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ゴーレム作成-後編

 勝負すると決まった瞬間、自然と皆移動していき、三世だけがぽつんと取り残された。

 きょろきょろと周囲を確認し、誰もいないのを確認した三世は、指をパチンと弾く。

 その瞬間、どこからともなく、五人の男達が現れた。建築組。ブルース達五人だった。


 三世のイカサマと、本当の意味でのイカサマだ。

 数日前より空いた時間で考えたデザイン。それを、ブルース達に事前に見せ、計画を進めていた。


 別に最初から勝負のことを考えてという訳では無い。

 そもそも、勝負が決まったのはついさっきだ。

 ただ、ルゥやシャルトが驚く様な物を作りたいという欲望の為だけに、ブルース達に協力を要請しただけだった。


 そして勝負が決まった瞬間、隠れていたブルース達に一つの欲望が生まれた。

 これは、俺達が影で活躍しアニキが優勝したら、俺達何となく、かっこいいじゃん。

 城主に仕える忍者のような、忠義に生きる影の者ムーブする自分達に酔ったブルース達は、途中から三世にもそれに付き合う様に要請した。


 ただのゴーレムのデザイン勝負なので、別にかっこよくは無い。が、ブルース達もたまにはそんなごっこ遊びがしたかった。

 ただはしゃいでみたかったのだ。

 ただ、普段から迷惑をかけている自覚のある三世は、ブルース達に何か報いなければならないとずっと思っていた。

 なので三世もそれに乗り、謎の城主ムーブをすることになった。


「五人に問おう。何を望み、何を私に捧げる」

 ごっこ遊びは別に嫌いでな無い三世。キレッキレの演技を行う。後で考えたら枕に顔をうずめたくなるタイプのアレだ。

「捧げる物は我らの技術。望みは御身の勝利にて」

 跪いたまま、ブルースはそう呟き、残り四人はそれに頷き下をむいたまま三世の反応を待つ。

 それに三世はにやりと笑い、「大儀である」と一言だけ呟いた。


「ではアニキ。いえ、ヤツヒサ様。他の者に見られぬ様、ここから移動しましょう」

「うむ。では案内せい」

 そうして、大きなゴーレムの素体をブルース達が持ち、三世は偉そうにふんぞり帰りながらどこかに移動した。


 ちなみに、獣人は当たり前の様に耳が良く、ベルグは護衛の為集中していて、この周囲の声なら全て拾える。

 なので、全てバレバレである。

 そもそも、トイレから戻ってきたらオロオロしながらブルース達をちらちら見ていた三世。聴覚関係無く、全員が気付いていた。


 ただ、問題なのは獣人達とベルグだった。

 なぜなら、さっきまでのごっこ遊びの会話を全て聞いていたからだ。

 ルゥは楽しそうな三世にうんうんと嬉しそうに頷き、シャルトはこういうのが好きなのかと関心を持った。

 ユウは困った様な表情で聞かないフリをし、ユラは純粋に笑っていた。その笑顔は子供を見るような微笑ましい笑いだった。

 ベルグは笑いすぎて腹を押さえながら蹲っていた。

 三世も楽しんでいたのだろう。獣人は聴覚に優れるという当たり前のことを忘れ、黒歴史を創造していた。



 三世達が訪れたのはブルース達の家だった。

 といっても、暇を見ては実験代わりに改造し、改築を繰り返した為、家と言うよりは屋敷に近い。

 三世の家の十倍はあるその広さに、三世も驚く。

「凄いですね」

 演技も忘れて純粋に驚く三世に、ブルース達は嬉しそうだった。


「はっ。ありがたき幸せ」

 演技をするブルースに、三世は演技をすることを思い出し、さっそく謎の城主ムーブに入る。

「では、計画を遂行する。事前に渡した計画書はあるな」

 その言葉と同時に、五人はどこからか大きな紙を取り出した。

 自称計画書。実際はただのデザイン画。

 三世デザインの元、かなり細かく設計したデザイン。

 あまりの細かさに、ブルース達が頭を抱えるレベルだ。

「ヤツヒサ様。これは本当に実現出来るのでしょうか?」

 ブルースの部下の一人が心配そうに尋ねると、三世は自信満々に答えた。

「私を誰だと思っている?この手の知識なら私は世界でも五本指に入る自信がある。だから、補助は任せるぞ」

「御意」

 五人は同時に声を揃えた。

 気付いたら三世の方がノリノリになっていた。


 ベルグは笑いすぎて、自分の腹筋が破壊されないか心配になってきた。

