表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/293

コルネちゃん先生の亜人とはなんぞな-説明会-

2018/12/02

リメイク


皆を肯定して皆が楽しく生きられるそんな世の中を夢想する、

コルネちゃん先生16才。


 三世は二人と部屋の中で額を寄せあい、この一週間ほどの間で何があったのかをお互い話し合った。

 腕の中で幸せそうな顔をしているルゥがいるからか、異常なほど話は脱線を繰り返したが何とかお互いの事情を話し合う事が出来た。

 田中と田所はこの一週間で書物や見学などを繰り返し何をするのか悩んでいたが、ついこの間決定した。

 二人は冒険者の道を目指すそうだ。


「どうして冒険者に」

「騎士団だと事務仕事だらけになりそうだから……」

 三世の質問に田所は渋い顔をしながらそう呟いた。

 コルネはそれを聞き、そっと顔をそらした。


「ま、まあ。書類仕事苦手な人多いから……私含めて」

 その顔はとてもバツが悪そうだった。


「私達はそんなわけで大した事なかったのですが、三世さ――ヤツヒサさんは一体どうしてそうなったんですか……」

 田中がそう呟く事により、三世は詳しい事情を話さなければならない事となった。

 これは田中、田所だけでなくコルネも聞いてみたいらしく三世の方をじっと見ていた。

「――コルネさんにはもう話したと思いますが……」

 そう言いながら三世は今日までに何があったかの説明を始めた。


 初日に革職人としての師匠が出来、オーバーワーク気味で革細工の製作に励んだ。

 そして師匠であるマリウスよりストップがかけられコルネと共に城下町に遊びに行った。

 その時に奴隷だったルゥを見つけ、手術して今に至る。

 起きているのか寝ているのかわからないがルゥがいる為 代金により絶賛金欠中である事は口にせず、三世はこれまでの事情を説明した。


「あー、そうかなるほど。元獣医だったのか三世さん。どーりで」

 田所の言葉に三世は微笑みながら尋ねた。

「何かそれっぽいところありましたか?」

「いんや。ただ、笑顔ってわけでもないのにいつも優しい雰囲気してましたから、歯医者とか獣医とかの雰囲気だって言われたら納得出来たなーと思いまして」

 そう田所は三世の質問に照れた様子を見せながら答えた。


「つまり、何かの動物だったのですねシュウイチさんも。つまりゴリラ的な」

 コルネは二人の会話を聞き、田所にそう言った。

 田所は苦笑いを浮かべ、田中は田所に指を差して笑い、三世は顔を背けて笑うのを堪えた。

「――もう少し別の動物とか……あぁはいないですねわかります」

 自覚があるのか田所は諦めたような苦笑いを浮かべた。




「それにしても、昨日会ったばかりの割には良く懐いていますねー」

 ルゥの事だろう。

 田中が嫉妬の眼差しを三世に向けながらそう呟いた。

「そりゃ、奴隷として引き取られて怯え続け、心も体も弱りきって死にかけている時に、ずっと自分の心配をしてくれて傍にいてくれて。んで目が覚めたら体調万全になってるのよ。そりゃ懐くわ」

 普通そこまで出来ないでしょう、というようなニュアンスでコルネは三世にそう話しかけた。

「あと『いりょーこーい』してたってのも知ってるよ!」

 どうやら起きていたらしくルゥはそう言葉を付け足した。


 スキルの影響だろう。

 三世の記憶か知識の一部がルゥに受け継がれてるように三世は思えた。




「というわけで、冒険者になる二人とこれからルゥちゃんと共に生活する人に、私から亜人についてのお勉強会のプレゼントでーす」

 そうコルネが言うと、三人は拍手をして椅子をコルネの方に向けて座りだした。

 ルゥはそんな三人を見て、きょろきょろと周囲を見た後、三世の横で地べたに犬座りをした。


「椅子に座っても良いんですよ?」

 そんな三世の言葉にルゥはぶんぶんと首を横に振った。

「ここが良いの」

 そう言ってルゥは三世の膝に頬をこすりつけ、三世はルゥの頭を撫でた。


「目に悪い……というよりは頭に悪い」

 田中は怪訝かつ妬ましそうな表情でそう呟いた。

「俺、もう嫉妬とかどうでも良くて尊敬してきたわ」

 そう田所が呟いた。

「話が……すすみませんの……」

 コルネが三世の方を見ながらよよよと誰でもわかるような わざとらしい泣き真似をし始めた。

「いえ、なんかすいません」

 そう謝るそぶりを見せる三世だが、ルゥの頭を撫でる手を止める気はなかった。




「さて、まず亜人とは何なのかという話ですが、簡単に言えば見た目が違うだけの人です。ただ、多くの亜人……というかほぼ全ての亜人は私達人よりも優れた身体能力を持っています。そして独自の文化やコミュニティも持っていますね。分かりやすく言えば見た目が違う外国の人です。ここまでで何か質問がありますか?」

