第三章 祭 三
三
翌日。
ゆえは手芸部の助っ人唯1人の男子として依頼された手芸部宣伝用の看板を作っていた。
「じゃあ何、霜割先輩も襲われたの?」
背後から月が柚に訊いているらしい声が届く。しかし声を落としているためか、雑音に混じって聞き取りにくい。知らず知らずのうちに、ゆえは聞き耳を立てるように少女達の話し声に耳を傾けていた。
「うん、他の部にも襲われた人がいたみたい」
カタカタというミシンの音に混じって柚の声も響いてくる。
「怪我は?先輩、大丈夫だったの」
「掠り傷ぐらいだって。転ばされて腹がったから、鞄投げつけてやったって言うくらいだから大丈夫にでしょ」
「何て言った?今」
「デザイン描いたファイルと辞書とか数冊入ってたらしいし」
数秒の沈黙の後、月がボソッと言った。
「何か・・・・・・すごい人ね、霜割先輩」
すごいどころの騒ぎじゃない気がする、耳をすませながらゆえは思う。
「でも、もし私と先輩の攻撃受けたのなら、いっそ襲撃者のほうが哀れな気もするわ」
「本当に馬鹿な襲撃者よねいくら夕方外出している部員が少ないからって月と先輩を襲うんだから」
「ねえ、柚。他の部も狙われたって言ったわよね」
月が確認するように訊く。
「ええ、そうよ。文科系の部活ばっかり。詳しい事は今、部長会が開かれてるから先輩に聞けばわかるだろうけどまだ帰って来てな・・・・・・」
「変なところで止めないでよ。『な』の続きは?」
「『い』よ。別にそんな細かいところは気にしなくてもいいじゃない!だけど丁度いいタイミングに。ほら」
ゆえは首だけで振り返って柚の指の指す方向を見た。
「ごめん、みんな。少し作業中断して集まってくれる?」
そこには昨日よりさらに眉間の皺が増えた霜割先輩がいた。しかめっ面のまま先輩が口を開く。
「昨日の襲撃事件事は皆知っているわよね?」
疑問と言うより確認の言葉だったらしい。部長会の資料と思しき学校印刷の朱印の入った印刷物を見ながら、そのまま続けて言った。
「今、部活会で発表されたんだけれど、被害者は全部で十八人。演劇部、文芸部、科学部、占い同好会、手芸部、書道部、美術部、合唱部からそれぞれ二人から四人ずつ被害者か出ているわ。まあ、被害って言っても軽い怪我程度だけど」
ため息とともに吐き出すように言った。
「一番軽いのが擦り傷。一番重いのが足首の捻挫と眼鏡の破損。こんなので襲撃って呼べるのかわからないけどね」
「じゃあ、襲撃事件って名前をつけたの誰なんですか?」
「遊衣。文芸部部長の海山遊衣よ。」
思い当たる節があったのか、下級生の誰かの声があがる。
「推理小説好きで有名な海山先輩ですか?」
「そうだけど。でも、好きなんてもんじゃないわ。あれは唯のオタクよ。とりあえず、夜遅くの外出は控えるようにって通達が着てるのだけ伝えておくわね。ところで話は変わるけど作業ちゃんと出来てる?まず、一年生から」
「はい、一般公開用のコサージュやサッシュなどの小物は殆ど出来ています。後は包装するだけでOKです」
髪を耳の上辺りで縛った下級生らしい少女がはきはきと答える。
「二年もほとんど終っています。占い同好会の依頼と演劇部の依頼の衣装は完成しました。あ、でも演劇の一般公開の衣装はまだです」
柚がレポート用紙に書いた計画表を見ながら言う。
「柚、劇部一般の衣装って手芸部(うちの部)の自由で使うやつ?」
「はい、そうです」
「そうか。若狭くん、頼んでおいた看板どのくらい出来た?」
「・・・・・・形になっているのは、言われた分全部の五個です。三個はやすりも終りました」
「そう、じゃあ一年生手が空いた人から看板のトールぺイントやって、二年生も短い時間で大変だけどがんばって仕上げてね。じゃあ、作業開始!!」
「はい!!」
