通貨
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世界的に文明が発達する頃、種族によって様々な通貨が使われ始めた。
現在では統一して「ダラー」が使用されており、貨幣価値も基準化されている。
ダラーはヒトが使用していた通貨単位「ゴールド」を参考にされたものである。
希少な金属を貨幣として使用することにより、実質的な財産として扱うことができる。
現在では金、銀、銅の順に貨幣価値が高い。
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アドベルが3人組みの冒険者と出会い、早一月ほど経った。
路銀もそこそこに稼ぐことができた彼は、慣れ始めた町を後にすることにした。
「もう行くのかよ、アドベル」
「もう少しくらいゆっくりしていったらどうだ?」
「ハハ、形式的な挨拶をありがとうよ!」
「くくっ、全くだな。 こんなセリフ、聞き飽きたんだろ?」
「それでも本心だ。 お前と一緒に居たのは一月程度だったな。
短い間だったが、共に仕事ができて楽しかったよ」
「こちらこそ、久々にパーティを組んだよ。
お前たちと居るときは本当に楽しかった」
「できれば一緒にダンジョンを攻略したかったな」
「そうだな。 ・・・ま、一人で世界中のダンジョンを踏破してきてやるよ」
「へっ、やれるもんならやってみろ。 死んだら、俺様が引き継いでやるからよ。
そう近くない将来だろうけどな!」
「ハハハハ!!」
「へへへへ!!」
「ばっはは!! 俺もお前と仕事ができて楽しかったぜ!
また会うときは良いモンでも食わせてやるよ」
「そりゃあ良いなウグ! もう熊の丸焼きなんて勘弁だよなぁ?」
「お、お前まだ言うのか! 悪かったと言ってるだろうが!!」
「だっはっはっはっは!!」
「くっ、くくくくっ・・・!」
「ふふふふ。 そうそうアドベルさん、これ手作りのお弁当。
少しはお腹の足しになると思うわ」
「あーー!! う、うらやましいぞコノヤローー!!
レシーナちゃんの手作りだとぉ!?」
「うるさいぞアホレイ」
「ハハハハ! 悪いなレシーナ、ありがたく頂くよ。
・・・さて、それじゃあ"先に"行くぜ。 また会おうぜ、仲間たちよ!」
「ああ、先に行け。 でないとすぐに追い越しちまうぜ」
「また中型に金を使い果たすなよ!」
「次に会うときは俺の武勇伝を聞かせてやるさ!」
「あばよアドベル、また会おうぜ! ばっははははは!!」
「"行ってらっしゃい"、アドベルさん。
私たちギルドはいつでも応援していますよ」
皆の鼓吹を背に、一人の冒険者は町を離れた。
足取りはわずかに重さを感じるも、常に前へと勇み歩む。
彼の向く先には、己の望むものがある。
まだ見ぬ武器、まだ見ぬダンジョン、まだ見ぬ世界。
燻るにはまだ早い。誰もが夢見た世界の終わり。己が見ぬなど許されぬ。
彼は冒険者。危険を顧みず、自らの欲望に忠実な者の一人。
きっとその背中は、人々が焦がれる夢を背負っていた。
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ダラー貨幣は小さく薄い円盤型であり、全世界で共通の模様が彫られている。
中心には魔石(魔力石)と呼ばれる極小の粒が入っており、複製が不可能となっている。
魔石自体にも相当な価値があり、各国では魔石や貴金属の採れる鉱山やダンジョンをいくつも有している。
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赤い太陽が遠くなる頃。
けして少なくない荷物を背負い、屈強な冒険者が山道を歩いていた。
孤独な彼を照らす光は、一つの影を大きく形付ける。
町へと伸びる長い影は、静かな道へ哀愁を漂わせていた。
「おおー。 結構歩いたんだな」
ふと振り返り町を見下ろす。大きな町は小さくなっており、時の経過を思わせる。
彼が町を見入る間、刻一刻と太陽は沈んでいく。
これはいかん、と彼はあせる。山越えは早々に切り上げ、いそいそ野宿の用意をする。
岩肌に囲まれた山の中、道は荒れていても草木はしっかりと根を張っていた。
岩陰に薪を集め、油を敷いて火を灯す。
選別にともらったラービットの干し肉をかじり、焚き火を前に水を飲む。
明日は水の調達をしてから行こう、そんな事を考えながらアドベルはまぶたが重くなる。
火を消し毛布に包まる。武器は万が一に備え抱きかかえておく。
彼が冒険者として旅を続け、そして行ってきた行為の一つであった。
目を閉じる彼の意識を遠ざけるのは、しんと唸る無の鳴き声であった。
山の影法師が麓へはっきりと移る頃、彼も太陽に続き目を覚ます。
野宿に慣れた彼と言えど、危険を伴う睡眠は避けたい。
「安心して眠れるような、ふかふかのベッドで寝てぇなぁ~」
大地の床から起き上がった彼は、ずきずきと痛む腰を押さえて一人嘆いた。
近くの川へ向かった彼は、水を補給し先へと向かう。
太陽が真上を照らす頃には山を越えた。うっそうと茂る森を掻き分け進む。
おもむろに地図を広げ、現在地を確認する。
「この分なら、次の町へは明日には着くな。
よーし、このまま一気に突っ切るとするか!」
一人、誰も答えぬ森の中で、彼は大きく己を鼓舞する。
茂みを掻い潜り、ずんずんと進む彼の脚。
このまま進めば、彼の目算通り明日には町へと着くだろう。
しかし、彼の歩みを止めたのは、森には似つかわしくない大きな地面の穴だった。
「・・・へぇ、おもしろいじゃねぇか」
ニタリと彼は笑う。大穴には明かりが灯り、招き入れるかのように植物が道を開ける。
彼は冒険者。危険を顧みず、自らの欲望に忠実な者の一人。
彼を止める者は無く、脚は目の前の欲望へと歩む。
彼はこれからも、ダンジョンと言う物へ潜り続けるのである。