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夢物語  作者: 矢玉
第七章 罠 
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第七章 罠 二

     二


「『まあ、月の性格から言っていくら翔を避けるためと言っても、学校休むのは無いでしょう』とか言ったのは誰よ!!」

「お前だよ」

「そうよ、私よ。何で月は学校に来ないのよ、ねぇ!!」

「俺にあたるな」

 襟首をつかまれた手を迷惑そうにしつつ、翔は問い掛けた。月が夢想界でドアの外へと消え、三人はそのまま床についた。その翌朝の現実世界に、月の姿は無かったのである。

「電話はしてみたのか?」

「したわよ。しましたとも。だけど携帯は留守電だし、家の電話も繋がんなかったわ」

「だから朝あんなに煩かったんだな・・・・・・」

 ゆえがため息をついた途端、柚はものすごい眼つきを向けてきた。

「で、ゆえ。何か変わりは無かった?」

「・・・・・・別に・・・・・・そういや、出ていく音を聞いた覚えはない気がするけど・・・・・・」

 自転車通学者のゆえと徒歩通学の月では、同じアパートと言っても家を出る時刻は違うのだ。大抵いつも月の方が早く家を出るため、ゆえは部屋の前を通る足音を聞く事になる。たまに声をかけられる事もある。

「じゃあ、何か。ゆえが起きるよりも早く家を出た、もしくは現在も家でふて寝中?」

「それ本人に言ったら間違いなく一ヶ月は口利いて貰えないわよ」

 襟首を掴んでいた手をやっと外し、柚は困惑気味に唸った。金色の弓眉が、ひそめられ眉間には皺がある。

「でも変ね。明日華さんに授業料払って貰っているからには、絶対休むはず無いと思うんだけど」

「インフルエンザになっても出てきそうだな」

 翔の言葉に出停じゃないのと返答する柚にを眺め、ゆえはぽつりと呟いた。

「もしかして、まだ帰って来てないんじゃないか?」

「どういう意味?」

「だから、まだ、その夢想界に行ったままじゃないかって事だよ」

 声を低めてゆえは言った。

 現在三人がいるのは、最上階の踊り場だった。クラスが違うため他に集まれる場所が無かったため選ばれたそこは、人気が無いのは確認している。だが、こんな単語をいう時は自然に声をひそめてしまう。

「ありえないわ。夢想界で貫徹なんてしたら現実で眠りっぱなしになるのなんてわかりきっているし。平日にそんな真似するなんてありえないわよ」

 柚は笑って否定したが、その言葉は虚ろに響いた。




 薄っすらと開けた眼は滲んだ光景を写した。ぼんやりと瞬きを繰り返しているとやっと像を結び、こぢんまりとした部屋にいる事がわかった。

「嘘でしょ・・・・・・」

 見覚えの無い天井を見つめて、月はうめく。

 この部屋に入った記憶が、それどころか酒場から出た覚えも無い。こんな醜態を犯した事の無い少女はひどく焦ると共にひとつの疑問が浮かぶ。

(現実の記憶が無い?)

 月の時間感覚から言って酒場にいた時から十数時間程経過している。酒場に着いた時点ですでに夜半だったので、もう翌朝もしくは昼の時間帯だった。

 それなのに夢想界で睡眠中にあたる“現実”の記憶が無い。

 通常では考えられない事だった。自分達四人はほぼ例外なく眠りにつく事で、夢想界へと渡っていく。理屈はよくわからないが経験常わかっていることもある。

 数少ない例外は、眠る時間がひどく短かったり、眠りが浅かったりした場合。もしくは――――――

(気絶などの不自然な眠りの時。って事は)

 思わず口元に手を当てようとすれば、耳障りな金属音が響き渡った。

「薬でも盛られたのかしら」

 音源である手元を縛る拘束具を思わずまじまじと見つめてしまった。

 窓のない部屋が不意に光に充ちる。

 視界に斜めから差し込んだ日光が部屋を満たし、月は薄墨色の眼を細め光源を探した。

「もう、目が覚めたのか」

 驚いた風情で発せられた声は、酒場の店主のものだった。

「私がどうして捕らえられているか訊いても?」

 冷静に言葉を操る少女に不審そうな顔をしたものの、黄色い髪の店主は口を開いた。

「売るためだ。貴方には悪いが俺の妹の薬を買うために売られてくれ」

 薄墨色の瞳を見開き、頭痛がする時のようにこめかみに手を当てた後、月は乾いた笑い声を立てた。

「・・・・・・ここで、『はいそうですかわかりました』って言う人がいたらお目にかかりたいですね」

「それもそうだな」

 嫌味にすらあくまで生真面目に応じる青年に嫌気がさしながら、月は続きを促す。

「俺には妹が一人いる。その妹が今病気なんだ。慢性病とかで完治はしないと医者に言われた。だが薬を飲めば症状を抑える事が出来るといわれたんだが、その薬がひどく高いんだ。だから店に来る独り者の旅人を時々売り飛ばして金を稼いでいる」

 だから大人しく売られてくれと、と頭を下げる様子を本気で嫌そうに見ていた月は暫し黙り込んで思案した。

「二、三訊いても?」

 じゃらりと鎖が音を立てるのにもかまわず、月は右手を上げた。

「この町には、医者は他にいないんですか?医者じゃなくても、薬草師とか、禁厭師なんかも」

「生憎だが、一軒しかない。俺が生まれた頃には薬師のばあさんがいたが、妹が生まれてすぐに死んだな」

「妹さんの病気ってどんな病気ですか?症状とか、生まれつきの物かどうかとか」

「・・・・・・どうしてそんな事聞く」

「私、これでも多少薬には詳しいんです」

 誰かさんほどでは無いけどと心の中だけで呟き、改めて店主の青年の顔を見つめる。端正な造作なのに、表情が乏しく不愛想な印象を与える。

 ふいに過去の仲間の様子を思い起こさせた。

「だからもしかしたら治療できるかもしれないと思って。そうしたら売られなくても済むでしょ」

 いたずらっぽい笑みで答えるが、青年の表情は変わらなかった。

「悪いが、おそらく無理だ。どんな薬を飲ませても、あの医者の所のしか利かなかった」

「せめて病状くらいは教えて下さいよ。わかる事もあるかもしれないし」

「・・・・・・全身に赤いあざが出来て、ひどくかゆくなるんだ。時々熱も出て、薬を飲まないと丸一日ぐらい下がらない。丁度一年ぐらい前に発病した。今じゃ町中にそんなやつらが溢れている」

 眉を寄せて考え込んだ月を見下ろし、青年は感情の篭らない目で告げる。

「夕方に人買いに売り渡す。それまでこの部屋にいてくれ。何か欲しい物は?」

「着替え、お願いできます?」

 昨日ずぶ濡れになったまま眠ったので、服にはまだ湿り気が残っている。シャツは粗方乾いているが、厚い布地のズボンと短甲は不愉快な水気を含んでいた。

「あとで妹に運ばせる」

 扉が閉まるのを見とどけてから、月は背を壁にもたれかかった。頭上にある明り取りの窓から見える空を見つめて、ぽつりと呟く。

「大変な事になってきたわね」

 声の調子は少しも大変そうではなかった。


※※※


頂いた感想が嬉しくて更新!

今回視点がころころ変わるため、ひとつの章の文章が少なくなっています。

読み応えが無いかも…

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