大会本番-後編
太陽戦士シロダイン:ルゥ
白騎士:シャルト
馬男爵:ソフィ
くーくたん:クレア
メープルちゃん:コルネ
複数の会場で行われた予選や三位決定戦だが、その全てが終わり、残された試合はあと一つだけ。
最後の試合を見ようと、一箇所の会場の前に人々が集合し、ただでさえごった返しになっていた会場が更に圧迫される。
まるでプロ野球の人気チームの対戦の様な観客の数だった。最後の試合というだけで無く、複数の意味で決勝戦は多くの人の関心を得ていた。
例えば、同盟国同時の王女二人が、同チームに内緒にして参加していた事実。
それに加えて同盟国同時の王二人が、見物している。
その上、その参加した王女二人が残虐な試合展開のまま無双するというドン引きな結果。
だからこそ、観客達はこの試合を楽しみにしていた。
今までの様な一方的な試合にはならないと信じている観客達。
どちらも五タテを繰り返した本物の猛者。ぶつかり合ったら一体どちらが強いのか。
ただ、それだけに興味が注がれていた。
非常に残念なことは、こちらが勝つことを期待する声はとても小さいということだ。
こちらのチームの今までの戦いがアレだった為、期待しているのは勝利では無く、残虐な戦闘だろう。
その上、対戦相手は王族に匹敵する知名度を持った、最近ラーライル国内で最も話題になった男だ。
そう、対戦相手はあの英雄グラフィだった。
観客達の関心は、グラフィ一人に注がれていた。
騎士団は、そこまで熱意を持たずに、気軽な気持ちでこの大会に参加していた。
だから、全力を注いだ軍に蹂躙された。
王国軍は、これでもかという程、この大会に力を注いでいた。イメージ戦略としてだが。
子供を救った英雄をチームリーダーにし、その部下として四人をつけ今回だけの特別部隊を作った。
その四人も、連隊長と言う、将官にあたる人達だ。年も経験も、実力もグラフィの比にならない。
自分より遥か高みにいる人達を部下にし、子供の遊戯に全力を注がされ、周囲に常に英雄としての羨望の眼差しを受け続けるグラフィ。
控えめに言っても地獄の様な環境だった。
ゴーレム作成も徹底的に人型に拘り、グラフィの得意な少人数の連携戦術をゴーレム用に変化させ、五人で更に練り上げる。
操作練習が出来ないから、一週間以上の時間を使い戦術を考察していった。
王女二人が個の強さなら、グラフィ陣営は集団の強さを極めていた。
ちなみに相手チームの名前は、ラーライル王国軍では無く、『英雄グラフィと愉快な仲間達』である。
今まで悪かった軍のイメージを良くする上で、軍の強さをアピールする。その為だけに、グラフィは軍の礎となっていた。
対戦相手の陣営にいるグラフィは、常に死んだ魚の様な目をしていた。
「あの方が……この国に来てからフィロス王や騎士団が絶賛していた、英雄グラフィ……」
恐れるような声でソフィがそう呟いたのを聞き、三世は静かに頷いた。
「ええ。子供を守る為に、命をかけて戦い抜いた、私の住んでいる村、あの牧場の。いえ、救国の大英雄グラフィです」
三世は出来る限り盛り、ソフィにそう伝えた。
「なるほど……凄い人なんだ……。私の国のヤツヒサさん……みたいな人だね」
ソフィの裏表無い純粋な言葉。それを聞いていたコルネは噴出し、クレアは尊敬の眼差しを三世に向け、三世は聞こえなかったフリをした。
決勝戦の準備が始まった。
五体ずつのゴーレムを並べ、お互いのゴーレムが距離を取って向き合う。
その間に、審判が拡声器らしき道具を使い、観客にゴーレムの説明をした。
ティール陣営、こちらのゴーレムの色物っぷりに、試合を見ていなかった人は小ばかにする笑いを上げる。
今までの試合を見た人は、全く笑わなかった。笑えなかった。
決勝戦だからだろう。人物紹介にも力が入っていた。