 それと同時に、本格的に三世が欲しいと思いだした。面白くて。



 そして約束の三時間が経過した。

 室内という環境の為、獣人達は三世が何を言っていたかわからなかったが、ベルグは全てを聞くことが出来た為、三時間笑いっぱなしだった。

 回りから不審な目で見られても、その笑いをとめることは出来なかった。



 全員が揃った。作られたゴーレムには白い布がかけられていて、中身を見えない様になっていた。

 全員満足そうな顔をしている為、うまくいったらしい。

 何故か護衛のベルグが三世と目を合わせない。三世は原因がわからなかったが、気にしないことにした。



 それよりも気になることがあった。

 ユラのいるチームのゴーレムの座高が妙に低い。更に横に長いことから三世は一つの可能性を考え、怯えた。これはまさか……。

 だが、今更どうしようも無い。三世はそのまま、話を進めることにした。


「それで、誰から見せますか?」

 三世の質問に、ルゥとティールが手を上げた。

「ふむ。それならワタクシは次で良いでしょう。君達のゴーレムを見せてください!」

 ティールのテンション高い対応に、ルゥは元気一杯に頷いた。

「じゃーん!どう?どう?ちゃんと出来てる?」

 そう言いながら白い布を取った中にいたのは白い騎士だった。


 ルゥとシャルトとフィツ。それとシロの手で作られたゴーレムはオーソドックスな人型。

 ただ、造形が思った以上に難しく、人型のはずが妙に丸みを帯びてしまった。

 それならと開き直り、騎士の鎧を再現してみようと色々改良し、騎士っぽくした。

 ただ、槍はうまく再現できず千歳飴みたいな棒になり、百五十センチ位の体格に丸みを帯びたそのデザインはカッコイイとはとても言えない。

 でも、何故か盾だけは妙にかっこよかった。ラウンドシールドに綺麗な模様が書かれ、雰囲気に重みがある。白一色なのに確かに盾と一目でわかるのも凄い。


「可愛いですね。これが動くのを考えたら楽しそうです」

 三世の言葉に、ルゥとシャルトが嬉しそうに頷いた。

「ところで、この盾はフィツさんですか?模様とか凄く細かいですね」

 そう三世がフィツに話しかけると、フィツは首を横に振った。

「いいや。俺は今回は手伝い程度で大したことはしてないよ。盾は……うん……」

 そうフィツが良い淀んだ後、ルゥが答えた。

「この盾はシロが作ったんだよ!凄いよね!」

「わふ!」

 シロはそれに反応し、三世の側に来て頭を下げた。撫でろという合図だった。

 三世はシロの頭を撫でながら、シロを観察した。

 一体どうやって、盾を作ったのだろうか。その巨体からは全く想像が出来なかった。



「さて、それでは次はワタクシ達の、いえ、王女様方の傑作をごらんに入れましょう!」

 そう言いながら、ティールは布を剥ぎ取った。そこにいたのは人型?だった。


 二足歩行ではるが、何故か丸い耳が見える。頭は球体に近く、同も円柱。手足も円柱に近いが微妙に完成がある。

 それは、紛れも無くシロクマだった。

「私、くまさん好きだから……」

 そうクレアが呟いた後、「私も」とソフィが小さく呟いた。

 王女二人が好きなくまのぬいぐるみをモデルにしたのだろう。

 とても可愛らしいデザインで確かに女受けが良さそうだ。

 ただし、造形にティールがいたからだろう。余分を省きサイズに回している為、妙にでかい。

 百七十くらいだろうか。となりの騎士より縦に一回り大きい為、迫力があった。

 大きなくまのぬいぐるみは女の子の憧れだからだろうか。

 ただ、あんなのが襲ってきたらトラウマになりそうだが。


「じゃあ、次は私達の番ね」

 そう言いながら、ユラは布を剥ぎ取った。

 そこにいたのはまさかの馬だった。

 やられた!三世は思わず顔をゆがめて苦悶の表情を浮かべる。

 ユウ、ユラにコルネのチームは最初から馬をモデルにして作ろうと決めていた。


 四足の足に、きりっとした顔立ち。流れるボディラインはかなりの拘りを感じる。

「凄いですね。ゴーレムの作成内でこれだけのリアリティを出せるのは本当に大したものだと思います」

 ゴーレム製作者のティールすら、驚くその造形美。伊達に馬好きが二人いるわけでは無いらしい。


 コルネとユラをパーンと手を叩きあい喜んだ。それは勝利を確信した様な表情にも見える。

 だが、三世もまだ負けを認めたつもりは無かった。

