猫の触れ合い
チュンチュンチュン。
毎日、元気に、朝と昼。いつの間にか大所帯になった雀の一族が、お母さんからご飯を貰うためにやってくる。
僕はネコのカイト。
お母さんに拾われて、もう13年。毎日食べたいだけ餌を食べている幸せ物さ。
お母さんは、毎日、雀にご飯をあげると、そのまま散歩に出かけてしまう。
いつもスズメ達がご飯を食べ終える頃には、お母さんは帰ってくる。
僕は毎日そんな様子を横目に、庭で日向ぼっこさ。
ゴロニャンゴロニャン乾いた土に背中をこすりつけ、仰向きで寝転がるのが幸せさ。
スズメ達は僕を見上げると、僕など気にもせず、物干し竿に勢ぞろい。
お腹がすけば、屋根やら木の枝から降りてきて、チュンチュンチュンチュン。餌をねだる。
ある時僕はスズメに聞いたさ。
「ねえ、君たち、僕はネコだよ、怖くないのかい?」
チュンチュンチュン、と大勢の雀が同時に答えます。
「ええ、だって、あなたはお母さんから、毎日お腹いっぱいご飯を貰って、いつも満腹なおなか丸出しで昼寝してるじゃない。お母さんのくれるご飯は美味しいから、私たちを食べるほど困っていないでしょう」
「僕を太ってるって言うけれど、君たちだって、まるまるに太って、どんどん数が増えていくじゃないか。最初は、ちょっとしかいなかったのに、今じゃあ、物干し竿にみんなで並べないくらい、数が沢山じゃないか」
「そうよ、お母さんが沢山ご飯をくれるから、栄養たっぷりで、卵も沢山産むことが出来て、家族が増えたのよ」
「フーン、僕は男の子だから、沢山ご飯を食べてるけれど、君たちみたいに、家族は増えない、一匹ぼっちさ」
「でも、お母さんが僕の家族だから、僕は寂しくないよ」
でもネコは思いました。自分が拾われてから、随分月日が流れたことを、お母さんの手の平に乗れて、木登りも軽く出来ていた、幼かったあの頃と違い、最近は前足が痛んだり、おしっこが近くなったり、眠るだけの時間が増えたことを。
スズメ達の顔ぶれも、少しずつ変わっていることも。
そんな毎日が繰り返し続いたある日、日向ぼっこをしながらお母さんの帰りを待っていたネコが、雀たちに言いました。
「スズメさん、スズメさん」
チュンチュンチュンと、雀たちは、集まってきました。
「どうしたの、ネコさん」
すっかり平和的な関係が続き、雀たちは、ネコに近づいて答えます。
「お母さんが、帰ってこないんだ。いつもなら、もう散歩から帰ってくるのに、今日は、まだ帰ってこないんだよ」
ネコは犬ほど鼻が良くないので、匂いでお母さんを探せません。お母さんが帰ってこなくて心配になったネコは、雀に助けを求めます。
チュンチュンチュンチュン。
スズメ達が、集まって、なにやら相談し始めました
「私たちに任せて、空からみんなでお母さんの居場所を見つけてきてあげるから」
スズメ達は、バサバサバサと、羽音を立てて、一斉に飛び上がり、あちこちの方向へ向かって飛んで行きました。
ネコは心配で心配で、寂しくなってきました。ネコは、感じていました。自分が歳をとったように、お母さんの様子が最近おかしかったことを。
何やら、同じ言葉を繰り返したり、ご飯を何度も何度も食べていたり、僕にもお腹が一杯なのに、ご飯をくれたり。それでも、毎日お母さんと一緒に眠っていたので、お母さんは僕をわかっていたことは感じていました。
ネコが心配していると、スズメ達の数羽が帰ってきました。
「ネコさん、お母さん見つけたわよ。案内してあげる。ついてきて」ネコはスズメの後を追いました、お母さんは、普段より遠い場所を歩いていました。ネコが、お母さんの前に姿を見せると。
「カイト」
お母さんが僕の名前を呼びました。僕はお母さんの足元に頭を摺り寄せると、そのままお母さんを家へ案内するように、ゆっくりと歩きました。
地面には、沢山のスズメの影が出来ています。家族が増えたような気がして、カイトの足取りは軽くなりました。