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Dear ○○.   作者: 中馬屋伊織
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ざくろ。

いつもの道を通って、いつもの店で買い物をする。

それが私の日常だった。変化はいらない。

でも、オレンジジュースより

りんごジュースが飲みたくなる日もいつかは来るって事。   

私は出かける際、

必ず決まった道、

決まった店へしか行かない。


それは別に、宗教的な物でも、

願掛け的な物でも無くて、


ただ単にこの街に越してきた時、

その道を通ってたまたま行った店が、

いつもの店だったからだろう。


要するに、道にも店にも

それ以上の事なんて

求めてないのだ。


春になればタンポポが咲いているし、

夏になれば蝉が鳴いているし、

秋になれば枯れ葉が落ちていて、

冬になれば寒い。


だったらどの道も変わらないのだ。


店には食料品から日用品まで揃っていて、

手に入りづらい物は、

インターネットで手に入るので、

便利な時代なものだ。


そんな事を考えながら、

今日もいつもの道で自転車を漕ぐ。


道に枯れ葉が落ちていて、風に煽られ舞ってる。

季節は秋…少し寒いから、冬も目前だろう。


いつもと変わらない道。

変わらない日常、変わらない自分。

平和でいい事だ。


きっと、好奇心や冒険心といった物を、

私はどこかで遠ざけてるのかもしれない。

無駄な事は嫌い、避ける。

それが一番平和で、生きやすいのだ。




そして、ある日の事。


いつもの道を通って、

買い物に行こうと自転車を漕いでいたら


いつもと違う風景がそこにあった。


めったに車なんて通らない細い道の

その真ん中に、

命の抜け殻が横たわっていたのだ。


それは抜け殻になるにはまだ早い、

小さな抜け殻だった。


私はゆっくりと近づき、自転車を停めて

その場に立ちすくんだ。


この様な出来事は初めての事だったので、

いつもの道のはずなのに、

まるで違う世界に迷い込んだ感覚に、

囚われていた。


命の抜け殻は

赤くはじけていて、私の目に映るそれは、

まるでザクロの実みたいだなぁと思ってしまった。


私は、初めて見る様なそうでない様なモノに、

すっかり魅入ってしまっていた。


好奇心とか冒険心を無意識とはいえ

避けていた私が、だ。


だけど、それも数分。


私は私の世界に戻りたくなって、


再び自転車に乗り

当初の予定通り買い物へ向かった。


はじけて散らばったザクロは

私の世界にあったはずなのに、

私の世界に戻りたいとは、

どういう事なんだろうか。


ホームシックにも似た感情について、

考えたくなかったら、私は振り向かなかった。


自転車を漕いでいてふと思った、

店にはオレンジジュースを買いに行くつもりだったんだけど、

急にりんごジュースが飲みたくなった。

予定変更だ。


買い物を済ませ戻ると、


命の抜け殻は無かった。

私が見たザクロの実は無かった。


代わりに、ザクロのツブツブが

少し残ってた。


一部分だけ黒く染まったアスファルトに残る、

ザクロのツブツブ。

命の一部だった、ザクロの赤いツブツブ。


これも雨が降れば、

残りのアスファルトも全部黒く染まって、

ザクロのツブツブも雨に流れ消えるだろう。



家に帰って、

りんごジュースを飲んだ。


とてもまずかった。


パッケージを見ると、

真っ赤なリンゴのイラストが主張されてるだけで、

果汁100%のりんごジュースじゃなかった。


…そういえばあの店に、

果汁100%のりんごジュースは無かった気がする。


ならば、明日は違う道を通って、

違う店に果汁100%のりんごジュースを

買いに行こうかな。



fin.


全ての話はフィクションです。

極力、登場人物に名前を付けないように努力してます。

これを見てくれている方の、

好きな人物またはキャラクターや声を、

好きに当てはめて楽しんで貰えれば、

この上なく嬉しく思います。

(一つの作品で色んな見方が出来る作品を書けるよう、

頑張りますので、よろしくお願いします。)


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