ラーライル王国王位継承権十八位クレア・アーク・レセント。
ガニアル王国王継承権第一位。ソフィ・ラーフェン。
ガニアル王国の救国の英雄三人組の二人。ルゥとシャルト。
ラーライル王国騎士団第二中隊長。コルネ・ラーライル。
圧倒的過ぎる人員に、誰も言葉に出来なかった。
そして、それは相手も同じった。
グラフィ陣営のゴーレムは一体を除いて皆、同じデザインをしていた。
一般兵の様なシンプルなデザインに、全員同じ様に盾と棍棒を持っている。
全く同じデザインなのは、乱戦を想定して相手の混乱を狙う為だろう。
名前は全て、『英雄支援ゴーレム』になっていた。
残り一体の名前は『英雄グラフィ』
デザインはグラフィを少し若返らせ、爽やかさを足した様なデザイン。
ゴーレムは、丸みを帯びた造形以外は非常に難しい。だが、英雄グラフィは、確かに人だとわかるほど上手く作られていた。
本人を更に美化させて作られたその再現度の素晴らしさに、観客は歓声を上げる。
三世とコルネは笑いを抑えるのに必死だった。
審判による人物紹介は、連隊長四人をさくっと短く読み上げた後、五分以上の時間をかけて、グラフィ英雄譚を読み上げた。
観客の盛り上がりは最高潮に達し、グラフィは死んだ目をしていた。
「さあ皆!偉大なる英雄グラフィに胸を借りに行きましょう!」
コルネが、わざと向こうに聞こえる様に大きな声でチームメイトにそう告げる。
ソフィとクレアは真面目な顔で頷き、三世は笑いながら頷いた。ルゥとシャルトは苦笑していた。
グラフィ陣営を見ると、グラフィ以外の四人は肩を震わせて笑い、グラフィは死んだ魚の目をしていた。
そんな目のまま、グラフィはにやっと笑いながら、自分の仲間に声をかけた。
「お前ら!相手の背後にはガニアの国の大英雄ヤツヒサがいるぞ。油断するなよ!」
そう叫びながら、三世を指差した。
鍛えていらっしゃるからだろう。思った以上の声量だ。試合会場内だけで無く、一部の観客にすら聞こえるほどの声が響き、三世に視線が集中した。
コルネは我慢出来ず、腹を押さえて馬鹿笑いしだした。
「くっ。なんて卑怯なことを」
三世は自分のことを棚にあげてそう呟く。
「でも……事実……だよ?」
三世の目を見ながら、微笑み、ソフィはそう言った。
その山ほどの信頼のこもった瞳を見ると、三世は酷く自分が汚れている様な気がしてならなかった。
「それでは、両陣営準備をお願いします!」
審判の声で、三世とティールは五人から少し離れた。
「皆さん、頑張って下さいね。負けても良いんです。楽しんでいきましょう」
三世の言葉に、全員が笑顔で頷く。
そして、試合が始まった。
自然と、コルネが指揮官の様なポジションについた。単純に指揮経験の差だろう。
「難しいことはしなくて良いよ。横列で横の人に合わせて突撃!後はノリと流れで!」
コルネは笑顔でそう叫んだ。
メープルちゃんを除く、四体。左から、白騎士、シロダイン、馬男爵、くーくの順に横一列になり、ゆっくりと前進する。
その少し後ろに、カバーの為メープルちゃんが歩いた。
こうして一度に歩く姿は壮観であり、非常に混沌とした光景だった。
グラフィ陣営は側の正面は、三体の英雄支援ゴーレムが待ち構えていた。見えずらいが、その後ろにグラフィともう一体の支援ゴーレムが待機している。
「るー。コルネ。ここからどうするの?」
ルゥの言葉に、コルネは一言だけ答えた。
「危なくなったら逃げる。それ以外は殴る!」
それは、とてもわかりやすい作戦だった。
こちらの前衛四体と、あちらの前衛三体が接触し、乱戦に入った。
単体同士と乱戦の戦闘は違うらしい。くーくたんや馬男爵は今までの様に相手を蹂躙できなかった。
それでも、数の差でこちらが圧倒的に有利だった。コルネはサポートが必要な場所が見つからず、少しだけ待機して思考する。
