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EP2.大天使ラジエルの気まぐれ

えー、長らくの更新、すみません。


まさか最終更新が去年だとは思わず、遅くなってしまいました。


今回と次回は天界と魔界の新キャラを登場させます。


気まぐれな更新にお付き合い下さり、本当にありがとうございます。

 天上門が開かれると、天界は少々賑わいを催していた。

「んぁ? やけに騒がしいなぁ? 何事だぁ?」

 アポロスの神殿の傍らの庭園で横になっていた男があちこちで天使たちがざわついている様子に体を起こした。天使たちとは異なり、纏う装束も上級位天使たちのように独自の階級を示唆するような白と赤の布を纏い、白髪交じりの年配者のような風貌。だが、決して置いているわけではないように、身軽に白銀の翼を広げた。

「おい、何かあったんか?」

 そして、近くで話をしていた女天使たちの元へ歩み寄った。

「あ……ラ、ラグエル様。このような場所でいかがなされましたか?」

 男、ラグエルの声に驚いたように女天使たちが跪いた。しかし、その表情は、驚きに包まれていた。

「あぁ、いい。顔上げろって。それよりも何だ? やけにアポロスが騒がしいな」

「はい。現在ラキアの天上門より、地上界遣天使一団が到着したとのことで、間もなくアポロスにて会合が催されるらしいのです」

「地上界? ……あぁ、いよいよってわけかぁ」

 ラグエルが思い当たったようにひげを撫でた。

「で、神様はどうした?」

「それがシェハキムよりお戻りになられて以降、セラフィ様、ケルム様に連れられ、神座にていつもの状態に……」

 女天使の一人が言いにくそうに語尾を濁す。それに続くように他の天使も視線を落とす。

「全く。あの小童は何をしてんだかなぁ。ところで、会合には誰が出る?」

 ラグエルがやれやれ、と神に呆笑する一方で、話題を即座に切り替える。

「オファム様が代行を決定される予定となっております」

「オファム、ね。あの固い男に務まるのか気になるな……」

 どこか面白そうであり、どこか憂うように、ラグエルが一息つくと、神殿の方へ歩き出す。

「ラグエル様?」

「ちぃーとばかし気になるから、同行する。俺を呼びに来る天使がいたら、後にしろと伝えといてくれ。それからお前ら、おしゃべりも良いが、ここはアポロスだ。神の御前である以上、仕事に勤しめよ」

 ラグエルは階級は比較的高いようで、その申し出に、天使たちは止めることはなく、深々と一礼し、少々萎縮したように再び跪いていた。

「さてさて、人間を見るのは久しぶりだな。天使ばっかはやっぱ飽きるからなぁ。いっちょ人間観察でもしてくっかねぇ」

 頭をかきながら、ラグエルはアポロスの中へ入っていく。その姿を見かけた天使たちは、即座に端へ移動し、ラグエルが通り過ぎるのを一礼して見送っていた。神殿内に入ると、賢覧で煌びやかの装飾品と、天界を示す純白の輝きが穢れのない世界を演出する。上級一位から下級第三位までの天使たちが行き来する様子も、気品があり、涼やかで静かであり、凛とした爽やかさに包まれている。その中を歩くラグエルは、一人翼を広げ、悠然と神が歩くとされ、広き回廊の中心路は天使が誰一人として歩くことなく、端を歩いているが、ラグエルはその回廊の中心路を堂々、というにはいささか疑問がある足音を立てながら気ままに歩いていた。

「大天使ラグエルよ、待たれ」

 神殿内を歩くラグエルに、気安く声をかける天使は誰一人としていない。アポロスにいる中級以上の天使でさえ、ラグエルを見ると、一瞬驚きの表情を見せ、すぐにかしこまるように道を開ける。

