第三章 祭 七
七
手芸部部長は部室に入るなり怪しいほど素早く目線を動かし、窓際にかたまっている三人を見つけるとすぐさま駆け寄り小声で話し掛けてきた。不味い事になった、と。
「これ以上ですか?」
「これ以上よ。昨日の夜の目撃者がいたの」
「良かったじゃないですか、黒服見つかる可能性が高まったんじゃありません?」
「そうじゃ無いのよ、柚」
「え?」
「私達が目撃されてたの」
「えーと何て言いました、今」
柚は妙にさわやかな笑顔で、しかめっ面が張り付いてきた部長を見上げる。
「だから、私達容疑者として疑われてるのよ。まあ私達って言う事はばれてないけど、一部の生徒は探してるって噂。学校側はあまり信じていないみたいなのが救いだけどね」
「一部っていうと、海山先輩達ですか?」
苦笑を浮かべながら部長は首を振った。
「そんなわけないでしょ、文芸部の連中のほとんどが参加してるのよ。乗り気なのは被害にあった一、二階使ってる運動部の連中、それと科学部」
「科学部が、ですか。何で?」
「何でかしらね。部屋は被害にあってないし、唯の興味本位なのか何か裏あるのか」
月が襟のフリルにビーズを取り付ける手を止め、小首をかしげた。
「科学部ってあまり活動してるの聞きませんよね」
何やっているんでしょうか?と呟く月の言葉に部長はあいまいな返答を返した。
「さあね。五、六年前は県の科学作品展に出したり表彰受けたりしていたみたいだけど。最近はあんまり活動して無いみたいね。部員も年々減っているみたいだし、いるのも幽霊部員ばっかりらしいわよ。まあ、同好会から部活になると大体の部活は人数減るけど」
「どうしてですか?」
珍しいゆえの発言に月以外は不思議そうな顔になる。
「どうしてって。若狭君知らないの?」
「部活やってないとその辺が無頓着になるのかしらね、転校してきたのって去年の体文祭が終ってすぐだったのに」
「そうだけど、何か」
針を持つ手を止め、柚は説明し始めた。
「あのね、この学校の部活動の制度の問題なんだけど。まず基本的に部活の兼部は認められて無いの。でも同好会だといくつでも同時に入会が可能になる。だから、先輩が言ったみたいな現象が起こるのよ。
こう言うと同好会の方が有利に聞こえるけど、待遇は部活動のほうが上よ。学校案内のパンフにも載せてもらえるし、金銭的にも優遇してもらえる。無条件で部室ももらえるしねー、同好会は活動が直に部費に反映してくるからみんな必死よ、人数とか、体文祭の順位とかもね影響して来るの。
だから人気の同好会なんかは部に認知されてもおかしくない部でも、あえて同好会でいる部もあるのよ。占い同好会なんかがいい例ね」
「自分で部になるか同好会になるか決められるのか?」
「うん。具体的には同好会の段階である程度実績を立てて、文化委員に希望届けを提出する。そうすると生徒会とか委員会とか先生とかが話しあって決めるの」
「で、その科学部は後から部になったんですか?」
「そうよ、月さん。確か三年前だったと思うけど」
「四年前ですよ、先輩。姉から聞いたことがあります。」
「そう、そうしたら途端にぱったり活動しなくなったの。噂では貰った部費で部室にオーディオとかDVDシアターとか買って遊んでいるって話。もちろん違法よ」
「・・・・・・そんな事ってあるんですか」
「過去には何回かあったらしいわよ」
「どうなってんだか・・・・・・この学校は」
「だから年に一度文化祭の後に文化委員の調査が入るのよ。どれだけ活動しているのかとか、実績はどうなのかとか。場合によっては部から同好会に格下げっていう場合ありえるし。文化祭に力入れている訳がわかったでしょう?ちなみにうちは由緒正しい開校以来からずーと部よ」
一端言葉をきり、睦は乱雑に置いてある椅子の一つを自分のほうに寄せて座った。
「それと月さん若狭君。今日海山遊衣見かけたら、逃げてね」
同時に手を止め一瞬沈黙をする。
「何故?」
二重奏の言葉に、睦は乾いた笑いを上げる。
「昨日沈んでいたと思ったのにね。あいつまた『疑い晴らしてやるー!!』とかわめいていたのよ。見つかったら借り出されると思うから、できるだけ部室にいるときとかも物陰に隠れていて。私が適当に言って追っ払うからさ」
「あの・・・・・・なんで俺達だけに言うんですか?」
「気に入られているからよ。あいつ顔が綺麗な子好きだしね、二人の事なんか小説に出てくる登場人物みたいな子って言っていたわよ」
「ゆえはともかく・・・・・・なんで私が?」
「俺のセリフだ。あんたの方がどうみたって目立ってるだろう」
