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十人程度のならずもの2



 


 村を訪れた軍人達は、とても表現しにくい不思議な、何とも言えないような表情を浮かべている。

 それは理解出来ないものに出会った時の人の表情だと三世は理解出来た。

 そして、その気持ちも良くわかる。嫌われている軍人に対しての村の反応が、こう来ると想像すら出来なかっただろう。


 まず村の入り口には村の名前の書いた看板よりも大きな看板が立てられ【ようこそ軍人ご一行様】の文字。しかもその看板自体色鮮やかな装飾が施されており、その本気具合もわかる程の出来栄えだ。

 それに続く村人の歓迎。村の入り口だけでは入りきらない程の村人が、笑顔で軍人を出迎えている。今ここにいるのは村人全体の五分の一程。およそ百人ほどがぎゅうぎゅう詰めになりながら、全員がお揃いでご機嫌な帽子を被り、軍人を待っていた。

 真面目な歓迎をしているのはカエデさんとバロン、エイアールの馬グループだけだ。村の入り口脇で列を組み軍人を正しい意味で迎える。その姿は敬礼した軍ならびに騎士団のようだった。

 ただし、頭にはやはりご機嫌なお揃い帽子を被ってだが。


 ここに来る前に軍人達が聞いたのは、小さな農村という評価だけだった。だが実際はどうだ。

 建造物が多く村も目視だけでは確認出来ないほど広い。これが小さな農村ならラーライル王国の町の半分以上が村に格下げになるだろう。

 軍人達は何回か村の名前の看板を見る。何度見ても、やはりカエデの村、目的地の名前が書かれている。

 看板を見るたびに目に入る【ようこそ軍人ご一行様】の文字がより混乱を加速させる。軍人達は全く意図が読めなかった。


「軍人さん。良くきてくださいました。道中お疲れでは無いですか?」

 一人の老人、村長が軍人達の行列の傍に歩いて優しく微笑みながら話しかけた。

「お、おう」

 軍の隊長はそれだけ言って困り顔で頭を掻く。困惑してマトモな対応が取れない。これも村長の狙いの一つだった。

 予想外の展開を繰り返し思考を麻痺させ、そのうちに会話のアドバンテージを取る。その上でに嫌な思いをさせない。

 村長にとっては一種の戦いでもあった。そしてこれが戦いなら今回は村長の勝ちと言っていいだろう。


「ささやかですが、ちょっとした席をご用意させていただきました。荷物を宿に置かれましたら是非そちらでお食事をどうぞ。もちろんお酒も安酒ですがご用意させていただきました」

