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平穏な日常の中の、大きな不満


遂にポケモン初代と同じ数になりました。

これからもお付き合いくださると嬉しいです。

 

 感情というものは、どんな人にだってあり、それは制御することが出来ない。

 善人だろうと、悪人だろうと、己の感情には振り回される。

 感情を抑えて生きることは出来るだろう。

 だが、それは生きていると言えるのだろうか。

 故に、その者は感情を抑えないと心に決めたのだ。


 自分は誰よりも気高く、誇り高く生きているという自負がある。

 多くの人の命を救ったし、尊敬も集めてきた。

 国の役人ですら、自分には敬意を払う。


 そんな自分だが、今酷く怒っている。

 これは正当な怒りだ。つまり、それを解消することは間違いでは無い。

 そう、最近露骨に構ってもらう頻度の減ったカエデさんは、人生で初めて、怒りに身を任せたわがままな衝動に走った。



 それは突然のことだった。

 ドロシーがシャルトの講義をしていて、その横で三世とルゥがじゃれあう。

 三世とルゥも色々教わってはいるが、メインはあくまでシャルトだ。

 苦戦しているという意味でも、潜在能力という意味でもシャルトに多くの時間をかけた方が有意義だからだ。


 そんな中、どこからか疾走してくる白い馬を三世は見た。

 高速で駆け寄り三世の傍まで来て、ひょいと前足を器用に使い三世を背中に乗せ、疾走した。

 ぽかーんと口をあんぐりあけて固まるルゥとシャルト。楽しい事の気配にわくわくするドロシー。そして逃げ去るカエデさん。

 追いかけなければいけないと気付き、ルゥとシャルトは慌てて二人を追いかけ、ドロシーはそんな二人を楽しそうに追いかけた。

 三世はカエデさんの背で、何が起きたか理解出来ず、呆然としていた。



 牧場の世話をして、獣医をやってと色々していると、動物の気持ちというものは何となくわかってくる。

 特に、付き合いの深いカエデさんだ。背中に乗っているだけで、その気持ちが伝わってくる。

 怒りや、悲しみ、嫉妬。そんな感情だが、本音はそこでは無い。

 直接伝わってくる。たった三文字の感情。

『かまえ』

 たったそれだけ。だけど、何よりも強く自己主張するその感情は、確かに三世に伝わってきた。


 本気でこちらを追いかけてくるルゥとシャルト。

 それに、追いつけない程度の速度で走るカエデさん。

 走り去ることも容易なはずなのに、距離は開かない。

 恐らく、カエデさんは罪悪感から速度を出せないでいるのだろう。

 ちなみに、ドロシーは満面の笑みを浮かべたまま、ルゥの横で並走していた。

 呼吸一つ乱さずに走るその姿は、若干恐ろしかった。


「ドロシーさん。二人の事お願いしても良いですか!?」

 三世は後ろのドロシーに叫ぶ。

「はいはい。報酬はー?」

 それだけで何となく理解したドロシーは、三世に対価を要求する。

「今晩、フィツさんの所で全員分の食事!ではどうでしょうか!?」

 ルゥ、シャルトはもちろん、ルカもマリウスも入れてという意味だ。

 幸いな事に、最近予算に困ったことが無い。


「おっけー!」

 ドロシーは見えやすい様に高く手を挙げ親指を立てた。

「ルゥ。シャルト。私は少し出かけてきます。後はドロシーさんに任せました!」

 そう叫ぶ三世に、理解が追いつかない二人。

 そしてドロシーは、そんな二人を抱きしめて転ばせ、三人は草むらでごろごろと転がりだした。

「じゃあ、いってきますね!」

 三世とカエデさんは、草原で草塗れになる三人に手を振りながら走り去っていった。



 久しぶりの二人の時間になった。

