獣人達の探検隊
なんだか知りませんがとんでもない数のアクセス数で驚きました。
どうもある場所で紹介されたようでその効果らしいです。
この場でお礼を言わせていただきます。
本当にありがとうございます。
これからも期待に答えるようにがんばると同時につたない文を少しでも良くして皆様に喜んでもらえるようにがんばります。
カエデの村から相当離れた場所で、地図を一枚広げたユウが、シャルト、ルゥ、ユラに指示を出していた。
「今日のこの辺りで探索します。担当区域を定めましたので地図を頼りに散開して下さい」
ユウの言葉に三人の獣人は頷いた。
カエデの村の周囲の探索は初日に終えた。当然の様に異常は無く、平穏そのものだった。普通ならそこで調査を打ち切り、気のせいだったと考えるだろう。
だが、ユウにとっては、その程度のことで調査を止める理由にはならない。むしろ何も無いからこそ、疑惑は膨れ上がる。
拭いきれないこびりつく様な違和感。それも喉に張り付くような緊張感が混じったとても不快な違和感が、ユウに警告をしているようだった。
心臓の動悸が早くなるほどの焦燥感。しかし、それを感じているのはユウと三世のみ。自分も他人も信じられなくなりそうだ。
それでも、いやだからこそ、ユウは迷わずに調査範囲を拡大した。
全く情報は無い。だが、もう既にユウは何を調査のターゲットにするか一点に絞りきっていた。それを狙いにした理由も、それがあると思ったのもただの勘だ。
だが、獣人の社会の中、守るべき者を抱えた状態で、人との戦争に放り出されたユウの勘。それは圧倒的弱者となった経験からくる勘でもあった。
「探すのは大規模のテント。双眼鏡、まあ視力を補助する道具です。それを持っている可能性もあるので注意しながら探索して下さい。もし見つかった場合は僕の名前を使って下さい。これを渡しておきます」
ユウは三人に『カエデあにまる牧場スタッフ』と書かれた名札を渡しし、それを首にかけるように指示した。
「見つかった場合は、『カエデあにまる牧場で動物が盗まれたので探しています』と言ってください。極力戦闘は控えて下さい。敵では無いので」
三人は頷き、ユウの合図に合わせて、四人は四方に跳び去っていった。
この計画からの行動を軍関係者や騎士団所属が見たら、獣人の評価は一気に変化するだろう。
高速で移動出来る上に隠密に向いた存在。物語のスパイや忍者のような性能に体力と力が追加されている。
だが、そのことに気づいているのは極少数のみ。今気づいているのはユウくらいだろう。
普通に考えたらそういう能力だとわかる。だが、そう思う人はいない。獣人と接点がある人ほど、隠密と獣人をセットで想像しないだろう。
実際の獣人と人の戦争を見たら理由はすぐにわかる。獣人は隠密に向かない点が二つもあるからだ。
一つは力至上主義の文明。分かりやすく言うと、『強くないと価値が無い社会』だからだ。
もう一つは命令を軽く見ている風潮。直属の部下すら素直に命令を聞かず、素直に聞いても忘れていることもあるような精神構造をしていた。
とりあえず勝てば良い。だから殴って相手を倒せば良いだろう。そういう考えが獣人社会の中心になっている。
だからこそ、正しい知識とルールを身につけた獣人はそれだけで脅威となる。もしこのことに大多数の人が気づいたら、獣人は間違い無く人類に滅ぼされている。
シャルトが単独調査の途中、白いテントを見つけた。それは大型のテントが四つ。小さなテントがちらほら。そして大量の馬が近くに止められていた。その人達の見た目からシャルトは所属を理解した。何故ならコルネと同じような格好をしているからだ。
すぐに距離を取り地図に印を残すシャルト、そして直に合流地点に戻り、合図を出した。
枯れた枝や木を燻すように火を付け煙を出す。この煙は目視の為では無い。煙は明るい中で見えるような代物では無かった。目的は煙を出すことの方だった。
シャルトはユウの用意した粉を事前に木や枝に刷り込んでおいた。この状態で燻すと非常に遠くまで香りが漂う。
確かに何かの香りはするが、それが何の香りなのかわからない。その上他の香りを邪魔することも無い。獣人しか感知出来ないフェロモンのようなものだった。
十分ほど後に四人は合流し、シャルトの印を残した辺りの位置に移動した。