「座天使オファムか。俺に何か用か?」

 だが、神殿から神座へと続く光の回廊を歩くラグエルの前にオファムが静かに佇む。

「何故にここへ参るか? 貴殿が役は天界における天使が善行を監視することであろう? アポロスが天使は神直属。その役には含まれぬはずだ」

 ラグエルの階級は大天使。しかし、下級二位のアークエンジェルズと同じくの大天使であるが、根本が異なる。神による直属配下がアポロスであるとすれば、大天使ラグエルに与えられし権限は天界に住まうアポロス以外の全ての天使の監視。ゆえにアークエンジェルズという大天使という階級ではなく、全ての天使の頂上に立つ、七大天使、またの名を、七人の神の御前天使と称されるほどに高い階級と、絶大な力を持ち、直轄する天使は、主にアークエンジェルズを主体とする。セラフィたちアポロスにて神に仕える天使以上の階級を持つのは、ラグエルを含めた七人の天使である。

「そんなことは承知しているさ。俺が来たのは、遣天使との面会の為ってもんよ」

 監視するつもりはない、と、手をひらつかせるが、オファムの表情は固い。

「遣天使との面会はドミニオンズ指揮官ハシュマが担当することを推薦し、セラフィ、ケルビムの承認を受けている。貴殿が立ち会うに値する人間ではないということだ」

 ドミニオンズは、天界、地上界、魔界の三世界のあるべき姿の統治を仰せ付かる。そして、主権と言う立場にて、最前線にて相手との交渉に臨むのもまた、与えられた役であった。

「生憎様だが、俺は俺の意見での判断が神様より許されている。だから、問題なしってわけさ」

 オファムはあまりこの先へ通したくはないようだが、オファムの忠告を受け入れなければならない身分ではなく、むしろオファムがラグエルに従うのが階級としての差ゆえに、オファムはその言葉に良い返すことが出来ず、表情を渋らせるばかりだった。

「なぁに、心配ないさ。俺は単に久々に人間を見て見たいだけだ。無駄な口を挟むつもりはないぞ、と」

 じゃあな、とオファムの肩を軽く叩き、ラグエルは揚々とオファムを追い越し、神殿奥へ歩いていく。

「天使を監視すべくの神の友、か……。認めたくはないぞ、俺は」

 ラグエルの後姿に、オファムは納得いかない面持ちで、それを見つめていた。まるで、神に近しいラグエルに嫉妬するような鋭い視線で。

「さてさて、お邪魔しますよっと……?」

 そして回廊を歩いた先にある神がおわす場である神座のある室内の巨大な扉をラグエルが開けた瞬間、その意外な光景に足が止まっていた。

「全くぅ、神様、あなたは神様であられるのですから、いつまでも子供のような真似はやめていただきたいのですの」

「まさかシェハキムまで行ってらしていたのには、さすがの私も調停は出来ませんよ? この三世界の均衡が崩れている今とあってわ」

 セラフィが少々呆れ顔で頬に手を添え、反省を促し、ケルムはアラボトにいるのであれば、アポロスの階下だけに庇うのだろうが、シェハキムは第三天。最上界第七天からは比較的距離がある。

「これまでも神様、あなたの度々の抜け出しにはアポロスの天使たちは困っているのですの。プリンシパリティーズ、パワーズ、ヴァーチューズの中位天使にはその度に天界中を探し回り、私たちも使い魔を出し、わざわざ仕事を後にしても探してきたのですの。日々多くの魂を循環させる為にアポロスの天使が働いている中で、あなたは何をしているのですの?」

「確かにそうですね。中位天使はそれぞれアポロスだけではなく、大天使の元で各階層での職務もあります。私たち上級位はアポロスから出るには隊を率いなければなりませんし、地上界だけではなく、魔界よりの誘惑への対処も、大天使ラグエルだけではなく、私たちも常に監視しなければなりません。その上セラフィは天使隊の総訓練を勤め、私はエデンの園の管理もあります。オファムも実戦部隊として前線に立たねばなりませんから、神様には自覚と品格をお持ち頂き、職務に励んで頂かなければアポロスの天使たちだけではなく、各階層の大天使様たちにもご迷惑をお掛けすることになってしまいますね」

