三択目
ハルカはもう少し、詳しい事情を説明した。
魔導ゴーレムの普及と知名度上昇の為の大会。なので国としても相当力を入れたいのだろう。
国家と直接繋がっている魔法士ギルドと冒険者ギルドは強制参加に決まった。
他にも、国家直属の組織が参加することになり、娯楽が中心の遊戯なのに、無駄にメンツの掛かった大会になってしまった。
そんなことで、気付いたら今回の大会で結果を残せなった組織は、予算カットになり、逆に優勝した組織は予算アップする事になっていた。
「しかも今回の大会は何故か軍も参加が確定しているから、間違い無く苦しい戦いになるわ。たとえ遊びでも、予算がかかったら皆本気を出すでしょうね」
ハルカが遠い目をしながらそう言った。
「こっちも意外と適性のある奴がいなくてな。三人は埋まったけど二人ほど枠が余っている。参加してくれるならそれなりの報酬を用意しよう」
ルーザーの言葉に、ハルカはルーザーを睨みつける。
ハルカとルーザーは、三世を中心にした不快な三角関係で結ばれていた。
二人の条件を、三世は聞き比べた。
ルーザーの条件は三世ともう一人の参加。報酬は冒険者としての階級。正しくは、階級の上がりやすい簡単なクエストの紹介。優勝報酬は本物の魔道具だ。
残り三人はそこそこ優秀な冒険者だから、優勝出来る可能性は十分にある。
ハルカの条件は三世一人の参加だ。報酬は魔法の教本。優勝しなくても、一勝さえしてくれたら希少な本を出してくれるらしい。
ただ、残りの四人はあまり運動が得意では無いからどこまでやれるかわからない。
依頼としてみたら、どちらも悪く無い条件だった。
「それで、大会の条件とか教えてもらえませんか?あとゴーレムの操作に何故私が求められているのかも」
その言葉の瞬間。横からティールが跳んで来た。
「ワタクシが説明しよう!まず大会の条件だが、マスターは一人しか認めない。ゴーレムのサイズは統一してある。でクラフターは何人でも自由だ。ただし、アクターは五人絶対使ってもらう。一人一体を今回は守ってもらうからな!」
「ゴーレムに魔力を注ぐ人は一人。操縦するのと兼務しても良い。それで最低五人は操縦する人を用意する。ゴーレムを作るのは誰でも良い。ということですか?」
三世は意味を翻訳しながらティールに尋ねた。
「浪漫を言葉にするのは愚の骨頂だぞ。ふっ」
謎のかっこつけに入ったティール。だが正解らしい。
「それでゴーレムの操作で何故貴様が選ばれているのかは知らないが、予想は出来る。ゴーレムの操作に重要な要素がいくつかある。聞き逃すよなよ」
ティールはその後、早口で説明しだした。
ゴーレムの操縦に関わることで最も比重が大きいのは動体視力と器用さだ。
今回のゴーレムはわざと速度を遅くしている為、見ることがとても重要になってくる。
そして、ゴーレムに威力を出させない為に筋力関係は全て伝わらない様になっている。
操作自体は考えを読み取るシステムだからそれほど難しい物ではない。ただし、思い通りに操作するのは難しい。細かい誤差が発生する。
だから操作のテクニックの要素が非常に大きい。ゆっくりな動作で回避と攻撃を取らないといけない。
他にも体力や魔力も影響するが、ほんの僅かにしか影響が無く、それよりは操作や器用さの方が重要である。
「なるほど。つまり細かい操作が得意で器用が高いから私に白羽の矢が立ったわけですね」
三世の言葉にルーザーが頷いた。
「ああ。私はな。魔法士ギルドの方はわからないがな」
「私の方は内緒かな。ちょっと作戦の事とかになっちゃうし」
ハルカは口元に人差し指を置いて内緒のポーズを取った。
とりあえず、これで情報は出揃ったが、さてどうしたものか。
三世はルゥとシャルトをちらっと見た。
まだ人形で遊んでいた。それをティールが嬉しそうに見ている。
そう。もし枠が三つあれば話は早かった。だけど、枠は冒険者ギルド側でも二つ。魔法士ギルド側だと一つしかない。
または二枠でルゥとシャルトがいけたら良かったんだが。それだと契約と違う。
もしかしたら交渉次第では魔法士ギルド側なら三枠か、ルゥ、シャルトの二枠もらえるかもしれない。
三世は悩んだ。
