ている。


 そしてあっという間に予定が決まり、サッカーの試合当日となった。

 当たり前の様に、観客席は満員になっている。

 三段の階段状になっている客席から見下ろす様に中央のコートを見ていた。

 もう冬にもなろう時期なのに、未だに寒気は一切無く、むしろまだ暑いくらいだった。

 寒冷地であるラーライルと距離が無いのに、こちらは酷く暑い。

 理屈はわからないが、何か理由があるのだろう。


 客達は冷たいエールを片手に、サンドイッチを食べながら、こちらを見ていた。

 ――次はポップコーンも販売してもらおう。

 三世はそう心に決めた。


 三世、グラフィ、ソフィが選手控え室に行くと、自分専用のパペットがカラーリングされて準備されていた。

 ソフィの物は紫が中心に塗装されていて、三世は白、グラフィは青に塗られている。

「んー。王女様の色は髪の色ってわかるが、俺達の色は何でだろうか?」

「うーん。わかりませんね。イメージカラーとも違うでしょうし……」

 おっさん二人は、そんなどうでも良い理由で首をかしげていた。

 その場では理由がわからなかったが、そのすぐ後に、カラーリングの理由は理解した。


 試合が始まる前、お互いのプレイヤーが登場する。

 相手のカラーリングは赤と、黒と、黄緑。

 そして、選手の席の傍にある、こちらの身内用の席に、一人で佇むカエデさん。


 ベルグの選んだ選手は、ルゥとシャルトだった。


 三世とグラフィは呆然としながら、二人を見ていた。

「それでさ、お前あの二人が相手だって知ってたのか?」

 グラフィの言葉に三世は首を横にふった。

「まさか。知りませんでしたよ。そんな態度も無かったですし」

 三世の言葉が聞こえたらしく、向こうの方から大きな声でルゥが返事した。

「今朝呼ばれたから来たよ!楽しそうだったし、遊びたいからオッケーしたの!」

 ルゥは嬉しそうにそう言った。

 その横では、妙に燃えているシャルトがいた。

 どうやら、魔導ゴーレムの時、自分が活躍できなかったことを引きずっていたらしい。


 そしてこの時、三世もグラフィも、とある事実に気がつかなかった。

 ルゥがあちらに参加した所為で、いつの間にかガニアの英雄が三世になっているという事実に……。



「とりあえず、作戦考えようか。ヤツヒサ、何か良い作戦あるか?」

「いえ。全くありません。グラフィさんに任せます」

 三世にサッカーの知識があれば、色々と有利な作戦が思い浮かんだだろう。

 だが、三世はスポーツに興味が無く、特にサッカーはルールすらあやふやだった。

 三世の知ってるサッカー用語は三つ程度。

 ゴールキーパー、ミッドフィルダー、そしてオフサイドだ。

 後は大体、適当である。


「俺がゴール付近にいるから、王女様は先頭、それでヤツヒサは俺と王女様の中央でサポート。これでどうだ?」

 グラフィの指揮に、三世とソフィは頷いて了承した。


「うん。がんばろうね……」

 小さい声だけど、確かにソフィは、はっきりそう言った。

 三世とグラフィは笑いながら頷いた。

「おう。せっかくの貴重な機会だ。全力で勝ちに行くぞ」

 グラフィの言葉に、ソフィは嬉しそうに頷いた。

「全力で、遊びましょう。そして、ベルグ王にひと泡吹かせましょうか」

 三世の言葉に、ソフィはくすっと笑って微笑んだ。



 最初のボールはじゃんけんで決める。

 詳しいルールとかあった気がするが、三世は思い出せなかった。

 ベルグとソフィのじゃんけんという、ある意味貴重な光景に、観客はほんわかした気持ちでそれを見つめた。

 ジャンケンは、あいこが十回近く続き、最後はベルグがチョキで勝利した。


「はは。残念でしたね」

 戻ってきたソフィに、三世はそう励ましの言葉を送った。

「……大人気ないの。動体視力全力で、父さん勝ちにきた……」

 そうとう悔しそうに、ソフィがそう呟いた。

 周囲の優しい親子のゲームとは違い、ジャンケンでも殺伐とした勝負が繰り広げられていたらしい。


 相手チームは、ゴール前に黄緑のパペット、ベルグが待ち構えていた。

「意外ですね。ベルグ王はもっと豪快で、攻めるイメージがあったのですが――」

 三世の言葉に、ソフィは首を横に振った。

「父さんは、とても負けず嫌い。遊戯でも戦いでも、勝つ為なら割と何でもするよ……」

 ソフィは父を冷たい目で見ながらそう呟いた。

 ――そういうところ、ソフィさんとちょっと似てますね。

 三世はそう言おうと思ったが、怒られそうだから止め、代わりにソフィを微笑ましい目で見た。


 ボールを持つ、ルゥの操る赤いパペットと、シャルトの操る黒いパペットが、横一列に並んでいた。

 相手は二人とも、前衛にして間を入れない作戦らしい。


 そして、お互い準備が出来たのを確認した後、審判がホイッスルを吹いて宣言した。

「ゲーム開始!」


 その時、三世はもう一つだけサッカー用語を思い出した。

 ――ああ、キックオフって言葉、教えておけば良かった。

 苦笑しつつ、三世は試合に集中した。

 グラフィも、ソフィも既に集中している。

 どうやら、ベルグ王だけで無く、こちらも皆負けず嫌いなようだ。



ありがとうございました。



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