テントが目視出来るか出来ないかギリギリの位置、その辺りの少し高めの草の中に四人は隠れ、ひそひそと相談を始めた。
「るー。それでどうするの?ここからだと人数も把握出来ないし何してるかもわからないよ?というかあの人達コルネの仲間じゃない?」
騎士団と敵対することを恐れているルゥ。怖いのでは無く、コルネが心配だからだ。
「別に戦う訳では無いので彼らを調べる必要は無いですよ。ただ彼らを探していただけなので。それでちょっとばかし情報をもらえたらいいなーと思いまして」
ユウの言葉にシャルトは頷いた。
「なるほど。良い案ですね。でもどうやって情報を貰いますか?賄賂も効かないでしょうし情報盗むのも難しそうです。というより近寄ることが出来ませんね」
厳密に言えばシャルトとルゥなら多少強引にいくことになるが何とかなる。だが、それをするつもりは無い。三世に迷惑のかかる行動を取るつもりは無かった。
「うーん。オーナー良い人ですしユラも幸せそうなので、もう私達もオーナーの元で終生過ごすということで良いですよね?」
ユウの言葉にユラは笑顔で頷いた。ユラはユウを支えるのが目的だ。だから、ユウのしたいことを出来る限りサポートするつもりだった。
決して、ポニーたん牧場に釣られたわけでは無い。……だろう。
二人の相談に、ルゥとシャルトは首を傾げた。そんな二人、ユウは笑顔で質問をしてきた。
「えー。この中で一番遠くまで聞こえる耳をしてるのは誰でしょうか?」
ユウの言葉に、視線がルゥに集中した。ルゥは首を傾げながら自分を不思議そうに指差していた。
納得出来ていないルゥの為にも、実際に調べてみた。
ユウとシャルトが同じ位の距離。それより少し遠くまで聞こえるのがユラ。そしてぶっちぎりで聴覚範囲が広いルゥだった。
ユウは頷きながらルゥに白い板のような物を渡した。
形状はかまぼこ板のような形。または携帯やスマートフォンに似ている。縦長の長方形の薄い板。正面側の中に穴が空いていてそこに布がメッシュ上に縫われるように加工されている。
そして裏側には大きな矢印が上向きに書かれていた。
話す部分の無いトランシーバーのようなデザインをしていた。
「これは?」
ルゥの質問にユウはまあまあとごまかしつつ指示を出す。
「矢印を、うーん……。とりあえず右から三番目の大きなテントの近くにある少し豪華な小さなテントに合わせて耳を穴に当ててくれますか?」
首を傾げながら指示通りにするルゥ。言われるままに、テントに矢印の方向を向けて布部分を耳に当てた。
すると、その穴の部分から複数の声が聞こえてきた。
「るー。声が聞こえるよ。なんでなんで?」
声を抑えながら小さく興奮するルゥ。大声で驚くのを必死に我慢した。
「指定した方向の聴力を伸ばす道具です。こういう物を作れることが僕の最後で最大の秘密ですね」
ユウは人差し指を自分の口に当てて内緒だというアピールをした。
ルゥがテントに合わせて情報を聞き、ユウがそれを紙に記していく。
「アレが魔道具ってやつですか。初めて見ました」
コルネが持っていると知らないシャルトはそう呟いた。
「いいえ。違うわよ。そんな高級で凄い物じゃあないわ」
ユラがそう答えた。
「そうなんですか?少なくとも効果は非常に強力だと思いますが」
「特定方向の時間限定聴力強化。凄いのは確かだけど、魔道具ならもっと凄いことが出来るわ」
「じゃあ。アレは一体何ですか?」
「うーん。……ちょうど良い言葉が無いわね。分類上は魔石道具の下級だけど獣人しか知らないし、その獣人達でも使える人は彼以外いかなったし」
ユラは考え込むが、適切な言葉は思いつかなかった。
魔力を帯びた道具分類は三種類と言われている。
一つは魔道具。
コルネの持っている物など理解不能な能力の物が多く、主にダンジョンや瘴気の中で発見される。作れないし作り方もわからない。
基本的に強力で時間も無制限。頑丈で故障することも少ない。
二つ目が魔石道具。
家の明かりから洗濯機など、この世界を現代と似たような生活レベルに引き上げている特殊な道具達。
魔石道具は魔道具と違い、今でも作れるし量産出来る。その名前の通り魔石かそれに似た魔力を帯びたアイテムさえあれば製作が可能だ。
ただし、作れる人材は出回っていない。作り方は国家機密。その上製作に一定以上の才能も必須。もし、勝手に作って他者に売れば重罪になる。
