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夢物語  作者: 矢玉
第三章 祭 
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第三章 祭 十二

   十二


 一人の女性が遠江中学の校門を見上げていた。

 ほっそりとした体格に、グレーのスーツをきっちり着こなしている。黒のサングラスをしているため年の頃はよくわからないが、燃え立つような赤褐色の髪が印象的だ。

 どこからどう見ても、中学校に似合わないキャリアウーマン――――――はサングラスを外しながら、誰に言うともなしに呟く。

「懐かしいわね」

 そして、カツカツと小気味の良いヒールの足音を響かせて、華やかな音楽の流れる門の奥に進んでいった。




「ねえ、そろそろお腹すかない?」

 遊戯同好会主宰のゲーム大会で月はダーツ、翔は将棋、柚はチェス、ゆえはポーカーで勝ち、それぞれ景品を貰い受け――――――又は巻き上げて、部員の居心地の悪い視線から逃げるように足早に去った後、柚は旧校舎の時計を指さした。

「もう十一時半だよ、私も翔も午後からは部室にいなきゃいけないし、そろそろお昼にしようよ」

「そうね。たしか校舎裏の自転車置き場で模擬店あったわよね。私おにぎり持ってきたからその模擬店でおかずだけ買う?」

「さすが、月。用意が良いな」

「多分こういう事になるだろうと思ってたのよ。あんた達、お弁当もって来てないでしょ」

「・・・・・・まあ、買う気だったし」

「ゆえ、あんたね。一人暮らししてるんだったら、ちょっとでも節約しようと考えなさいよ」

「・・・・・・」

「まあまあ、それより早く行こうよ。早く行かなきゃ混んでくるし、無くなっちゃうわよ?」

 珍しく柚がとりなすように言い、一行は模擬店街を目指して歩き出す。




 お好み焼きや、たこ焼き、フランクフルト、みたらし団子、烏賊焼きなどを大量に買い込み、座る場所を探した。

 地面に座り込んでいる生徒も多かったので少年達はそれに習おうとしたが、月と柚の衣装が汚れたらどうするの、という意見でビールケースで簡単に作られた椅子と机を陣取った。味付けは素人がやるので大雑把だがこういう時はそれも気にならない。

 それぞれ思い思いにぱくついた後、独り事のようにゆえが呟いた。

「何でこんなに一生懸命になれるんだろうな・・・・・・」

「ん?何が」

「いや・・・・・・だから、体文祭。こんなに色々準備したって、たった三日で終わりだろう?だったらその日だけ楽しめるように、もっと簡単で良いはずなのに、全員が異様に凝って色々作るだろ。それが何でか理解できなくて」

 今回の黒服騒ぎといい、どうしてそんなに力が入れられる、とゆえは続けた。

「お前な・・・・・・そう言う事は思っても言わないんだよ」

「なぜ?」

「虚しくなるだろうが」

 真顔で翔が言うのを納得できない風情でゆえは聞いていた。それを見て、柚が明るく言い放つ。

「変なところで真面目だね、ゆえも。そんなこと考えたって無駄よ。ようはどれだけ本人が楽しむかにかかってるんじゃない?面倒だとおもえば手はいくらでも抜ける。けどそれじゃあ達成観得られない。だから私は一生懸命やった方が楽しいと思うからがんばる。それだけよ」

「そんなもんなのか・・・・・・?」

「そうよ」

「そうよね」

 三人分の視線に月は暖かく笑い返す。

「ゆえの言う事も、柚の言う事も、翔の言う事も。みんな真実だと思う。真面目に考えればこんな三日だけの馬鹿騒ぎに時間をかけるのはおかしい、翔の言うように気づけば虚しくなるしね。でもさ、これから何十年も生きていくうちに、こんな無駄で馬鹿馬鹿しい時間が過ごせる時期も、きっともう無いんだよ。気持ち的に出来ないと思う。

 時間をかけて気づいた砂の楼閣を一気に崩しても笑い会えるような気持ちの時期ってさ。一生の宝物になると思うよ、心のね。だから体文祭ってずっと無くならないんじゃない?」