 三人は首を横に振り、ルゥはその真似をして首を横に振った。

「んで、次は【四天してん】について話すわね。四天とは人と亜人三種族が国際条約にて結ばれた事を意味するわ。同盟とも少し違うわね。つまり、私達四種族はルールを守りましょうって約束しあった感じかな」

 この話を聞き、連合国のようなものだろうと三世は思った。


「まずは私達人。亜人と比べた場合特に優れた部分がないと言われてるわね。その代わり、どの種族よりも広い土地と人口を所有してるわ。それと、亜人にとっては私達人が亜人の祖だという言い伝えがある為多少ではあるけど尊敬されてるわ」

 その言葉を聞き、三世はコルネに質問を投げかけた。

「私達が優れていないのに一番土地が多く人口も多いのですか?」

「そうよ。私達は足が速かったり空が飛べたりとても頭が良かったりする亜人に比べて劣ってる部分が多いわ。その代わり、私達人は自由なの。亜人は種族特有の何かに縛られている場合が多く、その所為で人口が増えにくかったり領地を拡張できなかったりするわ。獣人の場合は本能が強く自由な気質があるから国家運営に向いていないとかね」

「なるほど。ありがとうございます」

「いえいえ。どんどん聞いて下さい。私説明得意じゃないので尋ねられた方が助かります」

 コルネはたははと笑いながらそう呟いて頬を掻いた。


「んでんで次に【四天】についてですけど。【人】【エルフ】【ドワーフ】【ドラゴニュート】の四種族が四天となります」

 この時点で三世は若干の嫌な予感を覚えたが、まだ黙っておいた。

 あまり当たって欲しくない予想だからだ。




「先に言っておきますが、エルフは稀人様方が良く言っている種族とは少々違います。『森の民』という意味では合ってますし老若男女問わず美形揃いではありますね。……私好みの見た目ではありませんが」

 そう言いながらコルネはテーブルにイラストを一枚置いた。

 緑色の髪をした儚げな女性がそれには描かれていた。

 弓を持ち、耳は若干尖ってとても美しく描かれ……そして手足から数本、短い枝が生えていた。

「耳は尖ってたり尖ってなかったりします。基本的に儚げな印象の美形が多いですね。ですが、最大の特徴は植物と融合している事にあります。文字通り森と一体化しているんです。程度の差はありますがね。融合度の低い人は絵みたいに枝が生えている程度。高い場合は大木へとその姿を変えます」


「人との関係はどんな感じですか?」

 田中の質問にコルネは微笑んだ。

「他種族である事を考えるとかなりうまくいっているわね。エルフと結婚する人が現れる程度には両者は交流がありうまくやれてるわ。ただ、結婚するなら森の中に住まないといけないけど。あと伝統を大切にする種族だという事を覚えておいて」

 そう言いながらコルネはイラストを仕舞った。




「次に『山の民』のドワーフ。こっちは逆に稀人様の考えるドワーフ像とよく似てるわ。身長が低くて……あ、髭もじゃではないわ。最近のドワーフでは髭を剃るのが流行みたいだし」

