第4幕 ~おはようございます、お目覚めはいかがですか?
これからどんどんとキャラクターが出できまーす。
「わー!眩しいな~!
それにしても、綺麗な夕日ね…。」
猿渡 黎子は、呑気に呟いていた。
夕日が出かけていると言うことは、もう少しで人間の身体になってしまう。
自分の姿が今は動物としての姿だから、人間になる前に、家に帰って、服を着ないと大変なことになる。
(もう少しで家には着きそうだ……。
ふぅ…もう少し夕日を眺めたかったな…。
いつものことだけど、残念だわ…。
みんなは、大丈夫かな?)
そんなことを黎子が想い耽っていると、家の敷地外の門の前で、黎子
の母、邇子がいつものように、夕日が登るギリギリに帰ってくる娘の黎子を待っていた。
「ただいま~!お母さんー!」
「おかえりなさい、黎子。
今日も見廻りご苦労様。」
「今日も森はなんとも無かったよ~。」
「そう…。とりあえず、黎子は急いで着替えなさいー。
ほら、すぐそこにある、衣裳部屋へ行ってらっしゃい!」
「はーい!」
そうして、黎子は進み歩き、母の邇子と歩きながら、一緒に衣裳部屋へ向かった。
(なんとか……今日も…間に合った…………。
毎度のことながら、こうも毎度毎度ギリギリに帰ってくるのは、お父さんもお母さんも黎嗣兄様も黎駕兄様もいつものことだから、見逃してもらえているけど、半分は諦めもあるのかな。)
黎子は、衣裳部屋へ入り、着替えた。
夕日が登ったので、黎子は人間の姿になった。
「そういえばお母さんー!今日は、お父さんは、仕事に帰ってくるのは早いの?」
「お父さんは、うーんと…今日は、少し遅くなるとは聞いたわよ?」
「そっか~ふーん……それなら今日は、お父さんの稽古に付き合わなくて済みそうね~!」
「ふふふ……そんなこと言っていると、お父さんがどこからか急にフラりと現れそうね。あの人はフラりと現れるから……。」
「止めてよ~お母さんっ!
そんなことを話していたらお父さんが本当に現れそうになるじゃないっ…。」
「そうね……。
そういえば今日の朝にね。あの人ったらね、私が朝食を作ってくる時に、気配を殺して、後ろから「うわー!」って、驚かせたりするのよ…。あの人はね、いたずら好きなところがあるから、本当に昔から困った人よね…。」
「お母さんは反応が面白いからね~!
お父さんもつい、いたずらしたくなっちゃうんだろうね
あははははっ~!お母さん~そりゃ、お父さんは武道の達人で、最強の術者でもあるんだから、あのお父さんだから、つい術者の癖が出ちゃうのかもね~。
私もお父さんの気持ちに共感出来るなぁ~!」
「ほう…それで黎子は、何が共感したんだい?」
「ああ、それはね……おと……っ!!」
「ひゃお、お父さん!?」
「きゃ!…って……あら、おかえりなさい、翔一郎さん。」
「ただいま…。
帰ってきて早々(そうそう)、驚かれるなんて、どうした二人とも?」
「あぁ……お父さんっ…おかえり~!」
「はい、ただいま帰りました。
さて、黎子、私が今帰ってきたからには、私の稽古からは逃げれないよ?
さあ、私の稽古から逃げたいなら、私に、一本でも術で勝てたら、今日の稽古は終わりにするからね?」
「あの……私、そもそも、お父さんに術で勝ったことなんか、今まで数える程度しかないよ……?
まあ、今日こそはお父さんに勝つけどね~!」
「いつも言っていますが、翔一郎さん、程々(ほどほど)にお願いしますよ?
手当てをするのは、私なのですから。その事を忘れないように。
黎子、あとは、頑張りなさ~い。」
「はい…………。」
こうして、今日も黎子の父、翔一郎は、娘の黎子が立ち上がらなくなるまで、みっちりと“術”の稽古をしたのでした。
術の稽古には毎回毎回、お父さんが居るときだけしか昔からしていないから、
別に苦ではなかった、が…………。
「はぁはぁ……っ、はぁはあ……。
お父さん…………そういえば……今日は…黎嗣兄様と…黎駕兄様は…稽古に来ないのですね……。」
「あぁ、あの子達は、今日は、私が朝にみっちりと稽古をしたから、きっと今頃、横になっているんだろう。」
「兄様たち、お痛わしい……。」
「大丈夫だ、あいつらは死ぬことはない。
良いか。
この稽古は普通の稽古とは訳が違う。
肉体と精神を同時に鍛えなければならないから、負担も掛かる。
しかし、この稽古も術者自身を鍛える意味があるからこそ、
こうして、私、自ら、術者として、この術の心得をお前達に手解きしているのだ。
お前達にとってはただの苦痛でしかないとは思うが、これもお前たちのこれからの未来の為には必要な術なのだ。」
「それは、私も…兄様たちも……重々承知しているよ…。
少しでも、お父さんに追い付き、追い越すために…日々(ひび)、稽古に挑んでいますから…。それに、私は楽しいから。
大丈夫よ、お父さん。ふふふ…。」
「そうか、ありがとうな。黎子。
それでは、黎子よ。
休憩時間…いや、寝そべっている時間を終わらせるためにも、もう一回しようか?」
「…………はい…、お父さん。もう一回、お願いします!」
こうして、黎子は、今日も気力体力の限界に達して、倒れたのでした。
次回の、
“森に住むものたちは”、、、
『第5幕 ~黎嗣と黎駕~』です。
次回作もどうぞ、お楽しみに~!!!