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夢物語  作者: 矢玉
第三章 祭 
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第三章 祭 五

     五


「『三階の人は非常口から入ってね!あいつらが動いたって連絡がきたら月さんの携帯にワンギリするから。見つけたら心いくまでとっちめてくれて良いから!!』なんて言われたけどさ、どう思う?」

「俺に訊くな」

「しかも、何でか知らないけど私達が三階担当になってるし」

 犯人捕獲というある意味一番危険そうな役目である。

「何でこんなことになるんだか」

「あ、そんな事言うならあんたが海山先輩に断ってくれれば良いじゃない。できるなら」

「・・・・・・できるなら、か」

「まあ、今さら言っても仕方ないわよね」

 螺旋階段を登り終え、手芸部のベランダの扉に手をかけながら月が言う。

「じゃあ、連絡が着たら行動開始ね。二手に分かれて挟み撃ちにするから――――――ゆえは右行ってくれる?そのままいくと突き当たりになるから、誰もいなかったらそこで待機。五分以上何も無かったら引き帰してきて。私は曲がり角の方に行くから、誰かいたら大声出して相手に知らせる事いい?」

「わかった」

「こんな事だったら何か武器になるものでも持ってくれば良かったわね、何か部室にあるかな?」

「・・・・・・看板の材料は、まだ材料が残ってたと思うけど?」

「そっか、じゃあそれを借りよう」

 文句を言いながらも実に手馴れている二人だった。

「そういえばあんた、灯になるもの持ってるのか」

「持ってないけど。でも、もともと闇討ちに灯を持つわけにいかないでしょうが」

「そうか・・・・・・」

 暫し沈黙が流れる。外をへ目を向け空を眺めると月明かりが無いためか、星が一段と輝く綺麗な夜空が広がっていた。青い星はシリウス、並んだ三ツ星はオリオン座、赤い星は蠍座の――――――

「来た」

 月の手の中の携帯電話が淡い光を放ち、着信があった事を知らせる。

「じゃあね」

 月はゆえに笑いながら呼びかけると、少し様子を見てすぐに暗い廊下に出る。ゆえも軽く頷いて見送り、軽く深呼吸をしてから部室を出る。少女の姿はすでに見えない。

 進行方向つまり部室の右手の方に目を凝らしたが何も光源が無いため、はっきりとは見えない。歩いて行って確かめるしか無さそうだ。足音を消しながら歩いていく。注意深く階段を覗き込んだが気配が無い。

(まだ来ていないのか?それとももうこの先に進んでるのか・・・・・・)

 どんどん歩いていき、一番突き当たりの軽音部室まで着てしまった。周辺も見回したが異常は無く荒された形跡も見当たらない。部屋に収まりきらなかった、機材が廊下に立て掛けてあるだけだ。

(・・・・・・じゃあ、五分待機か)

 とりあえず、その機材らしき板の陰に身を隠し、ちらりと時計を見やった。

 8:27

 液晶の画面を見ながら、ふと思った。

(やばい。そろそろ本気で腹減ってきた)




 8:32

 薄く光る、液晶を睨みつける。

 何もおこらない。

 多少拍子抜けしたぐらいだった。それ自体は結構だ、もともと好きで参加したわけじゃない。ただ心配なのは同じく暗闇に向かった少女の事だった。どれだけ耳を澄ましても何も聞こえなかったから、戦闘は恐らく無かったものと思われる。

(まあ、心配するほど弱くは無いけど)

