愛することを覚えた彼女
短いですがこれで終わりです。
後はエピローグと番外いくつかで区切りになります。
話は数日ほどさかのぼる、騎士団が行方不明の対処に追われている中、コルネは騎士団とは別に、直接王命を受けた。
そもそも彼女が中隊長という立場なのは単独行動を行いやすくする為だ。
優秀な元隊長が副隊長に就き、指示すると同時に、隊長不在のカバーを行う。
そういった構造なのは最初からコルネの単独行動の為だった。
王命は非常にシンプルなものだった。
『事件の首謀者を殺せ』
それは、国民を守るだけで無く、政治的な理由も込みだった。
故にコルネは、村や町の護衛で無く、単独で原因を追究していた。
そして当たり前の様に死者に出会い、当たり前の様に、レゾナンスの魔法に引っ掛った。
「偉くなったわね」
「ああ。自慢の娘だよ」
コルネの前に現れたのは小さい頃に死に別れた両親だった。
愛を中心作られたレゾナンスの魔法の一番怖い部分。それは疑う気持ちが無くなることだ。
目の前にいるのは、失った理想の相手。寸分変わらず理想通りの姿の相手に、逆らうことは出来ない。
そして、長時間その世界にいると、現実を忘れ、幸せな夢のまま、生命活動を停止する。
目的は出会うことである為、アルノはそれ以外はほとんど興味が無い。
ただただ善意で作られた、大量殺戮専用の魔法だった。
「パパ。ママ……」
騎士団で生活し、誰かの為に戦えるコルネでさえも、その魔法からは逃れることは出来なかった。
「うん。もう頑張らなくても良いんだよ。コルネががんばったから、皆笑顔になった。もう辛い思いをしなくて良いんだ」
父親の優しい声がコルネに響く。
「そうね。今度はコルネが幸せにならないと。神様もきっとそう望んでいるわ」
母親の気持ちがコルネに伝わる。
優しい気持ちで包まれる。コルネの頭から騎士団で生きてきた全てが薄れ、思考が固定されていく。
「おいで。もう、がんばらなくて良いんだよ」
この時コルネは、間違いなく両親だと信じ、彼らが自分を助けてくれる存在だと信じていた。
コルネは、最も愛する父と母の傍に寄り……。
その首を切り落とした。
「ありがとうパパ、ママ。でも私の足を止めないで」
あらゆる感情は愛に包まれたが、彼女にはそれ以上大切なものがあった。
彼女が受ける『王命』とはそういうことだった。
国王フィロスはコルネを重宝し、特別扱いをしている。
それは何故かというと彼女は二つほど、他の人と違う点があるからだ。
一つは異常なほどの国に対する忠義。
忠義を燃やす騎士は数多くいるが、それでもコルネに相当する者はいない。
王がタメ口で話せと言うと、自称忠義者ほどかしこまる。だが、コルネはそのまま王の傍によって雑談を始めた。
彼女は王に仕えているわけでは無い。国に仕え、忠義を果たしていた。
そしてもう一つ。彼女が特別な理由。それは、国の敵に容赦をしないことだ。
フィロスは一つ不安があった。それは自分が国に尽くせず、国の敵になった場合だ。
王が国を優先せず、私情を優先する。そんな事態になれば、確実にこの国は他の国に飲まれるだろう。
そうなった時、コルネは全てを捨ててでも自分を殺してくれる。
フィロスはそう信じていた。
コルネは国に救われ、恩を返したかった。
故に、国に全てを捧げていた。
フィツはレゾナンスの魔法。死者への未練を乗り越えた。
だが、コルネは乗り越えたわけでは無い。両親とも会いたい気持ちは強いし、家族がいなくて寂しいとも思っている。
レゾナンスの魔法を越えたわけでは無い。だから、何度でも魔法にかかった。
魔法にかかり、両親に出会い、そして殺す。
数日間、延々と殺戮繰り返しながら、死者の多い方向を探るコルネ。感情はほとんど動いていなかった。
王命を受けた今、自分の感情すら後回しだ。
移動していると、明らかに雰囲気の違う場所についた。
そこは首都から割と近い位置で、戦闘の雰囲気があり、歩く死者の数が多い。
コルネは馬を隠し、いざとなったら逃げる様に厳命し、その場所を探る。
そこにいたのは見知った顔と馬。それと見知らぬ少女。
隠れて様子を見ていると、突然見知らぬ少女が奇声を上げだし、それに呼応して死者が動き出した。
コルネはそれを見て犯人と断定し、王命を果たしに向かった。
感知機能が低いのか、少女は特に動きもせず、知り合いの男を見ていた。
コルネは、その隙を狙い、自分の剣を少女の背後から突き刺した。
「そう。あなた、人間だったのね」
コルネが小さい声で呟く。アンデッドという噂が流れていて、実際にそうだと思っていたが、彼女はただの人間だった。
ただの人間だが、その精神性は化物同然だった。
それを壊したのが三世だった。
コルネはそのまま剣を、横に振りぬいた。
シャン。
高い金属音が響き、アルノの脇から鮮血が飛び散る。
心臓の位置を横に一閃。即死でもおかしく無い状況だ。
三世はアルノに近づく。だが、何を言って良いかわからなかった。
そんなアルノが、一瞬三世の方を向き、微笑んだように三世は見えた。
その後に、後ろを向いてコルネと向き合った。
コルネは一切の表情を浮かべず、アルノを見ていた。それは死者への敬意か、それとも油断していないからかは三世にはわからなかった。
「ありがとう。あの人に私を殺させないでくれて。殺されたい気持ちはあったけど、やっぱりあの人の手を私で汚すのは嫌だったの」
アルノはコルネに向かって礼を言った。コルネにも、三世にも理解出来なかった。
にこっと軽く微笑み、そのままアルノは崩れ落ちた。
べちゃっと液体の跳ねる音と共に、地面に伏せるアルノ。
芋虫のように体を這わせ、上を向いて三世と目を合わせる。
「一つだけ聞きたかったの。あなたは何に怒っていたの?」
アルノは、空ろな目で三世に問いかけた。もう見えてもいないのだろう。
三世は、悲しそうな顔をしながら、アルノに一言だけ残した。
「誰かがいなくなるというのは悲しいことなんです。あなたがしたのはそういうことなんですよ」
死者に囚われ死ぬというのも辛いことだが、それ以上に残された者はもっと辛い。
それすら知り得なかったアルノに、三世はやるせない気持ちと悲しさを覚えた。
「そっか。ヤツヒサさんは私が死んでも悲しんでくれるのね。ふふ。それならもう十分よ。知りたいことも知れた。悪いことも知れた。あはは。最後に叱られちゃったな」
アルノは嬉しそうに笑い、そのまま動かなくなった。
同時に、周囲の死者も地面に崩れ動かなくなった。事件は全て終わりを遂げた。
ありがとうございました。
もうすぐまったりするんや(´・ω・`)