異常なほど、こちらが有利だ、相手はジリジリ下がるし、こちらは誰も被弾していない。
そこでようやく気付いた。被弾していないのでは無く、相手が攻撃していないだけだった。
相手三体の支援ゴーレムは、盾を器用に使い、全ての攻撃を受け流していた。防御に集中しているからこそ、出来る芸当なのだろう。
攻撃する気が無い相手ということは、別部隊が攻撃準備をしているということだ。
コルネはメープルちゃんを左端に前進させた。そこには予想通り、グラフィと支援ゴーレムの遊撃部隊がこちらを攻撃する準備をしていた。
「シャルちゃん。手伝って!あの二人を押し返すよ!」
隣にいる白騎士を操るシャルトに声をかけ、メープルちゃんと白騎士は遊撃部隊に接近した。
メープルちゃんは前足を高く上げ、グラフィに牽制代わりに踏みつけを叩き込む。
それを読んでいたのか、グラフィはすっと仲間の影に移動する。
メープルちゃん視点だと、それは消えた様に感じ攻撃を中止するしか無かった。
グラフィは仲間の背後から、反対側に移動し、白騎士の千歳飴の部分を掴んだ。
そのままグラフィは、軽く引っ張り、白騎士の体勢を崩す。
それにあわせ、支援ゴーレムが白騎士にコンボを振りかざした。
「シャルちゃん下がって!」
シャルトはかなり無理やり移動させ、後方に逃がした。
千歳飴が手から剥がれ落ちた。
ゴーレムは全ての部品が繋がっている。盾だろうと槍だろうと、取れたら破損扱いになる。ただ、この程度の破損なら何の影響も起きない。
両腕が吹き飛んだり、片足が落ちて転倒して起きられなくなったら、機能停止判定となる。
後ろに跳び、体勢を整えようとする白騎士。そんな白騎士の目の前にグラフィが飛び掛ってきていた。
完全に行動を先読みし、グラフィは先に前方向に飛び込んでいた。
「悪いな」
まだ地面に着地していない白騎士に、グラフィはローリングソバットを叩き込む。
鋭い蹴りに、柔らかい物同士の反発。その勢いのまま、白騎士は場外に転げ落ちた。
「ご主人様。申し訳ありませんでした」
出番が終わり、しょんぼりした顔で、シャルトは三世の傍に行った。
「お疲れ様。あれはしょうがないですよ。相手本物の軍人ですし」
微笑みながら、三世は慰める様にシャルトの頭を丁寧に撫でた。
「最初はあまり興味無かったのですが、実際に負けるとこれは思った以上に悔しいですね」
口をへの字にしながら、シャルトは悔しそうに俯く。
「よしよし。そういう時もありますよ。ゴーレムが普及したらまた出来ますので、その時は勝ちましょう」
シャルトは小さくこくっと頷き、三世の隣に座り頭を三世に預けて甘えだした。
三世は、そっと優しく頭を撫でた。その光景を、大勢の人が見ていることを忘れて。
白騎士の穴と、遊撃部隊の動きを止める為、メープルちゃんはシロダインの左側に回り守備に回った。
それは非常に厳しいとしか言えない戦いだった。
防御中心で、足止めが目的の相手の正面部隊。そこに英雄ともう一人による側面からの遊撃部隊。
メープルちゃんはその二方面の敵を相手に一体で立ち回るっていた。
正面一に側面二、合わせて三体のゴーレムがメープルちゃんに集中砲火を浴びせる。
ステップを多用することで、回避に成功しダメージは受けていないが、これは悪手以外の何でもない。
デフォルメ化した見た目とは言え、骨格のバランスの最限度は高いメープルちゃん。だからこそ、馬が出来ない横ステップの連続移動は負担が非常に大きい。
これが続く様なら、足が折れるか、良くても転倒し相手の的になるだろう。
「るー。コルネどうしたら楽になる?」
つらそうなコルネに、ルゥは尋ねた。
「正面の一体だけでも離れてくれたら少しは楽になるかな」
コルネの言葉に、ルゥは頷く。