悩んで、考えて、それでも決まらず悩んだ。
結局三世は、第三の選択肢に手をだすことにした。
「ティールさん。一般枠の参加ってまだ可能ですか?」
その言葉にルーザーとハルカは唖然とした。
「ふむ。わざわざ無料で出られて報酬まで貰えるのを蹴って、何故個別で出ようとする?」
ティールの言葉に三世は答えた。
「家族が楽しそうにしているので、どうせなら一緒に楽しみたいじゃないですか」
三世は未だにじゃれあって楽しそうな二人の獣人を見た。
「なるほど。ワタクシと同じ動機ですね。もし勝ちを目指すのでは無く、子供の笑顔を考えてくれるなら?四枠差し上げますから、開発者権限で貰ったワタクシのチームで出ませんか?」
ティールの言葉に、三世は握手で返した。
「わかりました。子供達が喜ぶ試合の為に、そして私の娘が楽しめる様に、全力を尽くしましょう」
「んー。パーフェクト!共に笑顔の為に」
ティールは硬く握手を握り返した。
「そういうわけで、すいませんが依頼は受けられません」
そう言う三世とルゥ、シャルトがティールに引っ張られる様に部屋の外に出て行った。
残されたのは唖然としているルーザーとハルカだけ。
「なあ。もしかして最強チームが誕生したんじゃないかアレ?」
ルーザーの一言にハルカは頷く。
「優秀な冒険者に知識豊富な開発者。運動神経に優れた獣人二人。本気で上を取りに来ないみたいだけど……」
獣人はまだ二人いるが、ハルカは知らなかった。
「……三枠、空けておけば良かった」
ルーザーの一言に、ハルカも頷いた。
ティールに連れてこられた場所は一般的な家だった。ティールの持ち家なのだろう。
魔法士ギルドから徒歩十分にある大きな家。
魔法使いらしくない、ごく普通の家だった。
「ワタクシのドリームハウスにようこそ!さあさあ。上がって上がって!」
ティールに押し込まれる様に家の中に入る。外は普通の家だが、中は子供の楽園だった。
ルゥとシャルトが目をキラキラさせながらも、オロオロとしていた。
遠慮しているわけでは無く、選択肢が多すぎて迷っているらしい。
玄関を入るとすぐに赤い絨毯が出迎え、天井にはキラキラ光る星の模型。棚の上には兵士の人形からぬいぐるみ。所狭しと子供の為の玩具が飾られていた。
玄関から見えている部屋は四つあり、子供の年齢にあわせた作りになっている様だ。
手前から、赤ちゃん用の部屋。幼児用の部屋。ソレより少し上の子供向け。そして、大人も子供も楽しめそうな部屋。
赤ちゃん部屋にはいくつものベビーベットとあやす用の玩具がおいてあり、幼児用の部屋には積み木や大きなボールなど手で遊ぶ物。
三つ目の部屋は音の出る人形や絵本。おままごとセットなど。あと何故か手を叩くと踊りだすあの花が置いてあった。
最後の四つ目の部屋は、ボードゲームや本、ディティールに拘った兵士の人形や大きなぬいぐるみ。様々な玩具が置いてあった。
「すみませんが、このゴーレムは回収しなければいけません。その代わり、この家の中では好きに遊んで良いですよ!壊しても怒りません。自由に過ごして下さい。でも地下は危ないから行ったら駄目ですよ?」
ぶんぶんぶんぶん。
ティールに小さなゴーレムを返し、何度も首を縦に振るルゥとシャルト。シャルトがこれだけ興奮した様子を見るのは初めてかもしれない。
「よーし!では、ゴー!」
ティールの合図と共に、二人の獣人は走り部屋に入っていった。
「あの子達は年の割に寂しい思いをしていましたからね。遊びに飢えていたのでしょうか?」
心配そうに呟く三世に、ティールは答える。
「逆ですよ。親の愛が足りたから自主的に遊びの力を伸ばしているのです。さあ、邪魔しない様にワタクシ達は二階にあがりましょう」
頷いてティールについて二階にあがった。
二階はあらゆる玩具が地面に散乱して、酷い有様だった。片付け出来ない子供部屋の様な、ある意味子供らしい部屋にも見えた。
「ここはワタクシの実験用の場所なので、散らかっていますが気にしないで下さい」
三世は全く隙間が見えない玩具達の床をそーっと移動し、椅子に座った。椅子も動物のキャラ物の椅子だった。
「さて、大会の詳しい話をしましょうか。大会は【鳥】の月。つまり今月ですね」