 村長の言葉に、今まで困惑し呆然としていた軍の男達、隊長以外の全員が酒の文字を聞いた瞬間笑顔になり、中にはぐっと拳を握りガッツポーズで喜ぶ者もいた。

 その様子はおもちゃを前にした子供そっくりだった。ただし、隊長だけは渋い顔をしていた。

 隊長は頭を掻きながら言葉を探るように、えー、とか、あー、とかを繰り返す。


「あー。色々あって吹っ飛んでいたけどこれだけはしないといけないからな。何て言うんだっけ。えっと。敬礼!」

 隊長の敬礼の一声に部下達全員が隊長の一歩後ろ辺りで横に列を組み、両足のかかとをつけて背筋を伸ばし、左手で握り拳を作り、胸に拳の内側を当てた。

「ラーライル王国軍所属のヴィラン分隊。隊長のグラフィ。これより部下一同、カエデの村護衛任務に当たる。敬礼止め!」

 場の空気が一瞬で変わり、空気が重くなる。それが軍特有の圧力であるというのは見てわかることだった。

 彼らの所作だけで、彼らの練度が低く無いと理解出来る。行列はばらついているが、声を聞いてからの反応の速さは確かに凄い。

 マントの内側から見える金属の鎧は光沢を失い騎士団のような清潔さは無く、ヘルメットにいたっては皮製だ。しかも隊長は皮製のヘルメットすらつけていない。

 貧相に見える格好にボロボロの鎧。だが、それが逆に彼らが歴戦を潜り抜けた証にも見える。


 だが、そんな空気は一瞬に霧散した。敬礼止めの合図と共にだらけきった空気になり、隊長もへらへらと笑い出した。

「こんな感じで良いだろ。腹減ったから早めに飯食わせてくれね?全員それなりに食うから多目で頼むわ」

 そういう隊長のグラフィは気安く村長に話しかけた。同時に腹の虫がなりだしたらしく、グラフィの腹が自己主張をしだす。

 村長は少し引きつった笑顔のまま、軍の全員を村に迎え入れた。




 最初に村の中の最高級宿泊施設の一つに案内した。

 元々事件の影響で人がほとんどいなかった宿、更に牧場の休業で、この宿の客はいなくなっていた。だからこそ、軍人を泊めるのには丁度良かった。

 ただ荷物を置きに来ただけだが、分隊全員がその宿を見た瞬間に度肝を抜かす。呆気に取られた顔に村長は楽しそうに笑った。たまに村長の闇が見えて三世は少し怖くなる。

 分隊が驚いたのは宿の豪勢さだろう。


 現在観光客向けに三種類の宿泊施設がある。

 一番安いアパート式の安宿。安く壁は薄いが、トイレシャワーベッド完備と最低限の設備は揃っているから生活に不自由は無い。だからこそ宿の中で一番人気があり、休業になった今でも人が残っている位だ。


 次に家族用のログハウスだ。一軒屋なので隣人の騒音に悩むことは無く、家族の団欒の時間には最適だ。また静かな時間を過ごしたいという人にも人気がある。

 木材のみで作られた雰囲気あるログハウスは、自然を見に来た観光客に最後まで雰囲気を楽しんでもらえるよう設計されている。ただし、お値段もそれなり以上だったりする。

 ただし欠点もある。ログハウス一軒に対して一世帯しか入れないから絶対数が足りない。騎士団という金はあるが時間が無いという人達がいる為、他の形式での高級な宿が必要になっていた。


 そして生まれたのが三つ目の宿、今現在軍人が呆気に取られている最高級宿泊施設だ。

 安宿と同じようなアパート形式ではある。だが、形式以外は完全な別物だ。

 大理石を含む石材を大量に使っている為、宿に使っている木の部分は限りなく少ない。部屋の広さも五倍以上で寝室も別に用意されていた。

 二階以上に宿泊場を用意し、一階はフロント関連のみ。とにかく広いフロントに絵画や壷、馬の蹄鉄等縁起物、豪勢に見える調度品が並べられている。

 とにかく雰囲気の良い宿泊施設にしたかった為、三世の知っている現代式のホテルをなんとなく再現した設計だ。


 ただし、高級ホテルなどと言う場所に縁の無い三世の経験からの再現。しかもそのステーションホテルに泊まったのすらうろ覚えだった為、かなり適当である。

 以前泊まったことのある駅と一体化したステーションホテル。そこまで豪勢というわけでは無く、一泊一万を少し超える位のホテルだった。

 更に言えば、豪華な調度品を買うほど余裕があるわけでも無い。並べられている物の大半はメイドバイマリウス。つまり見様見真似のお手製調度品。ある意味一点物だから希少ではある。

 それでも現代日本の建築再現、贅沢な石材製。それに加えて広いフロント。ヴィラン分隊が再度驚くには十分な豪勢さがあった。


 分隊全員荷物だけで無く、鎧も宿において着替えた。食事をするのに鎧は不要ということらしい。

 安っぽい布の服に着替え、隊長以外は頭にバンダナを巻く。隊長だけは頭に何もつけず、茶色のうにみたいなとげとげしい髪型をしている。

 ここまで行くとわざとなんじゃないかと思う程の盗賊スタイルだった。


 歓迎に加えての宿ショックの衝撃が抜け切れない軍人達を会場に招き入れた。野外のバーベキュー会場だ。食事が出来て一番広いのはこの場所だからだ。

 四、五十はいるウェイトレスが忙しなく準備を進めていた。テーブルに付いた軍人達に食べ物と泡の出る液体が入ったジョッキが配られる。軍人達の唾を飲む様子が三世には見えた。

