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番外編-お星様に願いを込めて

更新分かりにくいとおもってこのまま出します。


もしかしたらそのうち順番を変えるかもしれません。

 これは、王に呼び出される前、その隙間の話。



 いつもの買出しに城下町を歩く三世とルゥ、シャルト。そこでルゥは気になる物を見つけた。


 店先に飾られた緑色の植物。その葉の部分と思われる場所に色とりどりの紙飾りが飾られ、四角く長い紙に何かが書かれて吊るされていた。

「ヤツヒサ。あれ何?」

 ルゥは三世の袖を引っ張り、その植物を指差した。

 三世はそれを見て、少し懐かしい気持ちになった。

「七夕ですか。こっちでもそういう風習があるのは少し驚きました」

 そういえば今日は【人】の月の七日目。確かに七月七日に当たる。七夕飾りを見るまで思い出しもしなかった。

 ルゥとシャルトはそれが何かわからず、じーっと二人で七夕飾りを見ていた。

「おや。これを知っているということは稀人様かい?」

 その七夕飾りを飾っている店の奥から人が出てきた。おそらく店主だろう。

「失礼しました。店の前を塞いでしまってすいません」

 三世は、ルゥとシャルトをつれ、店の入り口から離れた。

「はは。閑古鳥の鳴いている店にそんな気を使わんでええよ。それより、あんた知っているなら書いてくかい?」

 そう言いながら、店主はペンと紙を三人に見せた。


「それでヤツヒサ、結局これ何?」

 ルゥとシャルトは興味深そうに三世を見ていた。

「これは七夕飾りと言いまして、七月七日。つまり今日行う行事ですね。この色とりどりの短冊に願い事を書けば叶う、と言われています。実際叶うは置いておいて、お願いみたいなものですね」