そのまま、シロダインは前にずしんずしんと距離を縮め、メープルちゃん正面の支援ゴーレム相手に、そのままぶつかりにいった。
「すーぱーしろばいとー。あたーっく!」
ルゥの謎の叫びが木霊した。
説明しよう!シロダインの胴体部になるシロの顔は、相手に噛み付き顎の力で相手を粉砕する!。
という三世の妄想により必殺技だ。当たり前だが、そんなギミックは無く、ただ突撃しただけである。
ただし、予想外という意味では成功し、メープルちゃん正面の支援ゴーレムはシロダインの突進で少し下がり、周囲の視線はシロダインに集中した。
その隙を、ソフィは利用した。
突進を受け、隊列が崩れ、バランスが悪くなったうちに、正面部隊同士の隙間を抜け、馬男爵は相手の後ろに回りこんだ。
そのまま振り向かず、後ろ足で突進により怯んだ支援ゴーレムを、思いっきり蹴り上げた。
もう一体の支援ゴーレムが即座に援護に向かい、二体の支援ゴーレムは馬男爵の驚異的な後ろ足の攻撃を二人掛かりで押さえ込んだ。
それは王族相手で、子供相手とは思えない。すがすがしいほどの本気の姿だった。
ソフィの機転により、相手を落とすことは出来なくても、かなり有利な状況に持ち込めた。
正面部隊は前後の相手により揺さぶられ、遊撃部隊は正面部隊が機能していない為うまく攻撃に集中出来ない。
その状態で、マークの外れた一体のゴーレムが、遂に本領を発揮した。
グラフィは、正面部隊のカバーリングに行く為、メープルちゃんと距離を取ろうとした。が、肝心のメープルちゃんがいない。
こちらの背後に回った痕跡は無く、向こうの正面部隊の後ろに行く理由は今無い。
どこに行ったのか探すグラフィ。
見つかった時には、それは手遅れだった。
それを見てい観客は呆然としていた。
ゴーレムに詳しい訳でも、戦術に詳しい訳でも無い観客からは、狭い場所でわちゃわちゃしている様にしか見えない。
それでも、そのメープルちゃんの動きは異常だとすぐにわかった。
メープルちゃんは、そのまま上に跳び、味方を全員飛び越えて、右端の支援ゴーレムを上から思いっきり踏みつけた。
高度による攻撃に加え、前足の筋力をフルに使った踏みつけだ。右端のゴーレムは頭からつぶれ胴にめり込み足も縮み、完全に機能停止した。
「今のうちにルゥちゃんとクレア王女は横に並んで連携。私はソフィ王女を援護する!」
メープルちゃんは綺麗に着地し、そのまま相手の背後に回りこんだ。
一瞬の攻防戦の後、観客から大きな歓声が上がった。
こちら陣営はコルネの言われた通り動き、相手正面ルゥ、クレアの人型部隊。相手背面ソフィ、コルネの馬部隊の二つにわかれた。
相手陣営も動きを切り替え、元正面部隊二人は馬相手に、元遊撃部隊は人型相手に向き合った。
これで、二対二の戦場が二つ、出来上がった。
何とか数を五分までは戻せたが、未だ不利と呼んで良い状況が続く。
せめてグラフィとメープルちゃんが一騎打ち出来る状況が作れたら何とかなるのに。コルネはそう思っていた。
だが、グラフィ陣営もそれはわかっているのだろう。グラフィを落とされない様、グラフィには常に一体の支援ゴーレムを傍においていた。
どう動くか考えるコルネ。それに対し、行動で返すグラフィ陣営。
相手は事前に戦術をいくつも用意している為、行動が早い。
すっと、馬側についていた支援ゴーレムが一人、馬二体の前に立ちはだかり、もう一人がすっと離脱した。
そして、そのもう一体は、グラフィ達と合流しようとしていた。
これが決まると非常にまずい。まずいのはわかっているが、コルネは目の前の支援ゴーレムを抜ける気がしなかった。
馬男爵とメープルちゃんを一人で抑える支援ゴーレム。これは明らかに、捨て駒になった動きだ。
勝ちを狙わず、機能停止も省みず、足止めのみに専念している支援ゴーレムをすぐに何とかする方法は無かった。
