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新しい家族と共に帰宅

 

 その時、カエデの村に衝撃が走った。

 圧倒的な巨体を持つ白き獣が、村の入り口に荷物として届けられた。

 村人達は怯えた。檻にも入っていない人よりも大きな生き物。人を捕食すると言っても違和感が無い。

 爪は鋭く、その眼光……顔……はそんなに恐ろしく無いが、それ以外は恐ろしかった。

 その獣人の所有者が三世八久だと村人が知った時、村人達の心が一つになった。

「なんだ、いつものことか」

 その瞬間から恐れは無くなり、シロはカエデの村の一員になった。


 菓子食うか?肉食うか?飲み物水で良いか?中に入らないか?暑くないか?

 村人達は皆、代わる代わるシロの側に行き話しかけた。

「わふ」

 それに対し嬉しそうに一鳴きするシロ。シロはこの村が暖かいということを知った。すぐにこの村が好きになった。

 それでも、村の入り口からは動こうとはしなかった。


 一台の馬車の音が聞こえた瞬間、シロは立ち上がり嬉しそうにその馬車を方に駆け寄った。

 待っていたよ!

 その仕草は、そんな風に言っている様に見えた。



 シロの数時間後に、三世達もカエデの村に帰りついた。

 先に王に報告も終えている為、これで今回の依頼は終了になる。

 長期間の移動の往復に現地の徹夜と治療作業。割と疲れの溜まる冒険だった。

 ゆっくりリフレッシュ休暇でも取りたいものだ。

 三世はそんな気持ちになるが、残念ながらそうもいかない。

 名指しで指名された仕事がいくつも溜まっていた。帰ってきた今日と、明日くらいは別にしても、それが終わったらまた仕事の日々が始まる。

 それに加えて牧場の仕事もある。また前みたいに忙しい日々が続くだろう。

 だけど、充実した日々だ。動物と触れ合えて、人が笑顔になる。不幸になる人はほとんどいない。

 少なくとも、三世はそう感じていた。


 ルゥとシャルトはフィツの店に、帰宅を知らせに向かった。

 三世は牧場方向、特にユウに帰宅を知らせに向かう。

 牧場でのことだけで無く、あの事件以降の村の事など。全てをユウに任せていたから、その報告をまずは聞かないといけない。

 そう思い、三世は一人で牧場の方に向かった。


 そこは別世界の様になっていた。

 異常なほどの混雑具合。ざわめきだけで声は聞こえず、先が人込みで見えない。

 今まででも十分盛況だったが、これは明らかに桁が違う。

 某テーマパークの様な状況だった。


「あら?ヤツヒサさんおひさー。お仕事うまく行った?」

 牧場の内部、入り口付近から三世に手をふる存在がいた。

 ショートカットの金髪にロングスカート、半そでのシャツに目元が隠れるくらいの帽子。

 それはコルネだった。いつもの鎧姿でないからすぐにはわからなかったが、金髪の髪と明るい印象の強い優しい声で三世も気がついた。

 片手でアイスを舐めながら、小さく手を振るコルネ。これでもかと言わんばかりに牧場を満喫していた。


「お久しぶりです。一月位ですかね。あの件はうまく行ったので後は国にお任せしました。ついでに新しい子が家族に増えましたよ」

 三世のその言葉に、アイスのコーンの端を齧りながら、コルネが答える。

「もう見たよ。なんだかすっごいの連れてきたね。人噛まない?」

「噛むことは無いと思いますよ。人懐っこい子ですから。ただ、人懐っこすぎてじゃれてる時に潰されそうになりますが」

 苦笑しながら呟く三世は、既に三回ほど潰されかけていた。


「ははは。じゃあ私も後でもふもふしに行ってみるよ。じゃ、またね」

 そう言いながら、コルネは牧場の奥に行き、人込みに消えていった。

 コルネが立ち去った後に、三世は思った。

 衣装が違うこと、褒めておけば良かったと。


 人込みを避け、何とか従業員用の道を通り、仕事用の部屋に向かう三世。

 明らかに拡張されていて、部屋は増えてるし、従業員も非常に多い。一体何があったのだろうか。

 いつもの部屋に入ると、そこにユウが書類仕事をしていた。三世は安堵した。これで新しく出来た部屋に居られたら探すのが本当に大変だ。

 道が入り組んでいて、迷路みたいになっていた。


「すいません。今大丈夫ですか?」

 三世はユウに話しかけてみた。ユウは慌てて書類を置き、三世の方に顔を合わせた。

「ああ、オーナー。今お戻りですか?」

「はい。何か問題はありましたか?」

 そういう三世に、ユウは書類を三枚渡した。

「まず一枚目が牧場の現状です。問題無く稼働中です。ただ、ブルースさん達をかなり酷使しているので、そろそろ纏めて休暇を取ってもらおうと考えているところです」

 受け取った一枚目を見る。施設稼働率が七割。ただ、乗馬体験と競馬が稼働率フルに近いから何か考えないといけないかもしれない。三世は一日平均来客数三万という数字を無視することにした。