 最初は黄金酒を用意しようと思っていた三世。だが、村長が質より量を重視した方が良いと言うことで、大量のエールを仕入れた。それが村人にも配られる。飲めない人、いらない人には代わりにジュースが配られた。実はジュースの方が高い。


 ウェイトレス含め、二百人ほど。今この場にいる全員に何かしらの飲み物が配られた。流石に村人全員をこのバーベキュー会場に入れることは不可能だった。

 ルゥが始めたパーティーは村人全員参加の過去最大のイベントになり、それならと村の中全てをパーティー会場にした。

 更に悪乗りした村人達により、村のいたる所がパーティーモードになっている。そのうち何割かは軍人を称える看板だったり人形だったりが飾られ、それ以外も好きに色々飾っている。

 マリウスの店の前にもマネキンが置かれ、マリウスの新作のライダースジャケットが飾られていた。文字には非売品の文字。ただの自慢である。

 会場の外でも飲み物を持ち、会場内と同じような状況になっている。内に二百人程。外に三百人ほどが。乾杯の合図を今か今かと待ちわびていた。

 もはやパーティーでは無く、一種の祭りの行事と化していた。


「えー。それでは、若輩者で申し訳ありませんが、パーティー開始の合図も兼ねての乾杯の音頭を取らせていただきます。待ちわびていらっしゃると思うので余計な挨拶は全て省かせてもらいます。せーの、乾杯!」

 三世が、会場の真ん中で目立つように言葉を綴る。人が多く、若干緊張していた。そのままジュースの入ったグラスを天に掲げる。

 それに会場内外の村人全員と軍人が呼応し、声を揃える。

 これ以上はもう聞くことが無いだろう、乾杯の大合唱が鳴り響いた。あまりの声量に大気が振動するような大合唱の後に、陽気な騒ぎ声が聞こえだし、祭りが始まった。


 一気に賑やかになり、皆それぞれ勝手に騒ぎ楽しみだす。軍人達の所に大量の食事が運ばれた。美味しいかと尋ねる必要な無さそうだ。空の皿が大量に積み重なっていくのを見て、三世は満足げに頷いた。


 呆気に取られて思考力を奪い、その後に美味い飯と酒でもてなす。これが最終的な村長の計画だった。

 腹に一物抱えているならこの時点で歓迎を断るなどで分かるし、歓迎を受けるような素直さがあるなら、多少ガラが悪くても対処出来る。

 安酒をがぶがぶと浴びるように飲み、食事をがつがつとかっ食らうように食べるその姿を見るとその考えは正解だなと三世は思った。

 品の良い食べ方では無いが、野菜一切れすら残さない食べっぷりは、豪快で見ていて気持ち良い位だ。

 その上で楽しそうに笑顔で食べる姿を見ると、三世も彼らと仲良く出来ると思えるようになった。


 申し訳ないがさすがに食事は村人の分まで手が出なかった。だから、村人には肉を配布し、各自で勝手に焼いてもらうことにした。丁度良いことにここはバーベキュー会場。肉を焼くのに困ることは無い。

 会場の外では屋台風の建物を用意していて菓子パンなどの甘味を中心に配っている。そっちはフィツに任せている為心配がいらない。むしろ三世もそっちに食べに行きたかった。


 乾杯から一時間程が経過した。そろそろヴィラン分隊を名乗る彼らと何か話をしたいと三世は考える。そのために三世はここに残っている。だが、彼らの食べっぷりは収まるどころか加速していて話しかける隙は見つからず、もう暫く三世は待つこととなった。


 肉を食べ、会場外に行ってフィツと談笑した上でだだ甘なデザートを食べ、会場に戻って更に時間があり、家に戻って適当な本を読み待つ。軍人達が食べ続ける為、三世も祭りを楽しみことが出来た。その上でまだ時間が余り、結局軍人達の食べっぷりが収まるのに三時間程かかった。