この捨て駒を倒しても、その間にグラフィ陣営は三体でくーくたんとシロダインを倒すだろう。そうなればもう勝ちは無い。
馬型は機動力と攻撃力に優れるが、棍棒など腕を振る攻撃に弱い。特に、上からの攻撃は対処の手段が無く、回避するしか無いからだ。
わかってはいる。だけど、コルネにこの場を対処する方法は無く、馬男爵と協力して、急いで捨て駒を倒すことしかすることが無かった。
ルゥとクレアは、合流した支援ゴーレムを加えた三体のゴーレムに追い詰められていた。
くーくたんはまだ何とか戦えている。それは、王族としての才覚に加え、五タテを繰り返したことによる練習量のおかげだった。
だが、三人相手の連携には手も足も出なかった。本当にただ、戦えるだけだった。
それ以上にルゥはしんどかった。じわじわと追い詰められ、端に追われていくのがわかる。
相手の一番やっかいなのは受け流す能力だ。必ず一体は防御を固め、カバーする体勢になっていた。一体の数の差を、相手は最大限に利用していた。
遂に角付近まで追い詰められ、支援ゴーレム二体は、くーくたんを場外に落とす為、棍棒での連続攻撃の構えを取る。
特に作戦とか、逆転の何かを思いつかないルゥは、最後の作戦に出た。
戦隊物をイメージしたシロダインは手足が四角めに作られ、少し太い。胴体もくびれなどの構造を作らず、どっしりしている。
安定感をイメージして作られたそのコンセプトは、ゴーレムであっても耐久力に優れていると言えた。
そのままシロダインは、両手をクロスさせ上に持ち上げ、くーくたんの前に立った。
「クレア逃げて!そのままコルネ達に合流して!」
ルゥの最後の考えは、自分が囮になって仲間を逃がすことだ。
奇しくも、それは相手の戦術と同じだった。
経験量も、技量も、クレアの方が上だと、ルゥにはわかっていた。
それなら、一人生かすならどっちを生かすべきか、考えるまでも無かった。
出来るなら一矢報いる。この状況でも、ルゥはただで落ちる気は無い。最初から最後まで全力で楽しむ。それだけは忘れていなかった。
「……ごめんなさい!」
クレアは、ルゥの気持ちを無駄にしない様、戦場の離脱を試みる。
グラフィは、予めどっちかが捨て駒になり離脱することも想定していて、そのままクレアの離脱の妨害に向かった。それをルゥが無理やりカバーした。
獣人の運動神経と三世のスキルにより補正のかかりまくった器用さ。そして、柔らかい体の使い方。
持っている全ての力を最大限に利用し、グラフィに向かってルゥは突進をする。
支援ゴーレム二体に棍棒で殴られ続けても、グラフィから目を逸らさない。
グラフィはうまく後方に引いて、突進の被害を最小限に食い止めた。だけど、シロダインから目が離せず、クレアの離脱は阻止出来なかった。
そのままグラフィ達三体は、シロダインを囲みボコボコにする。
手がもげ、足が曲がり、ボロボロになっても立ちはだかり続けた。
シロダインが戦闘不能になった時には、コルネとソフィは支援ゴーレムを突破し、クレアと合流が完了していた。
状況は三、三。
馬二体にクマ一体。相手は支援ゴーレム二体にグラフィ一体。
数が減り、お互いの動ける範囲が広がり自由度が上がる。
乱戦の混雑具合も減った。これは、相当こちらが不利だと言う事を示していた。
不利な原因はいくつかある。相手が自由に動かれると厳しい。相手の柱であるグラフィがほぼ無傷なのも厳しい。
だけど一番不利な要因は、相手の持つ棍棒だった。
槍でも剣でも、何を作ってもゴーレムである以上、それは打撃武器だ。だったら最初から打撃武器を持たせよう。
そのグラフィ陣営の作戦は大きく当たった。
ただでさえ、強力な棍棒だが、馬型だとなお対処に困る。
じりじりと横移動をし、距離を開けない様に隊列を組んで相手を見る馬馬熊。
