2 ダンスなんて余裕!
さっそくのブクマありがとうございます!
お楽しみ下さいませ。
男はドレス選びを見てはいけないと部屋に入れてもらえなかったセブランが、執事にダンスの先生を手配するように言っていた。
ダンスはやった事ないけど身体を動かす事は得意だ。ダンスもすぐ覚えられるだろう。
おやすみを言って客間に行き、シャワーを浴びて寝る。
そう言えば、セブランのしっぽはズボンから出しているのか仕舞ってあるのか、どっちなんだろう?うさぎならどっちもあり得るな、と考えながら眠った。
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いつものクセで早朝に目が覚めた。広い庭を使って軽い運動をする。以前より身体が軽い気がするのは重力が少ないとかなのか? 調べようがないから答えは判らないね。
運動が終わって部屋に戻ってもする事がない。なにか手伝える事ないかな?
家の廊下をうろうろしていたら昨日の侍女さんがいたので挨拶して、暇だから何か手伝いたいと言った。お客様だから、と断られても将来のために掃除か草むしりか食器磨きがしたいと食い下がった。
ちなみにこの侍女さんはネズミの獣人でミミさん。
食器磨きを許された!
銀の食器を磨いてピカピカにして行くのは楽しい。一通りカトラリーを磨き終えた所で朝食の時間になった。手を洗って片付けてセブランと両親と一緒に朝食。
昨日は帰りが遅くて挨拶ができなかったお父さんに改めて紹介される。
ここでも獣性の薄さに驚かれた。
だから! 獣性って何!?
朝食後しばらくしたらダンスの先生が来てくれるそうだ。
セブランとお父さんは仕事。お父さん、隠居したんじゃないの?
表向き隠居したけど実質的な領地経営はお父さんがやってセブランは勉強中との事。
何かややこしいね。
来てくれた先生はダンディなおじいちゃんで金髪に黒い三角耳が付いていた。狐だな。しっぽはふさふさとしていてズボンから出している。かつてはセクシーなイケメンスマイルと優雅な仕草で大人気ダンス教師だったけど、年齢を理由に引退したそうだ。そこを幼なじみの頼みで無理を言って来てもらった。ヒツジの執事さんの幼なじみだって。
テディ = リンドホルムさん。
お母さんから練習用のドレスと靴を借りて立ち方歩き方からダンスを申し込まれた時の作法、受け方と断り方、疲れた時、トイレに行きたい時の隠語を教わる。「お花を摘みに」って本当に使うんだ。
頭を使うのは苦手ではないけど、いっぺんに覚えるのは難しい。舞踏会まで数日あるので3日間くり返し教えてくれるそうです。
身体を動かし始めたらこっちのもの!
簡単なステップは1度で覚えて流れるように優雅に踊ります! どやぁ!!
「素晴らしい! これほど体幹のしっかりしたお嬢さんには初めて出逢いました。国1番の誉れも夢ではない!」
先生が興奮して褒め称えてくれる。気分サイコー!
「それでは息子の方を教えて頂かねばなりませんね」
お母さんはそう言って笑った。セブランが帰って来たら一緒に練習しよう。
先生はお母さんと一緒になって食事のマナーも教えてくれた。前の世界と一緒だったから何となくは分かったけどフィンガーボウルは一瞬何だっけ?と考えてしまう。飲まないけど。
午後はお母さんから文字を習った。アルファベットみたいな感じ。表音文字だっけ?
数字もちゃんと0があり形は違うけど桁を揃えられて数字の形さえ覚えれば問題なさそうだ。試しに読み上げ算を披露すると正解かどうか分からないけどすごいのね! って。ママン……、興味ないね?
帰って来たセブランに夕食後ダンスの練習の成果を見せる約束をした。
約束したよ?
なのにセブランが下手過ぎてダンスにならない……。成果が見せられないじゃん!
「明日は仕事を休んでダンスの練習をしなさい」
天然風のお母さんがおどろ線出しながらこわぁい笑顔で命令した。セブランは小さな声でどうにか返事を絞り出した。
翌日先生が若いイケメンを連れて来た。エーランドさん。
息子さんで先生と同じくカリスマダンス教師。ボクの話を聞いて会ってみたいと今日の家庭教師をキャンセルして来てくれたそうだ。……ボクその人に恨まれないかな?
ちょうどいいのでじいちゃん先生にセブランが教わり、エーランド先生にボクが教わる。少し複雑なステップも教えられ、後は男性のリードに合わせるよう言われた。
エーランド先生のリードは力強くて優しくてちょっと官能的。カリスマは容姿だけじゃないんだと納得できる。
そしてセブランは、と言えばえーっと……。
テディ先生がかわいそうになって来た。ダメだこりゃ……。
「ダンスが初めてでここまで踊れるなんて、どんな秘密があるんですか?」
蕩けるような微笑みで顔を近づけて問うエーランド先生。タラシめ。
「護身術を習っていたので身体を動かす事はそれなりにできるんです」
「確かにあなたほど魅力的なら身の危険は尽きる事がないでしょうね。あるかないかも分からない牙、丸い爪、体毛も薄い。レディにしっぽを見せてもらう訳にはいきませんからそちらはわかりませんが、人間と言われても信じてしまいそうです」
「ボクが人間?」
くすっと笑って聞き返すとうっとりと夢見るような表情で頷く。
「すべての獣人が求めて止まない人間。人間を手に入れるためなら全てを投げうつ獣人がどれほどいる事か」
「エーランド先生は人間を手に入れられたらどうします?」
「もちろん大切にします! 何不自由なく暮らせるよう気を配り、誰にも奪われぬよう秘匿し、永遠の愛を誓います!!」
……ヤンデレか。
「人間は最高の庇護欲の対象ですもの。私だって大切に可愛がりたいわ」
お母さんがフォローしてくれたみたいだけどやっぱりバレたら面倒くさそうなので気をつけよう。
帰り際、手を握ってなかなか離さないエーランド先生をテディ先生が連れてくるんじゃなかったとぶつぶついいながら引きずって帰った。
休憩したら夕飯まで練習だよ?
見てろよ、リードをリードしてやる!!
ぶれぶれの体幹を振り回し、床につく足がちょうどいい位置に来るように腰を骨盤で押したり足払いをかけたり、体重をかけさせて躱して回転して進ませる。ボクは倍疲れるけど、様になるならそれで良い。恩返しだもの。
それなりに踊れている息子に涙する母。それなりで泣いちゃうほど下手だったの? ……うん、下手だったね。ダンスパートナーが見つからなかったのってこれのせいじゃない?
明日、先生にこのダンスを見せて合格を貰うからね!