 すとんと何かが心の中に納まったようだ。

 文化祭という特別な空気の中で、思っても見なかった本音が出る事がある。普段は意識しないような、微妙なしこり。それが綺麗に片づいた気がした。

 四人の顔に微笑が広がる。冷涼とした雰囲気がなんとも心地良かった

「月もね、そんなかっこいい事いう時にみたらし団子持ってっんだから。さまにならないわよ」

「烏賊焼きもってる奴にだけは言われたくないわね」

「どっちもどっち」

「何か言った?ゆえ」

 少女二人の声が重なった。翔が腹を抱えて笑っているのを柚が睨みつける。

「で、話し変わるけど、午後からどうするの?翔は部室で開業でしょ」

「ああ、三時までずっとな。なんせ目玉商品だから」

「・・・・・・自分で言うか」

「あ、まだうたがってんな。よし、何か占うから言ってみろよ」

 懐から札の束を取り出し並べ出す、今日は鮮やかな緋色を宿していた。

「月達は、どこ行くの」

「んー、此処でできるだけ時間潰したいけど。でももう少ししたら人が集まってくるわよね」

「たぶんね。午後で交代になった子とかがお昼食べに来るんじゃない?」

「じゃあ、校舎の一年の出し物見て廻るわ」

 他だいたい廻ったし、と言う月にわからぬよう柚はガッツポーズをした。

「じゃあ、三階付近ね」

「たぶんそうなると――――――あんた達なにやってんの」

 いいから何か占うから言ってみろとやる気に満ちた顔の少年と、別に興味ないと迷惑そうな顔をしている少年を月は呆れ気味に見比べた。

「だからいいって」

「遠慮すんな。練習だからさ」

「人を練習台に使うな!」

「いいから適当に言えばいいんだよ、適当で」

「んな事言われても・・・・・・じゃあ、前と一緒で」

「前って黒服関係か?わかった」

 札を円状に並べていく、放射線状に――――――大輪の花弁のように。一度並べたものを裏返し、繰り返し位置を変える。

「・・・・・・ん?」

 三人が見ているのを退屈に思い始めた頃、突然翔が首をかしげた。

「何で此処にこんな札が」

「何が出たの?」

「こちら側の救いになるきっかけの場所に、こんなのが出た」

 持っていた緋色の札が蝶のように裏返された。

「・・・・・・“戦”って読めるけど」

 見間違いかと暗に尋ねる月に、翔は真顔で返した。

「心当たり、あるか?」

 “あってたまるか”と言う意味が込められた蹴りが、笑顔と共に入れられる。

「だよな。なんだってこんな物騒なのが“救い”に出るんだか」

 ぶつぶつと呟く翔。四人中で誰とも目線を合わせないようとしている人物がいる事に、誰も気づかなかった。




 納得はいかないといった顔の翔と妙によそよそしい柚と別れ二人は階段を登る。

「今思ったんだけどさ」

「ん?何が」

 器用に階段を登っていた振袖の少女が振り返る。着崩れを全くせず、自分と同じ速さで登って行くのに内心で感心しながら続けた。

「このゲームって主催者側にとってかなり楽しめる企画だよな」

「そう言われてみればそうね。他の部なんか自分達の出し物が忙しくて、他の部なんか見てまわれない場合が多いって言うし」

 軽く腕をくみ、細い眉をしかめる。

「このゲームだったら、ルール状常に動き回らないといけないから自由に見学できるし。でも、まさか故意じゃないわよね」

「そこが俺も聞きたかったんだけど」

 踊り場で立ち止り二人は思う。否定できないかもしれない、と。

「でも、この原案出したの私だし、少なくとも初めから狙ってたわけじゃないとは思うよ」

「・・・・・・あんたが企んでなきゃな」

「あら、どういう意味?」

 すっと薄墨色の瞳を細め、こちらに問いかける月。

 しまったと思ったときにはもう遅かった。どうやら怒らせてしまったらしい。返事を待つ月に対し、何か言わなければならないと思うが、頭の中は虚しく空回りする。

 冷や汗が背中を伝う。

「まあいいわ」

 溜め息混じりに呟く。ゆえの硬直した姿を見て、月があっさりと呪縛のような視線を外したのだ。