 これこそが、カエデさんの欲しかった静寂な時間だった。


 昼間の晴天にもかかわらず、もう暑くない。

 むしろ少し肌寒い位の気候だ。

 青々しい草原と強い日差しは、未だに夏を思わせる。

 しかし、この冷たい秋風は、確かに夏の終わりを示していた。


 風が吹き流れる音と、草むらの揺れる音。

 それだけの中で、二人の大切な時間を感じていた。

 といっても、人というのは欲張りだ。

 安らかな時間を楽しんでいると、今度は退屈だと思うようになる。


「さて、カエデさんどうしましょうか?久しぶりに全力で駆け抜けますか?」

 自分もだが、カエデさんもそろそろ走りたいだろうと感じ取った三世。

 カエデさんは、そんな三世の提案に、ブルルと嬉しそうに鳴き声を上げ了承した。


「それじゃあ、行きましょうか」

 三世は前かがみになり、しっかりと踏ん張る。

 それを確認したカエデさんは、草原を駆け抜けた。

 風の音の世界。視界が徐々に狭まる。

 それでもまだ、速度を上げていくカエデさん。


 ――また前の様に、誰もいない本当の二人だけの世界に。

 カエデさんのその思い、とは裏腹に三世はカエデさんの背を叩きストップの合図を出した。


 若干不機嫌に足を止め、ゆっくり振り向くカエデさん。

 背に乗っている三世は、申し訳なさそうに一言呟いた。

「すいません。これ、寒くてあまり早く走ると、たぶん死にます」

 三世の顔は酷く冷たくなっていた。


 秋風と言っても侮ったらいけない。

 こちらが早くなればなるほど、それは驚異的にこちらを襲ってきた。

 きっとこっちの人なら、この位の寒さ訳無いのだろう。

 しかし、北の国生まれでも何でも無い三世には、耐えられない寒さだった。


「カエデさん。何とかなりませんかね?」

 三世の問いに、カエデさんは自信満々に大きく鳴いた。

 その瞬間、三世の回りが急に温かくなりだした。

「おおー。そんなことも出来るのですね」

 三世の賞賛の声に、カエデさんはふんすと大きな態度を取った。

 その仕草は『褒めろ』と言ってる様に三世は感じ、微笑みながら頭を撫でた。

 ぶるると嬉しそうに身震いし、カエデさんはまた、走り出した。


 走っても、三世の回りに纏われている暖気が逃げることは無かった。

 代わりに、流れる風はあまり感じない。まるで車の中に居るみたいな感覚だ。

 それと同時に、この状態だと前みたいな全力疾走は出来ないらしい。

 それでも、普通の馬の倍以上は速いカエデさん。

 二人は優雅に走り回り、自然と乗馬を楽しんだ。


 だが、一つだけ大きな誤算があった。

 暖房の入った快適な空間で、二人だけの楽しい散歩。

 草原の靡く音。僅かな枯れ葉の散る音。全てが楽しい。

 五感全てで楽しめる。最高の乗馬の時間だった。


 が、とても喉が渇いた。

 暖房が思ったよりも強く、水分補給もせずに出たため、三世の喉は水分を求めていた。

「あーあー。ごほっ。すいません。一回戻って飲み物を取って来て良いですか?」

 三世のしゃがれた声に、カエデさんは申し訳なさそうにカエデの村に入った。


 村に一旦戻り、水をしっかり飲んで、念のため水筒を用意し、村の入り口で待たせていたカエデさんに乗り、また乗馬の時間を再開した。

 そうしたら、村の方から、大きな白い毛玉の様な存在が三世の方に迫ってきた。

 それはシロだった。

 もっふもふの超大型な獣。そして構ってもらえず限界が来たセカンド。

 真っ白い毛は愛くるしく、カエデさんと並ぶと更に白が引き立つ。

 逆に、カエデさんは白の様で銀に近く、シロと並ぶとより美しく見える。



 カエデさんは、なんやかんや言って一緒にいる時間もあったし、コルネがちょくちょく様子を見に来ていた。

