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本来のゲームから大幅にルール変更したが、超次元には勝てそうにない

 

 ガニアル王国が総力を挙げて製作したパペット。

 そのカタログスペックは研究者達を心底驚かせた。

 斜め下の方向にだが……。


 精密な動作を行おうとしたら、転んで自壊。

 何も無い所で操作ミスもしてないのに、転んで自壊。

 ジャンプをしたら滑って自壊。

 操作自体は思い描くだけだから容易い。のだが、思い通りに動かせず、これがなかなかストレスになる。


 これだけ簡単に自壊するのに、その拳で殴っても、相手は絶対に自壊させられない。

 その全力のパンチを人間に当てても、怪我一つしないだろう。


 最弱のボディに最弱のパンチを兼ね備えた無敵の存在。

 それがパペットだった。

 無敵というのは、敵がいないという意味になるが……。


 その貧弱っぷりとは裏腹に何度自壊しても数秒後にはかならず復活する。

 わざと崩れてダメージを逃がしている様な、そんな不思議な構造になっていた。

 というか、ここ以外に褒める場所が見当たらない。


 この数日間、政務室に通い、パペットについてベルグ、三世、グラフィは相談しあった。


 その時間ルゥとシャルトは、レベッカの所でお話という名前の女子会を開いているので、男三人の協議だ。

 偶に、ソフィが休憩時に飲み物と茶菓子を持ってきてくれるが、それ以外はおっさん同士の悲しい会合になっていた。

 中年三人が玩具をテーマに語り合う。

 恐ろしいほど気持ち悪い光景だが、それはそれで、三世は楽しかった


 ただ、楽しい時間ではあるのだが、話し合いの内容自体は全くと言って良いほど進展しない。


 戦闘方法を色々工夫するなど、色々な議案を出したのだが、どれもしっくり来ない。

 どう足掻いても紙相撲の延長上になってしまう。

 一番マシだったのは、バットの様な武器を持たせて戦わせ、三回ほど相手を自壊させたら勝ちというゲームだ。

 無難に纏まっているのだが、正直それほど面白くない。


 大きな問題点は二つだ。

 一つは、操作性。

 思い通りに操作出来るのだが、思い通りに動かない。

 その不思議な矛盾が、大きなストレスになる。

 特に、戦うといった細かい動作を求める場合はそのストレスが大きい。

 自由に移動させると、ラジコンの様で楽しくはあるのだが……。


 二つ目は、単純に自壊によるストレスだ。

 操作ミスを一切していないのに、転んで自壊。これがまたゲーム中にイライラが加速する。

 しかも戦闘系のゲームの場合なら自分が転んでも自爆点で相手に加点される。

 審判をつけて、転倒や操作ミスの自壊をノーポイントにしたとしても、ストレスは緩和出来ないし、何より何のゲームをしているのかわからなくなる。


 もう少し操作性と耐久力が向上したら全ての問題は解決するのだが、これ以上は難しいらしい。

 今の状態ですら、奇跡の産物以外の何物でもないそうだ。


「どうしたもんかねぇ」

 グラフィの呟きに、三世とベルグは短く唸り声をあげた。


 議題が行き詰まり、一向に話が進まなくなった時に、ソフィが紅茶とクッキーを持ってきた。

「お疲れ様……。どう……?」

 そう尋ねるソフィだが、三人の顔をみたら答えはすぐにわかった。

「日常生活レベルの衝撃でも自壊するのに、攻撃は相手を自壊されられないほどの威力しか出せない。どうやって戦闘したら良いのでしょうねぇ」

 紅茶を飲みながらの三世の呟きに、ソフィは答えた。

「無理に戦わないで良いんじゃないの?」


「え?」

 三人は声を揃え、小さくぽつりと呟いた。

 ……。

 沈黙が流れ、ソフィは不思議に思い首をかしげた。

 おっさん三人は、目から鱗が落ちた様な、呆然とした表情を浮かべていた。

 口をぽかーんとあける間抜け面のおっさん三人をみた時、ソフィは笑いを堪えるのに忙しかった。


「そうだよ。別に戦う必要無いじゃん!何で戦いに拘っていたんだ俺ら……」

 グラフィの発言を皮切りに、三人は思いの丈をぶつけ合った。

「うむ。そもそも、戦闘用の失敗作に戦闘をさせようって案自体、無理に決まっている」

 そういうベルグに、二人の男は頷いて同意した。

「何でわざわざ木製バットを作ってまで協議してたのでしょうか。ただの遊びなら幾らでも案が出るのに」

 わいのわいのと盛り上がってきた男三人を、ソフィは冷たい目で見ていた。

「男って、一体何なんだろ……」

 玩具に夢中になるおっさん三人を見ながら、ソフィはそう呟いた。



 そして、三世は色々と試してみた。

 運動会の鉄板である大玉ころがしや玉いれ、綱引き。

 それどころかバトンリレーや組体操すら、ゲームとして成り立っていた。

 本来の競技と違い、自壊することが逆にゲームらしさを引き合げ、盛り上げる要因になっていた。

 更に、ゆっくりとした動作ならそれなりに精密作業も可能らしく、戦闘ではわからなかった楽しさも再発見できた。

 組体操の三人タワーをしながら、おっさん三人は頷いた。


「そうだよ!こういうので良いんだよ!」

 グラフィはそう叫び、王は満面の笑みを浮かべた。

