過保護が過ぎる保護者達
2018/12/03
リメイク
これを読んでいる人はこのシリーズここまで付き合って下さったのですよね。
そう考えると非常に感慨深いです。
これからも変わらずのご読了頂けたら幸いです。
世紀末に登場しそうな方々の大半がいなくなりさっきまでの喧騒もなく、穏やかな空気が流れはじめたギルドの中に四人は入っていった。
中は思った以上に広い。
入る前は酒場のような場所を想像していたが、どちらかと言うと県庁のような、または広い銀行のような感じである。
広い施設に多くのテーブルが置かれ、そこには冒険者がまだ残っていた。
……というよりも朝っぱらから酒を飲んだくれていた。
奥にいる受付らしき人はカウンターの向こう側であっちにこっちにと忙しそうにしている。
さっきの修羅場の処理をしていたのだろう。二十人以上の人達が慌ただしくしていた。
また二階にも受付か何かあるらしくそちらの方に移動する冒険者の姿も目にした。
「何か仕事残ってるといいのですが」
三世は自信なさそうに呟いた。
「誰がいきます?」
カウンターらしき場所の方を見て、三世は後ろにいる三人に尋ねた。
が、三人はじっと三世の方を見ていた。
「こういうのはリーダーの役割も兼ねますので今後の事を考えると私はちょっと……兼業ですので」
三世の言葉の後に田中と田所は見つめ合い突然ジャンケンを始め、その結果田所がリーダーの役割を担う事となった。
「すみません。委託業務何か残っていますか?」
受付の若い男性が田所の言葉に笑顔で応えた。
「はい大丈夫です。階級はいくつでしょうか?」
「銅級です」
そう田所が言った瞬間、表情を曇らせ眉をひそめた。
「はぁ……そうですか」
受付の男はどうでも良さそうにそう呟いた。
露骨なまでにやる気を失っている。
「悪いけど……銅程度だと禄な仕事ないですよ」
「かまいません。紹介してください」
「はぁ。下水掃除と片道二ヶ月の荷物の護衛と薬草集めですかね」
その言葉の後にくるっと後ろを向き、田所はこちらに相談を求めた。
「おいどうする?」
「すいません薬草一択です」
「なんでだ?」
三世の言葉に田所が尋ねる。
「下水だと鼻の良いルゥが入れません。一応私達が抜けて二人で下水掃除にいって頂いてもいいですが」
「いや。薬草でいい。下水掃除とか出来たら避けたい」
田所が納得して頷いた。
「というわけで薬草集めを頼む」
「はい了解しました。夕暮れまでに一人二束ほど有益な効能のある薬草を集めてきて下さい。どんなのでもいいので」
「ちょっと待った。どこでどんなのを取ればいいんですか?」
「……知りませんよ自分で調べて下さい」
受付は田所の質問に対して嘲るように笑い、そのまま去っていった。
さてどうしようか、三人は頭を悩ませた。
「手段としては人に頼るのが一番だがそれは冒険者としてどうか」
田所はそう呟いた。
確かに、ルーザーやコルネに頼れば一発だろう。
「ですが、そもそも期待を裏切ることになるような気がします」
三世の言葉に二人も頷いた。
「私に良い考えがあります。これを使いましょう」
そう言いながら田中は『ラーライル王国管理施設閲覧許可証』を全員に見せた。
「確か閲覧室に植物辞典あったはず」
「いいじゃないか」
田中の提案に田所が笑いながら三世の方を見た。
「じゃあそうしましょうか」
三世の言葉に二人は頷き、図書施設に足を運んだ。
そして、田中と田所の二人は城下町の寄贈図書室に入っていき、そのまま奥に進み調べ物を始めた。
三世とルゥは外で待機することになった。
「そうか……獣人は入室禁止ですか……」
差別とかそういった扱いの問題ではなく、単純に毛が入るという理由だった。
ルゥは体毛がほとんどないが、獣人によっては体毛が多い者もいる為こういう処置をする必要があるのだそうだ。
そして、基本獣人は本を読まないからこれまで一度たりとも問題は起きていないらしい。
じっと待つ三世の傍でぼーっとあくびをしながらルゥも一緒に二人を待った。
「退屈ですね。すいません」
ルゥに謝罪するがルゥは頭に疑問符を浮かべるように首をかしげた。