カレンダーを取り出して指を差すティール。そういえば、もう八月になっていたか。
七月はほとんど移動だった為忘れていた。
「大会は鳥の月の十六日。それまでにゴーレムを作らないといけません。素体は来週にもそちらの家に送りますから四体分作っておいて下さい。何か質問は?」
「大会の内容とか、練習とかはどうなりますか?」
「選手がゴーレムを操作できるのは大会前の一時間だけ。それ以外は誰も操作禁止です。内容は私も詳しくは知りません。5対5の団体戦は入りますがそれだけかそれ以外もするかは大会運営に全部任せました」
ふむふむと聞き入っている三世。だけど、一つ疑問が出てきた。
「選手が操作禁止になりましたが、だったらさっきまで遊んでいたルゥとシャルトはどうなるのでしょうか?」
ティールは微笑みながら答えた。
「ですからワタクシが取り上げました。大会参加が決まってからは触らせていません」
三世も釣られて微笑んだ。
大会のメンバーの相談をしたが、一枠余った。
三世とルゥ、シャルト。まずこれは確定だ。
一枠はティールが選ぶ。ただし、本人は出る気が無い。というか多分出れない。誰より操作に慣れている人が出るのは流石に大会ルールに引っ掛るだろう。
なのであと一枠余っていた。
「まあ、最悪うちの従業員の誰かに来てもらいましょう」
三世の呟きに、ティールは反応した。
「そういえば、あなたのこと何も聞いてませんでしたね。自己紹介とかお願いしても良いですか?」
ティールの言葉に三世ははっとした。
最近自分のことを知っている人が増えて油断していた。城下町の入り口の門番には、今や顔パス出来る程度の知名度になっている。
「失礼しました。私の名前はヤツヒサ。稀人で、一応の牧場主です。そうですね。ティールさん風に挨拶するなら、動物の幸せが生きがいの、ちっぽけな男でしょうかね」
その自己紹介に、ティールはにやりと笑った。
「なるほど。君とは素晴らしい友情が結べる気がするよ」
そう言いながら差し伸ばされた手を三世は握り、また握手をした。二人はお互いで、何か大切な気持ちが通じ合っていた。
それは常人には理解出来ない何かだった。
帰りの時間になったが、ルゥとシャルトはここから離れるのを拒否した。
嫌がるルゥとシャルトを何とかなだめ、三世はティールの家から離れる。
ティールがお土産に大量の絵本を渡してくれなかったら泊まることになっていただろう。
そのままカエデさんの所により、カエデさんを連れて門の前に来た。
「おそくなりました、すいません。シロ、大丈夫でしたか?」
門の前に待機しているシロの所に行くと、門番を背に乗せてぐるぐる駆け回るシロがいた。
「わふー!」
シロは三世に気付いて嬉しそうに三世の側に走ってきた。
上に乗っている門番の人が申し訳無さそうに謝った。
「すいません。どうしても乗って欲しいと目で訴えられて」
その光景が、見て無くても予想出来た。
「いえ。こちらこそ申し訳ありません。面倒見ていただいて助かりました」
「いえいえ。楽しかったので、こんな任務なら何時でも大歓迎です」
本心なのかお世辞なのかわからない。だけど、門番はとても良い笑顔をしていた。
お詫びに片手で食べられそうな軽食とお茶を中で適当に買って門番の人に渡し、三世達はカエデの村の帰路についた。
「るー。ヤツヒサごめんね。帰りたくないってわがまま言っちゃったね?」
ルゥが走っているシロの上から三世に話しかけた。横で飛び跳ねてそれどころでは無いシャルトも、たぶん同じ気持ちだろう。
「良いんですよ。むしろわがまま言ってくれた方が嬉しいですよ?」
紛れも無い本音だったが、ルゥには伝わってないらしく首を傾げていた。
「なんでわがままを言ったら嬉しいの?」
三世はシロの方に近寄り、ルゥの頭を軽く撫でた。
「大人になったらわかりますよ」
ルゥはわからなかったが、頭を撫でられて嬉しかった。シャルトは跳ねながら必死にしがみついていた。
自分の上でイチャイチャされたので、カエデさんはちょっとだけむっとする。
だが、誰にも気付いてもらえなかったので、帰ったらカエデの木を齧ろうと思った。
ありがとうございました。