亜人
――――
この世界には多様な生物が暮らしており、文化を持つものと持たないものがいる。
中でも文化的な生活を送る生物を「人間」と呼ぶ。
人間は種族ではなく、あくまで生物上の呼び名である。
自らの種族以外の人間を、俗に「亜人」と呼称し、差別化を図っている。
現在確認されている亜人は8種といわれているが、まだ確認されていない種が存在するという。
――――
酔っ払いの夜は去り、働き者の朝が来る。
ある冒険者は町を離れ、まだ見ぬ世界へと足を勇む。
町人たちは代わり映えのない平和を過ごすために、ある者は農作業、ある者は風呂敷を広げ、またある者は工房へと篭もりに行く。
「・・・頭痛ぇ」
「調子に乗って飲みすぎだぞ」
「しかし昨夜は久しぶりに騒いだぜ!」
「アドベル、お前はこの後どうするんだ?
俺たちはギルドに行って仕事を斡旋してもらうつもりだが」
「キリー・・・今日は休ませてくれないか?」
「アホレイ、ダメに決まってるだろう」
「そうだな・・・。
昨日の仮調査であの額ってことなら、本調査でも期待はできないな。
そうなると働くしかねぇよなー・・・」
「なんなら俺たちと仕事しないか?
普段なら3人でやってるんだが、今日はアルドのやつが酔いつぶれてるし」
「キリーさん、俺も休ませてくれませんかねぇ?」
「ダメだ」
「そうか、それならお願いしよう。
この町のギルドにはまだ顔を出してないんだ。紹介してくれ」
「いいぜ、決まりだな」
「Zzz・・・・・Zzz・・・・・」
――――
人間は、種族によって祖先が異なる。
猿をルーツとするヒト。狼をルーツとするドッグス。
猫をルーツとするキャッツ。リザードをルーツとするドラグナー。
鯨をルーツとするマーマン。
また、祖先が定かになっていない種も多数存在する。
それぞれの種が、大戦争以降に平和協定を結び、共通言語を定め意思疎通を可能とした。
――――
「さて、アルドのやつは宿に置いてきたし、ギルドに向かうとするか」
「お前らは普段どんな仕事を請けてるんだ?」
「たいていは農作業の手伝いだな。
モンスターの討伐がある日はそっちを優先してる」
「へぇ、腕には自信があるってことか」
「まぁな。 といっても、町付近の小さいダンジョンのおこぼれだよ」
「俺は大物狙いだけどな!」
「お前はいつも口だけだろうが・・・。
大物なんざ狙うだけ無駄だ。
上級冒険者か兵士にまかせとけばいいんだよ」
「かーっ、ロマンのねぇやつ!」
「ロマンでメシが食えるかよ」
「確かに、大型となるとそれだけリスクは高くなる。
入念な計画とそれなりの実力者でないと命を落とすだけだしな。
俺も一人旅してる身だからな。なるべく危険な相手は避けてるよ」
「さすがわかってるな。 中型をたった一人で屠るだけある」
三人が歩きながら話していると、目の前に大きな建物が現れた。
入り口は巨大なロッジ型テントのようだが、奥の作りは石造りでしっかりしている。
周りの建物と比較しても、十数倍はあろうかという大きさであった。
「おはようございます」
「おはよう、レシーナさん」
「おっすレシーナちゃん! 相変わらず美人だね!」
「やだわレイさん、口説いてるつもり?
アルドさんがいないけど・・・そちらの方は?」
「昨日町についたばかりの冒険者でね。
【ヒト】のアドベルだ。 よろしく」
「【ガイアー】のレシーナです。
強そうな方ですわね♪」
「おいおいレシーナちゃん、俺だって強いんだぜ~・・・?」
「ほら、くだらないこと言ってないでさっさと来い」
「よお、お前たちか! 一人足りないが・・・そっちは新顔か?」
「おはようございますディンゴさん。
アルドは酔いつぶれてましてね。
彼にギルドメンバーの承認をお願いします」
「がっははははは!! 全くだらしがないのう!
お前たち三馬鹿はいつも成長しとらんな!!」
「ディンゴさん、俺とアルドを一緒にしないでくれよ!」
「特に成長しとらんのはお前だろうが!!
・・・新入り、『冒険者証明書』は持っているか?」
「ああ、コレだろう?」
「うむ、【ヒト】のアドベルか。
よし、書類を作成してくる。しばしまっとれ!
おーい事務員!! 新入りの登録をしとくれ!!
ワシは細かいことはわからん!!」
「もうディンゴさん!! いい加減書類くらい作れるようにしてください!」
「ハハハ、豪快なじいさんだな!」
「ああ、けど気の良い人だよ。
この町の古株で、当時ギルド立ち上げに携わった一人なんだ」
――――
数ある種族の中、特に詳細が不明とされている種族が存在する。
自然をルーツとするガイアー。
偉大なる者をルーツとするエルフ。
モンスターをルーツとするゴーグ。
彼らの多くは謎に包まれており、またその歴史も明らかになっていない。
――――
ギルドの中は存外広く、朝から多くの人で賑わっていた。
多く目にする種族はヒト、ドッグス、キャッツ、ゴーグ。
ガイアーも目にするが、ほとんどがゴーレムタイプである。
「よう、待たせたな」
「なに、そうでもないさ。
こっちも依頼を請けたばかりだ」
「依頼は付近のダンジョンに生息するモンスターの討伐だ。
モンスターから取れる素材が目的らしい」
「上等だろう。荷物はなるべく少なくしていくか。
どうせモンスターの死骸を運ぶことになるだろうし」
「さぁて、気合入れていくとしますか!」
「「応っ!」」