「髭が最大の特徴なのに」

 そう田中が残念そうにつぶやいた。

「稀人の世界って面白い事考えるわよね。でも見た目なんて流行で変わるものじゃない」

 三世は髭のないドワーフの女性像を想像し確かにと思った。


「さて続きはっと、金属の加工に人生かけているわ。あとお酒が好き。強い弱いじゃなくて好き。それと地下で一生鍛冶を出来るように岩を食べることが出来るわ」

「岩をですか?」

 三世の質問にコルネは頷いた。

「そう。岩を食べることにより大地の魔力を受け取りそれを栄養に変換する。味を気にしなかったら岩だけでも生きれるわね。大体普通の食事も食べるけど」

 そして新しい絵をテーブルに乗せた。

 身長が低い横に広いというかゴツい男が自分の身長よりも大きいハンマーを持っていた。




「そして最後の『竜の民』のドラゴニュート。割と凶暴でナチュラルに自分以外の種族を見下すわ。見た目はそのまま竜に近い人。鱗に覆われ羽が生えているわ。ただ凶暴なだけではなく四天に入れるくらいは理性的よ。約束は必ず守ろうとし、どんな約束でも守れない場合は一生をかけて償うわ。誇りなき者には死を与えよ。誇りを持つ強き者を友にせよ。これが彼らの理念。だからたまに飛びっきり仲良くなる人もいるわね」

 今までと同じように絵をテーブルに乗せた。

 そこには緑色や茶色の鱗に覆われた二足で歩く竜がいた。

 他にも何匹か飛んでいる。

 体躯の割に小さな翼だが空を自由に滑空できるようだ。




「以上四天でした。何か気になる事あった?」

「とてもわくわくします」

 田中がそう言葉にし、田所は何度も頷いていた。

 三世もそうは思っているのだが、さっきから嫌な予感が止まらない。

 というよりも、もう確信に近い。

 さっきの話で獣人の話題が出てきていない。

 つまり、そういう事なのだろう。


「稀人様って亜人の話をすると皆そんな反応するのよね。でも、私達も稀人様の世界にいったらワクワクしっぱなしになるだろうしそんなもんか」

 そうコルネは微笑んだ後、急に真面目な表情になった。


「さて……ここまでが私達人に対し友好的と言い切れる種族。『なんとかの民』ってあったでしょ? あれは人が亜人に授けた敬意の証よ。亜人はそれを受け取り、名乗ってくれてるわ」

 そう言葉にした後、コルネは絵をテーブルに置いた。

「そしてこれが例外よ」

 コルネが見せた絵に描かれていたのは人とは思えない姿をした存在だった。

 向こう側が透けながら浮遊する白い物体。

 半分腐っているのに立ち歩く人間。

 骨だけの存在。

 ありとあらゆるB級ホラーの主役たちがそこには描かれていた。


「これ、亜人?」

 田所がそう呟いた。

 この見た目で人と付けられても同意出来ないのは当然だろう。

「『死の民』のアンデッド。昔は死者が蘇った姿と言われていたけど実際は違ったわ。死体から生まれる種族よ。その生まれ方のせいで、他種族から大いに嫌われているわ。それを知っている彼らも、人々から姿を隠して生活してる。寿命というものがなく、生きる事に飽きた時が彼らの寿命になるわ」

 そう言葉を綴るコルネの表情は妙に寂しそうだった。

「コルネさんは嫌わないんですか?」

 三世の質問にコルネは苦笑いを浮かべた。

「私、亜人は皆平等に人だと思ってるわ。まあそれだけじゃなく、アンデッドは悲恋が多いから幸せになって欲しいなって……」

「悲恋ですか?」

「アンデッドという種族は原則として愛が重たいわ。アンデッド同士ならそれでもいいんだけど、それ以外だと……。彼らは嫌われながらも愛する人に尽くそうとするわ。もしアンデットと他種族で両想いになっても、アンデッドは共に逝けないわ。いつまでも引きずって生きるか。苦しみすぎて消滅するかの二択になる。悲恋としか言えないでしょ?」

 そう寂しそうに呟くコルネに、誰も言葉をかけられなかった。




「気持ちを切り替えましょう! 次はお待ちかね。ヤツヒサさん大好き獣人ですよ。さあ喜べ」

 そう言いながらコルネはテーブルにぺいっと絵を投げた。

 そこに描かれていたのは人型の獣だった。

 しなやかな体躯をした力強い獣のような見た目をした種族。

 耳の形は犬耳や猫耳だけでなく、兎やシカのような角の者もいた。

 三世はその絵を食い入るようにじっと……じっと…………じーっと見つめ続けた。


「あの……聞いてる?」

「もちろん聞いてます続きをどうぞ」

 一切視線を絵から外さず三世はコルネにそう促した。

 ちなみに獣人のルゥは飽きたらしく三世の膝に頭を乗せすやすやと寝入っていた。


「獣人って言ってるけどたぶん獣限定じゃないわ。喋れて人以外の耳が付いていたらもう獣人で良いやってくらい適当な感じ」

「適当じゃダメじゃないですか」

 そんな三世の返しにコルネはジト目で三世を見た。


「そうね。適当はダメよね。でもね、その適当なのが獣人の特徴みたいなものよ。兎型がいて、狼型がいて、まあいっか一緒に暮らそう。そんな感じのふわっとした種族が獣人よ」

