番外編-この生活で成り上がれます?
サブタイ一新しようか考えましたが、良いの思いつきませんでした。
「第何回目か忘れたし別に反省するわけでも無い反省会の時間ですよー」
小和田修は何時もの様に小さい声でそう呟いた。
「わーわーぱちぱちー」
そして、大類岳人と村井高志はそれに小さい声で呟き拍手をする。
高校生達の拠点。大部屋の隅でわざわざ話し合う三人組。
ここも大分変化があった。
高校生達二十人程度だけで無く、別の転移者を迎えたり、信頼出来る現地の子供達を受け入れたりと、一種の避難所の様な役割を担い、五十人ばかりの大所帯になった。
ここにいるのは、一人で生きられない者達だった。
戦うのが苦手な人達や、親を失って生きるすべを失った子供達。
そして一番面倒なのが、帰りたいという気持ちに囚われた転移者達。
そんな中で一目置かれているのが、彼らすみっこ三人組である。
彼らを利用しようとした瞬間に、全員が連携を取りその者をここから追い出そうとする。
そのくらい、彼らは重要人物扱いをされていた。
斬新な発想と、現代知識を組み合わせ新しい事を行う彼ら。
その上、自分達の手で何度も試行錯誤を繰り返し、それを技術に昇華して周囲に広める。
そんな彼らが、この拠点の頼れる兄貴分であり、守護神でもあった。
だが彼ら自身は、自分達がそこまで頼られていると微塵も思っていななかった。
恐ろしいほどのコミュ障であり、未だに同級生達とうまく会話が出来ない。
その上、新しい人も増え、更にコミュ障が悪化。
小学生程度の、親のいない子供達にすら、話しかけられないほどだった。
だからこっそり、子供達に絵本やジュースを誰ともわからぬ様準備して振舞っていた。
同級生にはバレバレで、温かく尊敬の眼差しで見つめられていた。
コミュ障は悪化の一途で、それに反比例する形で集っていく尊敬の念。
気付いたら、『礼を受け取らない高潔な人物』そんな評価になっていた。
もちろん、三人はそんな高潔な人物では無く、むしろ自分本位でわがままな願いすら持っていた。
『チートを使って楽に暮らし、出来たらおにゃのことイチャイチャしたい』
前半はほとんど叶っているが、全ての技術を周囲に渡していて、後半は自分達から遠ざけていることに、彼らは未だ、気付いていなかった。
「それで、最初の話題は何かね?」
村井がそう尋ねると、小和田は一冊の本を取り出した。
本のタイトルは『英雄譚【太陽の英雄】』
ガニアより生まれた新しい英雄の話で、最近の吟遊詩人お気に入りの話だ。
「この本は?」
村井の質問に、小和田が要約して話し出した。
二人の獣人を連れた男が、お姫様の救出をする為に旅に出て、旅先の盗賊達を改心させ仲間に入れて、見事さらわれたお姫様を救い出した。
救った後に、お礼が何かが良いか尋ねたら、一人の獣人が孤独な王妃と友になりたいと願った。
全て終わった後、助けられたお姫様は男に恋をするが、男は一度も振り向かず、また誰かを助ける為に旅に出る。
よくあるお話の流れに近い。テンプレといえばそこまでの内容。
実際にあったことを題材にしたこの話は、三人にとっては酷く衝撃を受ける内容だった。
「まさか、これはあの伝説の……」
大類の言葉に、小和田は頷く。
「そう、これぞあの伝説の、昭和のヒーロームーブだ!」
例えば。
波止場のでっぱりに足をひっかけて決め台詞を吐いたり。
ハーモニカを吹きながら敵に捕まったヒロインを助けに行ったり。
また、ヒロインを助けた後に、名前を尋ねられても答えず、「俺みたいな奴に惚れたら駄目だぜ」的な事を言ってクールに去っていったり。
そんな昭和作品に似たヒーロームーブに、彼ら三人は陶酔する様に呟いた。
「かっけぇ……」
奇しくも、一言一句全く同じ言葉を、三人は呟いていた。
三人は、映画やドラマを見るのが好きだった。
地球にいた時は、三人で集り、VHSの古い作品から、PCでしか見れない海外ドラマまで、何でも雑食に見ていた。
見た後で、三人で感想を言い合い余韻に浸る。
そんな彼らの憧れる、古き良きヒーローの形が、その英雄譚には書かれていた。