 その言葉に、ルゥはぱーっと瞳を輝かせた。

「いい!すっごく面白そう!私もやりたい!」

 ルゥは、店主の持っている紙では無く、竹の方を見ながら叫んでいた。

 つまり、竹を用意して欲しいということなのだろう。


 三世は困った顔で呟く。

「竹って、この当たりで生えてるの見てませんね。どこで手に入るのでしょうか」

 そんな三世に、店主は肩をぽんぽんと叩いた。そして、おもむろに自分の店の奥を親指で指していた。

「毎年な。余分に仕入れては稀人様っぽい人に話しかけてるんだよ」

 最初からそれが目当てだったらしい。この世界の商人は、思った以上に商売上手と言うか、腹黒いというか。

「一本取られました。竹を下さい」

 それでも、ルゥの楽しそうな顔を見たら、三世に買わないという選択肢は無かった。

「まいど。紙とかペンも買って行きな。多少は値引きしてやるよ」

 店主はとても良い笑顔だった。その理由は竹の値段を見たら良く理解出来た。



 三世達は一旦仮宿舎に戻り、竹と紙飾りを置いて、短冊とペンだけを持ってまで外に出た。

 自分達だけで無く、少しでも知っている人の短冊を飾りたいというルゥの願いだった。


 戻ってから外に出て、知り合いを探して。その間シャルトはずっと黙ったままになっていた。

「シャルト。どうかしましたか?人込みに疲れたなら先に戻っていますか?」

 三世は気になってシャルトに尋ねる。だが、シャルトは心ここに在らずといった感じでぼーっとしていた。

「すいません。嫌では無いんです。ただ、何の願いにしようか悩んでまして」

 真剣な表情で書くことを考えているシャルト。シャルトはシャルトで、七夕を楽しんでいるらしい。

 そんなシャルトが嬉しくて、三世はシャルトの頭を優しく撫でる。

「はふ……やはり一夜を共にと書いた方が良いでしょうか。どう思います?」

 頭を撫でる手を止め、三世はそのままシャルトの頭を(はた)いた。

「もう少し純粋に楽しんで下さい」

 それほど強い叩いてはいないが、撫でられた後だったからびっくりしたらしく、シャルトは頭を抑えながら涙目で呟いた。

「だって、良いアピールチャンスになるかと思ったんですもの。ちなみにもう一つの願いはベッドで可愛がってもら……」

「それは別の願いと言いません」

 三世はもう一度、シャルトの頭を(はた)いた。



「ということで、願い書いて!」

 ルゥは、城下町にいるコルネに紙とペンを渡した。というかルゥは身体能力を駆使してコルネを追跡していた。

「んー。書くのは良いけど、見る限り私が一番目だよね?」

 三人は同時に頷いた。

「それなら、一番に相応しい人に一番を譲って書いてもらおう!私はその後で良いよ」

 そう言いながら、コルネはにやりと邪悪な笑みを浮かべた。


 コルネは三人を案内しながら、城下町を歩いた。そこにいたのはグラフィだった。

「ということで、英雄グラフィ様。短冊に願いごとを書いてくださいまし!さあさ!英雄らしい願いを!はよ!」

 コルネは、グラフィに押し付ける様に短冊とペンを渡そうとした。

「うるせぇしうぜぇ!というか何だこれ!頼むから事情を話してくれ。意味がわからん」

 グラフィは疲れ気味に突っ込みをしていた。コルネ相手の時は毎回こうなんだろうなと、三世は今のやりとりで理解した。

「私達稀人の世界の文化で、短冊に願いごとを書いて竹に吊るして燃やすんです。そうすると願いが叶うと言われています」

「ほーん。まじないの一種か。書くのは良いが、英雄らしくねぇ。酒、金、女って書きたいんだが」

 グラフィは困り顔でペンを持ち、短冊を睨みつけていた。余りなれていないのか、ペンを持つ手がぷるぷる震えていた。

「別に何書いても良いよ。でも、後で子供達に英雄グラフィはこんなこと書いたよって見せるかも」

 にっこりとしたコルネに青筋を立てながら、グラフィは願いを書きなぐった。

『子供達の住みやすい世界にする』

「これで英雄っぽいだろ。俺にはわからねーがな。本音は酒って書きたかったんだ。代わりに今度奢れや」

 グラフィは書いた短冊を三世に渡し、そのまま顔も見せずに去っていった。

「これって、本気の願いだよね?」

 コルネはグラフィの願いを見ながら呟いた。

「うん。書いてる時心がまっすぐだった。これは間違いなく、あの人の心からの願いだよ」

 ルゥは頷きながらそう答えた。


 三世は思った。自分が何かしなくても、グラフィは間違いなく英雄になっていた。子供の為に世界を守る覚悟がある人の呼び方は、他に無いからだ。

 だが、それはそれとして、この短冊は一番目立つ所に飾ろう。そう心に誓った三世とコルネだった。



 次に訪れたのはカエデさんのいる馬小屋だった。

「るー。カエデさん書けないし願いわからないや。どうしよ?」

 ルゥは困った顔で呟いた。

「大丈夫。任せなさい!」

 それに対して、コルネは親指を立てて自信満々に答えた。コルネはそのままカエデさんの側により、ひそひそ話をしだした。


「はい!まずは私の願い!」

 そう言いながら、コルネは皆に見せびらかせる様に、願いを見せた。

『みんなが笑顔になれますように』

 コルネらしい。優しい願いだった。

「なるほど。素晴らしい願いです。次の英雄はコルネさんですかね」

 三世は冗談だと分かる様に笑いながら言った。

「え、あんな扱いはちょっと……」

 コルネは真顔で否定した。その顔は本気そのものにしか見えなかった。


「んでんで!これがカエデさんの願い!」

『早く体調を戻して、おもいっきり走りたい』

 コルネの字だが、カエデさんは後ろでしきりに肯いていた。

 しっかりと意思疎通が取れていて、三世は少しだけ嫉妬した。

 自分はリンクが起きない限りはそこまでうまく話せないだろう。

 それでも、本当に少しだけだ。


 意思疎通は確かにとれない。だけど、カエデさんの気持ちは良くわかる。

 カエデさんの願いは、つまるところ三世へのデートのお誘いだ。

 カエデさんがおもいっきり走れるのは、三世を乗せた時だけだ。

 その証拠に、カエデさんはじっと三世の方を見ていた。

「そうですね。体調をしっかり整えたら、また一緒に走りましょう」

 首元を撫でながら、三世は優しくそう答えた。


 カエデさんは無茶がたたり、暫く養生することになった。

 牧場内くらいなら問題無いが、長時間走るのはしばらく控えないといけない。

「ということで、私はもう少しカエデさんと遊んでいるから。またね」

 コルネはそう言って、カエデさんのブラッシングを始めた。


 次に冒険者ギルドに寄ったがギルド長は忙しいらしく、会うことが出来なかった。なので短冊だけ渡してもらう様頼んで帰った。

「次はどこに行きますか?」

 三世の質問に、ルゥは遠くを指差した。

「ヤツヒサの家族のとこ!」

 そう言いながら、三人はマリウスとルカの住んでいる仮宿舎に向かった。


 マリウスもルカも、七夕を知っているらしく、紙を受け取るとすらすらと書き出した。

「あ、すまん。書き損じた。予備はあるか?」

 マリウスが申し訳無さそうに呟くのに反応して、ルゥはさっと紙を渡した。

「何枚でもあるよ!ちょっと買いすぎた」

 てへっとした顔をするルゥの手には、百枚以上の短冊があった。

「おいおい。ほら、出来たぞ」

 そう言いながら、マリウスは三世に短冊を渡した。

『弟子が自分の技を全て受け継ぎ、一人立ちしてほしい』

 マリウスは、照れを誤魔化す様に頬を掻いた。

「といっても、このままの早さならそう遠く無いうちに独立するだろう」

 マリウスの励ましに、三世は大きく肯いた。

「私はこれから?」

 そう言いながら、ルカは三世に紙を渡した。

『もっと皆に頼られる人になりたい』

 どうよ!と自信満々にしているルカに、この場にいるみんなが同じ感想を持った。

 え?これ以上?