そんな中、グラフィ陣営がいつもの様に動き出した。
油断したわけでは無い。単純に、戦場の経験の差だろう。
相手の支援ゴーレムは、防御を捨て、二体掛かりで馬男爵に接近して動きを封鎖した。
そしてその隙に、グラフィが棍棒をなぎ払い、馬男爵の足を破壊した。
そのまま油断することなく、即座に撤退する相手三体。ヒットアンドアウェイを綺麗に決められ、馬男爵は戦闘不能になった。
油断したからでは無い。むしろ、正面から小さな隙を見出し、無理やりチャンスをもぎ取ったグラフィ陣営が異常だった。
馬男爵が思いがけないタイミングで落ちたからだろうか、コルネは張り詰めていた気が、一瞬だけ緩んだ。
その隙をグラフィが見逃すわけが無かった。
さっきの馬男爵と同じ要領で、支援ゴーレム二体がメープルちゃんの動きを封殺した。
そのままグラフィが棍棒で前足を狙いなぎ払い攻撃を行う。
メープルちゃんは両前足を挙げ、なぎ払いを回避した。
今度はグラフィが封鎖側に回り、封鎖していた支援ゴーレムの一体がメープルちゃんの後ろ足になぎ払いをしかける。
「クレア王女。後ろに下がって待機!」
コルネはクレアに指示を出しながら、高く跳んだ。
逃げ場は、上しか見つからなかったからだ。
そして、予め指示していた場所に着地し、くーくたんと合流する。
馬は跳ぶ様に出来ていない。最初のジャンプ攻撃は相手の支援ゴーレムを緩衝材として使ったから成功していた。
だけど、今回は固い床への着地。いくらゴーレムが柔らかいとは言え、ダメージは残る。
コルネは、メープルちゃんの左後ろ足に大きな違和感を覚えた。
歩くことも、走ることも出来る。
ただ、ステップは出来そうに無いしもう跳ぶことも無理だ。
そして、この傷は広がる予感がした。あまり長くは戦えそうにない。
さっきから相手に先手を取られ続け、やることなすこと裏目が続く。
更に時間も相手に味方している。勝つことを考えたら、本当にギリギリの状況だとコルネは思った。
そんな絶望的な状況。だけど、クレアは笑っていた。
別に勝つ可能性があるから笑っているわけでは無い。あまりに面白いから、つい笑ってしまうだけだった。
王族とは、勝つことが定められた存在だ。
負けるとその被害は自分だけで無く、自分の民達に降りかかる。
だからこそ、王族は全てを最適化させ、一パーセントでも多くの勝率を求め、勝ち続ける。
それが、王族という生き方だった。
だけど、今はそんなことを考えなくて良い。
勝っても負けても、ただ思いっきりすれば良い。
そのことがクレアには、何よりも嬉しかった。
「クレア王女。本気で勝ちに取りに行くのと、本気で楽しむの。どっちが良いですか?」
コルネの質問に、クレアは笑いながら答える。
「本気で楽しみたいです!」
その満点の笑顔に、コルネもつられ笑った。
メープルちゃんとくーくたんは、グラフィ陣営から出来る限り距離を取った。
グラフィ陣営も、相手の一発を警戒し、無理に追わない。
数が有利である以上、無茶をしなければ順当に圧殺できるからだ。
この考えが、グラフィ唯一の誤算だった。
ギリギリ、角の角にくーくたんとメープルちゃんは移動し、相手が離れきっているのを見計らい、くーくたんはメープルちゃんの背に乗った。
それは、常に馬に乗って行動し、馬を愛しているコルネだからこそ出来る戦法。
背に乗せるだけで無く、落ちない様に馬側がサポートするという、三世を見ていたからこそ出来た発想だった。
「私が出来るだけサポートするから、クレア王女は攻撃の方に集中して下さい!」
コルネの叫び声に、クレアは頷く。
そして、メープルちゃんは、一直線に、最速でグラフィ陣営に突っ込んだ。
「回避!回避!」
グラフィの叫び声に合わせ、三体とも回避行動に取る。これは盾では間違い無く耐えられないとわかっているからだ。