鶴の一声状態で皆作業に入った。
「そういえば、さっき先輩の言ってた一般公開って何の事だ?」
柚はああ、そういえばそれも知らないんだっけ、と言いながらゆえと月に向かって言った。
「日曜日の開催日の事よ。ほとんどの保護者の人がその日に見に来るから、その日は大体何処の部活も真面目な出し物に切り替えるの。自由日と違う物にね。反対に自由日は平日の公開日と非公開の最終日の事よ」
「じゃあ、演劇部の依頼って言うのは?」
「うちの部活に衣装作って欲しいって言う依頼よ。外部より安価の超格安で受けるから結構人気よ?」
「商売までやってるの?」
「だってこの学校、部活数多いでしょう?四月に部費は支給されるけどそれじゃたりなくて。だからうちは、依頼を貰って部費を稼ぐの。材料費は出してもらって衣装を作って、こっちの展示会やコンクールの時には返して貰ったりしてね。一挙量得よ!」
柚が力を込めて断言すると同時に遠くから声がかかった。
「あー、ごめん。淡路さんと若狭君どちらかちょっと手空いてる?」
霜割先輩だった。大きなダンボール箱を指差す。
「依頼品の占い同好会と演劇部の衣装届けて欲しいんだけど。頼めないかな?」
「じゃあ、私演劇部の方行きます。ゆえ、占い同好会の方行ってくれる?」
「ああ」
「じゃあ、お願いね。代金の方は全額先払いだから置いてくるだけで良いから!」
そこまで言うと、また他の生徒に指示を出しに行った。
「何と言うか、パワフルな人ね。ここ二、三日ろくに寝てないらしいのに。あ、占い同好会はここの右隣だから」
「わかった」
そう言うと、月もあっという間に衣装の入った複数のダンボールを持って行った。
(自分もパワフルなの、わかってるのか・・・・・・?)
たぶん、わかっていなさそうに思える。自分も衣装入りのダンボールを抱えながら、考えた。
(演劇部なら校舎外の体育館まで届けないといけないのに・・・・・)
その時、急にある事を思いついた。
(もしかすると、わかっていて引き受けた・・・・?)
ゆえが昨日疲れていると言っていたから、わざと遠いほうを自分が引き受けて・・・・・・?そんな事を考えていたら占い同好会と書かれた看板に激突しそうになった。気を取り直し、木戸を開ける。
「すみません、手芸部ですが・・・・・・」
思わずそこで絶句した。
「おー、ゆえ。手伝いか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・翔」
やっとの事で出した声は、ひどく疑わしそうに出てしまったが眼の前の少年、武蔵翔は気にする様子もない。
「・・・・・・おまえ、野球部に入ってなかったか?」
ダンボールを手渡しながらゆえが呟く。
「夏の大会に出たのは唯の数合わせ。本当に入ってるのはこっちだぞ?」
「数合わせが満塁ホームラン打つなよ」
「打たないより、打ったほうが良いだろうが。それよりお前なんで手芸部の手伝いしてるんだ?」
「・・・・・・成り行き、か。そういえば占い同好会って何の出し物するんだ?」
「占いに決まってんだろ。この衣装着て」
ダンボール箱から出した物は唯の黒い布に見えた。しかし良く見る所々に金糸銀糸で刺繍がしてあり、硝子玉が縫いこんである。
「・・・・・・占いなんて出来たのか」
「俺のじいさん本職の占い師だったって、前に話しただろ?」
そう言えば聞いた気がする、などとぼんやり考えていると友人は口の端を引き上げ、自慢げに笑った。
「そのじいさんの直伝で、結構当たるんだぞ。何なら占ってやろうか」
「あれ、ゆえまだいたの?」
カラカラと軽い音をたてて扉が開く。音につられてそちらを見れば先ほど分かれた少女の姿があった。
「なんか早くないか、あんた」
「途中で演劇部の人にあってね。渡してきた。それより占いしてるの?」