 村で一番頼りにされている少女は、まだまだ上を目指しているらしい。


「それでは失礼します」

 三世は一礼して、マリウスとルカの家のドアを閉めた。

 三世が言った瞬間、マリウスは眉間に皺を寄せて難しい顔をした。

『妻の病気が治りますように』

 そう書かれた紙を握りつぶしながら。


 ルゥは、村の知り合いを片っ端から探して頼みまわった。

 ユウは『ユラの愛する牧場の発展』

 ユラは『愛するユウとの子供』

 を願っていた。二人は恥ずかしそうにもじもじしだした為、邪魔にならないうちにさっさと撤収した。


 村長は『引退』とだけ紙に書いた。三世は顔を逸らし逃げる様に去った。


 フィツは『もっと広い店』だった。実力や味は自力で叶える。もっと上を目指す為に、練習になる大きな店を願った。もっと多くの料理を一度に作れる様になりたいらしい。


 ブルース達は、五人合同で一枚の紙に願いを記した。

『アニキの役に立つために、もっと建築の勉強、練習がしたい』

 三世はフィツの願いを見せた。そのまま、ブルース達五人組はフィツの所に走って行った。

 どうやら、燃やす前に二つ願いが叶ったらしい。


 それ以外にも、見かけた村人や子供達に頼み、願いが書かれた短冊を集めていった。

 そして、百枚あった短冊は全て、願いが書き記された。

「でも、後九十九枚ありますけどね」

 シャルトの無慈悲な答えに、ルゥがしょんぼりしていた。短冊は合計二百枚買っていた。


 夕暮れが近づいていた。流石に時間切れだろう。

「とりあえず、七夕飾りを作りましょうか」

 三人は家に戻り、急いで竹に紙飾りを作って飾り、短冊を吊るしていった。

 そして、出来上がった七夕飾りを家の前に飾った。

 その側に余ったペンと短冊、ヒモを置いて。

『よろしければご自由にどうぞ』

 と記述しておいた。


 最後の仕上げは、三人が願いを書いて飾るだけだった。


「んー。自分の願いって案外難しいねー。ヤツヒサは何て書くの?」

 三世の願いは家族の幸せだ。だけど、今回だけは別の願いを優先させた。この機会を逃せば後は忘れるだけになりそうだからだ。

『あの人の未来の幸せを願って』

 もう『あの人』に未来など無いとわかっている。それでも、最後に微笑んだあの人、あの子の幸せを願わずにはいられなかった。


 ルゥもシャルトも深くは追求しなかった。

 シャルトの願いは『お願いだから魔法安定して下さい』という切実な願いだった。

 三世が居ない時、村を守ったシャルトの魔法。だけど、それ以降一度も使えなかった。

 本来魔法は一度使えたら後は繰り返し使える。自分の力の要素が最小限だから魔法は便利だった。

 だけど、理由はわからないがシャルトは魔法が使えなくなった。練習も意味をなさない為、シャルトは困ることしか出来なかった。

「安定して使えたら、ご主人様を守るのにもっと役に立てるのに」

 拗ねた様に呟くシャルトの頭を、三世は愛おしそうに優しく撫でた。


「るー!やっぱりこれが一番良いね!」

 そう言いながら、ルゥは全力で、渾身の力を込めて願いごとを書いた。

『みんなの願いが叶いますように』

 本心で、心を込めて、ルゥはそう願った。短冊を竹に吊るしていない願いも含めて、お願いだから叶って欲しい。

 自分の小さな願いよりも、ルゥは皆の大きな願いを選んだ。

 三世とシャルトは、二人でルゥを抱きしめた。自分達が汚れてみえる。それほどルゥの心は綺麗なままだった。

 ルゥの願いを一番上に飾り、三世とシャルトは好きな位置にぶら下げ、三人に仮宿舎に戻る。

 いつもの様に、絵本を読んで、三人はそのまま寝た。


 朝になり、三世は短冊ごと竹を燃やすことにより願いは天に昇ると説明した。

 本当は七日の昨日にすべきことだが、時間が足りなかった。まあ神様も一日くらいなら大目に見てくれるだろう。


 外に出しておいた七夕飾りは、一晩で成長していた。

 余った短冊が、夜のうちにほとんど書かれていたからだ。

『もっと酒』

『彼女が欲しい』

『水が怖い』

 と、どうも酔っ払いが夜の内に色々書いていたらしい。残った紙は一枚だけだった。


 三世は念のためバケツに水を入れて、大きな短冊飾りを燃やしても問題なさそうな城下町の外に移動した。


 そして、その場で竹を燃やしだした。火をつけたら、すぐに離れる様にルゥとシャルトに指示を出した。

 竹は火が付くと音を鳴らして跳ね散る為かなり危ない。


「ルゥ。危ない中悪いですがこの一枚も一緒に燃やしてくれませんか?」

 三世は余った最後の短冊をルゥに渡した。

 ルゥとシャルトはそれを見て、にこっと微笑んだ。

「るー。わかった。火に投げ込むね!」


 ルゥは、『来年も皆で七夕が出来ますように』と書かれた紙を、竹の側に投げ込んだ。


ありがとうございました。

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