第三章 祭 十一
十一
「柚なんだって?」
「何か打ち合せらしいよ。先行って席とっておいってって」
「はいはい」
会話が途切れた時ちょうど校内放送のスピーカーから陽気な木琴の音が聞え、三人は自然と聞く態勢になった。
『さぁて、始りました!!第百十七回遠江第二中学校体育文化祭。今年からは後夜祭も催される事となり更に楽しさGrade Up間違い無しですねぇ。まず主要な出し物の発表でーす。
体育館の日程は十時から劇部&合唱部のミュージカル『海と陸のはざま』十一時からはブラス&バトンの演目『千夜一夜物語』一時からは日本舞踊同好会&管楽器同好会による演目『調』となっておりますぅ』
陽気なというよりかは有頂天というべき声がきゃんきゃんと響く。
『校庭では野球部とサッカー部と陸部と迷路部が使用しています。何をやっているかは自分で見て確かめてください!!』
「それじゃ放送の意味ないだろ」
ゆえの冷静なツッコミが聞こえるはずもなく、頭の螺子が緩んだような校内放送は更に続く。
『校内にはクラスが各教室で展示やいろいろなゲームやイベントが開催されるので見逃しませんよう!自転車置き場では屋台が多数出店してますんでお昼時にはご利用ください。部活では部室棟の各部室や道端でゲリラ的に活動していると思いますから見てくださいませー、え?はいはいわかってますって。失礼しました。もし放送して欲しい内容がありましたら、放送室前のポストに投函してください、部やクラスの宣伝、呼び出し、告白などなど中傷以外なら何でも受け付けますんで!・・・・・・は?良いじゃないですか、部長。個人的に使ったって、自由日なんだし。それに愛の告白っなんていかにも青春な感じがして!・・・・・・はいはいわかりましたわかりましたよ。もういらない事は話しませんよ。たびたび失礼致しました。
それでは、みなさん。午後三時の終幕まで力尽きずにがんばりましょう!!!』
最後にブチッっと言うノイズ音を吐き出し、入れ替わるように底抜けに明るい音楽を流しだした。
月が片耳を抑えていた手を外しながら口をひらいた。
「終った、わね」
「そーだな」
ゆえは改めてこの学校のテンションについて行けるかどうか心配になってきた。
パイプ椅子の並べられた体育館には既に多くの生徒がいた。うるさいほどのざわめきが響きわたる体育館は暗幕が張られ窓も閉められており、人の熱気がこもりひどく蒸し暑く和服姿の月とゆえはうんざりと溜め息をつく。三人は出来るだけ窓に近い空いている椅子に腰掛け柚を待った。
「月!良かった見つかって」
「まだ三分くらいはあるわよ。何の話だったの?」
息を整えているドレス姿の友人に、月が多めに貰っておいた冊子を渡してやる。
「受付係の時間変更だって。一年の子が私と変わって欲しいって言ってきたから。だから十二時からになったわ」
そんな柚の言葉に月は若干の違和感を覚えた。話の筋も通っているしどこにも不自然さは見受けられない――――――だが、どこかが妙な気がした。
考え込む月の変わり翔が口を開く。
「じゃあ、午前で見たいの全部回るのか?二時からはクラス展示に行かなきゃいけないだろ」
「うん、出来たらそうしたい」
「じゃあ、これみたら次は校庭のストライクアウトに行こうって話してたんだ。その後はどうする?」
「二年五組の映画が見たいな、あのポスターの」
「じゃあそれだな」
劇は中々の出来だった。へたな運動部より厳しいという定評の部だけあって演技もうまく、演出もこっている。特に乱闘シーンでは宙返りなど派手な演技が目を引き観客は歓声を上げていた。
合唱部の合唱も透き通るような女声のハーモニーで間奏を歌挙げ、鳥肌が立つような半音階下降を披露していた。先日会った鈴鹿先輩の声は特に響きが良く高らかにソロパートを歌い上げる。
閉幕を知らせる音楽が響く中、伸びをしてから立ち上がる。
「おもしろかったけど、男女逆転劇って言うからにはあの敵役ってちょっと卑怯じゃなかった?」
「確かにな・・・・・・」
「まあ男勝りな女海賊を男がやってるんじゃ、多少無理がでるのはしかたないとは思うけど」
髪こそ長髪の鬘をかぶり薄く化粧もしていたが、話言葉も仕草も素のままだ。
「でも、主人公の方はちゃんと少年に見えたじゃない!」
柚はこの劇がとことん気に入ったらしく、嬉々としてパンフを買っていた。
「確か部長の人がやってたわよね、かっこよかったな」
「でもあれって、噂じゃ男子部員が少ない所為の苦肉の策らいいわよ」
「そうなのか?」
「そうみたい。年々男子部員が少なくなってて、昨年までは台本の方を工夫していたらしいけど今年は思い切って発想の転換したって」
「何度そんなに詳しいのよ、柚」
「だって此処に書いてあるから」
「翔とゆえは?どうだった今の劇」
「別に・・・・・・」
「まあ、ぼちぼち」
「反応薄いわね、あんた達」
呆れたように月が言うのを見て翔は苦笑した。
「しかたないだろ、かなり女子向けの話じゃなかったか、あれ」
「そう?友情ものだから男子も面白がってみると思ったけど。アクションシーン多かったし」
