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―皇国暦499年初夏―
ヴァンは孤児だったゆえに家名がない。
まだ5歳にならない頃、皇都へと税を納めに行っていたエヴァンス家の家長"ヤゴルヌ・エヴァンス"が孤児として引き取った、といえば聞こえがいいがその実、さらってきたも同然であった。
モーリアやその父ノーマンのような赤髪赤目はどこにでもいるが、サラのような白金色の髪と目は少し特別だとしても、目の前でヤゴルヌより後ろの、変哲もない家の壁を見ている少年のような、黒髪黒目など見たことがなかった。
そしてその目は奥が深いといえば聞こえはいいが、悪く言えばそこが知れないほどに空っぽで希望も夢もその黒の中に沈めてしまった目だった。
ヤゴルヌは直感でこの目は危険だと悟った。
彼自身戦場に出るたびに敵味方関係なく、このような目をしたもの達を見ている。
大義も人間としての尊厳をも捨ててしまい、ただ目の前にいる動くものすべてを斬り捨てようとする死兵の目である。
こういった兵は戦いに役立たないどころか、精神系の輝法をうけてしまえば味方のふりをして暗殺を強制させられるようになったり、捕虜となった後も簡単に自白してしまうのだ。
まがりなりにも皇都とはいえ他国の間諜は必ずいる。
放っておけば死ぬか、さらわれ、輝法で洗脳された後に、戦場に置き捨てられた子供だと装い、輝法を暴発させる自爆兵となったであろう。
その威力自体低いもののこのような子供がいるだけでどれだけ士気はさがり、味方の損傷をふやすのだろうか。