「いや、ゆえが俺の占い見た事が無いって言うから。やろうかと思ってた所」
「へえ、何占うの?」
「今、決めてた所。ゆえなににする?」
「別に・・・・・・何でも良いんだけど・・・・・・」
そもそも、占い何ていう物に興味を抱いた事さえなかった
「じゃあ試しに、この体文祭が上手くいくかどうか占ってみたらどう?ゆえ」
良いとも悪いとも考えないうちに、反射的に頷く。それを見て、翔が話し始めた。
「じゃあ、まず最初に断っとくと、俺の占いは決定的なことなんて言い当てられない。例えば、次のテストでどこが出る?何て聞かれても答えられない。俺のほうが知りたいよ」
そう言いながら、どこからか大きめの財布ぐらいの包みを出してきた。その和柄の古びた布包みから出したのは、何枚もの紙の束。
「ただ、大きな流れとか、これから近々起こりそうなことならわかる。抽象的だけどな。おみくじみたいな物だと思った方がいい。出た札を見てイメージするんだ、札からのメッセージを読み取るって言った方が良いかな。要するに勘みたいなもんだよ、そのへんは了解しててくれ・・・・・それから、この札で占う」
紙の束を束ねていた紐を解きつつそういった。少年の手のひらにある札は包まれていた布地に負けぬぐらい古びており、独特の風格さえ感じさせる。
「やり方は色々あるけど。まあ、一番簡単なやつで良いよな」
そう言いつつすっと手を動かし始める。カードゲームのたぐいをきるのに似ているが、もっと形式のある動き。タロットカードのシャッフルに近いかもしれない。
「そんな謙遜を良いながら本当に当たるのよ、翔の占い。あんたと再会した場所に行ったのもこれのおかげだし」
そういいながら月は差し出された札の山の中から、一枚の札を引いた。そのまま自分で見ずに翔に渡す。
「・・・・・・ちょっと、嫌な奴が出た」
翔の見せた札には唐草模様のような柄の中に『災』の文字が一つ。
「タロットで言うなら『The Tower』みたいな奴だな」
The Tower―――――――それは危険、災い、試練を表すカード。
「こんなのが出るなら原因探っといた方が良いな。ちょっと詳しくやるぞ」
そして、また器用に札をきり今度は何枚かの札を下向きにして置く。
「月、お前の方がこういう時の勘がいい。この中からが気になるの三枚選んでくれ」
「ん、わかった」
そう言って月が真剣に数十枚の札から選び出す。それも自分では見ずに翔に渡した。表を返し現れたのは『妬』『憧』『嫉』の三つ。
「たぶん、誰かがこの部活を妬んで妨害しようとしてる」
顔をしかめ、翔が舌打ちをもらす。
「今回は、別にどの部活って限定してやった訳では無いから、何とも言えないが・・・・・俺達が関係している部って言ったらここ(占い部)か手芸部だろうな。『嫉』『妬』はそのままの意味でもわかるとおり、“嫉妬”って意味だろう。『憧』はこの中で一番良い感じの札だけど・・・・・・この二つと一緒に出るとなると、憧れから転じて嫉妬に変わったって見るべきだろうな」
「もしかしなくても、あの襲撃事件の事も関係している?」
「今の段階では何とも言えないけれど、可能性はあるかも。占いの内容が気に入らない、って言う奴なら手芸部関係のお前達まで被害が行くことは無いだろし」
「・・・・・・そんな事言ってくる奴もいるのか?」
「居るんだよ、たまに。こっちの言う事を自分の良いように解釈して行動したくせに、失敗すると恨んでくる奴が。最初に断っとくのにな『どう行動するのかはあなたしだいだ』って」
「予防とかしてないの?占いの内容が、個人のプライバシーに関わる事だったら苦情も増すんじゃない?」
そこまで個人的な事を占いに頼って解決するような奴はいないだろうとゆえは思うが、何と無く、翔が真剣になっているものを貶すような言葉の気がして、口には出さなかった。