「この眼の色だからでしょ?後姿だったらあんたのほうが目立ってるわよ」
「どう言う理屈だよそれは」
柚と睦がここで同時にため息をついた。
「あのさ、お二人さん。自分たちが言ってることがどれだけ不毛かわかっている?」
「二人とも世離れと言うか、浮世離れしてるからね」
「柚、どういう意味よ。容姿の要素で言ったらあんたが一番めだつじゃない」
「容姿の話じゃないよ、雰囲気と言うか。印象が周りと違うから妙にめだつの、浮いてるって言うか」
黄を帯びた金髪を持つ少女がそう言った時、部室の木戸が飾りを吹き飛ばす勢いで開いた。
「睦!一時間だけ若狭君と月さん貸してね!じゃ!!」
一瞬の出来事だった。叫ぶと同時に二人の手首を同時に捕まえ、つむじ風の如く去っていく。しばらく沈黙してから睦がぽつりと呟いた。
「止める暇、無かったわね・・・・・」
「あの海山先輩。いいかげん手首離してくれませんか?逃げませんから」
「・・・・・・・」
ゆえも無言で同意する。
「あら、ごめんね。で、少し手伝ったって欲しい事があったものだから・・・・いいかしら?」
ここまで有無を言わせず連れてきてからそれを聞くかっ、と言った感じだが、二人は頷いた。無理やり頷いた。
「それで、何をやればいいんですか?」
「とりあえず、これまでの成果を説明したいから部室で話すわ!」
部室へつくと落ち着いたのか、今までとはかわって大分普通の口調で話し出した。
「今までにあった事を詳しく書き出してみたの」
本格的に茶葉で入れた紅茶を手渡してから、紙を取り出した。
『第一被害 襲撃事件』犯人・一~七人
科学部四名(市川元、瑞樹尚登、三宅浩志、奥村宏治)・・・・・眼鏡破損と打撲、足首捻挫。
演劇部二名(三谷原桂子、富士葵)・・・・・擦り傷。
文芸部二名(藤沢亜衣、金平雅巳)・・・・・無傷と軽い捻挫。
占い同好会二名(荒瀬麻美、兼平瑠璃子)・・・・・二人とも無傷。
手芸部二名(霜割睦、淡路月)・・・・・ほぼ無傷。
美術部二名(矢澤友紀、宮原朋絵)・・・・・一名髪を少々切られる。
書道部二名(瀬川絢、三井由良)・・・・・無傷と右手にあざが出来た程度。
合唱部二名(鈴鹿あゆら、高木朝美)・・・・・一名右手に擦り傷
『第二被害 部室荒らし』犯人・おそらく1人
一階 卓球同好会・バスケ部・野球同好会(被害なし 科学部、空部屋)
二階 美術部・書道部・バトン部( 〃 文芸部 陸上部)
三階 ( 〃 軽音兼ブラス部、手芸部、占い同好会、演劇部、合唱部)
「で、何か気がつくことは無い?」
にんまりと微笑む部長に問いかけられ、二人は口々に言い出した。
「最初の時はほぼ二人が被害になってますね、科学部だけ四人もだけど」
「片方だけもあるけど、両方の被害に遭っているところあるな」
「そうなの!因みに二重被害にあっているところは文芸、美術、演劇、書道よ」
となると、月は紅茶のカップを持ち上げながら呟く。
「最初は文科系の部活ばかり狙われている事になりますね。体育系の部活をやっている人には襲撃しても返り討ちにされる、とでも思ったのかしら」
紅茶を飲みながら、まあ文科系を狙っても返り討ちにされているけど、と付け足す。
「そうなると、犯人はあんまり運動には自信が無いようです。女子ばかり狙ってるのも同じ理由じゃないかしら」
「私もそう思ったの。もう一つ言うと、狙われているのはみんな小規模の部か同好会になるのよ!不本意だけどうちの部もね、毎年部活の存続にかけて気を使う部だし。 現に部室棟が違うからかもしれないけど、ブラス部なんかは狙われて無いでしょ。それにこれは同じ棟で、陸部」
何と無く頷いた二人だった。たしかにこの学校はブラスバンド部に力を入れていて、毎年県大会では優勝候補になっている。陸上部も唯一盛んな運動部だった。
「で、考えたの。部室荒らしなんか入れば自分の入部した後にも狙われてら嫌だって考えて入部ためらう新一年が出てくるじゃない。それを狙った、弱小部の犯行だって!!」
二人とも一様納得した。納得はしたが、何か嫌な予感がする。
「そこで、お願いがあるんだけど」
また異様に眼をきらきらさせて、自称探偵部兼文芸部部長は言い出した。
「この表見てわかるとおり、私自身犯人の顔を見たことが無いのよ。第一次件の時も第二事件の時もあわなかったの、だからね容疑者の偵察に行ってもわからないのよ!! ついて来るだけで良いから、一緒に来てくれない?」
自ら罠に飛び込んだ気がした、と月は後からこの事を柚に話したのだった。