「ところで、ゆえって何回捕まった?」

 突然の話題転換だったが、この際気にならなかった。

「・・・・・・四回。六人か、たぶん」

「そんなに?」

 不思議そうに問う少女に、いぶかしむゆえ。

「あんただってそのくらいだろ」

「違うわよ。私まだ誰にも捕まってないもの」

 思い返してみせれば、ゲーム参加者が近付いてきた時、この少女はその場にいなかった気がする。類い稀なる偶然か、もしくは強運か。はたまた本人の能力か。

「そういえば柚も捕まって言ってたわね」

「となると、一回も捕まって無いの、あんただけかもな」

「このまま最後まで逃げ切って見せようか?」

 不敵な笑みを浮べた和風美人が答えた時だった。

「みーつーけーたっ!!」

 同時に肩から背にかけて軽い衝撃が走る。

 視線を後ろに向けると、満面の笑みを浮かべた赤毛の女性が抱きついていた。不審な表情を浮かべていた月の顔がみるみる驚愕に変化わる。

「明日華さん!?な、なんで?」

 ゆえは驚いてその快活そうな女性を見つめた。

 歳はおそらく三十代後半、身長は女性としては高い部類に入るだろう。赤褐色の髪は短く刈り上げてあり快活さが増して見えた。しかし日焼けしていてもまだ白さの残る肌や、顔の造形などは月との血縁を感じさせる、ただし目は黒い。

 名前を呼ばれた女性――――――明日華は心外そうに姪にあたる少女を睨む。

「あら、私がいちゃいけないの?せーっかく姪っ子の晴れ姿見ようと、遥々ベトナムから駆けつけたのに」

「そう言う事じゃなくて、なんで今日が体文祭の日だって知ってるのよ!?」

「そんな事も聞かなきゃわからない?教えてもらったのよ」

「明日華さん・・・・・・柚ね。ちょっと柚、どういう事よ」

 背後から現われた部室に戻ったはずの笑顔の友人を睨みつける。

「悪いわね月。初めから約束してあったの、イベント時や月が病気した時にか必ず明日華さんに連絡するようにって。海外行く前にね」

「うちの薄情な姪っ子はたぶん教えてくれないだろうと思ったからね。ああ、保険掛けておいてよかった」

「言えてる。変なとこで律儀と言うか、気を使うし」

「柚、明日華さん!!」

「本当の事でしょうが。じゃあ、早速行こうか。柚、武道場の位置変わってない?」

「あ、待って明日華さん。まだ月には話してないの」

「え、何で?」

「驚かせようと思って」

 にっこり笑った金髪少女と納得したように頷く赤毛の女性をよそに困惑顔の二人。

「どういう事、何の話よ」

「えーと、あのね月。今から試合をやって欲しいのよ、明日華さんと。もちろん剣道で」

「は・・・・・・?」

 二人分の疑問の声が響くなか、少女は嬉々として続けた。

「だから、剣道の試合をやって欲しいの。武道場で。もう予約してあるから心配しないで」

「ちょっと待って・・・・・・」

 月は額に手を当てて薄く息を吐いた。

「剣道、ってなんでまたこんな時に?」

「うーん。色々あって込み入った話しだから話すと長くなるから後じゃダメ?」

「あんたね。頼み事ならあらかじめ言って、しかも理由を述べるのが礼儀でしょうが。第一、私何の用意もしてないのよ」

「その辺は大丈夫、竹刀も稽古着と袴も二人分持ってきたから」

「明日華さん・・・・・・」

「お願い月!ちゃんと正当な理由もあるし、人助けだと思って」

 手を合わせている友人を一瞥し、月は溜め息をついた。

「わかったわよ。だけどこの前の貸はチャラね」

「この前?ああ、チェスで月がボロ負けしたやつ?うん、良いよ」

「じゃあ、さっさと着替えるわよ。この格好」

 凛々しい振袖姿の少女は、髪をかき上げながら不機嫌そうに言い放った


※※※


やっと出せました明日華さん!!女傑!!男前!!

さすが月の育ての親で、叔母。というお人です。

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