「なるほど。ふわっとしてるからこれだけ多くの種類がいるのですね」

「ですです」

 コルネは少しだけ嬉しそうにそう答えた。


「そういうわけで種族特性はそれぞれの動物っぽい感じ。性格は基本的に自由で後先考えない。原則知能は低いわ。偶に凄く高い子もいるけど」

「全体的にふわっとしてますねぇ」

 三世の言葉にコルネは溜息を吐いた。

「そうね。ふわっとしてるわ。でも、獣人と私達は現在大きな問題を抱えているわ」

「なんでしょうか?」

 コルネが再度溜息を吐き、呟いた。


「獣人の大きな国とラーライル。国境を接しているの」

「あっ」

 三人は問題に気が付き小さく声を揃えて呟いた。

 国境を通じた国と国の関係。

 それは歴史において三人は良く知っていた。

 つまり、戦争である。


「ただ、大規模な戦闘行為は原則禁止されてるわ」

「大規模な戦闘は禁止なのはどうしてですか?」

「種族を滅ぼしかねないからよ。幸か不幸かラーライル陣営が負ける事はないわ。でも、種族を滅ぼすというのは神に逆らうに匹敵する。だからよほどでない限りは大規模な戦闘はないわね。だから決まった場所で人数を決めて少人数で殺し合うわ。戦争ごっこに近いかもしれないわね。ただ、それなりに死者は出るけど。そしてそのごっこ遊びに勝った方は負けた方の陣営から数人を手に入れる事が出来るわ。これが奴隷よ。だから私達の国に獣人の奴隷がいるし、獣人の国にも私達の奴隷が極少数だけどいるはずよ」

 コルネの言葉の後、全員の視線が気持ちよさそうに眠っているルゥに注がれた。

「戦闘員以外を戦争の集団に混ぜ、負けた時本来の戦闘員の代わりに混ぜた人を奴隷送りにする。なんてやり方が獣人側で増えてきてるわ。つまり棄民ね」

 それはつまり、寄生体に取りつかれたルゥを治らない病気と判断して獣人の国はルゥを捨てたのだと予想出来た。


「いっぱい幸せにしてあげないといけませんね」

 三世の言葉にコルネが大きく頷いた。

 田所は涙を堪えている。

 田中は、表情をコロコロと変えていた。

 嫉妬していいのかいけないのか、そんな表情に三世は見え、小さく苦笑いを浮かべた。


「んでんで最後の亜人紹介として、リザードマン。竜の姿をしてるわね」

 そう言いながらコルネは三人に絵を見せた。

 そこに描かれているのは翼のないドラゴニュートのような姿だった。

「まあ竜である事を重んじるドラゴニュートからしたら、彼らは竜ではないらしいわ。だからドラゴニュートはトカゲの亜人と呼んでるわ。だからリザードマンはドラゴニュートが大嫌い。ただしドラゴニュート側はリザードマンを嫌ってなく、生意気な後輩くらいの気持ちでむしろ目をかけてるわ。本気で殺しに来るところもドラゴニュートは好きみたい」




「はいこれでおしまい! ……だったら良かったんだけどねぇ」

「あれ? まだ何かあるのですか?」

 三世の質問にコルネはあまり嬉しくなさそうに頷いた。


「ゴブリン。パペット。ケンタウロスなど瘴気から発生する魔物ではない生き物がいるわ。でも彼ら全員、人どころか亜人とすら認められていないの」


「じゃあ、何なのです?」

「モンスターと呼んでるわ。ちなみに絵もないわね。今日持って来たのは人と呼ばれる存在の絵なので」

 そうコルネは吐き捨てるように言った。


「確か、魔族が持つ瘴気から発生した存在がモンスターですよね?」

 三世の質問にコルネは頷かず、軽く笑みを浮かべた。

「良く知ってるわね。でも、正式には魔物と呼ぶわ。でも魔物をモンスターって呼ぶ人もいるわ。そうやって魔物と彼らモンスターと呼ばれた存在をごっちゃごっちゃにして敵とする為に」