実際はそんな話では無く、徹底的に獣人の子無双の話だったが、彼らはそれを知らない。
「俺達もこんな感じでヒーローになってみたいのぅ」
村井の言葉に、二人は悲しそうに頷いた。
「せやな。でも俺達、コミュ障やん……」
小和田の悲壮感ある言葉に、二人は悲しそうに頷いた。
彼らにとって知らない人、しかも女の子と会話するのは魔族と戦うよりも難易度の高いことだった。
だからだろう。この三人は何度も物語のヒーローの様に、知らない人を助け、名乗らずに去っていっている。
素材集めの途中に襲われていた女の子。盗賊に拉致されかけた商人の娘。
意味も無く道中巻き込まれ、一人も犠牲者を出さず、お礼を受け取らずに帰っている。
それはまるで、正義のヒーローみたいだった。
実際は慌てすぎて助けたことも気付かず、話しかけられて恥ずかしさのあまり逃げただけだが。
故に、三人は自分達もヒーローになっているとは、考えたことすら無かった。
「切り替えて、次の話題、いってみよー」
小和田の言葉に、二人は「いえーい」と悪乗りして答える。
ただし小声で。
「オワタにがっくんよ。楽しい話題とすこぶる楽しくない話題。どっちから話す?」
村井の言葉に、二人は迷わず後者を選んだ。
嫌なことは少しでも早く終わらせたい。給食も嫌いな物から先に食べてた三人。
なぜなら、待っている間が怖く、先に嫌なことを終わらせないと何も手につかないチキンハートの持ち主だからだ。
二人の反応に頷き、小和田は三人の真ん中辺りに、杖を取り出しごとっと置いた。
「はい。ちょーすごいすたっふー」
某国民アニメ風に村井が言いながら取り出した杖。
堅い木製で、緑の蔦が纏わりついている、森の魔法使いとか、そんなファンタジー世界から持ってきたようなそんな杖だった。
三人は、何とも言えない様な複雑な顔で、その杖を見つめていた。
「いい加減、これどうするか決めようか」
村井の言葉に、二人は頷きもせず、固まったままになった。
とにかく扱いに困っているこの杖、正真正銘の魔道具だった。
魔石を求めて、とある山を探索していたら、瘴気により突然のダンジョン化。
慌てて逃げ出していた最中に拾ったのが、この杖だった。
疲れて足が痛くなったら支え棒にするか、そんなつもりで取った杖だが、どうやら魔道具であると判明した。
わかった理由は魔族達がこれを求めて襲ってきたからだ。
後で調べたら、魔族が瘴気により生成した建築物の中には、偶に魔道具が生まれるらしい。
使い方すらわからず、非常に高価という情報を知ってしまい、誰にも言えず未だに死蔵しっぱなしの杖。
だからこそ、どうしていいかわからないまま放置されていた。
「意見ある人ー」
小和田がそう尋ねるが、誰も何も言わない。
いかに希少な魔道具だとしても、チキンハートの前にはただの厄介事でしか無かった。
「じゃあこんな時は……」
小和田の言葉に二人は頷き、何も書いていない紙を杖の傍に置いて、杖を中心に彼らは拝むように五体投地をした。
「マネージャー様ーお助けくだせー。おねげーしますーだー」
そんな小和田の声に二人も続く。
「おねげーしますーおねげーしますー」
年貢の取立てを待ってもらうごっこを混ぜながら、良くわからない奇行を繰り返す三人。
もうお馴染み過ぎて、部屋にいる人達は誰一人反応すらしなくなっていた。
そんな奇行を止め、三人は紙に何か書かれていないかを確認した。
『国王様に送ったら?』
三人は目を丸くした。
「なるほど。その発想は無かった。」
ぽんと手を叩き、小和田はそう呟いた。
「じゃあそうしようか?」
村井の言葉に、大類も頷く。
「うん。そうしようか」
そういうことになった。
「じゃあ次の話題にいこか?」
村井の言葉に、二人は頷いた。
「というわけで、楽しい話題だけど、完成したで?」
そう言いながら、村井は上に蓋のついた金属のバケツの様な何かを取り出した。
「まじかよ」
そう小和田が呟き。
「やりおる」
そう大類が呟いた。
それは、小和田が魔法陣から機構を設計し、大類が苦手な会話を頑張って素材を集め、村井が構築した三人の合作。
