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紙一重の先と三角関係

 

 シロは思った以上に早く、カエデの村から二時間掛からずに城下町の門まで到着した。

 ロデオマシーンみたいになっていたルゥとシャルトもとてもがんばっていた。

 ルゥは楽しそうだったが、シャルトは疲れた顔をしている。後で何かお詫びをしないと。


 カエデさんの移動速度が速すぎて、田舎に住んでいるのか首都圏に住んでいるのかわからなくなってきた。今のカエデの村が田舎の小さな村というのも語弊があるが。

 例えるなら、電車で十分位の距離で都会に遊びに行ける田舎。そんな気分だった。


 城下町の前で門番が呆然としていた。門番以外も、通ろうとしている商人も呆然としていた。

 皆の視線はシロに向いていた。

 門番は、シロを見上げた後、三世の顔を見て、納得した様な顔をして、三世達をそのまま通した。

 村だけで無く、色々な場所で三世の名前は轟いているらしい。

 どういう風に轟いているのだろうか。そう考えるが、三世は出来たら聞きたく無かった。


「それじゃあ、お願いします」

 そう言いながら、三世はカエデさんをいつもの有料の馬小屋に預けた。

「はい。お預かりします。ですが、そちらの動物は……」

 厩務員の人が、シロを見ながら申し訳無さそうな顔をした。

「ですよね……」

 三世もここに来て気付いた。これを責めることは出来ない。シロは馬小屋に物理的に入らなかったのだ。

 悩んだ結果。城下町の外、門の側で待ってもらうことにした。

「シロ。戻ってくるまでここで待てますか?」

「わふ」

 自信がある様な、ドヤ顔で頷くシロ。何故だろうか、その態度が逆に信用出来ない。

 だが、シロを町の中で歩かせるわけにはいかなかった。体格的に。

 非常に心苦しく、心配だが、三世はシロに門の外で待ってもらうことにした。門番の横で。

 え?まじで?