 それは数日間準備をしていた自負でもあり、ここまでしてボロ負けしたら悲しいという情けない理由でもあった。


「さて、トリですね。ですがその前に、私は反則を告白しなければなりません」

 三世の言葉と同時に、ブルース達五人が出てきた。

「私は一人では無く、六人体制で製作に挑みました。反則負けといわれてもしかたありません」

 そんな三世の言葉に、周囲は声を揃えて言った。

「知ってた」

 それに三世とブルースは驚いてた。


 三世のあからさまな態度と、こそこそする五人組の時点で獣人とか関係無くバレバレだった。

「別に誰も気にしてないから。作ったの見せよう。はよ。はよ!」

 ティールはそんなことどうでもいいとばかりに、三世を急かす。

 慌てながらも、三世は自分の作った傑作を、皆に見せた。


「では改めて、これが私達の作品です!」

 そこにいたのは馬だった。

 まさかのかぶり。四体のゴーレム中、二体が馬という悲劇が生まれた。

 ただし、そのデザイン性は正反対だった。


 ユラデザインの馬は、リアリティのある造形に対し、三世デザインはデフォルメを強調した丸く愛らしいデザインだった。


 短い六本の足、大きな胴体に、優しい眼差しを再現した丸い円らな瞳。すらっとしていながら、丸みに包まれた見た目。

 そう。三世はカエデさんをモデルに、現代芸術の極地、ゆるキャラを再現していた。

 しかも、ただのデフォルメゆるキャラではない。鬣や尻尾は拘りの一本一本完全分離稼動。

 蹄の形はもちろん、筋繊維の構造まで計算された限界を求めたデザイン性。

 その拘りは本物のコアはファンに届き、そのわかりやすい可愛さは、可愛い物好きの心を掴む。

 そう、カエデさんへの愛がつまったその作品の完成度は異常と言う言葉以外適さなかった。


 誰がここまでやれと言った。そんな声が聞こえそうなカエデちゃん(仮名)ゴーレムに、周囲の目は釘付けになった。


「マイフレンド。やはり君は想像以上に素晴らしいよ。私の完敗だ」

 ティールは三世に握手を求め、三世もそっと握手を返した。

 誰も口にしないが、勝敗は明らかだった。



「ところで、ゴーレムって脳内でシミュレートした結果で操作するので、馬型って操作大丈夫ですか?相当馬に詳しくないと難しいと」

 ティールの一言に、ユラと三世は小さく「あ」と呟いた。


「あー。ユラさん。大会に操作側で参加しませんか?」

 三世は既に自分で出ることは考えていなかった。だからこその全力投球での作成だが、それが仇となった。

 せめて馬に詳しいユラを入れてバランスを取ろうと考えるが。

「うーん。出ろというのなら出るけど、そこまで興味無いかなぁ」

 ユラは難しい顔をしながらそう呟いた。

 流石に三世も興味の無い人を出そうとは思わない。楽しむことが第一チームだからだ。

 どうしようか、そう悩んでいた時、三世は一人の女性と視線が合った。


「コルネさんは参加してないのですか?」

 騎士団も大会枠があるからよく考えたらここにいることがおかしかった。

 コルネは首を横に振った。

「残念だけど出れなかったのよね。参加したかったけど騎士団の方は希望者抽選で決めることになってたから」

 本当に残念そうに言うコルネに、三世は尋ねる。

「私の作品で、参加してみませんか?」

 カエデちゃん(仮名)ゴーレムを手で差しながら三世は尋ねた。

 コルネは、笑顔で親指を立ててみせた。


 こうして操作する人は決まった。

 自称一般人が外れ、騎士団の中隊長が参加した。

 ティールは三世の人脈に若干引いていた。騎士団中隊長とツーカーの中で、普通に引き抜いた現場を見た時、こいつはやばい奴だと理解した。

 自分のことを棚にあげて。



「さて、最後の一体ですが、どういう風に作りますか?」

 三世の質問に、ティールが答える。

「まず、人型ですね。操作に難がある動物型をこれ以上増やすのは大変ですから。次に女の子向けに偏っているので男の子が好きなデザインを希望します」

 それに頷き、三世は他の人にも発言を促した。

「では、他に希望がある人はいませんか?」

 三世の言葉に、ちらほらと反応する。

「強そうなのが見てみたい」

 とルゥが言い。

「独創的に行きたいですね」

 とソフィが言う。

「浪漫を見てみたい」

 とベルグが言って。

「わふ」

 とシロが吼えた。