 三世は村長の英断に感謝した。黄金酒を最初から出していたら間違い無く枯渇していた。

 酒もだが、食べ物もどこにそんなに入ったのか疑問に思う位だ。三時間ハイペースで食べ続けた量を見ると明らかに物理法則を無視している。


「あー。食った食った。アホみたいに食ったな。そこの乾杯した兄ちゃん。幾ら払えば良いんだい?たぶん足りないからその時は軍に払わせるからツケといてくれや」

 分隊長のグラフィと名乗っていた男が、三世の方を見ながら腹をさする。三時間食べた割には膨れていない。欠食状態のルゥより食べる存在が一度に十人も出てくるとは三世も予想すら出来なかった。

「いえ。今回は軍人ご一行様の歓迎会なのでお金は要りません。それに言うほど予算もかかってないのでご心配しなくても大丈夫ですよ」

 酒は安酒、肉も格安。調理の腕は一流だが今回無料で手伝ってくれている。本当に最小の予算で準備されていた。

 三世の言葉にグラフィは目を細めてニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 やはり歓迎が露骨過ぎて怪しまれたか。三世は内心冷や汗をかく。だがそうと見抜かれないように笑顔で対応する。


「一つ心配ごとがあるんだが、良いかい?いやこれだけ歓迎されてグダグダ文句言うわけでは無いんだがな」

 グラフィはニヤニヤとした笑みを浮かべながら三世に近寄った。

「はい。なんでしょうか?多少の融通ならきかせられると思いますが」

 内心はかなり焦る三世。だからこそ、わざとらしくてもいいから丁寧に下手に対応する。

 だが、グラフィの質問はどうでも良いもので、怪しまれたと思ったのも、三世のただの思い違いだった。


「人大分減っちまったがもう終わりかい?飯は良いが酒は飲み足りないんだが」

 グラフィの言葉に部下達がそーだそーだと声を合わせる。それでも村で用意したエールの七割は彼らが飲んでいた。まだ飲めるのか……。三世は呆れすぎて冷や汗が出てきた。

「はは。ご安心下さい。時間はまだまだございますので今度は静かにお酒をお楽しみ下さい」

「そうかい。そりゃ嬉しいが、静かに酒を飲むのっては俺達には不可能だな。全裸で逆立ちになりながら村を一周するほうがまだ可能性があるぜ」

「ならば賑やかにお酒をお楽しみ下さい。今宵位はお月様も許して下さるでしょう」

 三世の洒落た言い方に豪快に笑うグラフィ。そして三世の方にジョッキを向ける。三世はそれに合わせて自分のグラスにジュースを注いぎ、グラスをジョッキに軽く当てた。


 三時間経過し、既に暗くなりだしていた。太陽は隠れ、月が登り始める位の時間。大多数の村人も明日の為に戻った。残ったのは酒が飲み足りない村人で、総勢五十人程だ。

 だが、酒飲みにとっては今からが本番なのだろう。月光の薄明かりに照らされ、それを肴に酔っ払いが酒を飲む。

 三世は少しだけ、シャルトが恋しくなった。月を見ると何故かシャルトを連想してしまう。

 三世はグラフィの方を見た。グラフィがエールを自分で注いで、子供の様に破顔しながら飲んでいた。余りに嬉しそうなので三世も釣られて笑ってしまう位だ。


「良い村だな。皆楽しそうだったし余裕もある。飯も食えるだけで無く美味い。酒がもっと美味けりゃ文句無かったな」

 グラフィの部下の一人が三世の肩に手を回し、後ろから抱きつくように絡んできた。微妙に汗臭いし酒臭い。

 三世は別に酔っている訳では無い。しいて言えば雰囲気に酔ったのかもしれない。出すべきか悩んでいたが、ここが最高のタイミングだなと思い、アレを出すことにした。

「ありがとうございます。そしてご安心下さい。この村は文句の無い村ですので」

 そう言いながら、三世は隠していたワインボトルを見せた。今はまだこの村でしか存在しない特産。黄金酒である。

 よだれがでそうな顔で若干顔を引きつらせているヴィラン分隊全員。視線が三世の手元に集中しきっていた

「高いんじゃいのか?良いのか?見せるだけってこたぁ無いと信じてるぞ?」

 三世に絡んでいる部下が繰り返すように三世に尋ねる。肩に回した手に力がかかり、首が絞まりそうになる程だ。

「もちろんです。今グラスに注ぐのでお待ち下さい」

 その言葉を聞いて三世から直に離れ、席に着く部下の一人。

 従業員の一人がグラスを十持ってきてくれ、それに三世は黄金酒を注ぐ。静かに注がれるその姿を軍人全員はじーっと見つめていた。

 その目は悪く言えば肉食獣の瞳。良く言えばお預けされた子犬。どっちにしても、真剣そのものだった。


「どうぞ。この村原産の黄金酒です。メープル原料ですが甘味が薄く風味豊かな味わいが売りです。もちろん甘い物もございますが、本日はよりお酒として楽しめる物をご用意しました」