ただし、声は少々遅かった。
すれ違う瞬間に、くーくたんはその凶暴な前足を、振りぬいていた。
補助ゴーレムの一体が地面に崩れ落ちる。そのゴーレムに、頭は付いていなかった。
そのまま距離を取りつつ反転し、再度突撃の構えを取るメープルちゃん。
そして、二度目のチャージを仕掛けた。
今度グラフィ陣営は回避行動を取らない。
補助ゴーレムが待ち構える様に、盾を構えた。
それに合わせ、盾ごと相手の頭を落とす為くーくたんが前足を構える。
接触する瞬間、補助ゴーレムは盾を下ろし、棍棒をくーくたんに叩き付けた。
交差する一瞬で、補助ゴーレムの頭は取れ、地面に崩れ落ちた。
そして同時に、くーくたんもメープルちゃんから叩き落され、地面に倒れたまま動かなくなった。
残りはメープルちゃんとグラフィのみ。だけど、もうメープルちゃんは限界だった。
左後ろ足は足首から先の蹄が無くなっていて、徐々に崩れていっていた。
他の損傷や疲労も激しい。ゴーレムという構造で、背に乗せるというのはやはり無茶があったらしい。
グラフィは、そっとメープルちゃんを抱き抱え、そっと優しく、場外に寝かせた。
空気に呑まれ、静かに試合を見ていた観客体が一斉に拍手と喝采を鳴らす。
それは勝者である英雄を称える音でもあり、敗者の健闘を称えた歌でもあった。
「ごめーん。負けちゃった」
コルネは苦笑いしながらクレアに言うが、クレアは首を横に振る。
「いいえ。とても楽しかったです」
クレアは、憑き物が取れたようなすっきりした顔になっていた。
三世やティール等、チームメイトもクレアの元に集ってきた。
「ところでコルネさん。もし私が本気で勝ちたいって言ったらどうするつもりだったんですか?」
クレアの質問に、コルネは笑いながら答えた。
「その辺りに落ちていた味方や敵の残骸を相手に投げつけて消耗を狙ったね」
クレアはドン引きしながらも、自分の国の騎士団は頼もしい存在だと、魂で理解できた。
優勝したグラフィは、表彰式で、以前の様に皆の前で英雄扱いをされ、大量の観客から英雄コールを受けていた。
やはり目が死んでいた。
今回の表彰式では、優勝者だけが祭られ、準優勝は出なくて良い。
三世とコルネは、安全圏から一緒に英雄コールをする。死んだ目の男は、再度小さな復讐を決意した。
「ティールさん。準優勝の商品とか賞金って何か無いのですか?クレア王女とソフィ王女。出来たらルゥとシャルトに何かあればいいのですが」
三世の言葉に、ティールは頷く。
「もちろんあります。ですが一つだけですね。代わりに、王女二人には私から特別なプレゼントをしましょう。ルゥさんとシャルトさんには、申し訳ありませんが……」
その言葉にルゥとシャルトは手を横に振る。
「いいよいいよ。気にしなくても。楽しかったし!」
そういうルゥに。
「私なんて最初に倒されてしまいましたし、本当に申し訳ありません」
そうシャルトが言うが、そんなことは本当に誰も気にしていない。
「じゃあ、準優勝商品はヤツヒサさんとルゥさん、シャルトさんの三人の物にしたらどうです?」
ティールは良いことを思いついた、みたいに言った。
「それは良いのですが、準優勝商品は一体何ですか?」
三世の質問に、ティールは指を差して示した。
そこにあったのは、修復が終わったメープルちゃんだった。
「まあ、魔導ゴーレムの法やら王様との相談が終わるまではただの置物ですけどね。それでも、良い記念になりませんか?」
ティールの言葉に、ルゥもシャルトも笑いながら頷いた。
後日、クレアにはくーくたんが、ソフィには馬男爵が送られた。
ソフィは名前をバロンくんに変更した。
ありがとうございました。
戦闘シーンは経験が薄いのでうまく描写できているか不安です。
わかりにくかったらすいません。最悪戦闘簡略化して書き直します。