 一方、シロは食事の時以外は、三世ともあまり話しておらず、遊び足りない為、遂に我慢の限界に来ていた。

 その酷く悲しそうな瞳は、カエデさんすら邪険に扱えず、散歩に同行者が追加されることとなった。


 カエデさんの横を並走するシロは、とても楽しそうにしていた。

 へっへっへっと一心不乱に走るシロは、犬そのもので、とても獣人にも狼にも見えない。

 三世のスキルですら、シロの正体は良くわからない。本当に未知の生き物だった。

 一つだけわかるのは、寂しがりだという事くらいだ。


 シロを見た人が驚かない様に、人気のなさそうな所を走る三人。

 三人なのか一人と二匹なのか良くわからないが、とりあえず三人にしておく三世。

 その時、突然崖の上から巨大な岩が三世の居る場所に転がってきた。

「シロ、バック!」

 三世は叫び、自分も立ち止まり後ろに引いた。

 轟音を立てながら、三世がさっきまで居た位置に大岩が転がり込んできた。

 雨も降らず、近場に川も無いのに切り抜かれた様に綺麗な丸い岩。

 どう考えても自然発生した岩には見えなかった。

 三世は岩が転がってきた崖の上を見た。

 ガサガサと音を立て、数人の男達が現れてきた。

 その顔は例外なく、品の無い笑みを浮かべていた。


 大体二十人程度だろうか。

 影の上から三世の方を見てニヤニヤしている男達がいる。

 そして、そのうちの四人ほどはこちらに弓を構えていた。

「おー。生きていたか。こりゃ儲け儲け。おいそこのおっさん!今すぐ馬と……。馬と……なんだその横の……」

 脅迫の言葉の途中で、シロに適切な言葉が思い浮かばなかった男は、微妙に困っていた。

 当のシロは、突然の状況にどうしたら良いのかわからずオロオロしていた。


「まあいいや。馬とその横のでかいのと身包み全部置いていったら命だけは助けてやるぞ」

 立地的に盗賊か山賊か、微妙にわかりにくい集団は、三世を小ばかにする様にニタニタと笑っていた。

「おっさんの全裸とか気持ちわる!」

「そんなことを言うなって。こんな辺鄙なとこに、俺達に物資届けてくれた人なんだから。本当、良い子でちゅねー」

 その言葉に、盗賊達はゲラゲラと笑い出した。

 地味にカエデさんが怒っていらっしゃるのが、三世にはわかった。

 盗賊はそんな状況でも、三世に弓を向けたままだった。


 三世は盗賊達を観察した。

 その場慣れした様子に加え、服装や装備は非常に質が良い。

 それはつまり、それなりにうまくやってきたということだ。

 人の命を奪い慣れ、人を見下すのに抵抗が無くなった人達。


 三世が今まで見てきた盗賊は、盗賊風の善人か、貧乏で食うに困った人達の二種類しか見たことが無かった。

 それ以外の性質の悪いのは、大体騎士団が処理をしているらしい。

 そして残念ながら、その処理逃れに鉢合わせてしまった様だ。


 盗賊達は真っ当に油断していた。

 何故なら、三世の格好がただの村人そのものだからだ。

 ドロシー先生講義用の格好の為、汚れても良い普通の村人の服。

 盗賊達から見たら、鴨が葱をしょってやってきた様にしか見えなかった。


 崖の上という一方的に有利な条件で、矢まで向けている。

 しかも相手は一般人。危険ということを、全く考えていなかった。


 三世はイライラしているカエデさんの頭を撫でて宥めながら、溜息を吐き、一言呟いた。

「シロ。ゴー」

 待ってましたと言わんばかりに、シロは嬉しそうに、垂直に近い崖を逆走し、盗賊達に襲い掛かった。

 盗賊達も打ち落とそうと矢を射るが、シロは矢を前足で器用に弾いた。その様子を見て、盗賊は小さく悲鳴をあげる。


 そして次の瞬間。

「ひぎゃああああああ!」

「うわああああああああああ!」