 そんな表情を浮かべる門番の人に三世は気付かず、中に入って行った。



 シロは門番の人に、遊んで欲しいオーラを飛ばし始めた。



 そのまま冒険者ギルドに入り、受付嬢に話をしたら、そのまま奥に通され、いつものギルド長の部屋に案内された。

 こんこんこん。三世は軽いノックをする。

「どうぞ」

 その言葉を聞き、三世はドアを空け、一礼して入る。

「失礼します」

 それに続いて、ルゥとシャルトも三世に真似て入った。


「久しぶりだな。急な依頼ですまない。だが、どうしても頼みたい依頼でね。とりあえず、好きな所に座ってくれ」

 黒い髪に黒い瞳の男。ギルド長のルーザーはそう呟いた。


「では失礼します」

 そう言いながら、三世はソファに座り、そのソファの両側に二人も座った。

「すまないが、もう暫く待ってくれないか。大変遺憾なことだが、私一人先に話すわけにはいかないんだ」

 本当に悔しそうに言うルーザーに三世は頷き、ここで待った。

 その間に、妙に豪勢な茶菓子が出てきたり、ルーザーが三世に期待の眼差しを向けていたり、またはため息をついていたりした。

 微妙に誤解されそうなことは止めてほしかったが、三世は何も言えなかった。


 大体十分ほどだろうか。ソファに座って待っていたらノックの音がした。

 コンコン。そのまま返事も聞かずに人が二人ほど入って来た。

 一人は知らない男性だった。女の人の後ろにいて、身長が高くすらっとしている。むしろすらっとしすぎている。

 どうみても不健康そうなガリガリの見た目にロープを羽織っている。その瞳は虚空を見つめていた。

 もう一人、先頭の女性を三世は見たことがあった。

 魔法士ギルドの副ギルド長で、魔法の指導をしてくれた人だ。


「えっと、確かハルカさんでしたよね?」

 三世の言葉にハルカは、にっこりと微笑み、言葉を返した。

「ええ。覚えていてくれて嬉しいわ。魔法士ギルド副ギルド長のハルカよ。あれから来てくれないから覚えてもらってるか不安だったわ」

 妙なアピールをしている様に三世は感じた。それをルーザーが腹立たしそうに見ている。何となく、依頼の内容で二人が対立しているのが見えてきた。

 ハルカを覚えていたのは身長が理由だと、言わない方が良いだろう。

 百五十センチ位。もしかしたらもっと下かもしれない。

 他の人より一回り小さく、ハムスターっぽい愛くるしさなので、小動物的なイメージとして三世は覚えていた。


「とりあえず紹介するわね。魔導ゴーレムの開発者にして、魔法士ギルドの平のメンバー。今回の件で隠しておきたい秘密兵器に認定されたティールよ」

 紹介を受けて、後ろの男性がぺこっと軽く頭を下げ、「ども」と一言だけ呟き、そっぽを向いた。

「見ての通り、典型的な魔法士ギルドの一員よ」

 ため息を吐きながらハルカはそう言った。

 これが典型で良いのだろうか。


「それで、本題の依頼の話の前に、魔導ゴーレムについて説明するけど、私と製作者、どっちから聞きたい?」

 質問の意図が読めなかった三世は、深く考えずに答えた。

「どちらでも良いですが、詳しい人に話していただけた方が嬉しいですね」

 その言葉の瞬間、ティールと呼ばれた男の瞳に力がこもり、ハルカの前に移動した。

「あーあー。やってしまったか」

 ハルカはそう言った後、ため息を吐いてソファに座った。


「この世界にワタクシよりゴーレムに詳しい者などおらぬ。ワタクシこそが、魔導ゴーレムを発明した、奇跡のクリエイター!魔道具のゴーレムの知識と、稀人のゴーレムの知識より掛け合わせ!生まれたのがこの魔導ゴーレムだ!」

 そう言いながら、ティールは手のひらの上で動く、小さな白い人形を見せた。

 手足のある人型ではあるが、妙にまるっこいディティール。首とか腰とかこまかい部位は一切無く、顔も点の目と線の口のみ。

 それが三世達に手を振っていた。

「何これ可愛い!」

 ルゥが飛び掛る勢いでその人形の側に寄った。シャルトも興味は無さそうにしているが、尻尾がぴこぴこと動きながら目で人形を見続けていた。

「魔道具にはゴーレムはあるが今まで製造出来なかった。そして何故か稀人は皆ゴーレムを知っていた。そう!情報だけはあったのだ。ワタクシはその情報を集め!改良し!この魔導ゴーレムを作ったのである!」

 話しながら人形を躍らせたりと器用に操作するティール。シャルトも我慢出来ず、ルゥの横にまで移動した。二人とも目を輝かせていた。


「ではこれは何なのか!ぶっちゃけて言えば魔導粘土である。好きな造形に作り、決まったら魔力を流し込む。これは魔法が使えなくても問題無い。子供ですら魔力を注げる仕様になっている。ある程度大きいのを操作すると少し疲れる程度で、誰でも使えるぞ!魔力を注ぎ込んだら形が決まり、後は操作するだけ!事前に命令とかは出来ないぞ!皆それを期待しているが、これで出来るのは操縦だけ!操るという浪漫の体現よ!」

 そう言いながら、手のひらの人形で逆立ちをするティール。獣人二人はパチパチと拍手をしていた。


「簡単に補足するとー。誰でも使える自動人形が生まれました。魔力が二程度あれば十体位同時に操れて、操縦だけ誰かに任せるとかも出来ます。視界の共有とかも出来ます。そんな夢の兵器です」

 ハルカの面倒そうな補足。口調こそ適当だが、危険な代物だとはわかっているような言い方だった。


 つまりこれはロボット、または高度なラジコンだ。戦争に利用したら、一方的に相手を嬲れる凶悪な兵器と言えるだろう。

 未だに人と人でぶつかり合う戦争に、こんな物を持ち込んだら世界が崩れる。魔族や魔王では無く、この国が世界の敵になるかもしれない。

 どのくらい量産出来るかによるが、それ次第では本当に国が滅ぼせる。


「これは……本当に危険なものでは?」

 緊張感のある三世の言葉に、ハルカは何とも言えない顔で答える。渋い顔というか、すっぱい顔というか。見る人だけで無く、本人も困惑するような不思議な顔だった。

「そうね。危険だね。一番危険なのはそいつの脳内だけどな」

 ハルカはティールにそう言うが、ティールは首をかしげて不思議そうな顔をした。

「ん?ワタクシの作る玩具が危険?そんな馬鹿な。安全設計の為に砂粘土を使い、角のあるぷにっとした造形しか作れず、砂が崩れても目に入らない。しかも砂は苦くしているから誤飲対策もばっちり!後何が危険なのですか!?」

 強く、力説するティールに三世が尋ねる。

「おもちゃ……ですか?」

 三世の問いに、ティールは頷いて答えた。その表情は、何この人当たり前の事を言っているんだろうという表情だった。


「こいつの脳内は世界中に自分の玩具を広めることしか無いから。その為に魔法士ギルドに入ったんだって」

 ハルカは面倒そうにそう言い、ティールはそれに「何を当たり前な」と言わんばかりの表情で頷いた。


「そういえば自己紹介がまだでしたね。ワタクシの名前はティール。トイマスターのティールです!子供の幸せの為に玩具を広めることがワタクシの使命!ワタクシの生き様!以後お見知りおきを」