 そんな事を考えながら、道を引き返そうとした。その時、思わず体が強張る。

 何かいる。

 突き当りまで視界を何も遮る物は無いが右手には階段があったはずだ。そのあたりから僅かに足音のような音が聞こえた気がしたのだ。

 ゆっくりと持っていた棒を両手に持ちなおす。

 徐々に緊張が高まっていく、心臓の鼓動大きすぎて自分の歯の裏に響くように聞こえる。

「――――――ッ」

 考えて動いた動作ではなかった。人影が見えた途端、足を踏み出し薙ぎ払う、が。木製の棒同士がたてるこもった音が響く中、見た相手は考えてもいなかった相手。

「ゆ、ゆえ?うわ、あんたちょっと気配消すの上手すぎよ。本気で打ちかかったじゃない」

 月だった。

 緊張しただけ脱力も多い。まだ打ち合った時の衝撃で痺れが残る手を振りながら、問い掛ける。

「じゃあ、さっきの足音もあんたのか?」

「そうよ、気配を感じたから。相手から仕掛けさせて捕まえてやろうと思ったの」

「・・・・・・揚句の果てに同士討ち?」

「ものすごく間抜けね、私達」

「そうだな、――――――あんた、携帯に着信着てるぞ?」

「え?本当。・・・・・・あ、霜割先輩みたい。はい」

『月さん。黒いの見つかったって!今、一階の窓硝子が割れるのと明りが見えたから皆集まって貰ってるのッ』

「えぇ!?」

『そう言うわけだから、一階に急いで来て!じゃあ』

「わかりました。ゆえ!」

「全部聞こえた」

 二人とも並んで階段を駆け下り始めた。二人とも意識はしてないが喧嘩口調になってしまっている。

「三階に追い詰めるんじゃなかったのか!?」

「知らないわよ!失敗したんでしょ」

「じゃあ何であんたに『三階に行った』って連絡が入るんだよ!!」

 月が急停止した。苛立たしげにゆえも止まる。

「どうした?急いだ方が良いんじゃないのかよ」

「何か、おかしくない」

「は?」

「あんたが言ったとおり、確かに二階までは黒服はいたのよ。じゃなきゃ連絡が来るはずがない。でも、そう考えると一階に居たって事に説明がつかないわ。どちらかが嘘でなきゃ」

「じゃあ、あんたは一階で硝子が割れたって方が嘘だって思ってるのか?」

「そう仮定すると、あいつらはこの踊り場から消えたって事にならない?」

 二人とも視線を巡らせ、在る事に気がついた。

「もしかして、窓か?」

 月はそれには答えず、無言で窓に手をかけた。少し動かすと簡単に開き、夜風が吹き込む。

「鍵かかってないわ、ここから出たってわけね」

 何の気無しに窓を覗き込んだ後、表情が一転した。

「ゆえ!霜割先輩に旧校舎西に集まるよう連絡して、黒服がいた」

「は!?」

「頼んだわよ」

 言い残すと、窓からベランダに身を躍らせた。ゆえは携帯電話を取り出し、番号を呼び出そうとして、止まった。

(・・・・・・俺、電話番号知らないよな・・・・・・)

 凍結すること数秒。窓を覗き込んだが既に黒服どころか、月さえ見当たらない。

「――――――クソ」

 滅多につかない悪態をつき、窓枠に手を掛けた。




 月は目前で黒服をはためかせながら走る人物を睨みつけながら走っていた。差は縮めたが、足場が悪いのも手伝ってなかなか追い付けない。

(持久戦になったらおしまいね)

 短距離ならそこそこ自信もあるが、持久力はいまいちなのだ。黒服はベランダの階段を駆け降りた後向かったのは、西。先輩達が待つ校門とは反対の校庭側。その事について月は少々疑問を感じていた。

(フェンスがあって袋小路になるんじゃないの?)

 もし登るんだったら捕まえ易くて楽だけど、などと考えながら器具倉庫を曲る。

 が、思わず目を疑った。

 誰も居なかったのである。器具倉庫の裏には人が通れるくらいの隙間しかない、あとはコンクリートとフェンスにだけだ。そこにいるはずの人陰を探そうとした時。

 近くでバスの発車する音が響く。

 自然と目で追う形となる。やはりこんな時間にバスに乗る者は少ないようで、座席はがらがらに空いている。今乗ったとおぼしき、立っている人物も一人しかいない。しかしその立っている少年がこちらを凝視しながら、おかしそうに口元を歪めて笑っているのだ、なんとなく不快に思いながら月は少年を見つめ返した。

 頭には野球帽を目深に被り顔は見えない、緑色のパーカーのような物を羽織っている。そして小脇には黒い布のような物を抱えている。

(――――――黒い、布?)

 事実に気づいたときは、すでにバスは走り出していた。思わず月は叫んだ。

「逃げられた――――――!!」


※※※


月は瞬発力はありますが、持久力はありません。

戦闘は常に短期決戦。体力も四人で一番低いので、まっさきに風邪を引くのは月です。

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