「んー、一応だな。こっち(占い師)はさっき届いた衣装着て顔隠して声をなるべく変えるようにしてるし、客にはコレ被ってもらって、コレで声変えてもらうけど」
翔の言うコレは、良くテレビ番組に出てくるような、ゴム製の頭から被る仮面―――――――馬顔とかスクリュームの死神などの――――――とパーティー用品売り場に必ずあるスプレイ式のヘリウムガスだった。
「この二つさえあればかなり誰かはわかり難くなる。まあ、希望者だけだけどな」
「・・・・・・」
ゆえは真剣に、そこまでやるか普通?体文祭当日、この部屋は妙な奴だらけになるのかと思い。月は確実に誰かの趣味が反映されているんだろう、と思ったが、口に出さずに沈黙に止めた。
「それより、さっさと占いの続き、やるぞ」
「・・・・・・そうよね、何の為に来たか忘れるとこだったわ」
「初めは、衣装届に来ただけだったんだがな」
「中途半端に『原因』と『予想』だけで辞めても気分悪いだろーが。じゃあ今度は『救い』と見てみるか」
そう言って又札を、きった。
「今度は、ゆえが引いてみてくれ」
「俺が?・・・・・・悪いけど、あんまりこういうの信じてないんだ」
信じてない奴が占いにかかわったら、結果が悪くなるんじゃないだろうかとゆえは思いそう言ったが、翔は首を振って否定した。
「別に良いぞ。ただ単に、関係している奴が出来るだけ関ったほうが情報が増えるってだけだし。信じてようが、逆だろうが結果が変わるわけじゃないしな。むしろ頭から信じられたほうが困る」
「私だって初めから信用してた訳じゃないよ。何度もこの占いに助けられてやっと信じたんだし。いまだに、翔の以外は信じてないしね」
「・・・・・・わかった。どうすれば良い」
「この中から好きなだけ札を選んで見せてくれ。別に札の数で希望の大きさが決まる訳じゃないから、数はお前が決めてくれ」
そう言われても、何をどうすれば良いのか良くわからない。仕方なしに、札をざっと見つめてみる。どこれもまったく同じような柄だ、当たり前だが。
(色が・・・・・・?)
よくよく見ていると微妙に色が異なるようだ。年月の所為か全体的には孔雀緑だが、青みが強い物がいくつかある。特に青みが強そうなのが四枚。すべて選んで、翔に渡した。
「『探』
『集』『偵』『助』か」
出た札を睨めながら言う。何のことだかさっぱりわからない、と言った顔で。
「探ると偵うは同じような意味だな。集まりは、集団の事か。つまり集団が助けるって事か?いや、違うか。それより集団を助けると自分にも幸福が舞い込むのか・・・・・・二人ともなんか心当たりないか」
「そんな事言われても・・・・・・部活なんて今まで興味無かったしな」
「私も。あ、ちょっと待って。ねえ、札をこうやって並べると何て言う言葉になる?」
『探』ると『偵』をの二つの札と隣に並べた。
「あ、“探偵”か?」
「そう、それが関係してるんじゃない?例えば、探偵ファンの――――――」
月がそこまで言った時、突然戸がスパーンッ、と凄まじい迫力を有した扉の開閉音を鳴り響かせながら開けられた。
「失礼します!!探偵団の者ですが、今回被害にあった、淡路月さんと若狭月君がここに居ると聞いたのですが!!」
扉の音に似つかわしいやけに元気のいい、上級生がズカズカと入ってる。
「はい?」
「知らないのなら良いですけどっ!自分で探しますからっ」
「あの、淡路月は私の事ですが」
行き成り入ってきた謎の上級生に月がおずおずと言う。翔とゆえは雰囲気に圧倒されて何も言えない。
「そう!そうなの?!あなたが黒服の怪人を倒したって言う淡路月さん!!もっと大柄で、いかにも強そうって感じの子かと思ったけど、あなた、華奢だし、美人ねー、髪長いし」