 コルネの言い方から何となく理解出来た。

 色々な意味で人類、他の亜人にとって都合が悪い存在なのだろう。

 だが、彼らは決して魔物という倒さないとならない存在と同じではない。


「今日コルネさんから話を聞けて良かったです」

 そう三世が答えると、コルネはにっこりと微笑み三世の方を見つめた。


「なーんか仲が良くて入りにくい雰囲気が続いていますが、ヤツヒサさんまさかコルネさんも狙ってるのですか? 獣人だけでは飽き足らず……」

 そんな本気なのか嘘なのかわかりにくい事を田中は鋭い視線で呟いた。

「まあ。そうなの? いやーモテるってのはつらいわねー」

 コルネはそう言って呟き、ニヤニヤとした表情で三世を見た。


「……止めてください。おっさんにそういう話題は割ときついですし……つらいです」

 そんな事を言う三世を無視し、三人は皆三世の方をじーっと見つめた。


 コルネが楽しそうに今まで用意していった絵を仕舞っていくのをみて、田中は三世の方にアイコンタクトを送りながら頷いた。

 つまり、田中はコルネがどことなく辛そうな感じだったので慰める為に、わざとそういう話題を振って笑わせにかかったという事なのだろう。

 ――良い人ですねぇ田中さんは。だからさっきの話題は冗談ですよね?

 微妙に嫉妬混じりの目を三世に向ける田中の考えが、三世にはわからなかった。




「んでんで、最後に好きに話せる人種? を説明しましょう!」

 コルネは元気いっぱいな様子で言葉を続けた。

「『夜の民』のヴァンパイア! 人や亜人の血を吸う生きた夜の王! 自らをモンスターと呼び、獲物を求めて彷徨ってる絶対強者」

「えっ。めっちゃやばいじゃん」

 田所がそう突っ込んだ。

 ヴァンパイアと言えば誰もが知っている化け物である。

 地球ではずっと語り継がれ今でも多くの人々に怯えられている。その話をモチーフにしたホラー作品はとても多い。


「そうですね。稀人様の世界から来ためっちゃやばい……設定を彼らは喜んで使ってます」

「ん? 設定?」

 田所の言葉にコルネは笑顔で頷いた。


「はい設定です。嘘ではないんですよ。空を飛び、力が強く生き血を啜る。そして不死身に近い生命力。ただし彼らが吸う血の量は一度にこんなもんです」

 そう言いながらコルネはスプーンを三人に見せた。

 しかもそのスプーンは大きなものではなく小さなティースプーンである。

「すっくな!」

 田所の叫びにコルネは満足そうに頷いた。


「そうティースプーンに乗るくらいしか血を吸わずしかも傷は残らないし痛くない。さらに普段は普通の食事で代用出来る。んでんで。彼らは自らを捕食者と呼びます。そして私達を贄と呼んだり血袋と呼んだりしていますね」

「なんですその面白生物」

 田中がそう呟いた。


「そして私達に何か危機が現れると『我が贄を奪うものには容赦しない』とかカッコよさげな言葉を吐きながら私達を助けてくれます。これは私達が認めていない亜人種であるモンスターも含めて誰が困っても手を差し伸べ、助けてといったら必ず助けてくれます。その善人ぷりはとにかく凄まじく、他種族からの評価も、とーっても高いのでドラゴニュート以外は皆四天でなく五天にして彼らを入れようと言ってるくらいです」

「でも四天なんですよね?」

 田中の質問にコルネは頷いた。

「はい。ヴァンパイア自身が人類種の敵を自称している為ヴァンパイア自身が天入りを拒絶しています。彼らの悪行って勝手に領地に入り健康な同性の血をティースプーン1杯飲んで高笑いして帰るくらいなんですけどね」

「あー。同性なんですね」

 田中がそう尋ねた。

「はい。嫌がったら可哀想だし恋人とかいたら嫌な気持ちにさせるじゃん? という事で極力同性の血しか吸いません」

「本当に面白い種族ですね」

 三世の言葉に田中も田所も頷いた。


「というわけで自称夜の民で自称人類の敵ですので何かあったら思う存分助けを求めましょう。ちなみにお金が欲しいとかわがままいったら叱ってくれます。やさしく。本当に困ってたらくれます。自分のお小遣いから」