「独創的で、強そうで、ロマンがあってわふ。ですね」

 三世はその言葉を聞き、知恵をしぼってデザインを書き起こす。

 顔だけ犬のマスクをかぶったプロレスラー。ライカンスロープ風デザイン。丸っこいラジコンで操作しそうな巨大ロボ。

 いくつかデザインを考えた後、最終的にはメカチックなデザインで落ち着いた。


 機械のロボという発想は、この世界には無い。だからこそ、この世界にも伝わる様にわかりやすいデザインにした。


「ちょっと、物は相談ですがねマイブラザー。その没デザイン。くれませんか?今後の参考資料にしたいので」

 ティールの相談に、三世は了承した。男の子の玩具に革命が起きるということを、三世は考えもしなかった。


 そして三世のデザインの元、全員で遊びながら作り上げ、完成させた。


 手足を出来るだけ角ばらせ、メカ風にされた四肢。

 頭は武者兜を少し西洋風にした宇宙戦争風デザイン。

 そして、胴体にはの胸元には少しだけかっこよくしたシロの顔がついていた。

 そう、イメージは戦隊物のロボットだ。

 がしゃんがしゃん動くことを想定した為、間接部の挙動を意識して作られたそのデザインは、あらゆる意味で未来のデザインだった。

 ティール、ベルグ、フィツの大人陣は、このゴーレムを見て興奮していた。

 ベルグとフィツは、これが今動かせないことを知って落胆するくらい、気に入ったらしい。

 男はいくつになっても、どの世界でも同じ様に子供だと、三世は改めて思い知った。

 もう一人、ここにいて欲しい人がいたが、それは三世のわがままだ。


 最後に、三世は五体のゴーレムに魔力を注ぎ込んだ。

 灰まじりの白だったのが、真っ白に変わった。これでゴーレムとして完成らしい。

 これで形が固定され、崩れにくく、崩れたり壊れても、修復が出来る様になったらしい。

 ゴーレムは触るとぷにぷにしていた。ロボット風に作っても、鎧風に作ってもぷにぷにしていた。

 子供に怪我をさせないことが最優先だかららしい。


 後は、誰が誰を操るか決めるだけで、大会まですることは無くなる。

 固定なのはカエデちゃん(仮名)ゴーレム。これはコルネが操作する。

 というより、コルネ以上に適性のある人はいなかった。


 次に、くま型のゴーレムをクレアが操作することになった。

 クレアの方がクマが好きだからとソフィが譲った形になっていた。


 そのソフィはユラ作の方のウマ風ゴーレムを選択した。難しくても、動物を操作してみたいということらしい。

 そして白騎士風ゴーレムをシャルトが、戦隊ロボ風ゴーレムをルゥが操作することに決まった。


 これで、全ての予定を終わった。と思ったが、まだ一つ残っていたらしい。

 ティールは紙を取り出し、何かを書き込みながら、皆に尋ねた。

「それで、ゴーレムの名前はどうしましょうか?」

 最後の羞恥プレイが残っていた。


「出来るだけ作った人の内で決めよう」

 ティールがそう言って、各自で決めることになった。

 そして十分ほど経ち、全員が名前を決定した。


 最初に決まったのは意外にも戦隊風ロボゴーレムだった。

『太陽戦士シロダイン』

 開き直り、最初から最後まで戦隊風にしてみた結果だ。

 意外にも、操作するルゥは気に入っていた。


 次は白騎士風ゴーレム。

『白騎士』

 素直にそれだけになった。そもそも最初からそのつもりだったらしい。


 次にユラ作の方のウマ

『馬男爵』

 モデルがバロンだから男爵にしたらしいが、何となくじゃがいもみたいな名前になっていたが、三世は何も言わなかった。


 次にぬいぐるみのクマ風ゴーレム。

『くーく』たん。

 これはクレアのお気に入りのテディベアの名前らしい。


 最後にカエデちゃん(仮名)ゴーレムだが、これは本当に決まらず、悩みに悩んだ結果。

『メープルちゃん』に決まった。


 お互いつっこまれたくない為、名前については誰も何も言わなかった。

 ティールは必要な書類を書き込み、これで事前にすることは全て終わった。

 後は係の人がゴーレムを明日にでも運ぶから、三世達のすることは何も無くなった。


 軽くお茶会を開いて、ソフィとクレアと共に軽く雑談をし、日が暮れる前に解散となった。


ありがとうございました。

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