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ドロシー

 

 私、ドロシーは文字通り天才だった。

 物心付いた時には既に魔法が使え、天童と呼ばれた。十歳になると、天童では無く、天才と畏怖された。

 文字通り、何でも出来た。剣を使えば大人を負かし、魔法の知識も技術も誰にも負けなかった。

 小さな村に住んでいた私に、偶々来ていた魔法士ギルドの人が言っていた。

「それだけの凄まじさ。魔法士ギルドに入ったら幹部確定だな。将来は王宮魔法士も夢じゃない」

 私は、それに嬉しいとも思わなかった。何故なら、それが当たり前だからだ。


 そんな日々を送っていた十三の時、私は倒れた。


 田舎の診療所ではどうも出来ず、両親は私を遠くの城下町の病院に連れて行ってくれた。

 診断結果に両親は絶望していた。

 生まれた時から魔法が使える様な子の二割位は、この病気になるらしい。

 そして、それを治す方法は未だに無い。


 その日から、私の生活は入院と退院を繰り返す日々に変わった。

 年を取るごとに増えていく入院の時間。未来が見えない暗闇の生活。


 そんなある日の事だ。

 私は公園に座っていた。

 座りたいわけでは無い。歩けなくなったのだ。

 足腰の弱ったタイミングで、体調が急に悪くなり、歩くことが出来ず座ることしか出来なかった。

 その時に、あの人が現れた。

 とても大きな体の、無愛想な人。

 その人が通るだけで、人はその人を避け、周囲の人は怯えて距離を取る。

 無表情が恐ろしい、殺し屋の様な人。皆にはそう見えるらしいけど、私には、緊張した子供にしか見えなかった。


 その人は私の傍に寄り、囁くような小さい声で尋ねた。

「どうして欲しい?」

 何で私が困っているのがわかったのか、その時はわからなかった。

 後で聞いてみたら、実はその場で一時間、ずっと私を見ていたらしい。おろおろしながら立とうともしなかった私を見て、困っているとわかったと。


「お医者さんを連れてきてもらえませんか?歩くのがしんどくて」

 私がそれだけ言うと、慌てた彼は私を抱き上げ、自分の肩の上に優しく乗せた。

「こうした方が早い」

 それだけ言って、彼は話を病院に運んでくれた。


 私はその時、笑いを堪えるのに必死だった。

 無口で無愛想で、これだけ立派な体格の人なのに、さっきから心臓がバクバク言っている。肩に乗っただけの私にもわかるほど緊張しているのがわかる。

 それが私は面白かった。

 そんなにシャイな性格なのに、勇気を出して私を助けてくれた。

 それが私がとても嬉しかった。



 その日から入院した私に、彼は毎日見舞いに来てくれた。


 私が飾る花が欲しいと言うと花を買ってきて、私が甘い物が欲しいと言うと、走って何かを買って来る。

 流石に鈍感な私でも、彼の気持ちは良くわかった。

 私は別に嫌では無かった。


 だけど、恋愛をするつもりは無かった。

 まだ二十歳にもなっていないのに、もう人生の七割は入院生活。

 恋愛をする心の余裕も無ければ、寿命もわからない。そんな自分を抱えさせるのは申し訳なかった。

 だから私はそのことを考えないことにした。

 だけど、もう来るな。私はその一言が言えず、彼は毎日の様に私に会いに来た。


 私は一つ、わがままを言った。

 彼の方から離れて欲しくて、嫌な女になろうと思った。

「私、アクセサリーが欲しいな。出来たら聖銀のペンダント。指輪でも良いよ?」

 困った顔をする彼は、そのまま部屋から出て行った。

 これで良かったんだ。寂しさを覚えながら、私はそう思い込んだ。


 数ヶ月、私の体調は悪化していった。歩くことが出来ないどころか、病室から出ることすらできなくなった。

 そんな時、また彼が現れた。

 酷く、申し訳なさそうな顔をしながら、


「すまん。こんな物しか用意出来なかった」

 そう言いながら渡してきたのは、金の小さなペンダント。

 平たいひし形に近い形にトップの中には、女神が描かれていた。

 魔導金によるペンダント。それは確かに高価な物だ。

 二十程度の彼が、とても用意出来るものでは無い。