機関銃のような言葉の発し方とはこういう事なのか?とゆえは頭の端で思う。しかもまだ止まらない。
「剣道出来るって本当!?それで相手を応戦したって聞いたけど。すごいわぁ、私なんて運動音痴だから、尊敬しちゃう。で、その時髪斬られちゃたんだって?可哀想・・・・・・凄く綺麗な髪なのに、絶対許せないわね、その犯人!!」
「ちょっと、まっ・・・・・・」
「その犯人なんだけど、睦にも攻撃して来たんですってね!睦って今は辞めたけど空手やってって、地区大会なんかで優勝もしてるのに。調べ甘いと言うか、なんというか・・・・・・」
「ちょっと待ってください!!」
月の一括。そのかなり真剣な大声で、機関銃の(・)声はやっと、止まった。
「ゆっくり、一つ一つ、順を追って、話してください。お願いですから。それと、まず私にも質問させてください」
大きなため息とも、一呼吸ともいい難い間をおき、月はゆっくりかみ締めるように問う
「あなた、誰ですか?」
「ごめんね。興奮しちゃって。ついつい、私がこんなミステリーみたいな怪事件に出くわしたかと思うと、興奮しちゃって・・・・・・」
海山遊衣と名乗ったその三年生はその後興奮したことを詫びながらそう言った。
「私こういう者です。」
いくらか、ふざけたように差し出した名刺――――――ゲームセンターか、パソコンで作ったかと思われるような物――――――には『遠江中学校襲撃事件私立探偵部長』の文字が躍る。
「探偵部長として、二人には事情を覗いたいの、良いかしら?」
良いかしらと言われても・・・・・・あからさまに妖しい団体名を出されて、固まっているゆえをよそに、月が口を開く。
「少し、相談させて貰っても良いですか?」
「どうぞ、どうぞ」
気軽に答えた先輩に背を向ける形に姿勢をとり、月が小声で言いだした。
「ねえ、翔どう思う?」
「どう思う・・・・・・ってもなぁ。占い師として言うのなら、その人が希望の存在の可能性が高い事になるから、話ぐらいしても良いんじゃないかって気はするけどな。ゆえはどう思う?」
「別に・・・・・・どっちでも良いと思うぐらいだけど・・・・・・」
「少しぐらいなら、協力してみる?」
「ああ」
「じゃあ、私、先輩にそう言ってくるから」
席を立ち、返事を伝えに行く月を見ながら、ゆえはかなり真剣に厄介ごとに足を突っ込んでいる予感がした。
(流されているんだろうか、周りに・・・・・・)
「今回狙われたのが、三十ある部活の内の七つの部。
犯人は、共通する点としては、黒いマント状の布をかぶり、鋏か長い棒のような物を持って犯行に及んだ様子、そして犯行現場には共通してこの紙が残されていました。」
この紙、事あの新聞紙を張り集めた古典的な脅迫文を片手に力説している、海山先輩。
「被害状況は、科学部四名、眼鏡破損と打撲、捻挫。演劇部二名、擦り傷。文芸部二名、無傷と軽い捻挫。占い同好会二名、二人とも無傷。手芸部二名、ほぼ無傷。美術部二名、髪を少々切られる。書道部二名、無傷と右手にあざが出来た程度。そんなかんじね!」
二階の一番角、角部屋の文芸部部室である。海山先輩は実のここの部長だったのだ。
「この紙は、新聞を集めて張ったものを、さらにA四サイズにコピーし、四つに切ったらしいわ、それにしては、少々縦の長さが足りないけど・・・・・・原因は不明。こんなところかしらね。何か意見は?」
『遠江中等部襲撃事件捜査本部』と銘打たれた、大弾幕のような紙を背にしていた海山先輩は話し終えた。因みに、その紙は書道部にわざわざ依頼して作ったらしい。
この部屋には現在、事情徴収――――――使い方はあっているのか間違っているのかは不明――――――と称して連れて来られた生徒が数名いる。真剣に聞いている者、無関心を隠そうともしない者、隠している者。