 二人が視線を向ける先、その二人の叱責の言葉に身を小さくしている男がいた。神が座る為だけの輝きに満ちた神座には誰も腰を下ろさず、その下の段に男は正座をさせられていた。

「あ〜ぁ、情けないねぇ、創造主たるもんが」

 その様子に、ラグエルが後頭部を掻きながら、歩み寄る。

「宜しいですの、神様? いくら天界が平穏であってもですの、世界の均衡は崩れつつあるのですの。それを先頭に立ち、管理をすることが神様がしなければならない仕事ですの」

「神様にしか出来ないことがあるのは事実ですし、それをそろそろ、いいかげんに弁えるべきではありませんでしょうか? もう、この世界において神様、あなたがその頂に立つ立場なのですから」

 ラグエルが来ていることに気づいていないセラフィとケルムは依然として神に説教を説く。

「いや、でもな? 俺だって休みくらい、だな……お、おぅ」

 必要なんだぞ、と神が顔を上げた。だが、見上げた先で、セラフィとケルムの呆れている表情とお怒りの表情に、声をすぐに飲んだ。

「休んでばかりの神様に、更なるお休みが必要ですの?」

「むしろ、私たちに休息を与えて下さるくらいの働きをしても宜しいかと、不肖ながら、私も思います」

「いや、だからな? 俺はサボってたんじゃなく……」

 あちこちに出かけるのは視察の為。そう言おうとする神様ではあるが、セラフィはぽわわんとした面持ちではあるが、瞳に笑顔はなく、ケルムも眼鏡を上げながら、きりりとした表情で呆れたように神を見下していた。

「言い訳でしたら、もう少しマシなものをお考え下さいですの」

「そもそも神様は、わざわざ階下に降りずとも、アポロスから全てを把握出来ますでしょう? その言い訳はさすがに見苦しいかと思いますよ」

 ぐうの音も出ないのか、事実だけに神と讃えられるはずの男は肩身狭さにしゅん、と小さくなるしかなかった。

「まぁまぁ、その辺りにしてやんな、セラフィム、ケルビムよ」

 すぐそばにまで来ても気づかれない様子に、ラグエルは自分から声をかけ、三人の視線がラグエルに止まる。

「これはラグエル様ではありませんの」

「ラグエル様? 何故、このような場へ?」

「おぉっ、ラグエルじゃねぇかっ」

 セラフィとケルムの二人は意外そうにし、神は助け舟が来た、とでも言うような嬉しげな視線を向けた。

「神様の所業はいつものことじゃないかい、お二人さんよ。 二人が何を言った所で聞く耳はないと言うのが俺の見解だ。それよりも、ちょいとばかし、俺の話を聞いてくれや。な?」