魔石を利用して作られた簡易クーラーだった。
最初は皆の為に冷蔵庫を作ろうとし、色々と調べてみた。
魔石がエネルギー源になると知って、魔石を集め、実験を重ねたが、うまくいかなかった。
次に小和田が魔法の勉強を始めた。その過程で魔法陣を知り、これと魔石組み合わせたら、何か出来るかと考えた。
そして小和田の作った設計図を見て、大類が必要そうな素材を集める。
既にソロで下級の魔物なら討伐できる戦闘力に、植物や鉱石の知識を身につけた大類は素材採取のエキスパートとなっていた。
そして集った素材と設計図を見て、最大級のチキンハート、石橋を叩いて砕いて橋を建て直すマインドの持ち主、村井が形にした。
「それで、実験結果はどうだったんだ?」
小和田の一言に、村井は嬉しそうに呟いた。
「私村井さん。実験はこれからなの」
その言葉に、小和田も大類もテンションが上がり、嬉しそうな表情を浮かべた。
実験結果を見る。それは、彼らにとって生きがいの一つだった。
自分達の企みを形にして、それが実際にどう動くか、どう改善できるか、この瞬間の楽しさは特別な物だった。
「では、不肖ながらこの村井が、スイッチを入れさせていただきます」
村井の言葉に、やんややんやとまくし立てながら二人は拍手をした。
「では、スイーッチ!オーン!」
三つの心が一つになりそうな気持ちで村井はスイッチを入れた。
ふぃーん。
とても小さな音がバケツっぽい何かから聞こえだし、ひやっとする冷気が流れ出した。
扇風機よりも小さい回転音。小型のモーターの回る音に良く似ていた。
「どうっすかね?」
村井の言葉に、小和田は呟く。
「もう少し様子を見てからだな」
それに二人も頷き、そのまま十分ほど放置した。
冷気は周囲に覆われ、気温はほど良く下がり、三人組のいる周辺を快適な空間に変貌させた。
更に十分後、気温は下がりきらず、快適な空間は維持されていた。
「実験は……成功です!」
小和田の呟きに、二人は泣き真似をしながら抱き合った。
「ええやんええやん。これちょっと放置して行こうか。温度冷えすぎたら自動で止まる様になってるし」
小和田の言葉に抱き合ったまま二人は頷いた。
室内の用事は終わり、次は別の用事になる為、三人は大部屋を移動した。
大部屋にいた人達は、突然の環境の変化に驚いた。
熱中症になりそうな暑さの中、適当な本で扇いで生ぬるい風を浴びていたら、突然冷気が舞い込み、瞬時に快適空間に変貌した。
窓は全開、扉も開きっぱなし。密室でも何でも無いのに、この一部屋だけクーラーをつけた室内と同じ状態になっていた。
皆驚いたが、三人のいる位置にある変なバケツを見た瞬間、全てを悟った。
また彼らの徳に救われたのか。
周囲の者はそう思い、彼らのマネージャーに僅かながらのお布施をすることにした。
半ば宗教の様になっていた。
「さて、次の反省会は、これですな」
大類は拠点傍に建てられたログハウスを指差し呟いた。
そして三人はそのまま、ログハウスの中に入って行った。
ログハウスの中で、お茶を啜りながらまったりする三人。
入った瞬間に、当たり前の様にお茶が置かれているのは、流石としか言いようが無い。
狭い、空間、一部屋しか無い小さなログハウスだけど、彼らはその空間が何よりも落ち着いた。
ほど良く狭くて、人がいないからだ。常にどこかにいるマネージャーは除いてだが。
「良いやん。さすがやん」
大類の言葉に、小和田も頷き、村井は少し照れていた。
そのまま三人は、狭い室内でまったりとした時間を過ごした。
これ位の広さが落ち着く。小市民というよりは、小動物みたいな三人だった。
このログハウスは村井が一人で作った物だ。
作った理由は何も無い。ただ作りたかったからだ。
作ろうと思って出来る物でも無いが、こっちに来て、全ての物を作り続けて来た彼らに、その常識は通用しなかった。
いつからか、作れそうな物は作れるまでがんばる。
それが彼ら三人の常識になっていた。
「うん。これで食っていけるんじゃね?」