「ん? 日向ぼっこ好きだよ?」
そう答えたルゥはあくびをしながら背を伸ばした。
――なるほど。ルゥはゆっくりとした時間が好きなんですね。
三世はそんなことを考えながら、ルゥの頭を撫でてまったりとした時間を過ごした。
「たぶんいけます」
田中が自信に満ちた目でそう告げた。
「いや能力って凄い差出るな。田中の本を読み進める速度頭おかしいわ」
「はははは。これが異世界で楽しいと思う瞬間ですね」
「わかります」
田中の嬉しそうな声に三世が同意する。
「おや三世さんはどんなときに異世界の楽しさを? やっぱり手術とかが出来たときですか?」
「いや楽しくはないですね。皆健康なのが一番です。そっちではなくて、今の私は簡単な革靴なら刃物と針があれば三十分程度で作れます」
「三十分……三十分!?」
三世の発言に田中と田所が目を丸くして驚いた。
「ええ。もちろんちゃんとした道具が揃ってたらもっと早く出来ますね」
「そういえば能力上がったって聞きましたが、今器用どのくらいですか?」
「今十二ですね」
「うわぁ。何か遠いところに行きましたね三世さん」
「いや私は器用くらいしか伸びませんが田所さんと田中さんならもっと戦える感じに伸びますよ」
「そうだといいんだけどな」
「まあとりあえず移動しましょう。案内します」
田中が先頭に立ち町から離れて馬車に案内した。
馬車の代金は四人で銅貨八枚だった為、三世はルゥの分も含めて馬車の代金銅貨四枚を田中に渡した。
「今考えたらぼったくられましたね」
馬車から降りて目的の位置に歩きながら田中が三世に呟いた。
「え? 一人銅貨二枚って相当安くないですか?」
「ええ。でも奴隷って所有物扱いなため大型荷物なので銅貨一枚で良いです。つまり銅貨一枚余分に取られたという事ですね」
「あー。まあルゥの名誉を買ったということで」
「そうしましょう」
談笑しながら田中と三世は草むらを歩き進めた。
その後ろをルゥが軽々と移動し、最後に田所が枝に体をぶつけ、草に足を取られながら歩きづらそうに進んだ。
「おいなんで俺だけこんなにぶつかるんだよ」
「身長差で言えばそれほど差があるわけではないですが……やっぱり恰幅が……」
三世が言い難そうに呟いた。
田所は縦も横も大柄だった為か、三人より多く草木にひっかかり体に傷をつけながら歩いていた。
ただ、ひっかかっているのは田所だけではない。
草木の生い茂った人の手が入っていない森林は天然のトラップのようになっており、間伐等で手入れされた森林しか知らない三世達も進むのに苦戦していた。
「まあもう少しだからがんばれ」
田中が適当に応援した。
通りにくい森林を二十分ほど突っ切った先に、青々とした草原が見えた。
ここが目的の場所である。
「とりあえずここにそれなりに良さそうな薬草があるそうです。……ああこれですね」
田中が地面からギザギザした葉っぱを引き抜く。
「これです。トルー草って言います」
「おう。どんな効果があるんだ?食ったら傷が一瞬で治るのか?」
田所がワクワクした様子でそう尋ねた。
「傷は治りますけどそこまで効果ないですね。ごく一般的なファンタジー的要素のない傷薬です」
「なんだつまらん」
「一応食べても栄養価が高く、塗るだけで傷薬になり、加工することで効能も増やせるので割と万能的な薬草です」
「だったら余分に取っておこうか」
「そうですね」
特に問題も無く作業は進んだ。
数が少ないわけでもなく、取るのが難しいわけでもないので子供でも出来るような仕事だった。
葉が十枚溜まったら一束にしてかばんにしまう。
その間変わった事と言えば、精々二つだ。
一つは、田所が試しに食べてたら恐ろしいほどに苦かったらしく、とても渋い顔をした事。
そしてもう一つは、ルゥが思った以上に薬草集めが上手かった事だ。
他の皆がようやく一束集めたくらいでルゥは既に三束集めていた。
「なんでそんなに早く集められたんだい?」
三世がルゥに尋ねた。
「えーっとね。匂い。なんかすっごくにがそうな匂いがするの」
足が隠れるほどの草原から薬草を探すのに目視に頼る三人よりも、嗅覚に頼るルゥの方が圧倒的に早いのは当然だった。