 最初の大人しさは一体何だったのか。

 三世はこういうタイプに覚えがあった。

 自分の得意分野になったら饒舌になるパターン。凝り性。またはオタク気質とも呼べるべき人種だった。


「またずいぶん濃い人が出てきましたね……」

 三世の一言に、ルーザーが反応した。

「それにはとても同意だが、君が言って良いことでは無いと思うぞ」

 どうやら、アレと同じ扱いを受けているらしい。解せぬ。


「というわけでここからは私が話すわね。たぶん脱線しまくると思うから」

 ハルカはそういうと、ティールは隅の方に行き、ルゥとシャルトに魔導ゴーレムの操縦を教え始めた。


 そしてハルカは魔導ゴーレムが完成した時の事を話し出した。


 魔導ゴーレム。それが完成したら確かに戦争は変わる。兵士として使えば相手の命だけを奪え、形次第では容易に情報収集が出来る。また狭い場所なり危険な場所なり、人の通れない所でも容易に移動出来る。

 ハルカはその危険性と拡張性の高さ、未来への可能性を考慮し、王に直訴した。王もそれを受け、ハルカと製作者のティールを王城に呼んだ。


 そして玉座の間、周囲に騎士団が待機している中で王は尋ねた。

「では、魔導ゴーレムを使い、どう戦況が変わるのか、説明してもらおうか」

 王、フィロスの問いに、ティールはハッちゃけて答えた。

「え?おもちゃで戦況とか変わるわけ無いじゃん」

 王は口を開きぽかーんとした表情を浮かべた。ハルカは死を覚悟した。


 そしてティールは長々と演説を始めた。

 戦争という行為は物を奪う事だ。逆に玩具は人に笑顔を与える。だから玩具の方が素晴らしい。

 そんな内容を延々と、そして長々とティールは歌う様に語る。

 

 子供が笑い、楽しみ、成長する。玩具こそ、この世界で最も偉大な発明だと。

 ティールははっきり、そう言い切った。

 騎士団はそのテンションの高さに若干引いていた。


 未だに戦争が続き、多くの死者を出しているラーライル王国。しかも最近大きな事件もあったばかりだ。

 そんな中で戦争否定。国批判とも言える内容。ハルカは命を諦めていた。


「では尋ねよう。その魔導ゴーレムという玩具を使い、何をしたい?」

 王の言葉に、ティールははっきり答えた。

「子供達を笑顔にしたい」

 一体何が気に入ったのかハルカにはわからなかった。

 だけど、その時王ははっきり笑っていた。


「わかった。魔導ゴーレムという玩具、認めよう。ティール殿が関わっている限り、それは兵器では無く玩具だ。そしてティール殿よ。偉大な発明家に報酬を出そう。何を望む?」

 そしてティールは、自分の望みを言った。


「というわけで、第一回、魔導ゴーレムバトル大会開催が決定しましたー。わーわー」

 ハルカはびっくりするほど抑揚の無い声でそう言った。

「なんというか。何から突っ込めば良いのかもわかりませんね……」

 疲れた声の三世に、ティールが反応した。

「説明しよう!将来的には子供の玩具として考えている魔道ゴーレムだが、その値段は尋常ではない。とてもまだ子供に手が出せる物ではなぁい!だったら今は見世物にしよう!そういうことで対戦形式のゲームにした。ルールはシンプル。一チーム五人の操縦士と五体のゴーレムを出し、五体のゴーレム同士が戦い合い、一体も動けなくなったら負けだ。ちなみにゴーレムに遠距離攻撃は無い」

「ああ。はい。それで私への依頼って何でしょうか?」

 さっさと本題に入りたい三世。それに対してティールは口を尖らせて拗ねていた。



「冒険者ギルドの私も、魔法士ギルドも、ヤツヒサを雇いたいんだ。大会参加のメンバーとして」

 ハルカも横で頷いていた。

「私も、冒険者ギルド長も、恐らく違う理由で君なら優勝出来ると考えているの。どうかな?優勝関係無く、受けてくれるならそれなりの報酬を出すわよ」

 ハルカの言葉に、ルーザーも乗っかる。

「魂の友であり、冒険者ギルドの一員だからな。信じてるぞ」

 ルーザーの言葉はほとんど脅しである。

 つまり今回の依頼は、魔法士ギルドか、冒険者ギルドの操縦メンバーになって欲しいという依頼だろう。

 何故自分が目にかけられたのかはさっぱりわからないが。

 ちらっと横を見る三世。

 そこには楽しそうに小さな人形を操るルゥとシャルトの姿があった。

 真っ白ではあるが、熊の形をした人形と人の形をした人形でルゥとシャルトがじゃれあっていた。

 二人はとても楽しそうで、それだけで参加する意味があると三世は感じた。



「もう少し、詳しい話を教えてくれませんか?」

 どっちに付くにしても、とりあえず条件を詰めることにした。





ありがとうございました。

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