小和田の言葉に、村井は首を横に振る。
「いやいや。素人建築じゃあ食べていけないさ。それにこの世界の人達バイタリティ溢れてる人ばかりだから、きっともっと凄い家作るよ」
村井の言葉に「そっかー」と返す小和田。
「じゃあ、これからがんばって練習してもっと凄くしないとな」
大類の言葉に、村井は頷いきながらお茶請けを食べた。
今日のマネージャーの用意したお茶請けは大福だった。
「それじゃあ、各自成長した事でも話していこか」
小和田の言葉に二人は頷いた。
「まず俺オワタ。ずっと魔法の勉強、特に魔法陣を調べてたら『魔法陣習熟』のスキルが手に入りました。効果は魔法陣の習熟速度が速くなるだった」
小和田に小さな拍手をする二人。
「うむ。どもども。じゃあ次、ライ。報告よろ」
「あい。建築関係のスキルが生まれました。まだ確定してないけどたぶん建築速度だとおも」
村井の言葉に、二人は小さく拍手をした。
そんなあっさりスキルは生えないのだが……。
そんなつっこみをする人は、ここにはいなかった。
「じゃあ最後、問題児のがっくん。報告よろ」
小和田の言葉に、すっと立ち上がる大類。
「特にスキルは生まれなかったけど、魔物五体、魔族一体の撃破スコア稼いで、飛び級で銀冒険者になりました」
「うむ。意味わからん」
と小和田が言うと。
「うむ。チートや。そんなんチーターやん」
と村井も続いた。
「せやかて、何か知らんがすげー勢いでこっち襲ってくるし、やっぱりあの杖とか、これが原因かね?」
そう言いながら大類が見せたのは、お世話になり続けている槍だった。
通称めちゃつよ槍大先生。
魔物の棘をつけただけの適当な作りにもかかわらず、異常なほどの頑丈性と刺突性能。
これのおかげで大類の狩りはすこぶる安定していた。
「何で魔物の棘で魔族が一撃だったんだろうか」
小和田の一言に、「全然わからん」と返す大類。
「何かこの魔物の棘。前より禍々しくなっていないか?」
村井の一言に、「知らんがな」と返す大類。
明らかにやばそうな気配が槍から漂うが、普通に使えてることから、三人は深く考えないことにした。
「というわけで、次回の目標。冷蔵庫だけど、何とかなりそう?」
強引に話を切り替える大類に、小和田は答える。
「何とかなりそう。一月以内を目指してテスト用の小型冷蔵庫の試作機の設計図作ってみるわ」
その言葉に、大類と村井は拍手を送った。
「おーやるやん」
と大類が言って。
「流石やで」
と村井が言う。
それに小和田が照れる様に頭を掻いた。
よくある、三人のやりとりだった。
今日も三人は何時もの日常を送っていた。
この時までは……。
「それで、今日の反省会こんなもんで良い?」
小和田の一言に、村井は手を上げる。
「はいライ!どうぞ」
小和田の言葉に、村井は立ち上がる。
「一つ提案なんだけど、そろそろマネージャーの要望とか聞かない?何か助けて欲しくてこんな俺達についてきてるのかもしれないし」
村井の一言に、大類と小和田は衝撃を受けたような顔をした。
「その発想は無かった。そうだ。マネージャーさんかっこかめいも人だもんな。何か希望あるよね。よし聞いてみよう」
大類は頷き、小和田はいつもの様に白紙の紙を用意して、三人で五体投地をした。
狭いログハウス内で、ぎちぎちになりながらの五体投地を行う三人。別にそんなことしなくても普通に聞いているのに、三人はこうしないと現れないと思い込んでいた。
「さすマネ様ーさすマネ様ー。なにとぞ願いを書き残したまへー」
そう、村井が言った後、三人は姿勢を崩し、中央の紙を見た。
『小和田さんが好きなのでずっと隠れてそばにいました(・ω<)てへぺろ』
長い、沈黙が流れた。
「え?」
小和田は一言だけ呟き、呆然としていた。
「おめでとう爆ぜろ」
憎しみを込めて大類が呟いた。
「おめでとうもげ落ちろ」
妬みの気持ちを込めて村井が呪詛を唱えた。
「え?」
小和田は現状についていけず、ただ呆然としたままになっていた。
ありがとうございました。
もう一つ、または二つほど番外編をして、次に入ります。