 大きめのトレーを使い全員にワイングラスを配る三世。軍人達は楽しそうにグラスを持ち上げて見つめ、合図も無く、全員揃って一気に胃に流し込んだ。

 グラスをテーブルに置き、数秒。彼らは無言で何かをかみ締めるように呆然としていた。

「やべぇ。俺この村に住もう」

 三世に絡んでいた部下がそう呟く。文句の無い村と認めてもらえたらしい。

「おいおい。せっかく文句の無い村って認定されたのに、お前みたいな品の無い奴が住んだら文句有りの村になっちまうじゃねーか」

 グラフィの言葉に違い無いとその部下も返し、軍人全員でゲラゲラと笑った。

「わりーな兄ちゃん。高い酒まで出させたな。確かに美味い。舌が馬鹿な俺すら感動する程だからすげーってわかるぜ」

「舌以外に下の方も馬鹿っすよね隊長」

 部下の軽口にグラフィはゴンと強めに拳骨を頭に叩き込んだ。

「駄賃代わりに受け取ってくれや。これで足りるなら良いんだが」

 グラフィは金貨を三枚、三世に渡した。表情は真剣で、本当に悪いと思っているらしい。拒否することも、拒否できる雰囲気でも無く、受け取ってしまった三世。


 三世は困った。ものすごく申し訳ない気持ちになった。誤解される言い方をした自分も悪いのだが、まさか金貨を渡されるとは。

 すいません、それ結構安いんですよ。そう言うべきか悩む。だがそれはそれで雰囲気が微妙になるような。

 悩んだ結果。黙ったままだと座りが悪いので、正直に話すことに決めた。


「すいません。エールほどでは無いですが、そのお酒も余り高い物ではありません。なのでこれはお返しします」

 三世は申し訳無さそうに金貨を返そうとする。だが、グラフィは手を組んで断固受け取りを拒否する姿勢になっていた。

「悪いが一度やった物が返ってくるのは縁起が悪くてな。受け取らないって決めてるんだ。それならその金でさっきの酒持ってきてくれないか?」

 グラフィの一言に歓声が上がる。ゴチになりまーすという声に偉そうに笑うグラフィ。いつもどういう風に生活しているのかわかる構図だった。

「いえ。すいません。今数それほど無いので……村の方も困ってしまうので」

 牧場の休止に合わせて生産量を減らしたのだが、それでも需要が高いようで貯蓄する所か備蓄が減っている状態だった。

「わかった。じゃあ売れる分だけでもくれ。そして残りは俺達がさっきまで食った飯代の足しにでも回してくれや」

 ゲラゲラと笑うグラフィ一味。笑い方が悪党そのものだが三世は彼らが悪人には見えなかった。確かに善人にも見えないが。

「わかりました。では金貨一枚受け取らせていただき、残りは料理を作ってくれた人に渡しておきますね」

 三世はそういって頭を下げ、従業員に頼んで黄金酒を十五本持ってきてもらい、グラフィに渡した。

「まじで安いんだな。メープルが原料なのに甘くないし味に嫌味が無い。本当に良い酒だな、安いって所が特に気に入ったぜ」

 グラフィがワインボトルのコルクを素手で引っこ抜きラッパ飲みを始めた。残りの部下も全員同じ飲み方をしている。

「そういえばここにいるのは十人。一人一本飲んでいる。残り五本。どうするよ?」

 グラフィが楽しそうに言う。それは自信の表れでもあった。どういう方法にしても自分は飲めるという自信があるらしい。

「隊長。こんな時はコインで決めましょうぜ」

