ダンジョン
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ダンジョン。
この世界に存在する、迷宮の総称。
大概その中にはモンスターが生息し、独自のカーストを形成している。
また地上では滅多に見る事の無い植物、鉱物が現存する。
いつ頃から存在し、いかにして生まれたのか。
また、人工物か自然物かも定かではない。
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「ふぅ。 とりあえず、これでラービット5匹だな。
一度町に戻るぞ。 血抜きも済ませていこう」
「一々行ったり来たり、面倒だよなぁ・・・」
「こればかりはな。
ダンジョンに放って置いても別のモンスターに横取りされる。
良くて無事でも、素材の質が落ちる。
外に置いたままにしても同様だ」
「それに荷車に載せておいても、かっぱらっていくやつらもいない訳じゃない。
ギルドに納品した方がよっぽど効率的さ」
ラービットとの戦闘後、3人はダンジョンの外へと戻ってきた。
ウサギの巨体を担ぎ、慣れた手つきで血抜きを行っていく。
モンスターの血は特殊で、その血液は植物や大地の良い栄養となる。
「こいつらの血も、売れれば良い小遣い稼ぎになるんだが・・・」
「売れれば、だろ? わざわざ金払ってまで買うやつがいるとは思えねーよ」
「高潔な竜の血でも手に入ればなぁ~」
「よし、大体こんなものだろう。
荷車に結び付けてくれ。 今度は俺とアドベルで運ぶ方を決めよう」
「なら俺がやろう。 力仕事ならそれなりに手伝える」
「よし、なら次は俺で、その後はローテーションで行く。
もし消耗してるならちゃんと言ってくれよ。 俺も遠慮はしないからな」
ギルドまで荷車を引き、3人はギルドへ着いた。
ギルドでは依頼物の納品も承っている。
3人は、ラービットの死骸を納品ではなく預かるように頼んだ。
空になった荷車を、今度はキリーが引いて行き、ダンジョンへと戻っていった。
「初めに使った松明はもう燃え尽きてるな。
新しいのを逐一灯していくぞ」
「ああ、頼む」
「さぁ、どんどん狩っていこうぜ!」
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「・・・ちっ、この猿ども、木の上から降りてきやがらねぇ!」
「ギッギ、キィーキィー」
ダンジョン内の開けた空間。
周りには発光する植物や鉱石、そして洞穴内とは思えないほどの植物たち。
そして、その中の木々の枝をすり抜けるように、シザーモンキーたちが現れた。
「くそ、なんつう邪魔な木だ! やつらにかすりもしねぇ!」
「二人とも、こいつを使え!!」
「これは、油か?」
「邪魔な木々は全部燃やし尽くす!!
煙に気をつけろよ!!」
「お、おいおい、正気かよ!?」
「ハハハ、おもしろい! いくぜレイ!」
アドベルとレイは、掛け声を合図に木に向かって油を撒く。
シザーモンキーは驚き飛び退くが、幹や枝にはばしゃんと跳ねた。
己に油がかぶらぬ様に、二人は気を使いながら、次々とぶちまけていく。
「よし、離れろ二人とも!!
豪快にいくぜ!」
キリーは松明に火をつけ、茂る木々に投げつけた。
見る間に炎は草木を巻き込み、盛大な火の畑となっていく。
「うおおおお!! い、いくらなんでも燃えすぎやしないか!?」
「た、確かに・・・」
「シザーモンキーが逃げるぞ! 引き付けてくれ!」
「お、応!」
燃え上がる火の手に驚き、シザーモンキーたちが洞穴の奥へと逃げていく。
それをさえぎる様に二つの影は立ちはだかった。
何匹かはその影に阻まれ、火の手を背にする。
己の進路を阻むそれに、シザーモンキーたちは爪を立てる。
「ギッギッ」
「ギッギァッギァッ」
「いいぞ、そのまま動かないでくれ!」
「なっ、ど、どうするんだ!」
言われるよりも早く、キリーは弓を構える。
狙うは影を前にした猿たち。手元がぎりりと弓を鳴らす。
「この距離ならば、はずさねぇ!」
ヒュッと空を風が鳴く。ドスッと木矢が猿を突く。
不意を突かれた一匹を皮切りに、猿たちはどよめき立つ。
そんな事は露知らず、無慈悲な閃光は確実に猿を射止めていった。
「ひゃ~・・・すげぇもんだ」
「キリー、弓まで使えるとはな」
「しかし、どうするんだよ。 これじゃあ戻れねぇぞ!?」
「すまーん、考えてなかった!!」
「このドマヌケ参謀!!!」
彼らが放った炎は、すでに木々全体に燃え移り、一種の地獄を連想させた。
本人たちですら手の施しようがないそれは、ほとぼりが冷めるまで待つしかないように思えた。
「・・・! そうだ、こいつなら何とかなるんじゃねぇか!?」
アドベルは、背負った荷物から一振りの剣を取り出した。
巻き布を剥がしたそれは、まるで水のような静けさを感じさせる美剣であった。
「物はためしだ・・・そうらぁ!!!」
「・・・!! き、霧・・・いや、しぶき!?」
アドベルが力いっぱい剣を振るう。
すると、剣から伸びたかのように白い弧が放たれた。
火畑へ飛び込むそれは、炎の勢いと共に消えていった。
手ごたえありと見るや、続けさまに剣を振り回す。
空を切る剣先からは次々と白き刃が飛び、しばらくして炎はその存在を消していった。
「ふぅー・・・まさかここまでとは・・・」
「お、おい! 何なんだその剣は!?
どうして炎を消せたんだ!」
「・・・驚いたな。 まさか『マジックウェポン』か?」
「ああ、そうだと思うぜ。
お前たちと出会ったダンジョンに泉があっただろう?
あの泉の中にあったもんでな、貰ってきたんだよ。
しかし、こんなに役に立つとはな・・・」
「うおおお!! う・ら・や・ま・しぃ~!!!
な、なぁ、譲ってくれないか、それ!?」
「あ、アホか! そんな簡単に譲れるかよ!
仮にもレアアイテムだぞ?」
「・・・確かに、それを売り払えばこの前の中型の分も取り返せるよな。
貴重な物だし出し惜しみするのも納得だ」
「悪いな、隠してたつもりは無かったんだが・・・」
3人は話をそこそこにシザーモンキーの死骸を抱え込む。
壁際へと場所を移動させ、松明を灯し壁へと引っ掛けた。
発光する植物はほとんど燃え尽きてしまったため、以前より洞穴内は沈んでいた。
黙々と腕を切り落とし、依頼品である爪を傷つけぬよう丁寧に捌く。
バラされた死骸は穴を掘り埋める。供養のためと、燃やしてしまった植物たちのせめてもの償いだ。
3人はその場を後にし、再び奥へと向かっていった。
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ダンジョンには2種類存在すると言われている。
一つは定期的に構造を変化させる「動態ダンジョン」、または「動的ダンジョン」。
中に存在する鉱物、構造はもちろん、住まう生物たちをも変化させるという。
もう一つは「静態ダンジョン」、または「静的ダンジョン」。
構造、生態系などは一切変わる事がないのだが、まれに特殊な鉱石や植物が生まれる。
特に動的ダンジョンは謎が深く危険であり、行方をくらます冒険者が後を絶たない。
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