「二枚目は、新しく作った従業員用の宿泊施設と観光客向けの宿泊施設についてです」

 従業員は六百人追加し、従業員専用宿泊施設を三十設置。そこそこの観光客向けの宿泊施設を五百家族分追加と書かれていた。

 桁がおかしい事に、三世は気のせいだと思うことにした。


「最後に、オーナー名指しの依頼を纏めておきました。村長の依頼の診療所は僕でも何とかなりそうだったので代わりにしておきましたが、問題無いですか?」

 ユウの言葉に三世は頷いた。ユウを信用しているからこそ、権限をある程度渡しているのだから問題無かった。


 三世は最後の一枚を見た。

 まず村長の診療所の依頼だが、これはもう完了になっていて、既に診療所も出来ているらしい。後で挨拶に行かないと。

 次にマリウス、師匠の依頼だ。魔力炉の設置の協力要請だ。

 これは依頼というよりは、指導だろう。ただ、革から完全に関係無いことに手を出すのは珍しいなと三世は思った。


 最後は冒険者ギルドと、魔法士ギルドについてだが、これはどうも同じ依頼らしい。

 魔導ゴーレムという謎の心引かれる単語に、遊戯専用という不思議なパワーワードが追加されていた。

 一体どんな依頼なのか見当も付かない。


「ありがとうございます。うまく纏められているので何をすれば良いか非常にわかりやすいです」

「そう言っていただけるとありがたいです」

 ユウは微笑みながら言葉を返した。


 このまま帰りたいが、そうもいかない。三世は一番聞いておきたいことをユウに尋ねた。

「ところで、この牧場の客の多さは一体何があったのでしょうか?」

 三世の言葉に、ユウがため息を吐きながら答えた。

「国王様より、この前の休業分と侘び金と、なんやかんやの補助金をいただきました。ただ、金額がちょっとですね……」

 言いにくそうなユウの言葉に三世は理解した。


 元々牧場はかなり広く、大きく作っていた。ブルース達が兄貴に褒められたい。兄貴の城なんだから立派にしよう。そんな思いで作った牧場だ。大きくないわけが無い。

 今までは牧場の施設の稼働率は五パーセント前後だった。それ以上は人員も動物も足りなかった。

 そして、補助金は最大稼働率で計算して渡されていた。

 つまり、想定の二十倍の補助金が渡され、しかも補助金の為別のことに使うことも、使わない事も出来ない。

 しかも王は補助金と同時に、動物の優先購入の権利と、身元が確かで働き口の無い若者の情報をつけた。


「つまり、予想の二十倍ほどの補助金を使ったらこうなったと」

 ユウはそっと頷いた。

「たぶん。国王様はわかっててやったと思います。何か思惑があってこの牧場の発展を考えたと僕はそう考えます」

 三世もそれには頷く。といっても大体の理由は予想付く。

 国王も、実は動物が好きだ。だから三世を獣医殿と尊敬の念を込めて呼んでいた。

 だとしたら、国王の狙いはわかりやすい。

 視察と銘打って遊びに来る為の下準備だろう。その時は盛大にしないといけないな。三世はそう考えた。


 改めて、牧場の資料を見ていると、三世は一つ大きな事実に気付いた。

「あの、これって私達の仕事、かなり減っていませんか?」

 今まではブラックを通り越した何かの様な労働状態だったが、従業員が必要数以上に増えた為、業務形態が完全に別物になっていた。

「気付いて……しまいましたか」

 ユウは芝居がかった演技をしながら、三世に従業員の前後数週間分の勤務表を渡した。そこには一週間に二回程度しか、三世の名前が乗っていなかった。

「なんと……こんな素晴らしい労働状態になるとは……」

「給料にかなりの金額を使っているので収支はそこまで大きな黒ではないですが、問題無いですよね?」

 三世は頷いた。むしろこれだけ雇って黒字なら文句などつけようも無い。

「というわけで、全部の業務で代わりになる人がいるので、ぶっちゃけ僕達初期組がいなくてももう牧場は回ります。強いて言えば、ルゥさんが来ると食べ物関係の売り上げが上がるのと、まだ競馬の実況解説役が少ないのが問題らしい問題ですかね」

「じゃあ、あの地獄の様な労働はもうしなくても良いのですね?」

 三世の震える声に、ユウはそっと頷いた。

 二人は過去を懐かしむ様に、そっと手を握り合った。



 体が軽い。羽が生えたのでは無いかと勘違いする程だ。

 冒険による移動の疲れも吹っ飛んだ。今三世は幸せな気分の中にいた。

 確かに牧場の仕事は好きだと言える。嫌では無い。だけど、あの日々は少しばかり、忙しすぎた。

 後は、直接名指しの依頼が終われば、しばらくゆっくり出来る。

 三世は気合を入れ、明日からも仕事に励もうと考えながら、自分の家に着いた。そして、家の横にいる大きな白い物体を見た。


「忘れていた……シロの家……」

 そこにいたのは、無垢な瞳でこちらを嬉しそうに見ているシロと、シロをもふもふしているコルネとルゥだった。


 慌ててブルース達を呼んでシロの家を頼んだ。

 挨拶でも、感謝でも土産を渡すでもなく、帰って最初の言葉が犬小屋の製作依頼とは、何と情けない兄貴分だろうか。

 三世はブルース達に、非常に申し訳ない気持ちで一杯になった。

「あっしらも色々作ってきやしたが、まさかこんなにでかい狼の小屋作ることになるたぁ思いませんでしたぜ……」


 ただ、流石に今からちゃんとした家を作るのは夜までに間に合わない。既に夕暮れになっていた。

 後日、場所決めからはじめ、立派な家を作るとして、今日は間に合わせのとりあえずの寝床を作ってもらうことになった。

 その間に合わせの犬小屋は、三世の家の隣で、三世の家と同じ位の大きさになっていた。



ありがとうございました。

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