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連休明の午前

作者: 阿木玲太郎

 世の中は三連休開けの火曜日、バルコニー(ベランダ?)でサイダーでも飲みながら一休みしようとしたら、彼がガラス戸の向こう、家の中でこっちを見て、ちょこんと座っていた。何時もの、つぶらな瞳だ。


 リードを付けて彼をバルコニーのテーブルの上に乗せると、彼はまずお尻を落とし、やがてそこで完全に横になった。

 時間は十時過ぎ。

 昨日の朝とは大分、様子が違う。

 今、烏は、野鳩は鳴いていない。でも、何処かで小鳥が鳴いているのは聞える。知識のない私には、それが雀ではないことしか分からない。


 家の前の道路の向こう畑で誰かが喋っている。その畑の向こうの家のから、室内犬の鳴き声が聞えた。それから、遠くから電車の通過音。

 現役時代にはよく乗った私鉄だ。その電車も、近頃は随分とカラフルになった。

 それから、自動車が通り過ぎる。昨日の朝に比べ、その音に切迫感があるような気がするのは、単なる気のせいか。


 隣の家の台所から、何か切る音、包丁がまな板に鋭く落ちる音が聞える。何か固い物でも切っているのか、と余計なことを考える。

 彼はすっかりリラックスして動きそうにない。

 近くのアパートから幼子の甘えた声が聞える。

 定年退職者には平日の午前中でも、時間はゆっくりと過ぎていく。

 現役時代の休日なら、騒音だったカラスの鳴き声、車や電車の通過音、小さな子どものはしゃぐ声も今では“子守唄”のようにさえ思えるのは不思議だ。


 彼を左手で撫でてやる。彼は、一瞬、頭を持ち上げたが、直ぐに元に戻した。

 彼と自分の周りの時が、昨日と同じようにゆっくりと過ぎていく。

 彼の尻尾が左手を単調に、トン、トン、トンとたたく。

 ゆっくりと、ゆっくりと時間が過ぎていく。



 それでも、暑くなってきた。時間はゆっくりと過ぎても、それでも確実に“夏の午後”に向かって時は流れていく。


ヤフーブログの再投稿予定です。

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