「だとしても俺の趣味じゃないな。どっちかって言うとSFか時代劇系の話のほうが好きだ」
「けど――――――」
突然、月は話も忘れてぽかんと前方を見つめた。つられて同じ方を見たゆえも同様に。
体育館から渡り廊下を横切り、校庭へと抜ける中庭の道はまるで縁日のような有様だったのだ。
目抜き通りとかした中庭には、少なく見積もっても三十ほどの部活が店などを開いている。屋台のような立派な店舗のような物を持つ部とただ地面に商品を並べただけという大差はかなりあるが、そのありさまはゲリラ的に活動――――――と言った放送の内容も頷けるようだ。
文芸部が作品集を売る声が響き、超上現象同好会が路上に見るからに怪しげな品物を並べて売りつけている。手品部が空き缶の前でトランプを操る横では、英語部が和訳した雑誌をせっせと並べている。
熱に浮かされたような独特の空気が一人一人を伝染していき、文字通りのお祭り騒ぎだ。歩く生徒も奇抜な格好の者が多く、お祭り騒ぎに拍車を駆けている 。
転校生である二人は感嘆と呆れをないまぜにしたような溜息をもらした。
「前の学校の文化祭は、此処まで派手じゃなかったわよ・・・・・・」
「俺の前の学校なんて、文化祭すらなかったぞ・・・・・・」
免疫がある二年目の翔と柚は、その様子に苦笑した。
「まあ、私達も最初の年には驚いたわよね。絹姉から話には聞いてたけどいつも行くのは公開日だったし」
「年々どんどん大規模になってくよな、この学校の体文祭」
「でもまあ、楽しいから良いじゃない!それにこれまで一生懸命準備してきたんだから、楽しまなきゃ損よ。行こう!」
初めて『WANTED』参加者に会ったのは、ちょうど月と翔が野球部主宰の『ストライクアウト&人力バッティング』のゲームに参加していた時だった。振袖姿でバットを振るう月に呆れながらも感心して眺めていた時、声を掛けられた。
「すみません、私達『WANTED』の参加者ですけど」
振り返れば背後には少女が二人立っていた。背の高さや顔立ち、そして私服である事から他校の――――――恐らく小学生だと思われた。襟首につけたフェルトのブローチを見て柚が笑いかける。
「じゃあ用紙を出してもらえる?スタンプ押すからね。ほら、ゆえも」
まだ一つもスタンプの押されてない用紙を見ながら、柚が気さくに話し掛けた。
「違ってたらごめんね。あなた達小学生かな?」
「そうです。今年小六で来年この遠江中学の入試を受けようと思って」
「見学に来たんです」
「勉強はちょっと大変かもしれないけどとっても楽しい学校よ。来年会えると良いわね。合格して入学したら手芸部に着てみてね!とっても楽しいから。こんな服だって作れちゃうのよ」
「はい!」
さり気なく宣伝しながら用紙を返す。
「はいどうぞ、ゲームがんばってね」
「あの、お願いがあるんですが・・・・・・写真撮ってもらえませんか?」
立ち去ろうとしていた柚は立ち止まり、カメラを受け取ろうと手を伸ばした。
「あの、違うんです。出来たら写真に一緒に写って貰いたいんです!!そっちのお兄さんも一緒に!」
きらきらと目を輝かせた未来の後輩かもしれない二人の頼みに、ゆえと柚は顔を見合わせて目を丸くした。
月と翔はその話を聞いて大いに笑ったが、途中からはそれもできなくなった。
後から後から『写真撮らせてください』とか『今度絵のモデルになってください』『被写体になってもらえませんか?』などといってくる者が後を絶たなかったからだ。
本人達こそ別段意識していなかったが、侍のようないでたちの少年と和風美人の少女、フランス人形のような少女に魔法使いのような格好をした少年、という組み合わせは学校中に仮装をした者が溢れかえっている中でも、とてつもなく目立っていたのである。
「私らはテーマパークのマスコットか」
げんなりした顔を隠さずに月がぼやく。
最初こそ愛想よく応じていたものの後になるにつれ柚ですら断るのも疲れたと言い、こまめに移動する事でこれらの人々から逃れていた。現在いるのは新校舎の一階で、どうやらこのあたりは力の抜けた地味なクラス展示などが多いらしく閑散としている。
「あれだけこれば嫌になるわよね・・・・・・ん?あぁあ!!」
「今度は何だ?」
「ちょっとこれ見てよ!!」
素っ頓狂な声をあげた柚は三人の静止の声を待たずにポスターを引き剥がし、目の前へと突き出した。
「・・・・・・これって」
「芸の無い。パクリね」
ポスターは科学部の物、そこに躍る文字は――――――
「『お化け屋敷』か。最初は此処シャボン玉の実験やるって書いてなかったか?」
「そうよ、私達の出し物案を見て変えてに違いないわ!それになによ。科学部が非科学的な出し物するなんてっ」
「でも良いじゃない。私達もちゃんと出し物決まったんだし、これで科学部に負けないようにって思えるでしょ」
「あたりまえよ!!」
金髪の少女は力いっぱい断言した。
※※※
文化祭のテンションを落とさないように書くのが大変でした。
あれですよね、準備の方が盛り上がるというか、力が入るというか。
遠江の学園祭は学生時代の自分の「こういう風だったら楽しいのに」という願望が形にされています。