「これは、どうしたの?」

 ベットの上でそう尋ねる私に、彼は申し訳なさそうな顔をしながら答えた。

「作った」

 たった一言。それがどれだけ大変で、どれだけ厳しかったのかは知らない。

 だけど、ただ私の一つのわがままで彼の人生を数ヶ月無駄にしたのだ。


 私は悪い女だ。彼の人生をこれだけ台無ししておいて、罪悪感が一切出てこない。

 ただ、嬉しくて頬がにやけそうになるだけだった。


 体は正直だった。悪化していたのは一体何だったのか、数日後に私は普通に退院出来た。

 退院して、私は彼に一つ尋ねた。

「あなたの名前は、何て言うんですか?」

 名乗ることも忘れていたのだろう。彼は慌てて、マリウスと名乗った。


 マリウスと結婚したのはその翌日の事だった。

 私には後が無い。だから、少しでも一緒にいたいという願いを、彼は聞いてくれた。


 その日から、私は一つの目標が出来た。

 久しぶりに魔法の勉強を始めた。同時に自分の病気を調べた。

 そして、これは絶対に治らないと理解出来た。

 それでも良かった。一年だけ、たった一年だけでも、健康体になれたら良かった。


 私は、マリウスに黙って無茶をした。


 その次の日から、私はマリウスと色々な所に旅行に行った。

 最近は調子が良いから大丈夫。そんな嘘を言って。

 お金は全て私持ち。魔法やら難病の補助費やらで、お金には困っていなかった。

 全てを使い切るつもりで、私は彼との旅行を楽しんだ。


 そして、私は目標を達成出来た。

 私は妊娠することが出来た。

 あの人と一緒にいた証が、どうしても欲しかった。


 私は望み通りルカを出産した。そして、私の体は取り返しの付かないほどボロボロになった。


 出産してから、私は一度も病院を出ていない。

 ルカにも申しわけ無いと思う。一度たりとも、母らしいことが出来なかった。

 マリウスにも申しわけ無いと思う。

 あの人のたった一つのわがまま。

「君と一緒にいたい」

 それを叶えてあげることが出来なかった。

 出産してから一年間。

 病院で家族三人で暮らした。病院側にはかなり無茶を頼んだと今でも思う。


 後はずっと、マリウスとルカの二人の生活。私は病室で悪化する日々。


 生活も苦しくなり、私は人の少ない、小さな田舎村で療養することになった。

 その為の費用は、私の持ち家と、マリウスの仕事の退職金。

 私は彼から全てを奪ってしまった。


 そしてマリウスとルカは、私とは別の小さな村の農村に済むことになった。

 普段は手紙だけのやりとり。数年に一度だけ、マリウスとルカと会うことが出来た。


 毎日が心配だった。

 マリウスはあの臆病な性格で仕事が出来るのだろうか。ルカは子供らしく育っているだろうか。

 でも、心配することしか出来なかった。


 三十後半になり、私はそろそろ自分の限界を感じ出した。

 最近気付いたら眠っている。一日の睡眠時間が延びてきて、空腹を感じなくなって来た。

 お迎えまでそう遠く無いだろう。


 そんな中、私に一つ楽しみが生まれた。

 マリウスから来る手紙が変化したのだ。

 いつも私の心配と、ルカへのお礼しか書いていないあの人の手紙に、弟子の話が出てきた。

 稀人の弟子で、将来有望で、いつか後継者になって欲しいと思っていたら、動物のお医者さんだった。

 そして気付いたら二人の獣人を連れ、一緒にルカのご飯を食べる仲になっていた。

 他にも一杯面白いことが書いてあった。

 手紙が来る度に、私は驚き、喜んだ。


 あのマリウスが、これだけ色んな内容の手紙に書ける様になったのだ。

 それはとても嬉しかった。もう、私がいなくても何とかなる。そう思えた。


 だから私は最後の手紙を出した。

 もう長く無い。次に会えるかわからない。

 だから最後のわがまま。あなたの新しい家族、弟子に会いたい。


 それだけ書いて、私はまた眠りについた。

ありがとうございました。


(´・ω・`)出来るだけ急いで続きを書かないと……

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