 神のことを熟知しているだけに、言える軽口。だが、ラグエルが神と二人の間に入り、落ち着け、と手をひらつかせ、二人とも傅くように静かになる。

「何だよ、お前ら。ラグエルには頭下げんのかよ……いや、何でもない」

 その様子が神には不快のようで、二人にぶー垂れるが、二人の鋭い視線に、すぐに小さくなった。神ともあろう者が随分と身分の小さいものだった。

「お話、でございますの?」

「何か急を要するものはありましたか?」

「いやいや、そういうわけじゃないんだよな。ちょいとお願いをね」

 少し不敵に、いやらしく笑うような声に、セラフィとケルムは顔を見合わせて神を見るが、神もまた、思い当たる節はないようだった。

「お前が頼みごととは珍しいな。で、その用件は何だ?」

 神が立ち上がり、ラグエルを見る。立ち上がる神は、セラフィとケルムよりも大きく、黄金に輝く髪が広がり、先ほどの風体が消えうせ、神聖なる光に満ち溢れた。

「この後、ここで地上界との交渉があると聞いちゃってな、ぜひとも俺にも同席させてくれませんかね、と」

 ラグエルの言葉に、三人が視線を合わせた。

「会合の担当官はどちらでしたですの?」

「オファムの推薦でドミニオンズ指揮官ハシュマが担当することになったはずです」

 セフィアとケルムが顔を合わせ、男もそこに混じるように視線を向けて言う。

「ハシュマか。それなら別にお前が出なくても良いだろ?」

 神もオファムから話を聞いている以上、大天使が自ら出る必要はないと言うが、ラグエルは引かなかった。

「別に何かを進言するわけじゃないんだ。ちょいとばかし人を久しぶりに見たいと思う、俺の興味本位だけさ。会合の邪魔をするつもりはないんだし、別に良いだろ、神様よ」

 セラフィとケルムが神を見る。二人は神直轄の天使であるが、大天使はその上にいる最上位の御前天使。二人から反対も賛成も出せないのが階級の差。

「まぁ、別に良いか。ただ、余計なことは吹き込むな。おそらく魔界にも宣戦布告に遣魔使が派遣されただろうからな。それから、ハシュマもお前の監視対象とは言え、この場においてはハシュマが手動を握る以上は、わざわざ監視はしなくて良いからな」

「分かっているさ。俺もただの興味につられただけだ。仕事は持ち込みはしないさ」

 そういい残し、ラグエルが背を向け、室内を後にする。

「宜しいのですの?」

「私としては、ラファエル様の方が相応しいように思うのですが……」

 二人が、神を見る。

「構わんさ。あいつが興味って言うなら、それ以上でもそれ以下でもない。確かにケルムの上官のラファエルなら人間の話を聞いてやれるだろうが、今は人間が反旗を翻してもおかしくはない状況だ。ラジエルの観察眼に任せるほうが得策だろう」

 そのまま神は神座に腰を下ろす。神の言うことである以上、かつ、ラジエルが大天使である以上、セラフィとケルムはそれに従うことで話が終わる。

「さぁて、これから人間がどうでるか、見ものだな」

 神は悠然と腰を下ろし、二人の上位天使をそばに置いて笑っていた。


「ハシュマ」

 神殿内部にある大会場。そこに足を運んだラジエルは、既に会合の用意を整えたハシュマを見つけた。

「ラジエル様っ? いかがなされましたか?」

 思わずの登場にハシュマは驚いたように慌ててラジエルの傍で傅いた。

「今回の会合、俺も参加させてもらうことになったんでな、よろしく頼むぞ」

「えっ? それは誠でございますか?」

「ああ。神からも断りを頂いた」

 さらなる事実に、ハシュマが緊張したように動きに若干にぶりが出た。

「固くなるな。俺は今回は同席するだけだ。別に監視する為にきたわけじゃぁない」

「そ、そうでございますか」

 それでもハシュマにしてみれば、ラジエルは神に最も近しい存在である大天使。緊張しない方が無理といわんばかりに、恐縮していた。

「で、遣天使はまだ来てない、と?」

「はい。現在私の部下がこちらへ向かっているとのことで、今しばしのお待ちを」

「人間が天界に来るのは、いかぶりかねぇ。ま、気長に待っていようじゃないか」

 どこか気だるそうな、やる気のさほど感じられないゆるい態度ではあるが、ハシュマの緊張を見る限り、普段からその態度をすることで他の天使の油断を見て、審査しているようで、ハシュマはしきりに自身の羽を気にしたり、金髪を整えていた。

「地上界より遣天使ご一行の到着にございまーす」

 やがて、案内役の天使の声が扉の向こうに、くぐもって聞こえる。

「さて、お出ましか。ハシュマ、流れは任せるから、しっかりしてくれな」

「はいっ、承知いたしました」

 そして、扉が開かれる。眩いばかりの光に包まれる、ラジエルとハシュマが向かえる先に、天使たちに連れられた、人間たちがその姿を静かに映し出した。



閲覧ありがとうございました。


次回更新予定作品は、これまた長らくの更新停止中の

「ハウンと犬の解消記」です。


更新予定日は、5月25日前後を予定します。

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