 部下の一人の言葉にブーイング出る。

「馬鹿かお前。隊長のイカサ、いえ悪運に勝てるわけないだろうが。ついでに言えばコインで決めても結局無視して殴り合いになってるじゃねーか」

 ざわざわと喧嘩のように言い合う部下達。それをグラフィは楽しそうに見ていた。挑戦者を待つチャンピオンのような態度を取っている。

「俺は何でも良いぞ。何ならいつもみたいに殴りあうか?一度も負けたことないから俺は楽で良いんだが」

 グラフィの安い挑発。部下達には効果があるようで喧嘩が始まるような雰囲気が流れる。


「一人二本なら文句無いですよね?」

 三世は走ってボトルを五本追加で持ってきた。

 全力で数百メートル走って、帰りはワインボトルを五本抱えてまた全力。

 それで息切れ一つしていない。牧場建築前なら確実に横腹が痛くなっている。鍛え続けた効果と、牧場によるステータスブーストの効果だろう。

 三世は今始めて、自分の身体能力が上がっている実感があった。こんなとこで知りたくは無かったが。


「お。いいのかい?ありがたく貰うぞ?」

 グラフィの言葉に三世は頷く。

「はい。それほど高価でも無いですし多少の余分はありますので。ただ、しばらくはお出し出来そうにないですが」

「そりゃ悪いことしたね。でも出された物を断るのも縁起が悪い。ありがたく飲ませてもらうぜ」

 グラフィが嬉しそうに黄金酒を受け取り、余りの五本と足して十本並べる。

「これで全員あと一本飲めるな」

 グラフィの言葉に部下は嬉しそうにしていた。


 しかし僅か五分後に、喧嘩が始まった。

 肉焼き機から離れ、広場の物を退けて、準備までしてわざわざ殴り合いを始める分隊一同。

 きっかけはわかりやすい。ただ沢山飲みたいというだけだ。

 嬉しそうに十人でバトルロイヤルをする分隊連中を、三世は頭を抑えながら見ていた。

 結局勝ち残ったのはグラフィ一人だけで、グラフィは全員に一本ずつ配り隊長の貫禄を見せ付けた。




お読みくださりありがとうございます。

そして、

ファンタジー異世界転生/転移ランキング

日間二位、週間六位でした。


こちらもありがとうございます。皆様のおかげで何だか遠い世界に来たような気にすらなります。

ただ、今までの後書き前書き読んでくださったらわかるのですが、基本的にチキンなのでメチャクチャ怯えています。

もちろんとても嬉しくて名誉なことです。

それでも((((;゜Д゜))))←大体こんな感じになっています。


色々衝撃の連続で世界が変わって見えます。

だからこそ、初心を忘れないようにしたいと思います。


たとえ一人だけでも読んで欲しい。

読んだ人が不快にならないで、その上で一日が少しでも楽しくなって欲しい。


叶っていますか?もしまだまだでしたら申し訳ありません。

それでもかき続けます。少なくても、ブックマークの過半数が消えない限りは終わりまで走り続けたいと思います。


では再度ありがとうございました。



これはごく一部のとある人に伝えたいことなのですが。

カエデさん余り出せなくてごめんね(´・ω・`)

暫く後になると思うけどストーリー上で必ず今回の話にも出番あるからゆっくり待っててね。


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