 王の全開の笑い顔は、レベッカですら数回しか見たことの無い、極めて希少な表情だった。


「それで、どんな遊戯にする?」

 ベルグは二人にそう尋ねた。

 今度は逆に選択肢が増えた為、何でも出来る。

 今回はパスだが、その全てを繋げて、パペット運動会を開くというのも、ベルグは考えていた。


「サッカーをしましょう」

 三世は悩んだ末、運動会種目を避けた。

 楽しいのは間違い無いが、ゲームとして見るならやはりわかりやすい物が良いと考えたからだ。

「サッカー?」

 ベルグとグラグィが声をハモらせ尋ねた。

「はい。サッカー。ボールを蹴ってゴールに入れるゲームです」

 三世はにっこりと答え、基本的なルールの説明をした。


「つまり、ボールを蹴って相手のゴールに入れたら勝ちの集団戦か」

 グラフィの答えに三世は頷き、ベルグは何やら唸る様に頭を抱えた。

 必死に昔の記憶を呼び覚ましているらしい。

「あー。昔そういう遊戯を聞いたことがある。ガニアでは流行らなかったが、稀人の持ってきた遊戯の一つにあったような……」

 誰でも遊べるし、流行ると思ったが、何かが原因で流行らず廃れた文化らしい。


「といっても、細かいルールは全く違いますけどね。パペットですので」

 そうして、三人で試行錯誤しながら細かいルールの設定を考え始めた。


 まず、接触のファールやチャージなどの反則判定は無しになる。

 何故ならパペット同士だと大体ぶつかりあうからだ。

 その上、全員が貧弱だから反則判定はほとんどが意味を成さなかった。


 次に、オフサイドも無しになった。

 何故ならパペットの移動速度だとグダグダになってそれどころでは無いからだ。

 オフサイドトラップを叫びながら、のたくた歩くパペットを見たくは無いし、取り残されてしょぼーんとするパペットも見たくない。

 代わりに、ゴールゾーンに入って守備をしていいのは一体のパペットのみとなった。


「こういうゲームを作る工程って、ちょっと楽しいですよね」

 ぼそっと三世の呟きに、二人は頷いた。

「わかる」

 ベルグは小さく、そう呟いた。


「ルール作りも良いが、もう一つ考えないといけないことがあるぞ」

 グラフィはそう呟いた。

「何でしょうか?」

 三世はグラフィの方をみてそう尋ねた。ベルグも、グラフィに注目した。

「誰がパペットを操るか。もっと言えば、参加者はどうするかだな」

 グラフィの言葉に、二人は「あー」と声をハモらせた。

 誰もそこまで考えていなかった。


 魔導ゴーレムと同じ様に、今回もパペットのお披露目が中心となる。

 ただ、魔導ゴーレムと違い、量産のめどが立っているパペットは、無理に大会形式にする必要は無い。

 今回はただのデモンストレーション。

 つまり、一試合だけをして、パペットと、その遊び方の一例として紹介するのが目的だ。

 大会は、もっと人に人気が出てからで構わないとベルグは考えた。

 必要なのは、その紹介と、魅力があると知らしめることだ。


「今回は一試合のみでの説明だから、事前に遊戯を知っていて、国民に人気のある人物が参加者には望ましいな」

 そう言いながら、ベルグは二人の方を見た。


 つまり、ベルグは三世とグラフィのリターンマッチがお望みということらしい。

 そうはいくかと三世は考え、グラフィの方をちらっと見る。

 考えが伝わったらしく、グラフィは頷いた。


 アイコンタクトのみで気持ちが通じ合う三世とグラフィ。

 以心伝心の関係、それは、お互いが何が嫌かを知り合っているからこそ、出来る芸当だった。


「それなら、一番出場すべき人がいますね」

 三世の言葉に、グラフィは若干オーバーに何度も頷いた。

「世界最強の王。ゲームの参加者にはもったいないが、間違い無く、国民は喜ぶだろうな」

 グラフィの言葉に、三世はうんうんと何度も納得した表情で何度も頷いた。

「そ、そうか。なら俺が出るか」

 そう呟きながら、ベルグは少し嬉しそうだった。


 ――これで王が片方のチームに出るなら、私(俺)は参加しなくて済みそうだ。

 奇しくも、二人の考えは完全に一致していた。

 後はどうやって、相手に押し付けるか。そう考えている時、ベルグが二人に言った。

「だったら、二国の英雄チームと、俺の主体になるチームに分かれるのが、一番客から見栄えが良い形になるな」

 にやっと笑いながら、ベルグはそう言った。


 ――やられた。

 三世とグラフィは、同時にそう思い、ベルグの真意に気付いた。

 ベルグは最初から、こっちの考え、押し付けようという気持ちに理解していた。

 その上で、二人の考えを完全に読み切り、自分の考えに誘導していた。


 最初から、二大英雄のチームを作ることがベルグの目的であり、三世達はその方向にまんまと誘導されていた。

 口数は少なく、正直な男であるが、それでも、やはり王は王だ。

 悪巧みで三世やグラフィが勝てる相手では無かった。


 苦笑した顔を浮かべながら、三世はグラフィの方を向いた。

 やっぱり、同じ様な顔をしていた。

ありがとうございました。

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