「やめてくれえええええええええええええ!」

 盗賊達は三者三様の悲鳴でオーケストラを奏でた。


 元々シロは国に反乱していた獣人達の仲間だ。

 正規の討伐軍を相手に誰一人殺さずに追いかえしている。

 実戦経験の質と量は、三世の仲間の中でカエデさんに次いで多い。

「ああなってしまうと、シロは止まりませんからねぇ……」

 シロの恐ろしいところは、誰一人大怪我をさせず、トラウマを残すところだ。

 しかも、今のシロは戦ってすらいない。

 ソレに慣れるまでは、三世も少しだけ恐ろしかった。

 シロは、あまがみと人の顔を舐めるのが好きだった。

 ただ、初見でソレをされると、体格差と近づく大きな口から、食われるとしか思えない。


 あっという間に、盗賊達は全員わちゃくちゃにされ、べとべとの唾液塗れで半泣きになっていた。

 べとべと盗賊団。なんてことを考えながら三世は盗賊の方を見ていた。


「シロ。ちょっと人を呼んでくるので、その間盗賊団の人達と遊んでいてもらえますか?」

「わふ!」

 本日で一番良い声で鳴き、シロは盗賊達に突っ込んで行った。

 それ見届け、三世は城下町に走り、騎士団の人を呼びに行った。

 戻って来た時には、盗賊達は全員横たわり、唾液塗れという名の惨劇は更に悪化していた。






 騎士団に盗賊を引き渡し、村に戻るとシロはそのまま寝床に戻って寝だした。

 運動が足りて眠くなってきたらしい。

 これからはもう少しこまめに運動させてあげよう。

 三世はそう思った。


 一方、カエデさんの方はまだ何か言いたそうだった。

 背中に乗っている三世には何となく伝わる。

『甘え足りない』

 カエデさんはそう言っている様な気がした。


 三世は苦笑しながらカエデさんに提案した。

「今日は一緒に寝ましょうか?」

 カエデさんは嬉しそうに大きく鳴いた。


 当初の約束通り、フィツの店で夕飯を済ませ、日課のトレーニングと、娘二人への絵本の朗読を終わらせ、三世はカエデさんのいる馬小屋に向かった。

 じーっとこちらを見ているカエデさん。

 よほど楽しみだったらしい。

 偶になら良いか。

 三世はカエデさんの傍で横になった。

 藁の上とは言え、明日には体が痛くなるのは覚悟しておこう。

 中年には少しつらい環境だな。

 三世は苦笑しながら目を閉じた。


 その日の夢は、何故か美女とデートする夢だった。

 あまり見たことないが、どこかで見覚えのある美女。

 その美女は、走るのが異常な程早かった。


ありがとうございました。

ここまでお付き合い下さり本当に嬉しいです。

といっても、まだ終わりは遠いのですが。


色々な人に、やりたいことが伝わっているとわかり、本当に嬉しいです。

『優しい世界』

これがやりたかったんです。

誰かが死ななくても感動出来る。

王道でありきたりだけど、ワクワク出来る。

子供向けの様な作品に、大人も楽しめる。

そんな話が私は大好きです。


少なくとも、この作品は優しい世界のまま進み、優しい世界のまま終わります。

ただ、優しいけど甘い世界ではありません。

つらいことも、悲しいこともありますし、描写外では酷いこともおきてます。

だけど、辛い時や優しい時に、傍にいてくれる人、慰めてくれる人、助けてくれる人、そして、激励してくれる人。そんな人に支えられ、立ち上がる。

それは主人公だけが特別そうなのではなく、誰でもがそうである。

そんな話にしたいです。


何が言いたいかわからなくなってきた(´・ω・`)

とりあえず、読んでくださりありがとうございます。

これからも読んでくれたら、とても嬉しいです。


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