簡単に言えば国家が人材も情報も管理し独占している。だから作れる人と出会うことはあまり無い。
最後はエンチャント技術。武具や道具を加工し魔力を帯びさせ性能を尖らせる技術だ。これだけは前者二つと少々違うし情報も出回っている。
この三つが魔力を帯びた道具の分類である。また、これらが複合する場合もある。
例えば魔石を用いたエンチャント装備。これは魔石道具でもあり、エンチャント化した道具でもある。またエンチャントの側面があれば国家機密に関わらない。
エンチャントは魔石に限らないが魔石道具は魔石が無いと作れない。またエンチャント化は一から作るわけでは無く、元の武具や道具がいる。
同じ物では無いが、部分的に被っている物もある。
分類で分けたが、光の三原色の図形のような分類の分け方となっていた。
ではユウの作っている道具は何なのかと言うと、魔石道具に非常に近い。近いが、確かに別物だ。
魔石道具と比べて見ると、メリットが一つ、デメリットが三つつ存在する。
メリットは、効果が強力なことだ。魔石道具は効果が強力になるほど大型化しないといけない。
だがユウは小型でかつ強力な物が作れる。作り方さえわかればあらゆる魔石道具の効果を三倍以上に引き上げることが出来るだろう。
まあ冷蔵庫を三倍にしても冷凍庫になるだけだし、洗濯機を三倍にしたら中の衣類を八つ裂きにする道具にしかならないが。
続いて三つのデメリット。
一つは単純。使い捨ての物しか作れないということだ。渡した聴力補助も、三十分も持たない。
効果が強力な分、時間制限が非常に厳しい。魔石道具は基本半永久だからその部分が大きく劣る。
もう一つのデメリットは製作者の問題だ。
魔石道具は製法が同じで一定の才能と技量があれば誰でも同じ物が作れる。だからこそ、冷蔵庫などは広く普及できた。
同じ製法。同じ修理法。そして同じ拡張性。誰が一人が向上させたら皆同じことが出来る発展性。魔石道具の大きなメリットの一つだ。
だが、ユウの製作する魔石道具はユウにしか作ることが出来ない。獣人の世界で獲た知識だが、獣人でも使う者をユウも見たことが無い。
同業者がいないからこそ、発展性が極めて低い。
最後のデメリットは製作にかかる時間だ。
魔石道具を作る場合魔石が必須だ。だが、魔石は中に組み込むだけで発動する。ただの充電池のように使う為魔石自体の種類は気にする必要が無い。気にするのは出力の差がある大きさだけだ。
ユウの製作でもそこは同じだ。だが、ユウの場合は更にその魔石を自分用に加工しないといけない。
その魔石の加工に早くても三日。長いと一月かかる。だから量産するのが難しかった。
ユウはこれを魔石道具と呼ばずに獣人道具と仮称している。名前がわからない技術だが、獣人世界で知ったからとりあえずそう呼ぶことにした。
獣人道具が作れることをユウはユラ以外に教えなかった。もしもの時の最後の切り札になるからだ。
そしてユウは、そのもしもが今だと確信していた。
聴力補助の道具が壊れたら同じ物をルゥに渡すユウ。そしてまた情報を集めてユウは紙に情報を羅列していった。
聴力補助が五つ目、時間にして一時間と少しが経過した辺りで、ユウは書いた情報を見ながら、撤退を指示した。
「うちの村と関係無いけど、嫌な予感は無くならないな。もしもの時の準備も考えないと。とりあえずオーナーに説明に戻ろう」
三人は頷き、見つからないようにその場を後にした。
ありがとうございました。
ちょっと諸事情で更新頻度が下がります。
小説という内容に関して作者というものは触れる必要の無い物です。
ただ、ちょっと困った諸事情がありまして、長くて一月くらいだと思います。
更新はしますが、頻度が落ちそうなのでそこだけご了承下さい。
一応活動報告に内容を少し書かせていただきます。
良いことがありました。
とても沢山の人に見てもらえています。本当に嬉しいです。
困ったことがありました。
色々ありますが、それでも楽しく書けています。読者がいるからです。
本当にありがとうございます。
作品に自信が無くいつも苦しみながら書いていますが、
特定キャラのファンが出来たり楽しい感想残してくれたりととてもやる気の出ることをしてくれる人達もいます。
誰かが読んでくれる限り続けたいと思います。
なので長い付き合いになると思いますが、よろしければお付き合い下さい。