隠している者――――――事、ゆえは別に意見も何もなかったが、目が合ってしまい、仕方なく口を開く。
「縦の長さが足りないのって何でわかったんですか?」
良くぞ聞いてくれたといわんばかりの顔で答える先輩。
「この紙、一枚一枚をジグソーパズルみたいに集めてね!四枚ずつの組にしていくと、丁度三センチぐらい長さが足りないの。良かったらみて見る?」
そう言いながら指紋が着かないようにという配慮からかビニールをかけられた紙を渡された。四つに切り離されたのを、切り口と切り口を合わせて集めてある。なるほど根気のいる作業だ。礼を言って返そうとした時だった。
「あ・・・・・・?」
「どうしたの?」
人も雰囲気を読むのに敏い月が、隣からのぞきこんできた。
「いや、この紙の上になんか赤いものがついてるんだけど」
縁の部分にすっと細い朱が滲んでいる。
「指でも切ったのか・・・・・・?」
「違うと思うわ。血だったら一日経ったらもっと黒ずんでいるはずだし、それにしては――――――これは色が鮮やかすぎるわね」
妙に生々しい事を言う月の言葉に顔をしかめるゆえ。紙を縦にして上から見ると、朱色が濃くなった。
「どうやらこれ、紙を縦にして着けたみたいだな」
「どうしたの?月さん」
「別に、どうって事ないんですが、紙に赤い線が入っているのをゆえが見つけて」
「線?」
「はい、そうです。紙を縦にしてつけたみたいな、って。ねえ?そういえば、こんな紙よく見かけたことなかったっけ・・・・・・どこかで」
記憶を探り出すように月が呟いくのを横目で見、ゆえはぽつりと返した。
「紙なんてどこにでもあるだろ、学校なら」
「それだわ!!そうよ、そうよ何で気づかなかったんだろう!!これで容疑者が大分絞れるはずだわ!!」
海山先輩が再び突然叫びだした。
「はい?」
「学校関係者だって事は判明した。それなら、印刷リストを何とかして手に入れれば・・・・・・!!」
大きな独り言を呟きながら、今度は皆に聞こえるような大声で言った。
「ごめんなさい、みなさん。急用を思い立ったので!各自解散してくださいっ!!」
そう叫ぶと、部室を飛び出していく。残された月とゆえを含む生徒たちは呆気に取られた様子にもまったくかまわずけたたましい足音が徐々に小さくなっていく。
「なん、だったんだ?」
「さあ、何て言ってたっけ、学校関係者だとかどうとか――――――あ!そうか!だから下の部分が切ってあったのも説明できるし」
「何が?」
「あの紙よ。下の部分が切り取ってあって、上に朱色がついてたでしょ?」
「そうだけど・・・・・・それが?」
「その朱色が、朱肉の色だとしたら?」
「あ?・・・・・・ああ、そうか」
納得した二人は深く頷きあった。
「そう。この学校の生徒が使えるコピー紙って使いすぎ防止と学校行事以外に使うのを止めさせる為に、朱肉で学校の印鑑が押してあるじゃない。紙を束ねた上の縁にあたる部分と、下の所には一枚一枚。たぶん、襲撃者は身元がばれないように、目立つ下の部分は切り取ったものの上は切り取り忘れたようね。だから、コピー機の仕様名簿を見れば一目瞭然、すぐに容疑者が絞れるってわけ」
「・・・・・・でもそんな事に使ったのなら、名簿に名前を書かない場合だってあるんじゃないか?」
「でも、あそこには入るのには専用の鍵がいる。だから、何か適当な理由をでっち上げたとしても記録は残っているわ」
「そうか、これで犯人見つかるといいけど」
「ええ、それに当たったわね、翔の占い」
それにはゆえも素直に同意した。
***
花火先輩登場の回。やたらテンション高い人です。登場すると主人公どころか月のキャラまで食ってしまう。
あと翔の意外な趣味発覚。占いは和製タロットのイメージです。