 コルネはニコニコとしながらそう話した。

「そういえば、ドラゴニュートはヴァンパイアの天入りを嫌がったのですか?」

 三世の質問にコルネは頷いた。

「ドラゴニュートとの仲は死ぬほど悪いです。ナチュラルに見下す言動をするドラゴニュートと口だけは上からのヴァンパイアなので。でも相性的にヴァンパイアの方が強いのでドラゴニュートの数少ない天敵です」

 






「これで大体の話は終わりですね。お疲れ様でした」

 コルネはその言葉に合わせて温かい紅茶を人数分用意した。


「いつの間に」

 田中が驚きながらそう呟いた。

 確かに準備する間はなかったはずである。


「えへへ。まあいれたの私じゃないですけどね。決まった時間に部屋の外においておいて貰うように頼んどきました」

「ん? ここに他の人いるのですか?」

 そう三世はコルネに尋ねた。

「はい。ここ騎士団の部屋の一つなので隊長権限で使わせてもらいました。んでんでそこは全く関係ない相談なのですが、今ヤツヒサさんはお金に困ってます」

「俺で良かったら貸すぞ」

「もちろん私も」

 田中と田所は迷わずそう言葉にした。


「いえいえ。それだと後に続きません。そしてシュウイチさんとマサツグさんは冒険者の初仕事前。なので三人で冒険者になったらどうです? お金も稼げるし一石二鳥!」

「いえ私仕事はもう――」

 三世が断ろうとするのを止め、コルネは言葉を付け足した。

「兼業という形式でも問題ないですよ」


「ですが、冒険者として加入したら何か義務や罰則が生まれるのでは」

「そうですね。身分が低かったり出自がきちんとしてないとそうなる事もありますね」

 コルネがニコニコとした表情で紙を取り出した。

 その紙は布紙でしっかとした作りになっており、枠は金の糸で裁縫してあった。

 そして、その紙にはこう書かれていた。

『稀人ヤツヒサ、マサツグ、シュウイチ。以上3名の身分、立場はコルネ・ラーライルが保障する』

 つまり、ちょっとした身分証である。


「これがあったら冒険者としての罰則無し! 他の兼業可能! 騎士団の臨時職員になることも可能です!」

 えへんとコルネがない胸を張り自慢げに言った。

「ただでさえお世話になってるのに……」

 三世は申し訳なさそうに呟いた。

 田中と田所はその紙を見て目を丸くしながら呆然としていた。


「そうですね。別にこれは仕事じゃないですし。でもこの()()()真面目に生活していたのでこれなら大丈夫だと思いましてね」

 三世はこの三人の辺りに何か別の意図を含めたニュアンスを感じた。

 おそらくだが、学生達のいた拠点は大変なことになっているのだろう。


「というわけで三人で冒険者になってみません?試しに」

 三人で顔を見合わせる。

「俺は三世さんに恩返しできるなら喜んで」

 田所がそう言葉にした。

「私も同じく。なんとなくこっちがお世話になる気もしますが」

 田中もその言葉に続いた。

「三人でならなんとなりそうです。すいませんがお世話になります」

 三世の言葉に、三人は頷きあった。


 田中と田所が立ち上がり、握手の為に三世の手を求めた。

「あ、すいません今立てないので」

 そう三世は申し訳なさそうに言葉にした。

 二人が三世の膝を見ると、未だにルゥが頭をおいて幸せそうに寝ていた。

「怒りで新しい魔法が発現しそうです」

 田中が下を向き泣きながらそう呟き、それを田所が笑っていた。


 こうして、二十代後半二人と三十代半ばの非常にデビューの遅い新人冒険者PTが生まれた。


お読み下さり本当にありがとうございました。

読者がいないいないと悩んでた頃が懐かしいです。

少なくともブックマークをしてくださった方は見てると思います。

読者がいない中続けるというのは本当につらいことです。

なので私だけでなくあなたが好き!(挨拶)と思うような作者様がいたら、

迷わずブックマークとか評価をしましょう。

目に見えて更新速度もやる気もあがるはずです。

私はあがります。というかとてもあがりました。(そして上がりすぎて完結しました)


では再度ありがとうございました。

これからも変わらずのお付き合いをして下されば幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