「それはルゥちゃんが集めたやつだから俺達は俺達で集めよう。ついでにドベだったやつはおごりな」
田所が楽しそうにそう二人に言った。
「そうですね。ただオゴリは勘弁してください。本当に金欠でして」
三世は苦笑いをしながらそう呟いた。
「じゃあ余裕あるときに何か革製品安く作ってくれたらいいぞ」
「ああいいですね」
田所と田中が三世の方を見ながら挑発的な表情でそう呟いた。
「いいですよ。ただし、私が勝ったらルゥの分も奢って下さいね」
にっこりと笑いながら三世は二人にそう言い放った。
そして結局、三世がドベだった。
帰り道の馬車の中で三世はいつも常備している余った革を使い、さくっと普段使いの革靴を二足作り二人に手渡した。
当然足に大きさを完全に合わせている。
「三世さんが何かとんでもないことするような人になったな」
「ヤツヒサは凄いから!」
田中の発言に何故かルゥが自慢げに答えた。
「なんか冒険してる感じなかったな」
そう呟く田所に三世は苦笑いをして呟いた。
「安全が一番ですよ」
「まあ一番安全なとこ選びましたからね」
田中がそう言って説明を始めた。
「初回なので出来るだけ魔物のいそうな場所から遠くて野生生物が出にくい迂回ルートを選択しました。あの草原に直接向かう事も出来ましたが、そうすると猪が出るそうなので」
田中の言葉に田所は不満げな表情を浮かべた。
「猪くらいならいけるだろ」
田所は持っていた剣をちらつかせながらそう言った。
「結構強いらしく、冒険者でも毎月死人出てるそうですよ。猪」
「戦わないのが正解だな。やはり安全が一番だ」
田中の言葉に田所は微笑みながら剣を仕舞いそう呟いた。
四人は報告の為に冒険者ギルドに足を運んだ。
時間はそろそろ夕方に差し掛かるくらいの時間。
だからだろう、テーブルに座ってる人はもうほとんどいない。
受付の人も減り数人がぽつぽつといるだけだった。
田所はリーダーとして受付に向かい、待機している女性に話しかけた。
「すいません。依頼の品物持ってきたのですが」
「はいはい。何級の方ですか?」
「銅級です」
その言葉に受付の女性はビクっと反応にこちらを怯えるような目で見始めた。
「午前に薬草採取を受けた方ですね?」
「はいそうですが。何かありました?」
田所は尋ねたが女性はなんでもありません言った。
ただし、声を強張らせている。何かあったと言っているようなものだ。
「では確認します。三名様一人二束です。追加があればこちらが買わせていただきますがいかがでしょうか?」
「ではお願いします」
田所がそう呟き、本来の六束に加え七束を手渡した。
小さな声でひぇっと女性が言ったが、全員聞こえないフリをした。
「では銅級依頼報酬が一人銅貨四十枚。薬草一束銅貨五十枚で十三束なので銀貨六枚と銅貨五十枚になります」
「それと午前中は申し訳ありませんでした。こちらの不手際で大変気分を悪くされたと思いますので報酬には色を付けさせていただきます」
怯えながら女性はこちらに深く頭を下げた。
四人は何の事なのか思い出せず首を傾げてた後、田中がはっとした顔をして受付の態度が少し悪かったことを思い出した。
「ああ。受付ってアレがスタンダードじゃなかったのですね」
そう呟く田中の言葉で、三世も田所も午前中の受付の事を思い出した。
――なるほど。ギルド長が何かしましたねこれ。
三世は前にいる女性の怯え具合からそう察する事が出来た。
「いえいえ。俺達が見習いなのが悪いので。これで次から青銅級ですよね?」
「はいもちろんです。階級証明が必要でしたなら銀貨1枚で行っています」
「あったほうがいいですか?」
「無くても問題はありませんが、銅級と違うとすぐ気づいてもらえますので、あのような事にはなりにくいかと……」
三世はその言葉の後周囲の冒険者を見た。
何人かの冒険者は胸元に木で出来た土台に金属が埋め込まれているものを付けている。
たぶんあれが証明なのだろう。
「先に三人分階級証明を買った後で報酬は分配しよう。たぶん必須です」
田中が前にいる田所にそう伝え、田所もそれにならって買いますと受付にいって銀貨三枚をカウンターの上に置いた。
「では三人分の身分証明に銀貨三枚いただきます。それとお詫びとして報酬に色をつけさせていただいて、都合 銀貨八枚になります」
大分多い額を提示した後、女性はカウンターの上に布袋を置いた。
三世が小さな声で周囲に聞こえないよう受付の人に話しかけた。
「ギルド長が何かしましたね?」
受付の女性も小さな声で返す。
「はい。彼はもともとクレームの多い職員でして、階級の低い方を不当に差別し、仕事をわざと減らして教えてたので即座に首になりました」
何となく三世は何があったのか理解出来た。
要するに、ルーザーは自分達の事を心配して見張ってくれていたのだろう。
何となく三世は初めてのお使いに行く子供のような気持ちになった。
「事情はわかりましたが……それって私達恨まれませんか?」
「恨まれてる可能性はありますが既にこの町にいないので問題ないです」
「あの……どこにいかれましたかその方は?」
「知らないほうが良いこともありますよ」
女性は、乾いた瞳を三世に向けそう呟いた。
「わかりました」
内緒話をしたが思ったより怖い話になりそうだったのでそれ以上聞くのは止めておいた。
田中が何か考えがあるらしく女性に質問を投げかけた。
「すいません両替って出来ますか?」
「銀貨を銅貨になら出来ますよ」
田中の質問に受付の女性は答えた。
「じゃあこうこうして……」
田中は報酬の銀貨を三枚銅貨に変えてもらい、受付から離れてテーブルに移動した。
「んでまずはルゥちゃんの銀貨二枚と銅貨五十枚。そして私達が銀貨一枚と銅貨八十枚。そして銅貨十枚のあまりですが、これもルゥちゃんで良いですよね?」
田中の言葉に全員が頷いた。
半日で約2千円の稼ぎ。
そう考えたらかなりキツい。
三世はルゥのお金を革で作った小物入れに入れ、ルゥに渡した。
ルゥは嬉しそうにもらった小物入れを見ていた。
「はいここで残念なお知らせです」
田中がそう言葉にした瞬間、全員は田中に注目した。
「冒険者用の最低の宿泊施設がありますが治安的に怖くて入れません。その次にマシな冒険者用宿泊施設に泊まりますがそこは一泊銀貨一枚です。最後に、私達はルゥちゃんと同じ部屋に泊まる度胸ありません」
「あっ」
言いたい事が理解出来、三世は小さく呟いた。
「俺達元操縦組で一部屋そちらの主従組で一部屋という事だな」
「あっあっ」
田所の言葉に何かを言いたい三世。
だが、何もいう事が出来なかった。
大きくなってからの初めての二人っきりの宿泊。
はっきり言って、とても気まずい。
しかも彼女の中身はまだ子供そのまま。
言い難い事なのだが、非常にガードがゆるい……というかノーガードである。
「三部屋とってルゥを一人で――」
「出来ます?」
三世の発言に田中がそう言い返した。
その答えは当然――不可能である。
「ちなみにそこはベット一つです」
「ああああああ」
三世が何も言い返せず、その場で崩れ落ちた。
その横でルゥは小物入れを両手に持ちうれしそうに見つめていた。
その後特に何事もなく、一同は食事を取り宿泊施設に向かった。
三世は、必死に何かに耐える顔をしていた。
何に耐えているのか、何がつらいのか、それを聞くほど二人はヒトデナシではなかった。
二人部屋に入った後、田所が田中に尋ねた。
「今頃あの二人一緒に寝ているだろうけど、嫉妬とかいいのか?」
「そうですね。良くはないですが、それ以上にルゥちゃんと一緒に寝泊りは辛いですからねぇ」
ただでさえ美人な上に、良く動くので胸元が色々な意味で危なかった。
と言っても、二人はルゥに対してそういう卑猥な気持ちになる事はなかった。
確かに美人だとは思うが、中身のせいか子供くらいにしか感じなかった。
その為ガードの緩いルゥを見ると妙な罪悪感を覚えると同時に、親心のような心配する気持ちになっていた。
「そうだな。確かに色々と辛いだろうな。だから後はお医者様先生に任せよう」
田所はそう言って笑いながら、ベッドに入っていった。
「ですね。……あれ? 私の寝るとこは?」
田中の呟きに田所は知らないフリをした。
ありがとうございました。